めまい

朝起きてからずっと、めまいが続いている。

昨日の酒が残っているのだろうか?そう思って迎え酒を引っ掛けたのだけれど、いっこうに収まる気配がない。むしろだんだん酷くなるようだ。

仕方ないから会社を休み、布団の中でごろごろとしていた。吐き気もないし頭痛もないのだが、ひたすらにめまいがする。世界がぐるぐると回っている。

半日もそうしていただろうか。だんだん耐え切れなくなってきて、病院に行こうと立ち上がった。保険証を探そうと、引っ越してきてから開けてないダンボールの封を切り、ふたを開ける。

なんだこりゃ?

そのダンボールには、見たこともない、しかし明らかに怪しげなグッズが、てんこ盛りに納まっていた。世界がぐるぐる回る中で、転げないように足を踏ん張ると、ダンボールの中身を取り出してゆく。

こりゃあ……

詳しくないから断定は出来ないけれど、たぶん悪魔崇拝とか黒ミサとか、そういう危ない儀式に使うアイテムだろう。蛇がかたどられた燭台や、水晶のドクロ。なんだかわからない骨。薄気味悪いものばかりだ。

全部取り出してみると最後に残ったのは、ホコリっぽい本だった。どうやら悪魔召喚とかそういった類のものらしい。こっちはただでさえめまいがして気持ち悪いって言うのに、嫌になるよ。

おそらく引越し業者が間違えたのだろう。クレームをつけてやろうと電話を取り、持っていた薄気味悪い本を投げ捨てる。引越し業者が電話に出たところで、しかし僕はヒトコトも話せなくなっていた。

放り投げた本から、もくもくと煙が出てきたのである。火事だ!のんきに引越し業者にクレームをつけている場合じゃない!

僕は慌てて電話を切ると、火を消そうと本に近寄る。

すると、突然煙の中から悪魔が顔を出した。いや、言い切れるほど悪魔の事を知っているわけじゃないが、煙の中から出てきて、真っ黒な姿。おまけにとがった尻尾があるんだから、きっと間違いないだろうと思う。

「願い事を三つかなえてやろう」

あまりのベタな申し出に、危うく「保険証を出せ」なんて言いそうになるほど、ビックリしてしまった。お札でお尻を拭くような暴挙に出る寸前に思いとどまって、いろいろと考えをめぐらしてみる。

大量のお金と、不老不死。ここまではすんなり決まった。でも、何か裏やヒッカケがあるんじゃないか?これは当然、誰もが怪しむことだろう?

僕もそう思って、深く考えてみようとしたんだけど、何せこのめまいだ。なんだか訳がわからなくなってきた。そうだ、とりあえずめまいを止めてもらおう。それからゆっくりと残りの二つを考えればいい。

「めまいを止めてくれ」

「めまいってなんだ?」

意表をついた答えに、僕は唖然としてしまう。クソ、他の願いも全部そうやってとぼける気じゃないだろうな?と思いながらも、説明を試みた。

「目が回るんだ。それを止めてくれ」

悪魔は僕の目を覗き込むと、不思議そうな顔で言う。

「回ってない」

そうきたか。ち、なかなか綺麗にボケるじゃないか。

「そうじゃなくて、世界のほうがぐるぐる回るんだよ。それを止めてくれ」

言ってしまってから、あ、と思ったがもう遅い。

「わかった」

悪魔が言った瞬間、地球の自転が停まった。

あっという間に、世界中の生物が死滅する。

 

僕は今、この世とあの世の間をさまよっている。

もちろん死滅した世界に、心残りがあるわけじゃない。心残りといえば、残った二つの願いだが、それも、死んでしまえばどうやら無効なのか、あれっきり悪魔は僕の前に現れてくれない。

だから、それももうあきらめることにしていた。僕を死後の世界に行かせないようなしがらみは、こちら側には何一つない。もちろん、あっち側への行き方だってわかっている。

そうじゃなくて問題なのは、死後の世界で待っている、世界中の生物からの非難なんだよね。僕だって向こうの立場なら、それこそ烈火のごとく怒っているはずだから。

あまりにも、あまりな絶滅の仕方だもんなぁ。46億年の地球の歴史が、あれ一発でパーになったんだ。やっぱりみんな怒ってるだろうなぁ……

ああ、考えたら、まためまいがしてきた。

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