人買いバズー
満天の星の中、オリオンがひときわ輝いている。

幌の外側から染みてくる寒さも今夜はひとしおだ。これでは大事な商品が死んでしまうと心配したバズーは、トラックを止めると荷台の様子をうかがう。

煮しめたような毛布に二人づつ包まって、少女達はガタガタと振るえていた。バズーは車を降りて荷台に飛び乗る。おびえた少女達は、それでも寒さで体がうまく動かないのか、のろのろと逃げ出し、荷台の奥にかたまった。

「今日は寒いから、毛布を一人一枚にしてやる」

そういうと、荷台のスミにある箱の中から毛布を何枚か取りだし、少女達の足元に放った。少女達はやはりのろのろと動き、毛布を身体に巻きつけた。

みな一様にやせこけ、かつてキラキラと輝いていたはずの瞳は、どんよりとした膜に覆われている。少女達は、みんな同じように生気のない顔で、毛布に包まったまま下を向いていた。バズーと目を合わせる者は一人もいない。

その方が、人間と思わなくてすむから助かる。そう苦々しく思いながら、バズーは運転席に戻ると車を発進させた。

予定より幾らか早く着いたのは、寒さのせいで気が急いたからだろうか。バズーは書類にサインをもらうと、トラックに引き返し毛布を片付けていた。

今日は一人も死ななかったな。商品が死んで損をするという意味だけでなく、バズーはほっとため息をつく。実際、市場についてから少女が死んでいたりすると、損して腹立たしいと思う前に、なんともやりきれない気持ちになってしまうのだ。

バズーは少女専門の運び屋だ。

危険が少ない代わりに単価が安く、しかも死なせてしまえばかなりの違約金を払わねばならない。10人運んで一人死ねば、稼ぎは一晩の酒代とトントンだ。それでも他の仕事はもっと危険だし、かと言って運び屋以外の仕事が出来るほど器用でもない。

肉体的リスクと経済的リスクを天秤にかけて、命の危険がない方を選んだだけだ。もっとも、少女狙いの強盗も全くいないわけではないから、まるっきり安全と言うわけでもないのだが。

片づけが終わってトラックをしまいに行くと、トラック置き場でゴールが声をかけてきた。背ばかり高くて貧相なバズーとは違い、ゴールは縦にも横にも企画はずれにデカい。近づいてきたゴールは、バズーに向かってにやりと笑いかける。

「よう、バズー。今日はもう仕舞いか?だったら、アンソニーの店にいこうぜ。どうせ晩飯はまだなんだろう?」

今日は一人も死んでないから、丸々儲けになった。少しくらい美味い物を食っても罰はあたるまい。バズーはうなずくと、ゴールと並んで歩き出した。

霊峰セルダンの影が遠くに見える夜道を、アンソニーの店まで10分ほど歩く。店の明かりが見えてくると、バズーはほっとして緊張を解いた。この町で夜道を歩くときは、そのくらい用心していて丁度いいのだ。

とにかくアンソニーの店に着いてしまえば、殺されるような揉め事が起きる事はまずないから、安心してゆっくり出来る。あまり荒事が得意でないバズーみたいな人種には、アンソニーの店は貴重な憩いの場所だ。

近くに幾らでも店があるのに、わざわざアンソニーのところまで行くのは、そう言う訳があるのだった。

木製の階段を3段上がると、ローズウッドの大きな扉がある。扉を開けると、中から暖かい空気が嬌声と共にあふれだした。今夜もアンソニーの店は賑わっているようだ。

中にいた荒っぽい連中は、一瞬、ゴールとバズーの方を見た。

が、見知った顔だとわかると、それきり興味を失ったように、おのおの騒ぎ始める。バズーとゴールは空いているテーブルについた。ゴールの巨体が、カウンターとスツールの間に納まらないのだ。

「よう、デカブツとノッポじゃねえか。遅かったな。なにか食うか?今日は、豚の旨いのがあるぜ」

アンソニーは愛想よく笑いかけてくる。

「豚か。じゃあそれとビールをくれ。バズー、おまえも同じでいいか?」

バズーがゴールの言葉にうなずくのを見て、アンソニーはビールを二本ふたりの前に置くと、フライパンを取り上げた。すぐの豚肉の焼けるいい香りがしてくる。それを嗅いだ何人かが、こっちにもよこせとアンソニーにオーダした。

アンソニーは手早く四つのフライパンを並べると、次々と肉を焼いてゆく。その無駄のない仕事っぷりを眺めながら、バズーはちょっと羨ましくなった。

俺も人買いの使い走りじゃなくて、こんな仕事につけばよかったな。しかしまあ、そんな事を考え出したらきりがない。軽く頭を振って余計な考えを追い払うと、ビンに口をつけてビールを流し込む。とたんにその刺激で胃袋が動き出し、ぐうぐうと食い物を要求し始めた。

香辛料の効いた豚肉をやっつけているところに、突然扉が開く。

立っていたのは、知らない老人だ。いや、どこかで見たことがあるな?

