得意の数学

地球人の太郎からメールがきた。

地球は銀河の反対側の星だから、僕たちは会ったことがない。いわゆるメル友ってヤツだ。もっともそう思っているのは向こうだけで、僕は地球人なんて劣等民族を、友達だとは思ってないけどね。

単なる暇つぶしさ。

「なあピカール。宝くじを買わないか?」

太郎は事あるごとに僕を騙して、銀河では一番価値の高いザール星の金を得ようとするんだ。だけど、太郎は数字に弱いから、いつも間抜けな失敗をして、逆に僕にお金を巻き上げられている。

もっとも、地球なんて田舎だから、彼らからお金を巻き上げても、タバコ代くらいにしかならないんだけど。それでもまあ、向こうがお金をくれようとするんだから、何も断ることはない。

僕は内心のにやつきを抑えて、メールを返した。

「どんなクジなんだい?」

「0000から最後までうち、好きな数字を選んで、当てるのさ」

「何通りまで選べるんだい?」

「何通りでもいいよ。全部の組み合わせを買ったってかまわない。無理だろうけどね」

「まあ、全部買ったら、元なんか取れないようにはなっているんだろうね。じゃあね、太郎。10000組選んでもいいかな?」

「かまわないよ。それより、ねえピカール。そのまま買っても面白くないから、君が一等を当てたら、僕は君の言うことを何でも聞くって言うのはどうだい?」

「面白そうだね。でも、当たらなかったら?」

「コンピュータ用のアイスブレイカをくれないか?」

地球のようにコンピュータの発達が遅い星に、僕らザール星人のコンピュータソフトを譲渡するのは違法なんだ。僕らのソフトを使えば、地球政府の最高機密だって抜けるからね。

もっとも、僕が当たりを外すわけがない。0000からの数字の組み合わせだけしかなくて、買える組み合わせに制限がないんだから。

太郎はやっぱり何もわかってない。その程度の数なら、僕のおこずかいで全部の組み合わせを買えるんだ。

「かまわないよ」

「OK!決まりだ。それじゃあ、その旨を文書にしよう。いや、遊びだからこそ、こう言うことを真剣にやったほうが面白いだろう?」

「確かに、そのほうが面白いな」

バカめ。文書にするんなら、おまえを僕の星まで連れてきて、死ぬまでこき使ってやるぞ。田舎者の地球人が、僕らザール星人と対等に勝負しようなんて生意気を言った事、一生後悔するがいい。

「じゃあ、買う組み合わせを教える」

太郎にその組み合わせをメールすると、すぐに返信がきた。

「ずいぶん偏っているけれど、これだけでいいの?10000通りって言わなかったっけ?」

だから、10000通り指定してるじゃないか。こいつは本当に数字に弱いんだなぁ。ちょっと桁が多くなると、すぐに訳がわからなくなって、パニックになってしまうんだ。まったく下等なヤツラだよ。

「かまわないよ。それじゃ、発表されたら、真っ先に教えてくれよな?」

「わかった。さすがに我々よりずっとコンピュータの進んでるザール星人だ。たったこれだけで、間違いなく当てると言うんだから、何か難しい数学が関係するんだろうね?じゃ、また」

太郎のわけのわからないメールに、僕はなんだか嫌な予感がした。

急いでザール星で一番大きな情報サイトにアクセスする。マイナーに「ド」がつく地球だから、扱っている記事は少なかったが、それでも必要な情報は得られた。

地球人が片手101本の指のうち10本を立てて、誇らしげに見せている写真とともに、驚くべき記述がそこにあった。

(地球人は手足の指が、左右合わせて1010本ずつある。そのため、彼らの使う数学は独特で、1010を10とする、ジュッシンホウ(十進法)という非効率的な数学を用い……)

1010が10?

ってことは、「0000から最後までうち、好きな数字を選んで、当てる」言うのは……

僕は頭の中で、太郎が101本の指のうち10本の指を立てて、にっこりと笑っている映像を浮かべて愕然とする。

あんまり悔しくて、僕はその10本の指を立てるハンドサインの意味を調べた。程なくわかったところによれば、「ピースサイン」と言う、平和を象徴するサインだそうだ。

自分の10本の指を眺めながら、僕は太郎にハメられたことに気付いた。

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