腰抜けサイモン

レオにとって、祖父の話をされるほど不愉快なことはない。

宇宙を股にかける貿易商船「宇宙の小石号」の船長であり、優秀な貿易商人のレオ・サイモンは、宇宙の男たちのオヤジであり、憧れの人である。

その祖父が例の「腰抜けサイモン」だというのだから、レオが祖父の話をしたがらないのも無理はない。もっともこれは誰でも知ってる有名な話だし、みんなレオがその話をひどく嫌がることもよく知っている。

「宇宙の小石号」に乗り込むクルーにとって、「腰抜けサイモン」の話は絶対のタブーなのだ。

 

当時のニュースはこう語る。

レオの祖父、カール・サイモンは、宇宙を見張る電波望遠鏡ステーションの技師だった。太陽系に向かって飛んでくる彗星や小惑星などを発見し、軌道を計算して、危険があれば警告を出すという仕事だ。

もっとも気まぐれに飛んでくるそれらのものが、地球を脅かす危険性というのは数千万分の一だから、実質は暇をもてあました閑職に過ぎない。

ところがある日、その望遠鏡ステーションから、驚くべき内容の警告信号が発信された。

「宇宙人がやってきた」

という知らせである。

地球外生命体とのファーストコンタクトに、地球は大騒ぎになった。しかし、その騒ぎも長くは続かない。なぜなら、それがデマだったことがわかったからだ。

人々は烈火のごとく怒り、カール・サイモンは非難の集中攻撃を受ける……はずだった。

しかし実際にそうなることはなかった。

カール・サイモンが望遠鏡ステーションのほかの職員を銃で脅して強制的に送り出した後、自らの命を絶ったからである。

その後、助け出された職員らの証言によって、カールが錯乱状態にあったことが証明された。人と接することがほとんどない、こういう宇宙の仕事ではたまに報告される例である。

しかし、彼の場合はその錯乱がひどすぎた。妄想を見て、あまつさえ地球へ警告信号まで送ってしまったのだから。

地球の危機を管理する、宇宙の男にあるまじき大失態である。

と。

かなり厳しい論調であったが、しかし地球でぬか喜びをした人々の多くは、このニュースとさほど変わらない厳しい口調で、カール・サイモンを責めた。

当然、 実際の事情がわかっても、誰もサイモンには同情しなかった。宇宙の男とは、荒くれ者だが勇気があり、臆病とは一番縁遠い人種でなくてはならないのだ。

亡くなってしまったにもかかわらず、彼は「腰抜けサイモン」という不名誉なあだ名で呼ばれるようになった。

彼の息子は学者となって宇宙研究機関にいたが、父の汚名をそそぐことなどまったく意に介さず、ただ研究機関の奥で研究に明け暮れていた。

それがまた失笑に輪をかける。

現場で働く危険を恐れ、それでも父のコネらしきもので宇宙研究機関に入っていた彼は、父と並んで腰抜けの烙印を押されたのだ。

しかし、そこまで言われても、息子は沈黙を通した。というよりむしろ、周りのそんな揶揄など、彼の耳には届いていないかのようであった。

親子二代の恥をそそいだのは、カールの孫、レオ・サイモンだった。

彼は若くして学者の父の元を飛び出すと、みなにバカにされながらも宇宙貿易商人になった。そして、ひたすらに飛び続け、やがて地球で一番の大貿易商人になったのだ。

そしてしかし、それほどの富を持っても、レオは決して現場を退かなかった。

それどころか、事あるごとに宇宙へ飛び出し、あるときは仲間の命を救い、あるときは宇宙海賊を懲らしめ、いつしか彼の名は「宇宙のオヤジ」としてゆるぎないものになってゆく。

レオは、そうしてみなの尊敬を集めるようになり、やがて人々はレオに気を使って「腰抜けサイモン」の話をしなくなった。

彼は祖父と父の作り上げたサイモン家の不名誉を、一人でそそいだ豪傑として、みなの尊敬と信頼を集めていた。

 

