| 切り開くもの |
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「フォワーズが来たぞ!」 物見やぐらの上から叫び声が上がると、村中に緊張が走った。食事の用意をしていた女たちは、その手を速め、兵糧やそのほか必要な物資を運んでいた男たちも、あわてて運ぶ速度を上げる。 もっとも、ここでフォワーズにきちんと補給をすることが出来れば、とがめられることはない。それどころか、来年の税金が半分になるというのだ。村を包んだ緊張は、悲壮なものではなく、むしろ希望にみちたものであった。 やがて、フォワーズ8名が、その姿を現した。 「村長は?」 フォワーズの隊長、レジーの言葉に、村人達を割ってひとりの男が姿を見せる。近隣の村長達に比べて、明らかに若いその男の姿を見て、レジーはいぶかしげに首をひねった。 「若いな」 レジーの言葉に、若い村長は悲しそうに顔を伏せた後、歯を食いしばるようにして語った。 「先代の村長は、先々月、バーバリアンに……」 先々月、レジーたちに追われ北へ敗走していたバーバリアンは、この小さな山村を通りがかった折に、略奪行為を働いたらしい。そのとき先頭に立って抵抗した先代の村長、 彼の父親は、バーバリアンの凶刃に倒れたと言うのである。 レジーは男の答えを聞いて、まゆをひそめた。 「そうか……残念だったな」 「はい。ですが父は、村を守るために、立派に戦いました」 「うむ。素晴らしい父上だ。あなたも誇り高いだろう?」 レジーの言葉に、男は悲しそうに伏せていた顔を上げると、胸を張って晴れ晴れと笑った。男らしい、いい笑顔だ。レジーはその笑顔に村長の人柄を見て、穏やかに微笑む。 「あなた方の食料や物資をいただくことを許していただきたい。その代わり、バーバリアンは、必ず我々が打ち倒す」 村長はその言葉に顔を輝かせ、何度も何度もうなずいた。 その夜、フォワーズは村長の家や、そのほか大きな家に分散して宿を取った。ここで身体を休めておかないと、この先の戦いに身体が持たない。 夕食の後、レジーは暖炉の前で村長と杯を傾けながら、話し込んでいた。 「バーバリアンはどこまで逃げる気でしょう?」 「この村を通ったということは、山を越えて向こうまで逃げる気だろう。山を越えれば、やつらバーバリアンの得意な森林がある。そこでゲリラ戦に持ち込む気だろうな」 「大丈夫ですか?」 心配そうな村長に、レジーは笑ってみせる。 「我々が8人しかいないからか? 大丈夫。我々はあくまでフォワーズ、先遣隊だ。我々が道を切り開いた後ろから、精鋭200人をそろえたバーバリアン討伐本隊がやって来るんだ。大船に乗った気でいなさい」 その言葉に、村長はここ数ヶ月しわを刻み続けていた眉根を、ようやく開いた。歳若い彼の両肩に重くのしかかった重責は、彼の顔から笑顔を奪っていたのだ。 ふたりは意気投合し、大いに飲んで語り合った。 朝になり、フォワーズの面々は、村人達に送られて、山を登り始めた。この向こう、森の中に逃げ込んだバーバリアンを追って。 もっとも彼らは、バーバリアンと直接戦うことはほとんどない。 それはそうだろう? たかだか8人で、身の丈が彼らの倍もある巨人族、バーバリアンとまともにやり合って、勝てるわけがない。バーバリアンは、戦闘民族だ。狩猟を生活の糧とする民族なのである。 農耕民族であるがゆえに、定着し数を増やしたレジーたち小人族は、彼らを辺境に追いやった。もちろん、バーバリアンたちは抵抗し、反撃してきた。 が、基本的に彼ら狩猟民族は、安定した食料の供給が難しいために、大規模な集団で動くことがない。対してレジーたち農耕民族は、バーバリアンとは比べ物にならぬほど、その数が多い。 体躯が大きいとは言え、数で圧倒されているバーバリアンたちは、やむなく追い払われ、その数を急速に減らしていた。 しかし、戦闘民族であるバーバリアンとまともに戦えば、レジーたち小人族に勝ち目はない。だから、大部隊を持って戦うことになる。 そのために彼らの逃げる先を突き止め、兵糧などの補給路を確保し、本隊がスムーズに行軍できるように露払いをするのが、先遣隊フォワーズの仕事だった。 レジーたちは山を越え、バーバリアンの居場所を探した。 そして、数十人のバーバリアンが潜伏する場所を突き止めると、6人がそこにとどまり、二人が本隊へ連絡を入れに走る。 後はバーバリアンを見張りながら、本隊の到着を待っていればいい。 ところが、連絡に走った者たちは、2日を過ぎても帰ってこなかった。レジーは考えた末、もうふたりを山の向こうの村まで送り出す。交代でバーバリアンを見張りながら隠れて待つには、最低4人は必要なのだ。 しかし、後発のふたりも、そのまま帰ってくることはなかった。 これ以上待つことが不可能なギリギリまで待った後、ついにレジーは撤退命令を出す。