発明と発見
朝、新聞を読んでいたら、ちょっと驚く発見の記事が乗っていた。急いで電話しようと立ち上がったところに、表の呼び鈴が鳴った。

電報だ。

僕の唯一の肉親であるトーマス叔父さんからの、会いに来いという電報だった。このメールの全盛時に電報っていうのも、まったくトーマス叔父さんらしい。

叔父さんは発明家だ。昔、なんだか一つ大当たりして、それで南海の孤島を買って、そこにひとりで住んでいるんだ。

飛行機と船を乗り継いで、叔父さんの島に到着した。

叔父さんの家は、家というより館だ。その館の玄関に小さな箱があった。なんだろうと思って近づくと、スピーカから声が聞こえてくる。

「その箱の前に立って、指をその穴に入れなさい」

言われた通り箱の前に立って、小さな穴に指を入れる。と、なにやら一瞬緑色の光が流れる。どうやら指紋をスキャンしたらしい。同時に目の前が一瞬光った。こっちは虹彩をスキャンしたのか。超小型のセキュリティシステムってわけだ。ずいぶん凄いものを作ったな、叔父さん。

ビックリしているウチに作業は終了したらしく、玄関が開く。中から迎えてくれたのは、昔とちっとも変わらない姿の叔父さんだった。大きな応接間に通されて、そこで叔父さんはニコニコ笑いながら僕に会えたことを喜んでくれた。

「よく来たな。ずいぶん大きくなった」

「久しぶりだね、叔父さん。でも、急にどうしたの?」

「いやな。叔父さんもずいぶん歳を取ってしまったし、肉親と言えばおまえしかいない。それでな、死んだ後おまえに残してやる物と言えば、この島くらいしかないんだが、こんな孤島をもらってもおまえも困るだろう?」

「そんなことないよ。叔父さんの愛した島じゃないか。何なら僕もこっちに移り住んだっていいよ」

実は僕、仕事でちょっと失敗してしまって、今、無職の文無しなんだ。住むところがあるだけで、充分ありがたいくらいなのさ。

「優しい子だね、おまえは。でも、そんな心配は要らないよ。叔父さんはまた凄い発明をしたんだ。これはきっと世界中でヒットするに違いないから、おまえにもいくらかのお金を残してあげられそうだ」

うわ、それはありがたい。

「どんなものを発明したの?」

「これだよ。ごらん」

叔父さんは自分の腕につけた、腕時計らしきものを見せた。腕時計にしてはずいぶん大きくて、携帯くらいの大きさがあるんだけど。

「これは?」

「驚くなよ?これはね、腕時計型の電話なんだよ。自動車電話を改良小型化して作ったんだ」

ああ……そうか、叔父さんは孤島に移り住んでから、巷の情報をまったく知らなかったんだ。

「叔父さん、それは売れないよ。それに電子メールの機能と、デジタルカメラがついててもダメだ」

驚く叔父さんに、僕の携帯を見せてあげた。叔父さんはしばらくそれをいじったあと、不意に肩を落としてしまう。

「技術の進歩は早いな。もう、個人でちまちま発明なんてするのは、時代遅れかもしれない」

「叔父さん、元気を出して。僕、お金なんか要らないよ。それより、僕、ココで叔父さんと一緒に暮らしたいよ」

「おお、ありがとう。おまえは優しい子だ。大した物はやれないけど、この島も、発明品も、みんなおまえにあげよう」

やった、それが聞きたかったんだ。

腕時計電話はともかく、あの超小型の指紋&虹彩スキャンシステムはゼッタイ売れる。それで僕と叔父さんの当座の生活費は、十二分にまかなえるだろう。

そして、それより何よりこの島。

今朝の新聞の記事によれば、このあたり一帯に大規模な油田が発見されたんだそうだ。

叔父さんの発明より、僕にはずっとありがたい。

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