| 罪と罰(トパーズタウンシリーズ) |
| グリフは羽振りがいい。 なんでそんなに金を持っているのか、誰も詳しいことは知らない。 まあしかし、グリフはニックズカフェにやってくると、必ずみんなに一杯ずつおごるんだから、別に文句を言う必要もないだろう。 中には、グリフがどうやって儲けているのか知りたがる奴もいたが、グリフは大抵上手く話をそらせてしまう。あんまりしつこくして、おごってもらえなくなっちゃ困るから、それ以上突っ込んで聞く奴もいないのだ。 ところが、その晩はいつもと様子が違った。みんなが一杯ずつ持って、グリフに向かってジョッキを掲げたところで、グリフがニヤニヤしながら大声をあげたのだ。 「おい!金儲けのしたいヤツはいるか?」 一瞬あっけに取られた後、みんなはグリフの元に殺到した。そりゃあそうだろう?この不景気にmoreがつくようなシケた町トパーズタウンで、儲け話と聞いて顔色を変えないのは、ジャックくらいのものだ。 ジャックは日雇い労働で金を稼ぎ、ある程度貯まると、単車に乗ってどっかに消えちまう風来坊だが、ことバクチだの危ない儲け話なんかには、まるっきり興味を示さない、おかしな男だ。 グリフが話をはじめるちょうどその時、ジャックが店のドアを開けた。 「よう、ジャック。おまえも乗らねえか?いい儲け話があるんだが?」 グリフがそう言うと、ジャックは興味なさそうな視線を向け、ゆっくりと首を横に振った。 「ちぇ、つまらねえ男だ」 そう言ったきりジャックに興味を失ったグリフは、皆に向かって話し始めた。 「おめーら、株って知ってるか?」 ぶるぶると首を振る男たちに向かって、グリフは株式のシステムを説明し始めた。難しい言葉は一切使わず、丁寧にやり方を教える。 最初はアタマをひねっていた男たちも、だんだん株が儲けを産むシステムを理解するようになる。 食い入るように話を聞く皆を眺めながら、ジャックはバーボンのグラスを傾けていた。 長い説明がようやく終わり、こんどは皆の質問に答えまくっているグリフを、何の感情もない目で見つめつつ、ジャックは独り言をつぶやく。 「グリフが株ねぇ……」
先物や株に素人が手を出して、そうそううまく行くわけがない。瞬く間に虎の子を吐き出してしまったトパーズタウンの男どもは、グリフに詰め寄る。 しかし、中には儲けた奴もいる。グリフはそいつらを指差しながら言った。 「あいつらは、大もうけしたじゃねえか」 「これだけいて、たった5人じゃねえか!よくも騙しやがったな?」 「おいおい、ずいぶん驚かせるじゃねえか。なにか?この町じゃ、バクチに負けたからって、バクチに誘ったやつに文句をつけるのが流儀なのか?」 そう言われれば、男たちも黙るしかない。話を聞いて乗ったのは自分だって事は、男たち自身がよくわかっているのだから。 「どんなバクチだって、最初から儲かるやつは少ないだろう?まあ、負けて尻尾を巻くのは勝手だが、負けたのを俺のせいにするのは、ちっとばかり筋が違うんじゃねえか?」 グリフはそう言って男たちを煽る。 「なにを!今度こそ勝つぞ!見てやがれ、このやろう!」 そう言うと男たちは、新聞の株式欄をにらみながら、ああでもないこうでもないとヤリはじめた。 その様子をニヤニヤとうかがっていたグリフは、ジャックと目が合うと、フンと鼻を鳴らして視線をそらせてしまう。ジャックは何事か考えながら、相変わらずバーボンを飲んでいた。
トパーズタウンから車で3時間の大都会にある酒場で、グリフはスーツ姿の男達と呑んでいた。 「おかげで、うちの支店は大もうけですよ。ありがとうございました」 「まあ、バクチの好きなヤツラだからな。そのうちてめえの採掘権や機械や、家を担保に入れるようになるぜ?」 「そうしたら、我々の出番ですな?」 「しかし、グリフさんもやりますな。まさかトパーズタウンの荒くれに株を買わせるなんて、誰も思いつきませんよ」 男たちは、証券会社の支店長と、高利貸しと、不動産屋だった。陰湿な笑いを浮かべる男たちに、グリフは右手を出してみせる。 「ところで……」 男たちはおぉ、と声をあげると、それぞれが分厚い封筒を取り出した。受け取ったグリフは中を確認もせずにポケットに突っ込むと、にやりと笑って見せる。 「ま、またなんかあったら声をかけてくれ」 そう言って右手を上げると、男たちを残して店を出た。 と。 店の扉の前でグリフは固まってしまう。彼の目の前には、ジャックが立っていた。すこしばつの悪そうな顔をした後、気を取り直して不敵な笑みを浮かべたグリフは、あごを上げて挑戦的に叫んだ。 「俺は悪くねえぜ?みんな自分で選んだんだからな?」 「ああ、そうだな」 あっけなくそううなずくジャックの態度に、グリフはいぶかしげな顔をする。 「なんだ、もう少し怒るかと思ったが、意外と冷静なんだな?」 「怒る必要はねえだろう?おまえはもう、罰を受けているんだから」 その言葉に少し考えてから、グリフはにやりと笑った。 「ははあ、このことを皆に言うつもりだな?そうすれば誰も俺の言うことなんて信じなくなるだろうから。まあ、いいさ。やるがいい。そしたら、俺はこの街を出る。別の場所で上手くやるさ」 「べつに、誰にも言うつもりはねえよ。そんな必要はねえんだから」 「言わねえってのか?嘘つけ。俺をやり込めるには、もう、そうするしかねえんだぜ?せいぜい町じゅうに言いふらすがいいさ」 ジャックは悲しそうな顔で首を横に振る。 「まさにそれが、おまえの受けた罰だ」 「なに?」 「おまえはもう、誰の言葉も信じられなくなっちまった。みんなを騙して薄ぎたねえ金を稼ぐ代わりに、自分も騙されてないか?って気持ちを持つようになっちまった」 「それがどうした?」 噛み付くようなグリフの言葉に、ジャックは淡々と答える。 「おまえ、これから先、誰に心を許すつもりなんだ?ひとりで生きてゆく人生が、どれほど味気ねえかわかるか?」 グリフは強がりを言おうとしたが、言葉が出てこない。 「おまえはもう、充分に罰を受けたんだよ。これからずっと、そいつを背負って生きてゆかなきゃならねえんだ。同情するよ」 「世の中、喰うか食われるかだ。甘いことは言ってられねえんだよ」 「そうやって、てめえより強いものと戦わず、弱いものを食い物にしつづけるのも構わねえさ。おまえの選んだ人生だ」 鼻白んだグリフに向かって、ジャックは続ける。 「だがな、自分の記憶は変えようがないぜ?薄汚いマネをしたって記憶は、一生残るんだ」 グリフは唇を噛み締めて、ジャックをにらむ。するとジャックは、ふいに表情を緩めた。優しい笑顔を浮かべて、グリフに話し掛ける 「なあ、グリフ。おまえ、もう少し気持ちよく生きてみちゃどうだ?」 グリフは何も答えないまま、ただ、立ち尽くしている。 都会の空に浮かぶぼやけた月が、二人の顔を照らしていた。 |