カメラマン
俺の仕事はパーフェクト。クライアントが望む以上の結果を出してみせる。奇跡のカメラマン、ジョーってのは俺のことさ。

今日はスタジオでグラビアの撮影だ。

被写体は新人のアイドル。まあ、そこそこと言ったレベルの子なんだが、俺としては逆に腕の見せどころ。俺のショットでこの子をグラビアアイドルにしてやるぜ。

現場についてみると、なにやら若いカメラマンが先に撮影をはじめていた。俺は現場の責任者に、それとなく問いただす。

「あれ?どういうこと?あいつ誰?」

「ああ、ジョーちゃんおはよう。なんかさ、スポンサーの親戚だか知りあいらしいんだよ。どうせ、金持ちの道楽だろう。悪いんだけど、もう少しだけ待っててくれない?」

「ああ、構いませんよ」

俺は離れたところで、若いカメラマンの撮影を眺める。しばらく見ているうちに、大体わかったので、興味がなくなった俺はその場を離れた。さっきの責任者が、ニヤニヤしながら寄ってくる。

「ジョーちゃん、見学は終わり?若い衆にアドバイスしてあげれば?」

「冗談でしょう?せめてもう少し腕があるならともかく、ド素人に一から十まで手とり足とりするほど、こっちはヒマじゃないよ」

「へえ、あいつダメかい?」

「話にもならねーって。みなよ、あのモデルの子。緊張して引きつった顔しちゃってさ、かわいそうに」

「あーホントだ。ま、ジョーちゃんにかかれば、あっという間にナチュラルな笑顔でしょ?ちょっと押してるから、早めに頼むね?」

「ちぇ、人使いが荒いなぁ」

若造が消えたところで、ようやく俺の出番だ。

俺は彼女のそばに近寄ると、ギャグをかます。突然の事にきょとんとしたままの彼女に向かって、畳み掛けるようにジョークの嵐。最初は唖然としていた女の子も、やがてリラックスしてきて、最後にはケタケタと笑い始めた。

なんともいえない自然な、可愛らしい笑顔だ。

チャキチー!チャキチー!チャキチー!

俺はすばやくシャッターを切る。こうなれば、もう、俺の独壇場だ。

彼女はまるで、俺の長年の恋人かのように、短い指示で的確な表情を創り出す。もちろん、撮影の合間にちょっと気を抜いた、自然な笑顔を撮ることも忘れない。

現場は、最高に楽しい雰囲気だ。

今日も、カンペキな仕事っぷりだったぜ。

 

あれから数ヵ月後、俺は出版社に呼ばれた。

「ホントごめん、ジョーちゃん。今回もあのスポンサーの知り合いって言う若造の写真を使わせてもらうわ」

腕よりコネか。

まあ、よくある話だ。

「ええ?一回だけじゃないの?あの時は譲ったけどさ、そりゃあんまりひどくない?」

「まあ、そういわないでよ」

スポンサーは神様だ。彼らの苦しい立場もわかる。俺はいじめを適当に切り上げた。

「ま、いいですよ。その代わり、次回こそよろしくお願いします」

俺は鷹揚に手を振りながら、少々恩着せがましい目で見た。そりゃそうだろう?

彼らは、コネで採用されたヤツなんかより、実力のある俺が欲しいに決まっているんだ。スポンサーのご機嫌取りで、俺って言う大事な手駒を失うわけにはいかないに決まってる。

「え〜とさ……」

デスクは言いよどんだ。俺は無言で先を促す。

「悪いんだけど、ジョーちゃんの写真、うちではもういらないんだわ。あのカメラマン、うちの専属になってもらうことになったから」

WHAT?ナニ言ってるんだ?

「あのね、今回あいつの写真使うことになったのも、読者投票の結果なんだよね。だから、まあ、悪いけどそう言うことで」

なにーーー?

俺が実力で負けたって言うのか?

「いや、ジョーちゃんの実力はわかってるよ。もちろんじゃない。でもね、読者はあいつの写真がいいんだって言うんだもん、仕方ないでしょう?この世界、お客様は神様だからさ」

俺は呆然と立ち尽くしながら、思わずつぶやく。

「どうして……」

デスクは、申し訳なさそうに言った。

「あいつの撮った写真の方が、「萌える」んだってさ。いかにもド素人っぽく、ビクビクしてる感じがたまらないんだと。同級生とか友達っぽい、そこらへんにいる女の子が、騙されて無理やり写真撮られてるっぽい感じが受けたみたいだな」

なるほどね。

もう、「プロの技術」はいらねえんだな。飽きっぽくて、とにかく目先の変わったものを追い求めるだけ。作品をじっくり吟味する奴なんていないって訳だ。

「まあ、悲しい話だけどね。要は売れなきゃ話にならないわけよ」

俺は、出版社を出た足で、田舎へ帰る新幹線に乗った。

俺の仕事はパーフェクト。クライアントが望む以上の結果を出してみせる。

だが残念ながら、クライアントや世間は、望む以上のものなど欲してないのだ。

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