涙のわけ
昼休みのことだった。

ふと、何かが動いた気がして、斎木は彼女の顔を見る。彼女の頬には、涙が一筋流れていた。

斎木の顔の動きのせいで、彼女も斎木が自分を見たことに気づいた。彼女は一瞬ビックリしたあと、涙をぬぐって、顔を真っ赤にしたままそっぽを向いてしまう。

斎木はにやりとした。

こりゃアイツ、俺に気があるな?俺もアイツが気になっていたんだ。ここは一つ、押してみる価値はあるだろう。涙のわけも気になるし。

斎木は口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりと彼女に近寄っていく。彼女はそれに気づいて、ますます顔を赤らめながらそっぽを向きつづけた。

ふふ、横を見ていても、意識は俺に向いているみたいだな。うん、こうして見るとやっぱりいい女だ。それにもっとキツイ性格かと思ったが、なんだい、可愛らしいところもあるんじゃないか。

「よう、どうした?何で泣いてるんだ?」

彼女は、怒ったように斎木を見たまま、ひとことも答えない。

「なんだよ?一体どうしたんだ?」

と、次の瞬間。教室中にぱん! と言う平手打ちの音が響く。

唖然としたまま頬を抑える斎木を尻目に、彼女は教室を飛び出した。

何がなんだかわからない斎木の周りに、男たちが集まってきて囃し立てた。女の子達は、理由はよくわからないなりに、斎木が何かして彼女を怒らせたんだろうということは察したようだ。

あっという間に、教室は男女に分かれて戦争状態に突入する。しかし、戦争を引き起こした当の斎木は、彼女の涙のわけも、平手打ちのわけもわからないまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。

気の強い彼女でも、そこはやっぱり若い女の子。

さすがに言えなかったようだ。

鼻毛を抜いて涙が出た、なんて。

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