| 月下のまりもさん |
| 砂漠の上に、月がかかっている。 泣けてくるほど美しい満月の元で、僕はまりもさんに手紙を書いている。僕の胸いっぱいにつまった想いをこめた、最後の手紙を。
僕は砂漠になってしまった東京のど真ん中で、まりもさんへの手紙をつづっている。 傾国の美女。 まさにその言葉通り、まりもさんに惚れ狂ったあの国の国家主席は、彼女に言われるままに、僕らの国へミサイルを発射した。この国のほとんどが砂漠になるまでに、大した時間はいらなかった。 当然の事ながら、彼の国へは同盟国から報復攻撃が成される。あっという間に世界大戦だ。マンガや物語の中だけだと思っていた惨劇が、現実のものとなる。 戦火が下火になると、どこからともなくまりもさんが現れて、その度に思いもかけない国が、思いもかけない国にミサイルを撃つんだ。戦争が終わるまでに、ほとんどの国家が解体された。 世界で生き残った人間なんて、もういくらもいないだろう。そしてそのわずかな人間も、やがて死に絶える。 世界はまりもさんに滅ぼされてしまった。 どうして世界を滅ぼしたのかは結局わからないのだけれど、まりもさんがそれを喜んでしたのじゃない事だけは確かだ。なぜなら、まりもさんはもう何年も、一度も笑ったことがないのだから。 まりもさんは死神だったのだろうか? いや、もしかしたら、まりもさんは奢り高ぶった人間を滅ぼすために神様が遣わされた、精霊みたいなものなのかもしれない。どっちにしろ、もう死んでゆく僕には、そんなことはどうでもいいのだけれど。 なんだか意識が遠くなってきた。 まりもさんの顔が見える。 ああ、まりもさん。まりもさん。 君に手紙を書いたんだよ。 でも、きっとこの手紙は朽ち果ててしまうだろう。 それでもいいんだ。僕の想いも手紙といっしょに大地に帰って、世界中に広がるんだから。そして僕自身もやがて大地に帰って、君がどこにいても抱きしめるんだよ。 ねえ、まりもさん。見てごらんよ。 綺麗な月だねぇ……
まりもさんは男の亡骸のそばにたたずんでいる。そして、手紙を取り上げると、小首をかしげて読みふけった。 月夜の砂漠に優しい風が吹き、まりもさんと男をなでる。 やがて手紙を読み終わると、男の亡骸にそっとキスをした。男の死に顔が少し微笑んだように見えて、まりもさんは驚いて目を見開いたのだけれど、男はそれきり動かない。 「ありがとう」 そっとつぶやいて、まりもさんはきびすを返す。 その言葉が何に対してなのかは、もはや知ることは叶わない。けれども、男の思いは、もしかしたら少しだけ届いたのかもしれない。 まりもさんの唇は、微笑んでいるように見えた。 |