| いじめ |
したたかに呑んだくれて、ご機嫌で夜の町を歩いていると、通りの隅に占い師がいた。 なんとなく興が乗った俺は、占い師の前まで千鳥足で歩いてゆく。幾つなのか見当もつかないようなばあさんが、しわだらけの顔をこちらに向けた。しわの中に、かろうじて目があるのが判ると言った風体だ。 「一回千円だよ。何を占おうかね?」 「そだな、何でもいいから、この先、不幸があるかどうか見てくれないか?その避け方も」 言いながら、千円札を出す。 ばあさんはこくりとうなずくと、筮竹(ぜいちく)をがしゃがしゃやって占い始める。なかなか時間がかかるので、俺はポケットからタバコを取り出した。 何本か灰にしたところで、ばあさんの動きがとまる。と、不意に顔を上げて、なんともいえない薄気味悪い笑いを浮かべた。 「あんたが普段いじめてるやつらに、手ひどいしっぺ返しを喰らうよ」 俺はビックリして叫ぶ。 「冗談言っちゃいけねえ!俺ぁ確かにケンカ好きだし荒っぽいが、弱い者いじめなんか絶対しねえ!」 「あんたが気付いてないだけだよ」 「いいや、俺は絶対弱い者いじめなんかしてない」 「まあ、いいさ。とりあえずお金は返すから、もし自分の間違いに気付いたら、明日またおいで。ただし、その時には千円じゃすまないからね?有り金全部持って来るんだよ?」 俺はばあさんから千円札を引ったくると、イライラしながら家路につく。まったく冗談じゃない。俺が誰をいじめてるって言うんだ? 家に帰ってベッドにもぐりこむと、充分に回った酒のせいで、あっという間に眠りに落ちる。 そして、奇妙な夢を見た。 夢の中では、何者かがふたり、俺の目の前に立っている。 はじめて見るはずなのに、どうにも知っているような気がしてならない。それも生半可な知り方じゃない。俺は確かに、こいつらをよく知っているぞ? 思い出せなくて唸っていると、目の前の奴らが悲しそうな声で言った。 「もう、あんたにはついてゆけない。これ以上いじめられたら、俺たちは死ぬ。あんたとは別れるよ」 「待てよ、俺がいじめた?いったい何をしたって言うんだ?」 二人は無言で俺をにらむ。ひとりはケロイド状にタダれた姿を、ひとりは薄気味悪いほど真っ黒な姿を俺に向けて、ヒトコトも発しないままに俺をにらみ続ける。 俺はイラつきながら、奴らに向かって何度も理由を問いただした。 そこで朝がくる。 目がさめたとたん、俺は奴らの正体に気付いた。 まあ、嫌でも気付くってモンだ。 俺の身体から、酒でタダれた胃袋と、ヤニで真っ黒になった肺が、そろっていなくなっていたのだから…… 横隔膜だけでぜいぜいと呼吸しながら、俺は急いで財布をつかむと銀行に向かう。有り金を下ろすと、二日酔いの頭で、必死に占い師のいた場所を思い出しながら、探して歩いた。 その間に、覚悟が決まる。 どうやら禁酒と禁煙は避けられないようだ。 |