宝島
宝島に行こうと言い出したのは、マティニ博士だった。

優秀な地質学者だが、無類の変人である博士には、友人と呼べるのはキールくらいしかいない。その博士がある日、遊びに来たキールに向かってなにやら秘密めかした調子で言ったのだ。

「 なあ、キール。もっと金持ちになりたくはないか?」

「そりゃあなりたいさ。何かいい方法でも見つけたのかい?博士」

またいつものホラ話が始まったと思いながら、キールはからかうような調子で答えた。その顔をにやりと見返した博士は、目の前のテーブルに大きな紙を広げると、いつもよりずっとギラギラした目つきで話し始める。

「私はずっと捜していたものを見つけたんだ。これを見つけるために地質学者になったと言ってもいいかもしれない」

「へえ、それほどのものなんだ。それは一体なんだい?」

博士はそこで大きく胸を張ると、喜びに満ちた顔つきで答える。

「宝島だ」

「おやおや、博士。子供向けのお話じゃないんだよ?今時、宝島なんて言ったって誰が信じると思う?」

「私は地質学者だぞ?別に海賊の残した宝物とか、古代文明の遺産の話をしているわけじゃない」

思いのほか強く言い返されて、キールはちょっと真面目な顔になった。

「ってことは、何かの鉱脈でも見つけたのかい?」

「ふふふ、まあ、そう言うことだな。ものすごい宝石の眠っている場所を発見したんだよ。そこを見つけて買い取るのに、おまえさんにも協力して欲しいのだ」

キールは若くして成功した実業家であった。今までも博士の発見に対して金を出し、結果的にその恩恵にあずかって成功した実業家なのだ。博士の実力は誰よりも認めている。

「ものすごい宝石か。間違いはないんだろうな?」

自分を成功に導いてくれた地質学者が、宝石の鉱脈を見つけたと言うのだ。キールが身を乗り出したとしても無理はない。人付き合いのない変人とは言え、それは学者としての才能とは何の関係もないことだ。

大きくうなずいた博士の瞳に、狂気や妄想はまったく感じられなかった。

それから数ヵ月後、キールは資産の一部を売り払って金を作ると、博士と共に船に乗り、宝島を目指して出発した。 

 

「これが、宝石?」

石ころを両手に持って立ち尽くすキールの前で、博士は感堪えぬといった面持ちでうなずいた。キールは呆然としたまま、その顔をみつめ返す。博士はいつものシニカルな笑いを見せながら、キールに向かって話し出した。

「おまえさんには、薄汚い真っ黒な石にしか見えないだろう。しかしこの石は、これから世界中で奪い合いの戦争が起きるほどの価値を持った石なのだ」

「この石が?一体これは……」

「これからの世界を動かす原動力だ。いいか?これから先、エネルギーと言うものが今までよりもっともっと必要とされる時代が来る。今の世界の人間には想像もつかないほどのエネルギーが必要とされる時代は、もうすぐそこまで迫っている」

「そのエネルギーとやらがこの島に?」

「おまえが今手に持っているその石が、これからの時代を支えていくものだ。おまえの残っている財産と、私がかき集められるだけの資産、それに借金をしまくってでもこの島を買い取るぞ。それだけでこの先、この島は巨万の富を吐き出してくれるのだ」

この薄汚い黒い石が、これからのエネルギー……

半信半疑ながらも、キールはゆっくりとうなずいた。博士の先見性は誰よりも信頼している。それに実業家としての知識や経験から、エネルギーがこれまでとは比較にならないほど発展する産業だと言うことはキールにもわかる。

キールと博士は、財政に困っていたこの島の持ち主である国から、宝島とその周辺の海域を買い取った。キールも博士も全財産のすべてを投じてしまったが、これからのエネルギー時代が生み出してくれる巨万の富を考えれば、安い投資には間違いないのだ。

 

すべての手続きが終わった帰りの道中で、二人の乗った船が、見たこともないような大嵐に巻き込まれた。

しかし大金を投じて買った船は、未曾有の嵐にも沈むことなく、何とか近くの港に到着する。

船を下りた二人は、港の様子がなんだか変だと言うことに気付いた。

どうも様子がおかしい。

まるで別の時代に紛れ込んでしまったかのようだ。あの嵐で、一体何が起きたと言うのか?キールは近くにいた水夫をつかまえて、話を聞いてみた。水夫が答えるたびに、キールとマティニ博士は青ざめてゆく。

彼の話から察するところ、二人の乗った船はあの未曾有の大嵐によって時間を超えてしまったらしい。

信じられないような話だが、見たこともない港のつくりや、おかしな形をした水夫の服を見れば、どうやらそれしか考えられない。キールは震える唇で最後の質問をした。

「なあ、あんたエネルギーと聞いて何を連想する?」水夫は少し考えた後、怪訝な様子で答えた。

「そりゃ、エネルギーと言えば石油だろう?それともまさか、あんた、石炭だとでも言うつもりじゃないだろうね?」驚愕と絶望に立ちすくむ二人を置いて、水夫は去ってゆく。

「なんと言うことだ……我々は、時代を超えてしまったと言うのか?」

博士が絶望の声をあげた。

キールは茫然自失したまま、ポケットの中から紙切れを取り出す。震える手で宝島の権利書を開くと、魂の抜けた声で言った。

「それでは、これはただの紙切れになってしまったというのか?」

それでも全財産を投じたその紙切れを破り捨てることが出来ない。キールはくしゃくしゃと権利書を丸めて、ポケットに突っ込んだ。

その時何かが手にぶつかる。

キールがポケットから取り出したのは、宝島で拾った黒い石だ。

しばらくその石を見つめていたキールは、不意にこみ上げてきた怒りに任せて、時代を違えたその石ころを叩きつける。

信じられないほど高純度のウラニウムを含んだその石は、ころころと転げて海に落ちた。

その石がエネルギー源として認知されるのは、キールと博士のいた時代である、あと数世紀先のことだ。

index