日清戦争
「あ〜だいぶ酔っ払ったなぁ。おい、おまえんちってどこなんだ?ずいぶん歩かせるじゃねえか」

「だから、遠いからやめましょうって言ったのに。先輩、絶対文句言うと思ったんだよなぁ」

「だってよ、おめ、こんなに歩くとは思わねえじゃねえか普通よぉ。なんでこんなに歩かせるんだよ?競歩か?俺を日本代表にする気なのか?金メダルを取ったところで華麗に芸能界入りか?」

「いや、勝手に妄想を暴走させた、そんなアサッテの疑問には答えたくないです」

「妄想を暴走……ほほう、上手いじゃないか。韻を踏んだんだな?不細工のクセに、なかなか風流じゃねえか」

「不細工は余計ですよ。だいたい先輩、風流の意味を理解して喋ってます?先に喋ってあとから考えてませんか?むしろ何も考えてないのかな?」

「おや?あそこに見えてきた、小汚いアパートがおまえの家か?ははぁ、さてはおまえ、俺にここの改築費用を出させる気だな、もしかして?」

「こたえる気は、かけらもないと……つーか、だいたい、さっきの店で今月の給料使い切った人がよく言いますね?改築費用の前に、今月どうやって暮らしていく気なんですか?僕、助けませんからね?あと、小汚いは余計です」

「じゃ、汚いアパート」

「まあ、否定はしませんけどね。さ、ついた」

「おぉ、着いたか。まあ、ゆっくりしてってくれ。薄ら汚いところだけどよ」

「僕んちです!まったく失礼な人だ。カプセルホテルに泊まる金もないって言うから、泊めてあげようとしてるのに」

「どれどれ、おや?意外に綺麗じゃないか。さては俺に黙って彼女が出来たか?いや、おまえにそんな甲斐性はないな。女の子に声をかけるくらいなら、むしろ拉致監禁するタイプだから。な?」

「いや、「な?」言われても絶対同意しませんが。ま、とりあえずあがってください」

「小腹すいたな。なんか出せ」

「座布団出す前に、食い物を要求しますか。そこまで自分勝手に生きられるって言うのは、ある意味才能ですよ、ホント。でも、何もないですよ?カップラーメンなら買い置きがたくさんあるけど」

「おぉそうか、んじゃ、肉!肉が喰いたい」

「耳の穴にリスでも飼ってるんですか?人の話、聞いてます?カップヌードルしかないんですよ!」

「だから、カップヌードルの肉」

「は?」

「カップヌードルの肉だってば!あれを三人前」

「え〜とですね、あなたの言葉は聞こえるんですが、中身がまるで脳に入ってこないんですが。つまりそれは、カップヌードル三個分の肉が喰いたいってコトですか?まさかとは思いますが、三個作って、肉だけよこせって意味じゃないですよね?まあ、たくさんあるから三個くらい作ってもいいですけど、もったいないから、ぜんぶ食べてくださいよ?」

「いや、肉だけ。肉オンリーでおなかいっぱいになるくらい、よこせと言っているのだ。買い置き全部作れば、そのくらいの量にはなるだろう?。実はな、かねてから、あの肉をたらふく食ってみたいと思ってたんだよ。丁度いい機会だから食わせろ」

「どーゆー脳みその使い方を適用したら、丁度いい機会って思えるのかがわからない。つーか、カップヌードルの肉だけ三人前とか、思いつける頭を尊敬しますよ」

「わかったよ。海老と卵もいれていいよ」

「妥協の方向がアサッテなんですが。お願いですから、素直にカップヌードル喰って、大人しく寝てくださいよ」

「ち、肝の小せえヤロウだ。男ってのはココいちばん、腹をくくらなきゃならない時があるってコトを認識してだな」

「カップヌードル20個いっぺんに作って肉だけ食べるのが「男の人生のココいちばん」だって言うなら、僕は永遠に肝の小さい奴でいいです」

「あーあー判ったよ。じゃ、3個でいいよ。腹へってる訳じゃないし」

「腹減ってないのにカップヌードル20個作らせようとしてたんですか?あのぽろぽろの肉だけ食うために?信じられない!」

「いや、だから。海老と卵も食うってば」

「一個です!一個だけ作ってあげますから、それ喰って寝てください!まったく、むちゃくちゃだよ!」

「あ〜あ、怒っちゃった。カルシウムが足りねえんだな、きっと。さて、奴がお湯沸かしてる間に、物色物色、と。おや?これはなんだ?」

「あ〜!何してるんですか!勝手に人の部屋を物色しないでくださいよ!もう!油断もすきもありゃしない!」

「おまえそれ、ぺヤングじゃないか!」

「そーですよ?俺、カップやきそばはぺヤングに決めてるんです」

「ジーザス!バカじゃねえの?カップヌードル買いだめしてるほどセンスのいいおまえが、なんでぺヤング?何ゆえ「まるか食品」?」

「いや、センスとか言われても。ペヤング美味しいじゃないですか」

「だー!なに言ってるんだよ!焼きそばと言えば、UFOだろうが!ターボ湯切りが便利な日清焼きそばだろう!ペヤングなんて邪道だよ、邪道!まるか食品?わ〜かめ好き好きか?納豆麺なんか誰が食うんだ?」

「わかめラーメンもまるか食品なんですか?つーか、納豆麺とか素で聞いたことないんですが?」

「それは「エースコック」のわかめラーメンだ。まるか食品とエースコックは不倶戴天の敵同士だからな。わかめラーメンだけじゃない。1.5スーパーカップ大盛りイカ焼きそばとペヤングは、宿敵と言ってもいいだろう」

