| 臆病者の末路 |
弱虫どんの一族は、他の仲間と一緒に逃げていた。 彼らはもともとすごく臆病なのだが、中でもどんの一族はブッチギリの弱虫だ。平和なときはいつも仲間にいじめられている。それでも、怖い動物に頭からかじられるよりはましだろうと、仕方なくみんなと一緒に生きていた。 幸い今は肉食獣から逃げるのに夢中だから、みんなどんたちをいじめているヒマはない。びくびくと逃げながらも、どんたちはいつもより少しだけ安心していた。 逃げ出した彼らは、ついに森を出て海辺で生活し始める。海岸や浅い海にいる動物、海草や貝類をとって、貧しいながらに暮らしていた。 やがて、海に慣れた者たちは、もっと沖の方まで食べ物を探しにゆくようになった。しかし、どんたちは怖くて海に潜れない。根っからの弱虫っぷり本領発揮である。みんなに馬鹿にされながらも、かたくなに海へ潜ることを拒んだ。 そのうち、みんなの身体に変化が起こる。海に入って出てくると、濡れた毛が体温を奪うだろう?だからみんなの身体からは、だんだんと毛がなくなってきたのだ。 もちろん、どんたちの身体も毛がなくなってきたが、しかし他のみんなのように、頭の先からすべてというわけには行かない。怖くて水に頭まで浸けられないので、頭の上にだけ不自然に毛が残ってしまったのだ。 一番はじめに海に慣れたものたちは、そのうちだんだん陸に上がることがなくなった。おいしい食べ物は、海の中にあるのだから当然だ。 魚を追っているうちに、彼らの脚はひれのようになり、やがて両足がくっついて、まるっきり魚のようになってしまった。もっとも魚のように左右に振って泳ぐのではなく、上下に振って泳ぐのだが。 次々と姿を変えてゆく仲間のそばで、臆病などんたちだけは、昔のままの姿だった。もっとも、ふさふさした体毛は、頭を残してほとんど失われてしまってはいたが。 そのあまりに無防備な姿は他のものの失笑を誘う。中には親切に忠告してくれるものもいたが、弱虫どんの一族はその厚意に応えることが出来ないでいた。 結局みんなはもう陸には上がらなくなり(もっともあの脚では上がりようもないが)どんたちスジガネ入りの臆病者だけが、陸に残される。 しばらくは海に入るように説得していたのだが、やがて呆れ果てたみんなは、臆病者の集団を残して、海の中へと消えて行った。そして寒い寒い時代を迎える。 寒くなっても海の中なら暖かい。 今でもみんなは温かい海の中で、陸に残してきたどんたち臆病者のことを心配して、ちょっとばつの悪い思いをすることがある。 (しかし、彼らに同情してあの場に残っていたら、遠からずみんな死んでしまったことは間違いないだろう) そんな風に自分たちを納得させて、彼らは昔の仲間への罪悪感をごまかしていた。最初の一頭が、どんたちの末裔である「人間」に捕獲されるその日まで。
罪悪感など持つ必要はなかったのに。 |