地球に寄って、次の荷物と新人クルーを積んだ「宇宙の小石号」は、中継ステーションに停泊していた。船の中では、恒例の新人顔見せが行われている。

それも程なく終了し、後は宴会をするだけとなったそのとき。

ステーションの中に警告音が響く。

男たちは駆け出した。

外で作業を行っていたステーションスタッフの一人の命綱が切れ、宇宙に放り出されてしまったらしいとわかって、クルーは救命艇へ急いだ。

しかし救命艇に行った時はすでに、彼らのオヤジさん、レオ・サイモンが救命艇に乗って助けに出た後だった。

やがて無事にスタッフを助けたレオは、クルーが喝采を送る中、ゆっくりと帰還する。

助けられたスタッフは、感謝と尊敬の目でレオを見た。クルーたちは、わがことのように誇らしげに笑う。

「やっぱりオヤジさんはすげえな。あっという間に助けちまった」

「いや、すげえのはそれだけじゃねえよ。俺たちが行ったときには、すでに出発した後だってんだから、すばやさも並じゃねえ」

「ば〜か、当たり前だ! 親父さんの回転の速い頭と、すばやい行動力があるから、俺たちは最多売り上げの記録を伸ばせるんじゃないか」

「なに言ってやがる! オヤジさんが一番すごいのは、その勇気だよ! 仲間でもないステーションスタッフのために、あっという間に飛び出しちまう、その男気と勇気さ」

クルーが口々に誉めそやすと、レオはヒゲもじゃの顔をほころばせて、豪快に笑った。

「バカ野郎、照れくせえコト言うんじゃねえよ。そんなことは当たり前だろうが。俺は腰抜けの爺さんや親父とは違うんだからな」

みなが笑おうとしたその時、鋭い声がそれをさえぎった。

「カール・サイモンは腰抜けではない。宇宙一の勇気の持ち主だ。この宇宙に彼を哂(わら)える者は、一人として存在しない」

船内は先ほどと遜色ないほどの緊張感に包まれる。よりによって、この船最大のタブーに触れたバカは、いったいどこのどいつだ?

みなの視線が集まった先にいたのは、つい先ほど入ったばかりの新人、バート・ガーファンクルという男であった。

「おい、新入り! よさねえか!」

機関長のケンプが新入りをとめようとした時はすでに遅く、レオ・サイモンの声に怖いものが混じり始めた。

「新入り。俺の前でその名を口に出すとは、いい度胸だ。この船から放り出される覚悟はできてるんだろうな?」

バートはそんなレオの脅しを、柳に風と受け流して言い募る。

「俺は真実を言ったまでだ。ほかの者が言うならともかく、孫のおまえまでが彼を貶める姿は、見苦しい以外のなにものでもない。何も知らないガキだとて、言っていいコトと悪いことがある」

40を半ばも超えたレオに向かって、何も知らないガキだと言う、その あまりに意外な物言いに、レオは怒りを通り越して、むしろきょとんとしてしまった。

「おまえ、何を言ってるんだ?」

「レオ、おまえは何も知らないと言っているのだ」

「おい、船長に向かって、なんて口を利きやがる」

怒鳴りつけるケンプを制すと、レオはいぶかしげな面持ちでバートに尋ねた。

「おまえ、いったい何の話をしているんだ? 何を知っている?」

「おまえが腰抜けと呼ぶ、あの男の事件の一部始終をだ」

「バカな。あの事件の生き残りは、もうみんな死んじまってる」

「いや、カール・サイモンによって生かされた人間は、全部で5人いたんだ。彼らは今でも生きている。そしてサイモンにもらった命を、おまえたちのために使っているよ。かつてサイモンがそうしたように」

レオは明らかに狂人を見る目つきで、自分より10は若いだろう、バートを見つめて言った。

「ははは、まるで爺さんを知っているような口ぶりだな? おまえ、アタマは大丈夫か?」

「ような、じゃない。知っているんだよ、レオ」

その尊大な口調に、怒るというよりむしろ鼻白みながら、レオは噛んで含めるような口調で聞き返した。

「なにをバカなことを。そんなことはありえないんだよ。いいか、よく聞け。爺さんは俺が生まれる前にあの事件を起こしたんだ。俺でさえ会ったことないのに、俺より若造のおまえがどうやって爺さんを知るんだ?」

「もう一度言うよ、レオ。俺はおまえの爺さんを知っている。おまえの爺さんに、この命を救われた一人だ」

どうも、バートの目や物言いは、狂人には見えない。いったいどうしたことだろう?