「いや、心の底からどうでもいいです。知りたくもないし」

「ふる里うどんだ、ねぎらー麺だ言ってるうちは見逃してやってたが、作るにことかいて水餃子とはなんだ!ラーメンライスだ?消費者を馬鹿にするな!」

「むちゃくちゃ詳しいじゃないですか!そんなマニアックなカップめん、誰も知りませんよ!」

「ふん!偉そうにメジャーづらしてても、しょせん全国規模ではマイナーなんだよ!関東・東北一円と北陸・中部地方の一部だけの半端モノだ!」

「何でそんなに怒ってるんですか?まるか食品に何か恨みでもあるんですか?」

「うむ。よくぞ聞いてくれた。まるか食品というよりは、ペヤングに恨みがあるのだ。まさに骨髄まで達しているのだ」

「はあ、それはそれは。で?どんな?」

「あのフタだよ!何回やっても湯きりのときにパカンと口をあける、あの許し難いフタだ!おかげで俺は、何度悔し涙を流したことか」

「ちゃんと両手で抑えれば、全然問題なく湯きり出来ますよ?」

「俺は猫舌なんだよ!」

「いや、猫舌関係ないし。あ、わかった!フタが熱くて触れないんですね?小学生じゃないんだから」

「キャベツはフタにくっついちゃうし」

面の上にバラバラ入れるからですよ。麺の下に入れてからお湯を注げば、フタには何もくっつきませんて」

「ふん、知ったようなことを。まあいい。そんなことは些事だ。俺がペヤングを許せないのは、もっともっとでかい詐欺に会ったからなのだ」

「なんか、本気でどうでもいいから聞きたくないんですが、目ぇギラギラさせて話したがってるから、仕方なく聞きますよ」

「アレは俺がまだ若かりし日のことだった。その頃俺は普通にペヤングを愛するありふれた若者だった」

「貧乏だったんですね?」

「黙って聞け。それでな、ある日スーパーに行った俺は、そこで運命の出会いをしたのだ。それがなんと!」

「え〜と、運命の出会いとかじゃなくて、カップ焼きそばの話ですよね?イントロすっ飛ばして、クライマックスに行ってくれません?眠いから」

「バカ!黙れ!これがクライマックスだ。とにかく、そこでであったのが、俺の運命を変える稀代の詐欺的商品「ペヤングソース焼きそばパーティーサイズ」だったのだ」

「へえ、そんな商品があったんですか。それは知らなかった」

「パーティサイズだぞ?名前だけでワクワクしてくるだろうが?その上、その商品のパッケージには、正装した男女のダンスする姿が描かれていたのだ!俺の心が期待に高鳴ったのも無理はあるまい?」

「いや、パーティにカップ焼きそばは出さないと思いますよ?まあ、胸を高鳴らすのは勝手ですが」

「俺は早速、買い込んだよ。そのパーティサイズなるつわものを。ビニール袋いっぱいに詰めたパーティサイズを持って家路を急ぐ俺の足は、宙に浮かんでいるかのように軽やかだった。まさに、天にも昇る心地って奴だな」

「ものすげえ安上がりですな。それで?喰ってみたんでしょう?」

「俺は自宅に帰って部屋のカーテンを全部引くと、豆電球だけをつけて暗がりの中でそいつを開封した」

「いや、そんな黒魔術フレーバ漂わせる意味がわからない」

「どきどきしながらあけた俺を待っていたのは、でかいケースの中に鎮座ましました、普通のペヤングの麺が二個という驚くべき光景だった!」

「ああ、まあ、そんなトコでしょうね」

「そして当然のことながら、ソースも二個。この段階で、俺はかなり足に来ていた」

「アタマに来る前に、ダメージが足に来たんだ。ボディブロー食らったボクサーばりのショックを受けた、と。いったい、何を期待していたんだか」

「そこまでは俺も耐えた。別に損した訳でもないし、いい夢見させてもらったよとペヤングに微笑みかける余裕さえあったのだ」

「カーテン引いた暗い部屋で、豆電球一個だけ灯しながらカップ焼きそばに優しく微笑みかけていたんですか?先輩、結婚は諦めた方がいいですよ?いや、マジで」

「やかましい!そんな些事はどうでもいい!そんなことより問題はこのあとだ!いいか?このパーティサイズと言うのにはだな、こともあろうに、かやくが一袋しか入ってなかったのだ!信じられるか?麺二倍、ソース二倍で、かやくだけ一人前だぞ?俺は怒りと絶望に目がくらむ思いだったよ」

「そんな話を、わざわざこんな夜中に聞かされてる僕も、充分目がくらみそうですけどね」

「俺は泣いたね。いや、男ならココで泣かずにいつ泣く?と、むしろ問いたいね、おまえに」

「黙秘権を行使します」

「それから俺は、かやく半分のペヤングを喰いつづけ、貴重な青春を無駄にしたというわけさ。涙なくしては聞けない話だろうが?」

「あくび連発で、涙が止まりませんよ。話し終わりました?じゃあ、カップヌードル喰って寝てください」

「いや、このあとに、青雲立志編、疾風怒濤編、と続くんだ。まるか食品と日清食品とエースコックの三つ巴の戦いの中で、それをすべて喰い、吟味した俺がだな……」

「何があっても聞きたくないです。ほら、カップヌードルできましたよ」

「おう、さんきゅ。はふはふ、やっぱり美味いな……おや?」

「どうしました?」

「いや、あのな。本来カップヌードルの肉と言うものは、3個入っているモノなんだよ。然るにおまえの出したこのカップヌードルには、肉が2個しか入ってない。これがもし、おまえが抜いたんでなければ、これこそまさに日清食品に対するまるか食品もしくはエースコックの陰謀……」

「うるせえ、喰って寝ろ!」

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