| 信頼できる職業 |
| 巫女神である女王の元に、ひとりの男がひれ伏している。 この国で新しいことをはじめるときは、女王の許可が要るのだ。男はその許可を貰うために、自分の商売の説明をしに来たのである。 「で、おまえがやるという新しい商売とは何だ?」 「みんなの財産を預かって、それを増やしてさし上げる商売です」 「おまえは妖術を使うのか?」 女王がそう聞くと側近たちは顔色を変えて立ち上がった。国に巫女神以外に不思議な力を持つものがいては、国政の乱れにつながるのだから当然だ。 「いいえ、とんでもない。私は新しく考案した商売をしたいだけでございます」 逸る側近たちを控えさせ、女王は男に先を促した。 「つまり、皆さんから預かったお金を、こんどは商売をはじめたいという人に貸すのです。そこで払われた利息のうちからいくらかを乗せて、皆様にお返しするとと言う商売です」 「なるほど。商売をはじめたくてもお金がないものは、おまえから借りて資金にする。預けた者は何もしなくても、預けた分だけ利息をつけて返してもらえるということか」 さすがに聡明な女王である。男の話の本質をすぐに理解したようだ。だが、理解したにもかかわらず、彼女は怪訝な顔をして考え込んでいる。しばらく黙って返事を待っていた男は、ついに口を開いた。 「女王様。許可はいただけますでしょうか?」 それに応えて、女王は不機嫌そうな顔で言った。 「人の金を集めて、人に貸して利息を取り、その利息を持って預けた人間に返す。その間の上前をはねるというわけか。なんとも寄生虫のような仕事ではないか」 「そ、そのような……」 「何もおまえが間に入らなくとも、金のある者がない者に貸せば、おまえに上前をはねられない分、多くの利息が貸した者に返るではないか」 「しかし、それでは商売がうまくいかなかった場合、貸した者は貸し倒れになってしまいます。より多くの金を集めておけば、そのようなときにでも貸した者は返してもらえるのです」 「しかし、その時は商売主に貸したおまえが、代わりに取り立てるのだろう?それで返ってこなければ、おまえが損をするではないか」 「少々の損は仕方ありません。全体で儲けがあればいいのです」 「だめだ。そのようなあやふやな話で、そんな寄生虫のような仕事を認めるわけにはいかん。金の貸し借りのいさかいは、私が神にお告げを聞いて采配することになっているのだ。それともおまえは、神よりも正しい采配ができると申すか?」 そうではない。そんな小さな話ではないのだ!男は叫びたかった。 しかし、ここで反論すれば神を冒涜したことになり、男は罪人にされてしまう。経済システムのはるか先を見据えていたこの聡明な男は、悔しさに歯噛みしながらもおとなしく引き下がった。 この一件は瞬く間に巷に知れ渡り、男はみなに詐欺師扱いをされてしまう。彼の進んだ考えを理解できる人間は、この時代にはひとりもいなかった。 誰も相手にしてくれなくなり、仕事どころかその日の食べ物にも事欠くようになる。やがて彼は失意のまま、短い生涯を閉じた。
「で?どういったご商売をなされるおつもりですか?」 「占いの館です……」 消え入りそうな声でそう言った女に対し、貸付担当の行員は鼻先で嘲り笑う。 「この不景気に、ビルのひとフロアを借りて占いの館ですか?失礼ですが、それで収入が見込めるとお思いですか?」 「路地でやっていた占い師仲間を集めてはじめますから、今まで来て下すっていたお客様がまた来て下されば……」 「なるほど。この試算書のように売上が見込めると言いたいわけですな?しかしですよ?今までは路地でやっていたからこそ、通りすがりのお客さんが来ていたとも言えるわけでしょう?わざわざビルの上までエレベータであがってきて占いをしてもらいたがる人が、それほど多いとは思えませんよ」 「ですが、たとえば有名な「東京の婆さま」のところへなんかは…」 「ああ、あの人みたいにTVに出ていて、有名な方なら商売になるでしょう。でも、失礼ながらあなたのことは私はよく知りません。そんな有名でもない占い師のところへたくさんのお客さんが来るとは、とても思えないのですよ」 「そ、それでは……資金のほうは……」 「ええ。残念ですが、お貸しすることは出来ません」 がっくりと肩を落として銀行を去る女の後ろ姿を見ながら、貸付係は大きなため息をついた。 「商売として、まるっきり駄目だと思ってるわけじゃないんだよな。こんな時代だからこそ、何かにすがりたいって思う人もいるだろうし。でも、何だかわからないけど、「こいつに貸しちゃいけない」って予感がするんだ。どうしてだろう?」 しばらくそうして首をかしげていた貸付係は、肩をすくめて考えをやめると、次の仕事をしに、自分の持ち場へ戻っていった。 |