4人は疲れ果て、ボロボロになりながらも、山を越えて村に戻った。 しかし、そこで4人を待っていたのは、驚くべき処遇だった。 村人は帰ってきた彼らを見るや、よってたかって飛び掛り、あっという間に捕縛してしまったのである。レジーは怒るよりも驚愕しながら、村長に尋ねた。 「なぜ、こんなことをする?」 「黙れ、悪党! フォワーズのフリをして村の食い物を掠め取るとは、なんと言うやつだ。私らの気持ちを利用して、略奪された村から、さらに略奪するなんて、貴様らそれでも人間か!」 「な……いったい、なんのことだ?」 「とぼけてもムダだ。おまえ達が去ってすぐ、警察がやってきて、全部教えてくれたんだ。のこのこ戻ってきたおまえらの仲間は、みんな警察に撃ち殺されたぞ」 「ま、待ってくれ。何かの誤解だ。我々は本当に国の命を受けたフォワーズで」 「まだ言うか! あの暖炉の前で話したとき、私は本当におまえを信じた。おまえがバーバリアンを討って、父や、死んだ仲間の仇をとってくれると思い、本当に感謝したんだ。そんな私の気持ちを踏みにじりやがって」 「誤解だ! 何かの間違いだ!」 「うるさい! 今、連絡を入れたから、明日警察がおまえらを受け取りに来るだろう。おまえなど、死刑になればいいんだ」 そう叫ぶとそれきり、村長は決してレジーの言葉に耳を貸そうとはしなかった。レジーたち4人は、村の小さな留置場に押し込められてしまった。
朝になり、警察がやってきた。 警察官は、レジーたちを確認すると、村長に密告の謝礼を渡す。それから、彼らを遠ざけると、面白そうな顔で、レジーに話し始めた。 「へえ、おまえがフォワーズを騙(かた)った犯罪者か」 「違う! 俺の名はレジー。本部に問い合わせてもらえれば、俺たちが本物のフォワーズだということは、すぐに証明してもらえるはずだ」 その言葉に、しかし、警官はにやりと片頬を吊り上げると、皮肉な笑みを浮かべて言った。 「わかってるよ。あんたが本物だってことはな」 「な、なんだと?」 「本物だから、こうしてハメられたんだよ。あんたが言ってる、その『本部』にな」 レジーは思いもかけない警官の言葉に、驚愕で言葉を失う。 「あんたらは、つまりいけにえなんだ。本部、ひいては政府自体、最初からあんたらを見捨てる気だったんだよ。なんたって、もう、バーバリアンの指導者達と、和平の話し合いがついてるんだからな」 「な……」 「政府だってな、無尽蔵に金があるわけじゃない。いや、ないからこそ、税金半額なんてうまいことを言って、今までごまかしながらバーバリアン退治をやってきたんだ。だが、それもいい加減限界なんだ」 「限界……だと?」 「そうさ。他の事業なら、つぎ込んだ分の見返りはあるだろう? だけど、戦争、それも土地や財産を得ることの出来ないバーバリアン狩りは、莫大な金がかかるのに、何の見返りもないんだ」 「……」 「だけど、みんながバーバリアンの脅威を訴えるので、仕方なくやってたんだよ。なるべく予算を使いたくないから、『バーバリアン狩りに協力した村は税金半額』なんて景気のいい話で、民間から物資や兵糧を調達してな。そうしながら裏で、バーバリアンの指導者達と折り合いをつける話し合いを続けていたんだ」 「そんな……」 「で、話し合いは何とか上手く行った。バーバリアンは政府から無人の土地を与えられ、そこに集まって済むことに合意したんだ。すると、だ。政府は次の厄介な問題を片付けなくちゃならない」 ここまで聞いて、レジーにも裏のからくりがだんだん読めてきた。 「税金を半額にする、という約束だな?」 「そうさ。だが、政府のどこをひっくり返したって、金なんかない。あるのは、豪商や豪農から借りた借金ばかりだ。力のある商人や財閥、豪農に借りた金と、国民に借りた補給物資。 返済に当たって、政府がどっちを優先するかは、わかりきってるだろう?」 「そのために、俺たちを『フォワードの名を騙る略奪者』として処刑するわけだな? 息のかかった一部の村だけ税金を半額にし、他の村には『アレは偽者が盗んだのであって、政府とはかかわりがない』とほっかむりを決めこ むのか?」 レジーの言葉に、警官はほくそえむ。 「そういうことだ。なかなか上手く出来た筋書きだよな? だがな、驚くのは早いぜ? 実はな、先々月、村を襲ったバーバリアンってのは、本当は俺たちなんだよ」 「なんだって?」 「深夜にやってきて、村を襲い、略奪して行ったのは、俺たち警官なんだ。なんと、政府からのお墨付きまでもらってな。この村の先代の村長ってのがさ、真面目一本やりのカタブツで、賄賂だの政治献金を要求しても、頑として突っぱねていたんだよ」 「それで邪魔になった村長を殺すために?」 「そう、俺たちがバーバリアンのフリをして襲ったんだ。やつらに化けるための変装道具や装備一式も、政府から支給されたんだぜ? 