君はいずこへ
その奇妙な乗り物が人類の前に現れたのは突然のことだった。

いわゆる空飛ぶ円盤といわれるものだ。

人々は驚き、次に恐る恐るコンタクトを開始した。その努力は実ったと言っていいだろう。円盤の中から、彼らは現れた。

彼らの姿をひとことで形容すれば「トカゲ」としか言いようがない。それも、二足歩行の、大げさに擬人化されたトカゲだ。

コミュニケーションに最低でも数日はかかるだろう、と思われていた当初の見解はあっさり裏切られた。彼らは人類の言葉を流暢に話したのだ。そのときの驚きは、彼等が現れた時のものに匹敵する。

何度かの会合の末、彼らの要求がハッキリした。核兵器の買い付け。彼らはそれを望んだのである。

彼らの態度はきわめて紳士的だったが、彼らの科学力は遠く人類の及ぶところではない。本気になれば彼らは、人類から無理にでも核兵器を取り上げることが出来るのだ。選択の余地はなかった。

しかし、別の角度から見れば、これは人類にとっても大変有意義な取引といえた。なぜなら、彼等が地球上の核兵器すべてと引き換えに申し出た代価は、地球の全世界で消費されるエネルギーをほぼ100%補うことが出来る、しかも大変クリーンな新しいエネルギープラントだったのである。

いくらかの反対意見は出たものの、世界から核兵器を完全に廃絶し、更に核燃料に代わるずっとクリーンなエネルギーを得られるというこの申し出は、世界中の人々に支持された。

地球側の代表はこの条件を飲んだ。すべての核兵器が彼らの乗り物に積み込まれるまで、さほどの時間はかからなかった。取引が全て終了したあと、ほっと一息ついた地球側代表のひとりが、軽い気持ちで話し掛けた。

「あなた方はこの兵器を、いったい何に使うのですか?」

「地球に巨大な隕石が迫っているのです。それを破壊するのに使用するのです。もっともこれだけの量では最初の第一波しか防ぐことは出来ませんが、その次の隕石が来るまでの100年間のうちに、別の惑星への移住を完了する予定なのですよ」

地球という言葉に男は一瞬不不思議そうな顔をしたが、「地球」という言葉は「自分達の大地」という意味だということに気づき納得する。どんな星の生物でも、自分達の星を呼ぶ言葉を翻訳すれば「地球」になるに決まっている。

「あなた方ほどの科学力を持ってしても、その隕石は止められないんですか?」

「我々は大量破壊兵器を持たないのです」

なるほどと頷きながら、男は自分達が、自分の星を何度も破壊できるほどの兵器を持っていることを恥ずかしく思った。

「移住がすんだあとはどうなるのです?あなた方の星は。隕石によって破壊されてしまうのですか?」

「いいえ、破壊されることはありませんが、たくさんの隕石によって自然は破壊され、我々が居住するのにはふさわしくなくなるでしょう。そのあと出現するのは、野蛮で下卑た厳しい環境ですし、それが我々が生きられるほど改善されるまでには何億年もかかるのです」

「それはお気の毒です。皆さんが安全に移住できることを、心からお祈り申し上げます」

「ありがとうございます。ですが、すべての生物を移住できるわけではないのです。あなたの祈りは、我々のあとに残される生物達に捧げてください」

「すべてが移住するわけではないのですか?」

「仕方ないのです。本当はすべての生物を連れて移住したいのですが、我々の船にも限りがあるのです。ですから、遺伝子解析をして、これから先どう変化しても絶滅は免れない種は、残念ながら残してゆきます。それらの生物はたとえ環境が変わっても、いずれ絶滅してしまうことが遺伝子的に決まっているからです」

男は驚いて聞き返す。

「なんと、そんなことまで判るのですか!素晴らしい科学力です」

トカゲ人は寂しそうに笑う。

「これから先、生まれるすべての生物は絶滅が確定しています。それを知りながら、我々は他の星へ逃げ出してゆくのです。それを思うとやり切れません」

男は、寂しげに語るトカゲ人に対して、かける言葉が見つけられないでいた。重苦しくなった雰囲気を払拭するように、わざと話題を変える。

「そういえば取引のほうが忙しくて、あなた方の星の位置を詳しく聞いていませんでした」

男の言葉に、トカゲ人はますますばつの悪そうな顔をして言った。

「あなたが誤解しているようなのであえて言いませんでしたが、我々は他の惑星から来たわけではありません。我々が言っている「地球」というのは、今この足の下にある惑星のことなんですよ」

「ど、どういうことです?」

「つまり、我々は別の星から来たのではなく、別の時間からやってきたのです。この地球の別の時間からね」

男は絶句したあと叫んだ。

「では、あなた方は遠い我々の子孫?」

トカゲ人は自分達の乗ってきた乗り物〜タイムマシンに乗り込みながら、ゆっくりとかぶりを振った。

「過去に手をつけては、我々の歴史まで変わってしまう可能性があるじゃないですか。我々は過去からやってきたのですよ……」

トカゲ人が乗り込むと同時に、タイムマシンは掻き消える。

彼は、恐竜の絶滅の理由と方舟の神話の本当の意味を知らされ、ただ呆然と立ちすくんでいた。

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