ラッツ&スターマン
南極のはるか上空に調査隊の母船である宇宙船が停滞していた。ここから、俗にアダムスキー型と称される空飛ぶ円盤が、各地の調査のために飛び立ってゆく。

ナンはそのうちのヨーロッパと呼ばれる地域を担当していた。今日もモニターを眺めながら独り言をつぶやく。

「連休前にラット係かよ。残業なんか、絶対やらねえからな」

彼らは観察対象の地球人を、ラットと呼んでいた。地球観察が始まった初期、地球人が実験観察にラットを使っているのを見て、スタッフのひとりが皮肉をこめてそう呼び始めたのが、いつのまにか定着てしまったのである。

ナンはいつものように、無作為に今回の実験対象を選別する。円盤を実験対象の近くに乗り付けると、めんどくさそうに降りていった。一体のラットが恐怖に固まって震えている。

その奇形的に伸びた身体と、つるつると薄気味悪い皮膚に嫌悪を隠そうともせず、ナンはラットを捕獲する。ラットは円盤を見ると不思議そうに、自分の知っている植物の実の名前をつぶやいていた。どうやら、それに見えるといいたいのだろうか。

ナンはラットを毛嫌いしていたので、自動翻訳機などは使用しない。こんな化け物どもとコミュニケートする気など、まっぷらごめんと言うわけだ。成体のほうはそれでもまだいくらか見れる外見をしているが、今捕獲した幼体の醜悪さは見るに耐えない。

ぴいぴい声を上げるラットに向かって、

「やかましい、黙ってろ。ラット」

と罵声を浴びせる。ラットと言う単語と、どうやら怒っているらしいと言うことは判ったのか、それきりラットは静かになった。

 ナンはラットを円盤に乗せると、これに一時的な整形を施した。

ラットたちは、ある程度社会性を持っている。そこで下位グループのラットを整形して上位グループに放り込む。その時、ラットは自分達との違いを見分けられるかどうかと言うのが、今回のナンの受け持つ実験内容であった。

円盤は上位ラットの居住する大きな建物の前に来ると、そこで下位ラットを引きずり出した。同じような格好に整形してあるので、上位ラットは気づかずに下位ラットを迎え入れた。

しかし、この整形は一時的なものである。時間がたつにつれ、下位ラットは元の姿に戻ってゆく。周りの上位ラットが気づく前に、下位ラット自身がそれに気づき、あっという間に逃げ出した。上位ラットは下位ラットから剥がれた整形材の一部を囲んで、なにやら相談しているように見える。

一部始終を観察記録したナンは、それきり興味を失ったというように母船に帰っていった。ラットなどよりも、この報告を提出した後の休暇の方に気を取られているのである。

 一方残された下位ラットの体験には、その話があまりにも突飛であったのと、その運命が劇的だったために、尾ひれがつく。

円盤はかぼちゃの馬車。馬車を引くためにいたはずの馬は、ラットと言う言葉から連想されたねずみが、その役割を当てられる。そしてあの、背中の曲がったしわだらけの宇宙人は、魔法使いの老婆となった。

シンデレラは、空に消えていったナンに向かって、いつまでも感謝の祈りをささげていた。

もっとも、何年か後にそのナンが、今度は彼女の娘を拉致し、薬を飲ませ、7人の小人の幻覚を見せることになると知っていれば、そう感謝ばかりもしていなかったであろうが……

なんにせよ、とりあえず、シンデレラは幸せに暮らしましたとさ。 

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