夢を追って

カールとマックは同級生。

二人とも同じ夢を追っている。人に話すと荒唐無稽だと言って笑われるか、変人のレッテルを張られることさえある夢だ。だが、二人は真剣だった。

宇宙へ行く。

子どもが言うならともかく、いい大人が見る夢じゃない。NASAにでも就職しているなら、あるいは周りも真剣に聞くだろうが、二人とも学生であり、宇宙に関しては素人の域を出ないのだ。それでもふたりは一緒に飲むと、必ずその夢を語り合った。

しかし、生きると言うことは何かを失うことである。

カールは宇宙への夢を持ちつづけ、ついに航空会社に就職することが出来たが、マックは私立高校の教師になってしまう。

それでもカールは、マックをなじったりはしなかった。カールだって充分大人だ。生きてゆくことと理想を持ちつづけることは、往々にして相反すると言うことぐらいは判っているのだ。

むしろマックの夢さえも自分が背負って、必ず宇宙に行ってやろうとがんばった。だが、がんばったからと言って簡単に行けるほど宇宙への道は楽なものではない。宇宙のうの字も見当たらないまま、カールはパイロットとして空を飛びつづけた。

それでも決してあきらめないカールは、一生懸命宇宙への道を模索しつづける。やがて、少しばかりの幸運が味方して、カールの前に道が開けた。

X−プライズ。

アメリカで行われる、民間の宇宙船開発レースだ。天文学的な賞金と、何より宇宙史に名を残すと言う名誉が与えられる。カールは一も二もなく参加を表明した。

とはいっても、政府から援助が出るわけでも、今までNASA等で使われていた宇宙船の再利用を許されるわけでもない。完全に一から民間人だけでやらねばならないのだ。カールはスポンサー探しに奔走する。

しばらくは仕事と掛け持ちでやっていたのだが、参加が会社の知るところとなり、カールは航空会社をクビになった。開発スタッフが宣伝のためにやるというのではなく、一個人が勝手にやるようなことに、会社がOKを出すわけはない。まして、事故でも起こした日には逆宣伝も甚だしい、と来てはなおさらだ。

それでも航空会社時代のコネを頼りに、何とか資金を集めることが出来た。

宇宙への足がかりが出来たところで、カールは事をマックに報告するため、彼のもとを訪れる。しかし、そのころすでに就職先の私立学校で理事の娘と結婚していたマックは、カールの期待に反して宇宙の話にはたいした反応を見せなかった。

「宇宙に行く足がかりが出来たんだ。スポンサーも集まった。これから開発に乗り出すんだぜ?」

おまえもいっしょにやらないか?と言いかけたカールをさえぎって、マックが早口でまくし立てる。

「そうか、それはすごいな。しかし、俺の方だって負けてないぜ?今度新しい学校を立ち上げることになったんだが、そこの経営チームに俺が選ばれたんだ。とりあえずは娘婿と言うことで、名目ばかりの経営者なんだが、いずれは俺が中心になって、この学校を運営してゆくことになるだろう」

ある程度予想はしていたものの、新しい学校を立ち上げて、その経営に携わるのだと嬉しそうに語るマックの話は、カールの心に傷を残した。

カールは寂しい想いでマックの家を後にする。

 

すっかり孤独になったカールは、もはや自分にはこれしかないんだとばかりに、執念で宇宙船を開発していった。打ち上げの際の事故が一番多いことに目をつけたカールは、成層圏付近まで飛行機によって宇宙船を引っ張ってゆくと言う作戦を打ち出す。

この作戦は安全のほかに、コスト面でも優れていた。極力既存の技術を使う事によって、コストを削減し、なおかつ開発スピードは上がる。カールはいまや、X-プライズの本命の一角とまで言われるようになった。

そしてついに、カールの乗った宇宙船が飛んだ。

数十分の宇宙飛行を終え、ルールで決められた二回目の飛行もこなしたカールの宇宙船は、最後のランディングに入る。しかし、栄光まであと数メートルのところで、カールの宇宙船は着地に失敗した。

カールの夢は、宇宙船とともに滑走路の藻屑となる。

カールはこの事故で片足を失い、二度と宇宙船に乗ることは出来なくなった。周りの人間やマスコミは悲劇のヒーロー扱いをしたが、やがて熱が冷めると、新しい宇宙の英雄を探してひとりまたひとりと消えてゆく。

カールはたったひとり、絶望と孤独を抱いていた。

 

しかしそれでも、やはり生きていかなくてはならない。

誰も相手にしてくれなくなった孤独な宇宙飛行士は、半ばヤケクソでもとの友人のところに向かった。すっかり金持ちになっているマックに、職の世話をしてもらおうと言うのだ。

「やあ、マック。久しぶり。すっかり経営者が板についたようだな?」

「はは、まあそんなこともないがね。しかし、カール。事故は気の毒だった。もう、身体のほうはいいのか?」

「片足はなくしたけど、日常生活に支障はないよ。まったく、バカな夢を見たものさ。君のように地に足のついた生活をしないで、夢ばかり追っていた代償に、僕は片足を失ってしまった」

「なんだい?もうすっかり宇宙のことはあきらめたのかい?」

その言い草に、カールはむっとする。

「そりゃあ、君のほうが正しかったことは認めるよ。でもな、これだけは誇りを持って言わせてもらう。僕は夢を追ったことを後悔していないよ」

その強い口調に鼻白むかと思いきや、マックは嬉しそうな大声で言った。

「あたりまえだ!ここで君に降りられてたまるか!」

きょとんとするカールに向かって、マックは胸を張って笑う。

「僕が一度でも、宇宙をあきらめると言ったかい?僕が学校経営をやっていたのは、夢のためなんだよ?今回の成功で、僕の手腕は認められた。これでようやく夢に向かって走り出せる」

「どういうことだ?」

「次の学校を作るんだ。新しい時代の新しい学校、宇宙船のパイロットを養成する学校さ」

「……」

「知ってるかい?ここ38年間で、宇宙に行ったのは500人に満たないんだぜ?それじゃあ、僕みたいに適性のない人間が宇宙に行くまでに、どれだけ待ったらいいか判らないじゃないか。今みたいに、選ばれた人しかいけないんじゃ、宇宙開発なんていつまでもおぼつかない」

「それじゃあ……」

「そう、僕はこの学校から毎年、宇宙飛行士と、宇宙船の設計者と、そのほか必要な技術者を何人でも養成して送り出してやる。彼らがどんどん宇宙へ行って、そのシステムが確立すれば、いずれは誰もが安全に宇宙へ行けるだろう?それが僕の夢なのさ」

「マ、マック……」

「君のとは少し方向が違ったかもしれないけど、これが僕のやり方だ。ねえ、賛成してくれるだろう?」

イタズラっぽく片目をつぶったマックに向かって、カールは大きな声で言った。声が震えて、涙がこぼれないように、大きな声で。

「なあ!その学校、講師の空きはあるんだろう?」

やがて宇宙史に名を残すカールとマックの、これが最初の一歩だった。

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