鏑木の逆襲

「よう、カブラギっ!なんだおめ、ナニ買いに来たんだ?」

楽器屋に入るなり、面倒な人物に会ってしまった。朝のTVの占いで言っていたのは、このことだったのか。これからはもう少し、あの占いをきちんと見ることにしよう。

「なんだよ、ギター買いに来たのか?  カブラギのくせに」

「弦を買いに来たんだよ。かみ君は? ギター買いに来たの?」

「なんだよおめ、ギター弾けたのか?  んでなによ?何もってるんだ? ストラト? レスポール? あ、わかった!ZO−3だろ?な、な? そうに違いない。決定っ!」

「相変わらず人の話は聞いてくれないんだね。僕のギターは院具塀だよ。院具塀のストラトタイプ」

「イングベイ?  ほほう、いい趣味だ。おまえにしては、なかなかいいところを選んだじゃないか。誉めて使わす」

へへへ、かみ君、何にも判ってないや。どうやら勘違いしたみたいだ。自慢じゃないけど、僕のギターの知識はちょっとしたものなのさ。これならいつもの仕返しに、ぎゃふんと言わせられるぞ。

僕はあえて知らんフリのまま話を続ける。

「かみ君も院具塀がスキなの?」

「スキに決まってるだろう!  あたりまえのこと聞くな。傍若無人だ、わがままだ、人間のクズだ言われながらも、やることはやるからな。団体行動がちょっと苦手なだけなんだよ」

思った通りかみ君は、ギタリストのイングベイ・マルムスティーンの話をはじめたぞ。へへへ、引っかかった。

かみ君の言っているイングベイ・マルムスティーンと言うのは、テクニックこそ超絶だが人間としては最低のクズと言われている、昔、「光速の速弾き」といわれて一斉を風靡したギタリストだ。

バンドを組む相手、組む相手、みんなのことを最初は「最高だ」と誉めておきながら、自分のわがままで相手が離れてゆくと「あいつなんか最初から好きじゃなかった。あいつは最低のゲイさ」などと平気な顔で言ってのける、もう、どうしようもない変人なんだ。

「俺様最高」「俺以外はクソ」「俺の音楽を理解できないヤツはクズ」「俺の先祖は貴族だった。みんな敬え」「俺だけを見ろ」

こんな人だ。まあ、かみ君が好きになるのも、わかるような気がするけどね。

それに対して僕の言っているのは、謎のギター職人「院具塀」のこと。知ってる人はほとんどいないんだけど、彼の作るギターはエレキギターのストラディバリと称される、幻の名器なんだ。

本人の情報は僕ほどのマニアをもってしても、ほとんど知られていないんだけどね。

とにかく僕は、かみ君をやりこめるために深呼吸した。

男鏑木、一世一代の晴舞台だ!って大げさかな?

「かみ君、ナニ言ってるンだい?  僕の話してるのは、イングベイ・マルムスティーンのことじゃないよ。ギターの名匠、院具塀のことだよ? まさか知らないわけじゃないよね?」

ちょっと意地悪な言い方だったかもしれないけど、普段いっぱいいじめられてるからね。このくらいは反撃しなくちゃ。

「あ?  おめーこそナニ言ってるんだ? 俺が話してるのも、そっちの話だよ、ばーか」

「かみ君、ごまかそうったってそりゃ無理だよ。院具塀はどんな人間なのか、全く判ってないんだから。かみ君、いま言ったじゃないか。「傍若無人だ、わがままだ、人間のクズだ言われながらも」って。これは明らかにイングベイ・マルムスティーンの話でしょう?」

「……」

「それに僕はね、世界で何本もない院具塀のギターを持ってるんだよ?彼のこともずいぶん調べたけど、彼に関しては世界中のマニアの間でも未だに謎なんだ。どうやらギターに関してなら、僕のほうが詳しいみたいだね?」

「……」

かみ君、答えない。

きもちいい!かみ君をへこませてやったぞ!

「鏑木……それならおまえ、相当ラッキーだぞ?」

お?  なにやら、かみ君が笑ってる。どうやらまだ、負け惜しみを言うつもりらしいな。でも、今日のところは完全に僕の勝ちさ。

僕は鷹揚な気持ちで聞き返した。

「なにが?」

「さっきの俺の情報……院具塀が傍若無人だ、わがままだ、人間のクズだって言われているってのは、すべて真実だからさ」

ふ〜む。どうしてこの人は、こう負けず嫌いなんだろう。まったく、わがまま度合いといい、近所迷惑っぷりといい、イングベイ・マルムスティーンにそっくりだよ。

僕は呆れながら、言い返した。

「だーかーら、院具塀に関しては、誰もわから……」

「判ってるのさ」

その時、店の奥から店長が出てきた。

店長は僕なんかには目もくれず、かみ君の前に行くと、土下座せんばかりの丁重さで話し掛けてくる。

かみ君は店長にうなずくと、僕に向かって片目をつぶって見せながら、にやにやと憎らしい笑顔で言った。

「だって、俺が院具塀だから」

「!?」

「俺の作ったギター持ってるんだって?  大事にしろよな?」

……そんなぁ

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