ドリスとロボット

天井まである大きな窓ガラスの前で、長いブロンドをかきあげながら、彼女は深いため息をついた。

目の前に広がる一面の花畑も、空を舞うかわいい小鳥達の姿も、彼女のため息を止めることはできない。

「退屈だわ」

花畑で働く農作業ロボットを目で追いながらつぶやいたセリフに、メイド型ロボットR1148が近づいてくる。

「退屈?」

「ええ、退屈ね。欲しいものは手に入るし、やりたいことは何でもできる。でも、すべて予定調和なのよ。なんでも、やる前から結果も、そのときの気分もわかってしまうから、ぜんぜん刺激を感じられないの」

「気分がわかる?」

彼女はうなずくと、また、深いため息をつく。主人の心のケアまで含めた、家の中の一切を取り仕切るメイドロボットは、朝食をテーブルに並べながら言った。

「それは、いったい?」

彼女は小首を傾げてしばらく考えるようなしぐさをすると、R1148に向かって言った。

「他の人に逢ってみようかしら」

「それは不可能だ」

ロボットは説明を始める。

「人間がたくさん集まると、必ずトラブルが起こる。そのためにこの星では、厳しい産児制限を設けて、定数以上の人間が増えないようにしている。200年前、この法律が施行されて以来、人口はどんどん減り、100年前から、その数は一定になった」

そんなことは百も承知だ。

「この星では、人間と人間が直接会うことは認められない。人間は割り当てられた広大な土地の中に、1000体のロボットと一緒に住むことが義務付けられている。それが200年前に考え出された、人と人とが争わなくて済む、最良の方法なのだ」

わかってる。 でも、それで人間は本当に生きているといえるのだろうか? 彼女がそう口にすると、ロボットは答える。

「それは我々の考察するべき問題ではない。我々はこの状態を保つことだけを考えていればいい」

彼女はふいに怒りに似た感情を覚える。こんなことは初めてのことだ。

「どれだけ精巧なロボットだって、人間の代わりにはなれないわ!」

「それは認める。しかし、だからこそ人間は、ひとりでいなくてはならないのだ。どれだけ時間をかけても、我々のようにそのすべてを解析することができない人間は、常に不確定なのだから 。何が起こるかわからない以上、危険な状況になることを事前に避けるのが、もっとも賢明な方法だろう」

「そして、ひとりで穏やかに暮らし、ひとりで穏やかに死んでゆけというの? 自分の子供の姿も見ることができず、いえ、死ぬまで誰とも会うことなく、一人で生きて行けと?」

「ロボットがいる。人間ひとりひとりの「友人とは、恋人とは、他人とはこうあるべき」という価値観に、ひとりひとりそれぞれ合わせた設定のロボットが1000体も」

「ロボットでは嫌だといったでしょう?」

そこでふいに、R1148は作業の手を止めて彼女を見た。

「どうも話がかみ合わないと思ったら、君は故障しているな? 平穏を嫌い、刺激を求めるとは。セルフスキャンしてみろ、R7732」

彼女は叫んだ!

「わたしはドリスよ! ロボットなんかじゃない!」

「ああ、そうか。新型の7700番台には、擬似感情回路があったのだな。また擬似感情のトラブルか。やはりこんな無駄な回路は必要ない。ロボットが感情らしきものを持ったとしても、人間の代わりにはならないのだから」

彼女は恐ろしくなって叫んだ。

「わたしはドリス! ロボットじゃない! わた……」

 

R7732の緊急停止させたR1148は、主人のドリスと同じ金髪をなびかせながら、手早く7732を倉庫に運んだ。

ドリスは朝のうち、大変機嫌が悪いので、何事もなかったかのようにしておかなくてはならない。

やがて時間が来ると、ドリスが顔を出した。

「ああ、よく寝た。1148、今朝は?」

1148は一瞬考えて、報告の是非を判断する。

「何事もありません。すべて予定通りです」

「そう。それは何よりね」

ドリスはうなずいて、朝食に取り掛かった。

そばについて給仕しながら、1148は確認するために聞いた。

「ミス、あなたは他の人間にお会いになりたいですか?」

ドリスは飛び上がって1148をにらんだ。

「まさか、誰かが会いたがっているの?」

「いいえ」

ほっと胸をなでおろすと、彼女は怒りを1148にぶつける。

「朝から不愉快なことを言わないで! わたしは誰とも会いたくないわ!」

「申し訳ありませんでした」

1148は優雅に頭を下げながら、

「これでいい。人間はこうでなくては」

と、かんがえた。

それから倉庫の方を見て、一瞬悲しげな顔をしたように見えたが、朝の光の加減だったのかもしれない。

1148の頭脳は、すでに次の予定を遂行するために働き始めた。

屋敷の内外にいる他のロボットと同じように。


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