いぶかしげに眉をひそめたレオは、やがてひとつの可能性に思い当たり、半分冗談交じりで言った。

「それじゃ、スキッパーじゃないか」

みなが笑い出す前に、バートがよく通るバリトンで言った。

「そうだ」

「なんだと?」

思わぬ答に、レオは驚く。

「バカかおまえ?スキッパーなんて居るわけないだろうが」

「だが、俺はスキッパーだ」

しばらくにらみ合っていたが、やがてレオは肩をすくめる。

「IDを認証してみりゃ、わかることだ」

その言葉を受けて、機関長のケンプがスキャナーを持ってくる。バートが取り出したIDをスキャナに読み込ませた。

一度読み込みに失敗したが、もう一度試すと、今度は検索結果が表示された。そこでケンプが驚愕の声を上げる。

「え、Sクラス……」

その言葉に、みなが驚いた。

当然だ。

国家の最高指導者でさえAクラスなのだ。Sクラスとは文字通り、この太陽系にいる人類の中でも、本当に一握りのスーパーVIPだという証である。

驚いたレオが、ケンプからスキャナーをひったくり、自分で試した。やはり一度失敗して「存在せず」という表示が出、もう一度試すと、Sクラスを示す。

別のスキャナーを使って何度か試し、同じ結果が現れることを確認したレオは、そこでようやく口を開いた。

「本当に、スキッパーなのか? 俺たち貿易商人みたいに地球圏内を飛ぶのではなく、本当に太陽系外縁を飛び回っているのか?」

短い沈黙の後、バートはうなずいた。

「そう言うことだ」

途端に周りのクルーたちから、当惑のざわめきが起こる。

「スキッパーだって……」

「じゃ、あのバートって、本当は何歳だかわからないんだ……」

「スキッパーって犯罪者がなるんじゃないのか?」

確実に聞こえているだろうが、バートはクルーたちの声など聞こえないかのように、無言のままでレオを見返している。その瞳には、なぜか深い悲しみが湛(たた)えられていた。

「おまえら黙れ。船からつまみ出すぞ!」

船長であるレオの叱咤に、クルーはあわてて話をやめ、成り行きに見入った。

レオはゆっくりとバートに視線を戻す。

「スキッパー……本当にいたのか……」

レオの驚きは無理もない。

誰だってスキッパーなど、たちの悪い冗談くらいにしか思っていないのだから。太陽系外縁を飛び回るスペースマンがいるなどと言われて、いったい誰が信じると言うのだ?

太陽系外縁を飛び回ると言うことは、人生の全てを捨てなければならないと言うことだ。いったい誰がそんな役目を、好き好んで引き受ける?

太陽系外縁を飛ぶ。それはつまり、長い冷凍睡眠を何度も繰り返すと言うことを意味する。わかりやすく言えば、肉体年齢と戸籍上の年齢が一致しなくなると言うことだ。

時間をスキップして生きる者、スキッパーは絵空事と言われるゆえんは、ここにあるのだ。

時間をスキップすると言うことは、地球上に、いや、この太陽系内に誰一人として知り合いをもてなくなると言うことを意味する。スキッパーが肉体的に3ヶ月の歳を取る間に、地球では30年、場合によってはそれ以上の月日が流れるのだから。

例え巨額の報酬を積まれたとしても、だれがわざわざ浦島太郎になりたがる?  だからこそスキッパーなどという人種がいること自体、誰も信用しないのである。

しかし、スキッパーは実際に存在したのだ。

「俺のIDを認証しただろう? 最初存在しないと言われ、その後、最高クラスの表示が出たのだろう? それこそ俺がスキッパーである証拠だ」

バートの言葉に、レオはうなずいた。

光速に近い宇宙船を駆って、太陽系外縁や外宇宙を飛び回るということは、一国に匹敵する高価な乗り物で、日々その国の国家予算を燃やしながら飛んでいるのに等しい。

だからこそ、Sクラスなのだ。

つまりバートがスキッパーというのは本当で、レオの息子ほどにも若く見えるバートは、しかし戸籍上はレオの祖父とさほど違わぬ年齢なのだろう。

「もう一度言う。カール・サイモンは決して腰抜けなどではない。彼は逃げようと思えば逃げられたにもかかわらず、我々を逃がした後、たったひとりで最後まで宇宙人とのコミュニケーションをとり続けたのだ」

