願い
はるか昔、人類の黎明期に、ひとりの英雄がいた。

彼には信念、包容力、驚異的な発想力があり、勇気と行動力、優しさと厳しさ、そしてカリスマ性も充分にあった。

その信念で人々を導き、その包容力で人々をつつみ、その発想で彼らの生活を向上させ、勇気と行動力で彼らを危機から救った。

人々を死の恐怖から救ったのも、愛を説いたのも、火をもたらしたのも、災害から救ったのもすべて彼だった。

生まれたばかりの幼い人類を、彼は愛し、導いた。

人類発祥時の名もなき英雄。

それが彼だった。

彼は私利私欲でなく、あくまで人々のために神を目指した。生きとし生けるものを愛し、すべての幸福を願っていた。

そんな想いが通じたのか、大いなる存在が彼にコンタクトしてきた。それは地球そのものだったのかもしれない。

彼は永遠の命を欲した。生物学上、永遠のそれはありえない。しかし、それでも大いなる存在は彼の愛を認めたのか、彼に生物としては限りなく長い生命を与えた。

彼は求めていた存在、神になった。

 

旗を持った女が、大声を張り上げる。

「は〜い、みなさ〜ん。集合してくださ〜い。そろいました〜?それじゃ説明させていただきま〜す。これがですねぇ、中には樹齢8000歳にもなるモノもある、世界一長寿の樹木「竜血樹」で〜す。産地では「神木」として崇められているんですよ〜」

観光客は、感心して大きくうなづいた。が、次の瞬間には、別のものに興味を移して移動してゆく。

彼は神になる代償に、それ以外のすべてを失った。

だが、これでいいのだ。

神は大いなる英知を持って、人間を見守っていればいいのである。

たとえどんなに愚昧に見えようと、そのために滅びようと、人は自分の力で生きてゆくことを望む。

他者が口をはさむなど論外だ。

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