恋なんてしない
朝起きたら、枕もとにキューピッドがいた。

「わっ!なんだ?おい、起きろ!おまえ誰だ?」

「う〜ん。もう食べられませんよぉ……って、わぁ!びっくりした」

「それはこっちのセリフだ。おまえは一体何者だ?」

「あ、もしかして見えちゃってます……よね?」

「見えなきゃ話し掛けないだろう」

「そりゃそうですよね……まずいなぁ……」

「背中に生えた羽といい、この寒空に素っ裸なコトといい、察するにおまえキューピッドだな?それで悪魔だの妖精だのと言ったら訴えるぞ」

「どこに訴える気なのか気になるところですが、まあいいです。仰る通り私はキューピッドです。言っても見習いなんですがね」

「半人前のキューピッドか。使えなそうだな」

「初対面で、いきなり相手を使えなそう呼ばわりするのは、どうかと思いますよ?ひととして」

「ひとじゃない奴に言われたくねえよ。んじゃあ聞くが、おまえ恋の成就とかサクっとやってのけられるのか?」

「い、いやぁ、そう言われると困るんですが。見習なんでその辺の加減が上手く出来ないんですよね」

「やっぱり半人前じゃないか。で、その半人前のキューピッドが俺になんの用だ?俺の片思いを叶えてくれるんだろうな?」

「まあ、ぶっちゃけそう言うことです。自己破産寸前の借金の方は、どうにもなりませんがね」

「余計なことは言わんでよろしい。キューピッドがいるんだから、悪魔だの神様だのもいるんだろう?そっちの件は彼らに相談してみる。あとで連絡先教えろよ?」

「ある意味、ものすごく柔軟な頭をしてますね。せっかくなんだから、その柔軟さをもっと前向きな方向に生かすといいですよ。これはキューピッドではなくて、一万年ほど長く生きてる先輩として言わせて貰いますが」

「いや、素っ裸の赤ん坊みたいな姿で先輩とか言われても、ビタイチ聞く気になれない。まあ、そんなことはどうでもいいだろう。早速、彼女への俺の崇高な思いを成就させるがいい」

「無駄に高飛車な人だなぁ。まあ、こっちも上手く行くかどうか確約できないから、あんまり偉そうなこともいえないけど」

「早くしろ!携帯スタンバって告白する準備をしてるんだから」

「はいはい。じゃ、行きますよ?」

 

「やっぱり使えねえなおまえ!思いっきり振られたじゃねえか!」

「まあ、早朝からそんな事告白したら、普通は引きますけどね。でも、それを差っ引いたとしても、かなり強烈に断られてたなぁ……やっぱりバレンタイン前だから、回線が混雑してるのかな?」

「へえ、そう言うもんなのか。まあいい、俺は仕事にいってくるから、ちゃっちゃか片付けておくように。いいな?」

「あ、行っちゃった。なんかウチの係長みたいに横柄な人だ。ステキな恋をさせるなんて悔しくなってきたな。でもま、しょうがないか。これも仕事だ」 

 

「ただいまぁ……あれ。おまえ、まだいたのか?ホントにダメな奴だな。」

「うわ、どうしたんです?ぼろぼろじゃないですか」

「いや、会社に向かってる時に、横断歩道でクルマにはねられた。それから駅のホームから転落して電車に跳ね飛ばされた」

「それにしちゃ元気そうで」

「そうなんだよ。どっちも死んでもおかしくないような事故だったのに、かすり傷ひとつ負わないんだ。なんなんだろう?」

「ものすごラッキーでしたね?ところで、ちょっとお聞きしたいんですが、あなたの好きな人って同僚の彼女でいいんですよね?」

「ああ、そうだよ。まあ、彼女だけものすごくって訳じゃないけど。朝見た高校生の女の子とか、帰りに同じ電車になるOLとかもすげえ可愛いから、好きっちゃ好きだ」

「それでかぁ……あなたそうやって気が多いから、こっちの仕事が上手くいかないんですよ。こっちはまだ半人前だから、 『弱い思い』と『強い思い』を上手く識別して制御できないんです。ちゃんと誰かひとりに絞ってくれません?」

「そうは言ってもなぁ、男と言うのは恋多きもので……あ!そんなことよりもしかしてさ、おまえの仕事が終わってないから、俺は死ななかったんじゃないか?」

「あ。そうですね。間違いないです。同時だったら死神の方が優先権が強いんですけど、今回はこっちが先ですからね。いくら半人前でもバックは天界ですから、ベテランの死神でも手は出せません」

「なるほど、そりゃラッキーだった」

「そうでもないですよ?こっちの仕事が済み次第、向こうさんも仕事にかかるはずです。あなたに付いたのは、きっとかなりのベテランですね。あなたの恋が成就すると同時に連れて行こうとして、事故を起こさせたんでしょう。幸いこっちがモタモタしていたんで、助かっちゃいましたけど」

「それじゃ、恋が成就しないうちは、死なずに済むんだ……」

「ええ、そうです。まあ、逆に言うと、誰かと両思いになった時点で、あなたはお亡くなりになると言うことです」

「おまえ、何年くらい見習いやってるんだ?」

「まだ700年くらいなんですよ。まあ、普通一人前になるのに1000年くらいはかかるって言われてますから、私が特別遅いわけじゃないんですけどね」

「地味に言い訳しなくていいよ。今回はそれがありがたいんだから。じゃ俺は、あと300年生きられるのか?うわぁ、そりゃあすげえ!」

「ま、生きられることは生きられますけど……300年間、色んな女性に目移りしつづける気ですか?しかも、その誰とも両思いになれないんですよ?」

「どうせ今までまるっきりモテなかったんだ。俺は300年生きるほうを選ぶね。いや、むしろ長い命を利用して、大きなコトを成し遂げてやる!」

「ま、非協力的なひとの恋を上手く成就させるなんて、私のほうは願ってもない練習台ですから構いませんが。むしろありがたいくらいです。で、一体何を成し遂げようって言うんですか?」

「もちろん、世界征服だ!」

 

とまあ、こういった経緯で、俺は恋より世界征服を選んだわけだ。つまり俺はモテないんじゃなくて、わざと女を遠ざけているのさ。 わかったら俺を馬鹿にするのをやめろ。 さもないと、俺が世界を征服した暁には………

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