胸に秘めた想い

僕は君が大好きだ。

いや、確かに、こんな時にこんなこと言うなんて、自分でもどうかしてると思うよ。もっとロマンティックな瞬間を選べばいいのにってね。でもまあ、それはそれで僕らしいだろう?ダメ?はっはっはっ参ったな。

君はなんだか勘違い知るみたいだけど、君のことを縛ったのは、別に危害を加えるためじゃないよ。君が少し冷静さを欠いていると思ったから、やむを得ず拘束させてもらったんだ。僕だって本意じゃない。

お金?保険?なに言ってるんだい?何のことだか僕にはちっともわからないよ。確かに君には生命保険がかかっているけど、そんなもの、君が受け取れないんだから考えても仕方ないじゃないか。

え?僕が受け取るって?バカだなぁ。君が死んでしまったら、僕だって生きてるわけないじゃないか。君が死んだら、君への愛だけで生きてる僕も死ぬ。判っているくせに。

この木切れを何に使うかだって?決まってるじゃないか、火を焚くんだよ。炎のそばにいると、人間は落ち着くんだ。心理学的に言っても、これは正しい選択さ。第一、その方が暖かいじゃないか。

動けない君を焼き殺すだって?おやおや、ずいぶん想像力が豊かだねぇ。ふふふ。ん?死体が残らない?馬鹿言っちゃいけない。今の科学捜査って言うのはすごいんだから。焼死体の身元だって、ちゃんとわかるんだよ。

ええ?身元がわからないと、保険金が下りない?まあ、そりゃあそうだろうけど、だったら焼き殺さなくても、他に方法があると思うよ?なに?殺されたか、焼け死んだのか判らないようにするため?う〜む。君はなかなか論客だね。

まあ、でも本気で言っているわけじゃないだろうしね。僕が君と運命を共にするってことは、君だってよくわかっているだろうから。

縄を解け?表に出る?はは、面白い冗談だね。なになに?僕に殺される?ははは。困ったなぁ。どうも君は、だいぶ混乱しているみたいだねぇ。

ほら、火がついた。暖かいねぇ?ああ、こうして炎に照らされた君を見ていると、なんだかこの瞬間のすべてが幻想のように思えてくるよ。試しにほっぺたをつねってみよう。

おや?痛くないね。こりゃあまずいな。君は?

痛っ!なんだい、蹴っ飛ばさないでおくれよ。ちょっとほっぺたに触ろうとしただけじゃないか。おお、痛い。まあ、でもこれで夢じゃないことはよくわかったよ。間違いなく現実なんだね。

さあ、服を脱がせてあげよう。こんな夜はお互いに暖めあわなくちゃ、心まで凍っちゃうよ?ほら、そう怖がらないで。大丈夫、僕に全部任せておいて。

ねえ、今は興奮しているからいろいろ怖いだろうけど、僕が君を守ってあげるから心配しないで。僕の胸は君への思いでいっぱいなんだ。ホント、タイミング悪いとは思うけど、今じゃないと言えないかもしれないから、もう一度言っておくよ。

僕は君が大好きなんだ。

……ちぇ、まだそんなこと言うのかい?

まあいい。いずれわかる時が来るさ。それまで僕は待ちつづけるよ。

なあに、そう遠い未来の話じゃない……

次のニュースです。先日遭難し、生存が絶望視されていた男女が、今日未明、無事に保護されました。女性の方は寒さと疲労でパニック状態になっておりますが、連れの男性の賢明な措置で一命をとりとめた模様です。なお……

ああ、よかった。一時はどうなることかと思ったけど、どうやらひと安心だ。彼女もだいぶ落ち着いてきたみたいだし。さっきなんか、僕にひどいこと言ったって、泣きながら謝っていたモンな。

おや?眠ってしまったようだ。安心したんだろうなぁ。ちょっとほっぺをつねってみよう。ぷにぷに。全然起きないや。こりゃ、ぐっすりと眠っちゃってる。

しかし、君もバカだなぁ。僕が君を殺すわけないじゃないか。雪山に行きたいといったのは君なんだし、僕は君を殺すなんて、夢にも考えたことはないよ。まったくもう、うふふ。

どうせ、先は長くないのに、わざわざ疑われるような真似をするわけないじゃないか。あと10年やそこら、僕はちゃんと待ってるよ。それだけで、莫大な遺産が転がり込んでくるんだからね。

出来れば、僕に全額遺すって遺書も書いて欲しいしさ。まあ、法定の取り分でも一生贅沢できるだろうけど、どうせほら、あの世にはお金もっていけないだろう?

ゆっくり眠って、早く元気になってね?おばあちゃま……

 

……お、起きてたの?

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