まりもさん
今日は、まりもさんとデートだ。

まりもさんは色白で可愛らしくて、ちょっと意地悪な僕の恋人。僕はいつも、まりもさんに振り回されっぱなし。それもまた、幸せなんだけど。

待ち合わせの場所、タバコをひと箱吸ったところでようやくまりもさん登場。1時間遅れなら、まりもさんにしては早いほうだから、僕は余計なコト言わない。

オシャレなお店でご飯を食べた後、素敵なお店でお酒を飲む。もちろん勘定は僕持ちだ。まりもさんは僕と会う時、お財布を持ってこないから。

まりもさんは色んな話を僕に聞かせてくれる。僕は、目をキラキラさせながら話をする、まりもさんの顔が大好きだ。何か嫌な事があっても、まりもさんと会えば、そんなもの全部吹っ飛んじゃう。

ああ、まりもさん。まりもさん。

僕は舞い上がりすぎていたらしい。何が気に入らなかったのかは判らないんだけど、まりもさんを怒らせてしまった。困った。

まりもさんは、飲んでいたマティーニのオリーヴに刺さっている小さなピックで、僕の目を突っつこうとする。

さすがに目を刺されてはたまらないので、僕はまりもさんの腕を掴んでとめた。するとまりもさんは、僕の腕に噛みつく。ぷちぷちと繊維の切れる音がして、僕の腕の肉がまりもさんに食いちぎられた。

まりもさんは血だらけの口をにやりとゆがめて、さらに噛み付こうと近寄ってくる。

僕は怖くなって逃げ出した。

 

店を飛び出して、僕は走った。まりもさんはハイヒールの踵をカッカッと鳴らしながら追いかけてくる。

町をでたらめに走った後、僕は電車に乗った。椅子に座ってほっと一息つくと、食いちぎられた腕がジンジン痛くなってきた。血がだらだら流れているから、周りの乗客が気味悪そうに僕を見る。

僕は持っていたハンカチで、腕をぎゅっと縛った。

電車がホームに滑り込む。とりあえず今日は家に帰って、まりもさんが冷静になってから、謝ろう。そんなことを考えながらホームに降りた僕は、そこで一瞬、凍りついた。

口元を血だらけにしたままのまりもさんが、こっちを見ながらニヤニヤして立っている。

声にならない悲鳴を上げながら、僕は走り出した。

カッカッカッ。

まりもさんのヒールの音が、追いかけてくる。

腕のハンカチがぐっしょりと重くなってきた。脂汗がだらだら止まらない。それなのに背筋がぞくぞくと寒いのは、血を流しすぎたのか?鳥肌が立って、全身の皮膚が凄く敏感になってる。

僕は部屋に逃げ込むと、カギをかけてドアチェーンもかけた。ようやく一息つくと、とたんにぶるぶると体が震え出す。腰が抜けて、その場にへたり込んでしまった。

どん、どん、どん。

僕の部屋の扉を叩く音がする。

僕は寝室に駆け込むと、布団を被って耳をふさいだ。

 

しばらくして手を耳からはずすと、ノックの音は止んでいた。ほっとして布団から出る。

うわぁ!

寝室の入り口に、まりもさんが立っていた。

まりもさんは、恐怖に動けなくなっている僕にゆっくりと近づいてくる。

細くてしなやかな白い指が、僕の首にかかった。

首をしめられながら僕は、なぜだか少しほっとしていた。まりもさんの顔が、いつものとおり切なくなるほどキレイだったからかもしれない。

僕は薄れゆく意識の中で、まりもさんが何に怒っているのか聞きそびれたなァと思っていた。

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