「なるほど。つまり爺さんが言っていた宇宙人というのは、本当にいたのだな?」

「いる。そして、我々は太陽系の外縁から外宇宙で、今も彼らと戦っているのだ」

信じられない話に、クルーは騒然となる。しかしレオはそんなことは意にも介さず、冷ややかな口調で言った。

「ではなぜ、俺の爺さんは臆病者呼ばわりされているのだ?」

レオの詰問に、バートはなんともいえぬ悲しげな顔をする。

「この人類史上最大の事件を地球に知らせるために、カールは地球上で誰もが聞くことのできるオープン回線を使った。それはもちろん、その時点では最良の選択だ。しかし、やがて宇宙人との交渉が決裂すると、事はそう簡単には済まなくなった」

「どういうことだ?」

「宇宙人とのコンタクトが決裂した以上、場合によっては人類初の地球外生命体との宇宙戦争になる。そんな情報を公開して、ただで済むと思うか?」

バートの言葉に、船内の全ての人間が合点した。

太陽系外縁から宇宙人がやってくる、などと言う話が現実となれば、地球がパニックになってしまうだろうと言うことは、容易に想像できる。

表情からみなが理解したことを知ったバートは、ゆっくりとうなずいて言葉を続けた。

「そういうことだ。未曾有の大パニックを引き起こさないためには、カールの通信が嘘でなければならない。そのため「あの通信は、宇宙でパニックになったカールの、錯乱した頭が見せた幻影だった」と言う話が、急遽でっち上げられたのだ」

「なるほど……な」

レオは複雑な表情で言った。

祖父に汚名を着せられたことは悔しいが、さりとて他にどうしようもなかったと言うこともよく理解できる。

レオは祖父の友人に向かって質問した。

「バート。あんたはなぜ、この船に来たのだ?」

バートは優しい顔で微笑む。

「最後の最後まで宇宙人とコンタクトしながら、一方で地球にこの事を伝え続けたカールは、交渉が決裂し宇宙人の攻撃の矢面に立たされることになったとき、俺に向かって言ったんだ」

「なんて?」

「自分の送った通信はパニック防止のために、錯乱した者のうわ言として処理されるだろう。だからせめて自分の子供たちにだけは、真実を伝えて欲しい、ってな」

「それじゃあ?」

「ああ、君の父親は知っていた。だからこそ彼は宇宙に出ず、科学者の道を選んだのだろう。彼の父カールと同じく、宇宙人から地球を守るために、自分ができることは何かと考えて。そして武器や防御装置を作ると言う結論を出したのだ」

「身体の弱い父は、宇宙人から地球を守るための、武器や装置の研究をしていたわけか。みなに臆病者だとそしられても」

「そうだ。彼もまた戦士なのだ。望遠鏡ステーションから我々五人を強制的に送り出して命を守り、その後、自分の命を捨てて宇宙人とコンタクトし続けた、誇り高きおまえの祖父と同じように」

「だから、あんたは……」

「そう、生き残った我々五人はスキッパーになった。全てを捨てて、ぶつ切りの時間の中で生きる決心をしたんだ。カールの勇気に応えるためにな」

「それじゃ、もう、地球に知り合いはいないのか?」

「俺の子供は、もう老人と言ってもいい年齢だよ」

祖父たちへの謝罪の気持ちと自分への責めで、レオは苦しそうな顔をする。それを見て、バートは優しい声を出した。

「おまえはそれを知る前に、父の元を去ってしまったのだから仕方ない。今までより、これからだ。おまえはおまえにしかできないことをやるがいい。俺も俺たちにしかできないことをする。おまえの祖父が命を賭して守ろうとした地球を守るために」

