思い出を抱いて

中学生の時は、同じクラスのさつきちゃんが好きだった。

さつきちゃんにバレンタインのチョコレートをもらったときは、嬉しくて嬉しくて、しばらく自分の部屋に飾っておいたくらい。もちろんホワイトデーのお返しも、おこずかいを奮発して、かわいらしいブローチを買った。

さつきちゃんはすごく喜んでくれて、僕らはそれから付き合うようになったのさ。まあ、ませたガキだったからね。それでもプラトニックな恋愛が半年くらいは続いたんだ。

高校生になって、街でナンパした美奈子と付き合うようになってからは、違う学校に行ったさつきちゃんとは合う機会もなくなり、自然消滅って形だったかな。

で、美奈子は僕の初めての女だ。そう、もちろんそういう意味でのはじめての女さ。盛んな年頃だったからね。二人とも会うとそればっかりだったよ。同級生の中には子供が出来ちゃった奴もいたけど、幸いにというか、僕らにはそんな事件はおこらなかった。

大学生になって、同じサークルのこずえとそういう関係になったのは、サークルの合宿がきっかけだったかな。こずえは三つ年上の、何かに付け気のつく女だった。その頃倦怠期というかケンカばかりしていた美奈子とは疎遠になり、いつの間にがこずえと付き合っていた。

情が細やかで、昔の良妻のイメージを絵に描いたようなこずえとは、結婚するかもしれないなぁなんて漠然と思っていたんだけどね。そう思ったらなんだか先の人生まで決まってしまったような気がして、こずえとは正反対の派手な女、ちずるに惹かれていった。

大人しいこずえが何も言わないのをいいことに、好き勝手にやっていたら、彼女はいつのまにかいなくなってしまった。まあ、その頃はちずるとただれた生活を送っていたから、ちっとも気にしなかったけれど。

今思えば、酷い事をしたなと胸が痛くなるよ。まあ、その罰なのかも知れないね、今の厄介な状況は。厄介というより、むしろ絶望的と言った方がいいのかな。うん、間違いなく絶望的ではあるな。

実は今、スピードの出しすぎでガードレールをぶち破ってしまい、クルマごと崖から落ちている最中なんだ。

よく言うだろう?死の寸前、今までのことが走馬灯のように思い出されるって。あの状態なんだよ。ちょっと違うのは、どうやら走馬灯のように思い出されるんじゃなくて、

思い出している間は死ななくて済む

と言う事らしいんだ。だからそれからずっと、僕は今までの人生を何度も何度も繰り返して見てるんだよ。今みたいに考える焦点を、付き合った女の子に絞ったり、仲のよかった友達に絞ったりしながら。

僕が思うに、きっと神様が、死の間際にあきらめる時間をくれているんだろうね。知らないけどたぶん。

ほら、あっという間に死んじゃったら、向こうに行ってからゴネる奴も出てきそうじゃない?だから、じっくり考える時間を与えて、納得してから死後の世界に来いってな事なんじゃないかな?

確信はないけど、きっとそんな事だろうと思うよ。

で、僕としてはまだ死ぬ決心がつかないんだ。だいぶんあきらめの気持ちは強くなってきたんだけどね。

まあ、いずれは死ななくちゃならないんだけど、それにしても、神様がせっかく時間をくれてるんだ。お言葉に甘えて、もう少し考える時間をいただこうかな、ってところさ。

さてと。

今度は「今まで食べたおいしいもの」でも思い出してみようか。

index