はだかの王様

国一番の仕立て屋が言った。

「王よ。この布をご覧ください。これは愚か者には見えない布です」

王は指差された先に、何も見つけることは出来なかった。しかし平然とした口調で仕立て屋をねぎらう。

「よくぞこのようなすばらしい布を見つけてくれた。それでは、この布で最高の服を仕立ててくれ」

仕立て屋はうなずくと、王の前を辞した。扉を閉めた後、ほうっと大きなため息をつく。そして家に帰ると、この話を町の人々に話した。

 

数日後みなの前に姿を見せた王のもとに、国中の人間が集まった。

大観衆の中を、上半身裸のまま、王はゆっくりと進んでゆく。みなが口々に王の衣装を褒め称える。しかし、誰の顔にも、なんともいえない後味の悪そうな表情が浮かんでいた。

しかし、そこでひとりの子供が大声を上げる。

「王様は裸じゃないか!」

まったく偶然、みなが黙った瞬間の出来事だ。子供の声はあたりに響き渡った。子供は得意げに、みなの顔を見渡している。

と。

突然走りよってきた彼の父親が、子供の頭を張り飛ばした。

「キサマと言うガキは!なんと言うことを!」

そこへ王が止めに入る。

「よい。子供と言うのは正直なものなのだ」

振り返った父親は、王の前にひれ伏すと、男泣きに泣きながら叫んだ。

「王様!私たちは、あなたのことをいつまでも忘れません。あなた様は飢饉で苦しむ我々のために、国庫に残ったすべての食物を開放してくださいました。おかげで私らは、何とか生き抜くことが出来ました」

王は寂しそうにうなずいた。

そこへ別の男が走りより、同じく王の前にひれ伏す。

「王様!俺たちが不甲斐ないばかりに、こんな事になってしまったんです!どうか我々をお許しください」

王様はやさしく笑いながら、うなずくと言った。

「私に力が足りなかったばかりに、みなには苦労をかけることになる。どうかこのわしを許しておくれ」

「何をおっしゃいます!戦争に負けたのは、王様がみなの苦しむ姿を見ていられなかったからではありませんか。この国の人間は、みな王様が大好きなんですよ!だから最後の一兵になるまで、みんな戦う覚悟だったのです」

それを受けて、先ほどの父親が叫ぶ。

「そうです!それを察した王様が、みなの命を救うために、あえて敗戦を受け入れたのではないですか!悪いのは不甲斐ない我々です。我々がだらしないばかりに、王様にこんな思いをさせるなんて」

感極まった民衆は、みな涙を流し始めた。

そんな中、敗戦国の王はゆっくりと進んでゆく。

王の火あぶりを条件に民衆の安全を約束した敵国の高官たちは、ばつの悪そうな顔でその姿を眺めていた。

宮殿から火刑場までの道のりを裸で歩けと言う屈辱的な条件を突きつけられたとき、居並ぶ家臣たちが激昂する中、王は落ち着いた声で言ったそうだ。

「私のせいで負けたのだ。私はみなに何もしてやれない、脆弱な王であった。しかしそれでも、最後の役には立てるようだ。裸で歩くことなど、みなの苦しみやつらさを考えたら、屈辱でもなんでもない」

この話を聞いたとき、国中が感動に涙した。

そして、王を愛する仕立て屋は危険を承知の上で、あえて敵国の監視の中、空の荷車を宮殿に運び、王の前にひざまずいたのである。

彼の差し出した布は、王のやさしさや偉大さを理解できない愚か者には、決して見ることは出来ない。

 

やがて、王は火刑場に到着した。

ゆっくりと火刑台に上ると、静かに目をつぶる。

その顔には、己の決断への自信と誇りが浮かんでいた。

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