レオは救われたようにため息をついた。そして決意のこもった顔で、力強くうなずく。バートはそれに応えてうなずくと、今度は話を聞いていたクルーたちに向かって言った。

「わかっているとは思うが、このことは誰にも言ってはいけない。君たちだけの胸に収めて欲しい。誇り高きカール・サイモンの孫と、そのクルーであるのなら」

男たちはみな、胸にあふれてくる熱いものを抑えて、しっかりとうなずいた。

その日から、「宇宙の小石号」はクルーの間で、誇りとともに「カール・サイモン号」と呼ばれるようになったのである。

 

スキッパー、バート・ガーファンクルが太陽系外縁に向かって飛び立つ前の日、宇宙ステーションホテルの彼の部屋に、レオが訪ねてきた。

「よう、レオ。どうしたんだ?」

レオは照れくさそうに、ヒゲをかきむしりながら言った。

「いや、礼を言っておこうと思って。次はもう、会えるかどうかわからないんだろう?」

バートはにこりと笑ってうなずいた。

「おそらく無理だろうな。次にこっちへくるのは、多分100年後だ」

「100年……か……すごいな……」

「なあに、慣れるもんさ。ただ、やつらとの戦いは、日々激化している。俺たちもそうはこちらに来られない。だから……」

「なんだ?」

「おまえの子供には、事情をきちんと説明しておけよ? もう、わざわざ説明しになんて来てやらないぞ?」

そう言ってバートは片目をつぶった。

一瞬置いて、二人は大笑いする。

笑いながらレオは、驚くべきことを口にした。

「俺はこっちでヒトを集める。今のままじゃ、いずれ宇宙人がやってきてしまうだろう? それならその前に、こっちも戦う準備をしなくちゃならない」

レオの言葉に、バートは唖然とする。

「ははは、そんな顔をするなよ、バート。大丈夫、爺さんのころとはだいぶ状況が違う。いきなり宇宙人が攻めてくるなんて言ったらパニックになるだろうが、そのとき一緒に対策も発表することができれば、それほどひどい混乱にはならないはずだ」

「対策? なんだ?」

「地球防衛軍、さ」

言ってから、その言葉の響きがあまりに陳腐に感じたのだろう。レオは思わずにやりと笑った。

「幸い俺にはそこそこの人望がある。それにあんたたちが、命を賭けて地球を守っていることを知ったら、一緒に戦おうと言うやつらも、いくらかは出てくるだろうさ。そいつらを引き連れて、いずれあんたに合流するよ。もっとも、そのときはまた、ずいぶん歳の差がついちまってるだろうがな」

レオの言葉を聞いていたバートは、しばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと微笑んだ。

「どうせ止めて聞くヤツじゃないし、好きにするがいい。できればおまえが死ぬ前に、俺ももう一度会っておきたいしな」

二人は無言でうなずきあうと、ブランディのグラスをかかげた。

それからしばらく談笑したり、酒を飲んだりしていたのだが、やがてどちらからともなく話が途切れる。

と。

バートが宇宙ステーションの窓から、真っ暗な空に浮かぶ地球を眺めつつ、小さな声で歌を歌いだした。

しばらく黙ってその歌を聴いていたレオは、歌が終わるとぽつりと言った。

「きれいな曲だな」

レオの呟きを聞いて、バートはうなずく。

「おまえの爺さんが好きだった曲だ」

「なんていう曲なんだ?」

レオより10歳は若く見えるスキッパー、バート・ガーファンクルは遠くを見つめながら、ささやくような声で言った。

「明日にかける橋、と言う曲だ。地球のために死んでいったおまえの爺さんには、一番似合いの歌だと思わないか?」

「そうだな……」

感慨深げに深くうなずいたレオの様子を見て、バートは穏やかな笑みを浮かべると、また歌いだす。

するとレオが、ひどくまじめな顔でバートに聞いた。

「……なあ、俺にも教えてくれないか?」

その言葉にレオの顔を見たバートは、嬉しそうにうなずいた。

「いいとも。もちろんだ」

深遠な宇宙を眺めながら、男たちはそれぞれの思いを込めて、カールの好きだった歌を歌う。

歌声は、いつまでも続いた。

 

……荒れ狂う海にかける橋のように、

私はこの身を、あなたのために横たえよう……

荒らぶる海にかける橋のように、私はこの身を……

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