見解の相違

「犯人はどうやって密室を作ったのでしょう」

探偵が得意げに言った。

十文字はポーカーフェイスで他の容疑者と一緒に、その場に立っていた。しかし心の中では、驚きと感嘆の声を上げる。

(へえ、あの密室の謎を解いたのか。やるじゃないか。人間の心理的な盲点と、この建物のちょっとした特殊性と、今の時期だけに起こる自然現象。この三つを組み合わせた、俺の一世一代の密室なのに)

「この密室は、我々の心理的盲点が作り上げたものでした」

(おぉ、判ってるな。うむ。捕まるのは残念だが、俺の積年の恨みも晴らせたし、こんな優秀な探偵と出会えたのだからいいだろう。俺も潔く彼の実力を褒め称えるとしよう)

殊勝な決心をしていた十文字は、しかし、次の瞬間、探偵の言葉に飛び上がって声を上げそうになった。

「つまり、この密室は偶然の産物だったのです」

(えぇぇぇっ!?なに言ってるんだ、こいつ?)

「犯人に追われた被害者は、この部屋に入ってくると内側から鍵をかけ、あのダイイングメッセージを残して死んだのです。偶然の生んだ密室だったのです……」

皆が「おぉっ」とざわめく中、十文字は歯軋りしていた。

(違ぇよ、バカ!背中から心臓一突きされてナイフを背中に生やしたまま、走って逃げて鍵まで掛けられる化け物が、いったいどこの世界ににいるってんだよ!ちっとは考えろ!)

「次にダイイングメッセージですが……」

(おい!誰も突っ込みなしかよ!)

「コレは一見ユニオンジャックに見えますが……」

(こらこら、なんだユニオンジャックってっ!何でイギリスの国旗なんだよ!普通に見れば米印だろうが!つーか、まず、密室にもどれよ。密室の謎を解いて、機会さえあれば誰でもこの部屋に入れたことを暴くんだよ!)

十文字は他の容疑者と一緒に黙っていたが、しかし突っ込むこともできずに、悔しさに歯噛みしながら心の中で叫んでいた。

(それから、コレは一見米印に見えるが、実は犯人の俺「十文字」が書き足したモノである。被害者が犯人の名前を示す十の字を書いたのをみて、それに書き足して米印にし、「米村」に見せかけようとした、って言う風に謎を解いていくんじゃねえのかよ?)

「米印にも見えます。つまり、被害者の指摘したかった犯人は……」

探偵はおもむろに振り返ると、十文字の横にいた米村に向かって指を突きつけた。米村の顔が驚愕にゆがむ。

「あなただっ!」

(そのままかよ!少しはヒネれよ!)

「ち、違う。俺は何も……」

否定する米村にむかって、そばにいた刑事が詰め寄る。

「観念するんですな、米村さん。この屋敷に招待された人間の中に、名探偵の先生がいらっしゃったのが、あなたの不運でしたな」

気の弱い米村は驚きで何もいえないまま、制服警官に連れられて屋敷の外に出て行った。

あたりにほっとした空気が漂い、皆の顔に笑みが浮かぶ。

そんな中で十文字は、放心していた。

「信じられねぇ……」

その言葉を聞きつけた名探偵が微笑む。

「ええ、あの気の弱そうな米村さんが、と、私も驚きました。しかし、真実はいつもひとつなのです」

十文字は我に返ると、探偵の顔を見ながらつぶやいた。

「そうですね。真実はいつもひとつですよね」

探偵は満足そうにきびすを返した。

その後ろ姿を眺めながら、十文字は心に誓う。

「俺の芸術的犯罪をめちゃくちゃにしやがって!次は絶対あの探偵を殺してやる……恨み晴らさでおくものかっ!」

世に犯罪の種は尽きない。

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