虚無との問答
「人生における喜びとは、お前には出来ないと言われた事をやり遂げることだ。出来ないと言われたから、やるのではない。見返すなんて小さな意識でやるのでもない。

己がやるべきだと思ったことに対して、誰がどんな予想を立てようと、どんな評価を与えようと一切関せず、ただ、成し遂げるのだ」

「そうだろうか?ひとは一人で生きてゆけないだろう?愛するものも必要だろうし、協力してくれる仲間も必要だろうし、いずれは子供をなしてその子供を愛し育んでゆきたいのだろう?」

「人生にとって愛しあい、慈しみあうのが一番だというのなら、一番でなくていい。助け合い、協力し合い、自分を抑えるのが人間だというのなら、人間でなくてもいい。子を生み、育んでゆくのが生き物だというのなら、生き物でなくてもいい。」

「そうして孤独になって、何を望む?お前が生きてきた証とやらか?しかし、それとてその証を評価する他人が必要なのだぞ?世界にお前一人なら、そんな証に何の意味もないし、お前自体がいてもいなくても同じ事でないか?」

「一人で生きてゆくことはできないと?」

「そうだ。ひとは一人では生きてゆけない。人間というものは結局、他者の評価というものがなくては、己のよりどころを見出せないものなのだ」

「他者のいないところでは、純粋に自分ひとりで作り上げるもの、成し遂げるものに、何の意味もないと?」

「そんなものに何の意味がある?たとえお前が何かしらの生物を創造して、その神として君臨したとしてさえ、いったいそれに何の意味があるのだ?対等な関係の他者がいて、初めてその行為に意味が出てくるとは思わないか?」

「では、ひとが生きてゆくためには、絶対に他の誰かが必要だということだな?」

「お前が何を成そうとするとしても、それを評価するお前とは別の存在がいなくては、それは存在しないのと同じなのだ。誰もいない森の中で鳴った音は、聞くものがいなければ存在しないのといっしょだという話は知っているだろう?」

「音は他者に関係なく、鳴るだろう?」

「それはそうさ。でも、それを聞くものがいなければ、「音」という存在も「鳴る」という現象も、発掘されない記録といっしょだ。それは普通、「存在する」とは認識されない。人が何かを成すという行為に意味を見出すとしたら、その最低限の条件として、他者の存在が必要なのだよ]

「人間だからこそ、か?」

「他の動物のように、生まれ、食べ、交わり、生み、死んでゆくだけの生を受け入れる覚悟がないのなら、だ。生きることに意味を持たせるのも、死に意味を求めるのも、人間だけに許された贅沢なのだから」

「……ならば俺は、成すべきことを成さねばならないようだ」

いつものひとり問答をやめると、俺は深くため息をついた。

そして顔を上げると、今までのように、また、無限に続くと思える荒野に向かって歩き出す。

生き残りの人間を探すために。

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