笑えるだろう?」 「なんてやつらだ。恥を知れ!」 「知らないね。俺たちだって安月給でこき使われて、ボーナスさえ出ないんだぜ? このくらいの役得がなくちゃな。政府は、自分のフトコロが痛まない。俺たちはフトコロがあったかくなる。うるさい村長は消せる。まったく上手く出来た話だよ」 「なんという……」 「だからさ。まあ、おまえも運が悪かったと思って……」 警官はそこまでしか言うことが出来なかった。 振り下ろされた樫の棒によって、殴り倒されてしまったからだ。倒れた警官の後ろには、棒を持った村長が、怒りに紅潮した顔で立っている。 「村長……」 「すまなかった」 言いながら村長は、留置場の扉を開けた。 「実は、村を襲ったのがバーバリアンじゃないという話は、なんとなく聞かれていたんだ。しかし、私はそれが信じられなかった。バーバリアンでなければ、誰が村を襲うというのだ?」 「村長……」 「だが、バーバリアンではなかったと言い張る者の言葉を無視することも、私には出来なかった。それで、あんた達の様子を伺うために、私の家に泊めたんだ。しかし、私には、あんたたちがウソをついているようには見えなかった」 「そうだったのか……」 「だから警察に、あんた達がただの盗賊だと言われたとき、驚き、怒りもしたが、どこか腑に落ちないと思っていたんだ。そしたら今朝になってやってきた警官が、人払いするじゃないか。変だと思って、隣の小屋から盗み聞きしていたのさ」 「しかし、警官を殴り倒してしまっては……」 「他の警官も、みなふんじばって納屋に転がしてある。これからどうするかはわからないが、何よりまずは、あんたに謝らなくちゃと思ってな」 村長はそう言って、少しはにかみながら、右手を差し出した。 レジーはゆっくりとうなずくと、村長の手をがっちりと握る。 男ふたりは、黙ってうなずきあった。 「レジー、バーバリアンの襲撃がウソだとすると……」 隊員のひとりが言い出すと、レジーもうなずく。 「ああ、全部政府の書いた筋書きなんだろう。おそらくバーバリアンも一堂に集められた後、虐殺されることは間違いないな」 その言葉に、村長を含む、その場の全員がうなずいた。 「ならば、村長。我々は戦うしかないようだ。バーバリアンではなく、政府と」 「しかし、そんなことが出来るだろうか?」 不安そうにつぶやく村長の肩に、レジーが分厚いグローブのような手を置いて言った。 「近隣の村に、さっきこの警官の言った話を教えてやれば、味方についてくれるだろう。みんな、来年は税金が半額になると思っているんだから」 「しかし、相手は政府軍だ。こちらはただの民間人の集まり。勝てる見込みは万に一つもないだろう? いくら腹が立っても、みんな乗ってくるだろうか? 私が言うのもなんだが、我々は迫害や 圧政に慣れている。忍耐することに慣れているんだ」 村長の言葉に、レジーもうなずく。 「ああ、そうだろうな。我々だけでは勝ち目がない。そんなカードにチップを張るやつはいないだろう。だが、その勝ち目がもっと大きかったら? 政府を倒すまでは行かなくても、ここの独立自治を認めさせるという目処がついたら? それでも乗ってこないか?」 「そりゃあ、そんな目処が立つなら、みんな喜んで乗ってくるだろうが……」 「立つさ。いや、立たせるんだ」 「レジー。あんた、いったい、何を考えているんだ?」 レジーは厳しい表情を崩さずに、少し声を大きくしていった。 「バーバリアンだ。彼らだって、騙されているとわかれば、猛烈に怒るだろう。なにも、一緒に戦わなくたっていい。ただ、彼らの側でも、今まで以上に激しいゲリラ戦を展開してもらえればいいんだ。政府はその対処に、戦力を割かなくてはならない。それだけで、ずいぶんと戦いやすくなる」 「そして、その間にこちらは、『税金半額』の裏を公開するわけか」 レジーはうなずく。 「はっきりって、厳しい戦いであることは間違いない。しかし、このままいいように搾取され続けるだけでいいわけじゃないだろう? 少なくとも俺は、味方だと思っていたやつに後ろから襲われるのは、もうゴメンだ」 フォワーズの隊員たちは、みな大きくうなずく。 「しかし、バーバリアンたちは話を聞いてくれるだろうか?」 心配そうに言った村長に向かって、レジーは気を失って倒れている、例の警官を指差しながら、強くうなずく。 「この生き証人を連れて、俺たちが行って来る。必ずやつらを説き伏せてくるから、村長たちはこのことを近隣の村につたえ広めてくれ 。時間なんて、いくらあっても足りないんだ」 「わかった。だが、大丈夫か?」 その言葉に、 レジーら4人は晴れ晴れと微笑んで言った。 「もちろんだとも。我々はフォワーズだ。進路を切り開くのが仕事だぜ?」 すべてを決断した男たちの、涼やかな微笑だった。 |