バズーが思い出せずに首を捻っていると、きょろきょろと中を見まわしていた老人はバズーを見つけて走りよってきた。その勢いがあまりに激しいので、バズーは思わず腰に手をやって銃把を握ったまま身構える。

「孫を返せっ!」

老人はバズーに掴みかからんばかりの勢いで叫んだ。困惑しているバズーに向かって、老人は叫びつづける。

「孫娘を返してくれ!アレはわしの心のささえなんだ」

悲壮なせりふを聞きながら、バズーは話の見当がついてきた。さっき運んできた娘達のうちの誰かの身内なのだ。

今年の秋口に突然降った雹は、作物を青いまま枯らしてしまった。それで、この冬はいつもより娘を売りに出す家が多かったのだが、中には家人全ての了解を取らないで売ってしまった者もあるのだろう。

仕事から帰ってきて孫娘を売りに出されたと聞いた老人は、孫娘を取り戻すために市場へ乗りこみ門前払いを食ったのだ。それからバズーを追ってここまで来たに違いない。

買いつけるのも、仲買をするのも全て別の者がやっているのだが、素人から見れば実際に娘を連れてゆくバズー達運び屋が、一番目に見える敵になりやすい。

この手のトラブルは年に数件あるし、バズーは初めてだったがゴールは何度か対処したことがある。バズーに代わってゴールが老人に説明をはじめた。老人は仏頂面でその話を聞いていたが、ゴールが話し終わると静かに口を開いた。

「なるほど、わかった。それでは、市場に入れてくれるだけでいい。そこから先はわしが自分でやる」

「冗談じゃない。そんなことに手を貸したら、こっちがクビになっちまう。第一、市場の女を盗み出すというのは、マッカートニーに逆らうと言う事だぞ?」

そう言ったゴールの顔をしばらく凝視した後、老人は店の中を振り返り大きな声で叫んだ。

「わしはなんとしても孫娘を助け出したい。誰か、この腰抜けの代わりに、わしを市場へ連れていってくれるものはいないか?」

店はシンと静まり返った。それはそうだ。この辺の者は大抵マッカートニーと、何かしらの仕事上の関係を持っている。純粋にマッカートニーの影響を受けない仕事など、この町には数える程しかない。たとえばこの、アンソニーの店とか。

「じいさん。可愛そうだけど諦めた方がいいよ。そりゃ俺だって協力してやりたいし、売られる子が一人でも少なくなるのはいい事だと思うけどさ。いや、こんな仕事してて言うのもなんだけど。でも、みんなそれぞれそうやって仕事をしてるんだ。じいさんを助けたら、今度はこっちが飯を食えなくなっちまうんだよ」

バズーが哀しげな声でそう言った時、店の奥から声が上がった。

「幾ら出す?」

みんなが注目する中、ふらりと立ちあがったのは、胸にシルバーを下げてウエスタンハットをかぶった男だった。ボロボロのレザーの上下を身に着け、腰にはロングバレルのリボルバーを下げている。

「ティンプリーミ……」

どこからともなく声が上がる。アンソニーの店がどこにも干渉されず、荒くれ者達がこの店でだけは面倒を起こさない理由が、老人とバズーの前に立っていた。

ティンプリーミは帽子を脱ぐと逆さにしてカウンターに置き、いぶかしむ老人に向かって、にやりと不敵な笑いを見せる。

「これいっぱいの金貨で、その仕事引き受けてやるよ」

あるわけがないじゃないか。金がないから娘を売ったんだろう。

ティンプリーミの言いぐさに腹を立てながら、それでもバズーは黙っていた。コイツは死神みたいなものだ。その気になったら、まばたき一つする間にバズーを撃ち殺す事もできるのだから、関わらないに越した事はない。

「わかった。金は必ず作る。何年かかっても払う。どうか孫娘を救ってやってくれ」

老人はすがりつかんばかりの勢いで、ティンプリーミに哀願した。しかし、恐らくそれは無理な話だ。この荒野で、後払いでそんな仕事を引きうける人間はいない。

危険な仕事は前払いが基本だ。

だから、バズーは後払いなのに、ゴールは前払いで給金をもらうのである。バズーは安全な少女を運び、ゴールは危険な武器を運ぶ。運ぶにも金にするにも大変な少女と違い、武器はすぐに大金になるから、当然強盗に狙われやすい。

その危険の差がそのままバズーとゴールの給金の差になる。

「OKわかった。それでいい」

バズーはびっくりしてティンプリーミを見つめた。何を考えているのだろう?

すると、ふいにティンプリーミがこちらを見る。目が合った、と思った瞬間、バズーは目の前に銃口を見ていた。何がなんだかわからない。

「ノッポ、おまえが案内するんだ。ティンプリーミに銃を突きつけられたと言えば、マッカートニーだって文句は言わねえさ」

バズーは思わず天を仰ぎたくなった。ここ数年で最大級の不幸だ。

ティンプリーミがガンをしまうのを確認してから傍らのゴールを見ると、気の毒そうに首を振っている。そうだ、もちろんゴールだって助けられるわけはない。相手はティンプリーミなのだから。

「さ、じいさん、行こうぜ。ノッポ、前に立って歩きな」

バズーは、ものすごく重たい脚を引きずって歩き出した。

 

「マッカートニーと知り合いなら、最初から言ってくれればいいのに」

バズーは口を尖らせて、それでもティンプリーミが怖いから、小さな声で言った。その言葉を耳ざとく聞きつけたティンプリーミは、にやりと笑った。バズーは、思わず首をすくめる。

マッカートニーのところへ乗り込むと、驚いたことに、彼らの対応は大変丁重だった。上等のウイスキーとうまい料理を出され、それを食っているうちに、マッカートニーところの若い衆が、老人の孫娘を連れてきた。

孫娘は恐怖のあまり、状況がわからなくなっているようだった。せっかく迎えに来た老人が触れようとすると、悲鳴をあげてあとずさってしまう。

老人は怒りに満ちた顔で、マッカートニーをにらみつけた。しかし、若くして養子に入ったマッカートニー家の二代目は、そんな目つきにはびくともしないで、黙殺する。

そして、ティンプリーミの方へやってくると、深深とお辞儀をした。

「お久しぶりです。お変わりはありませんか?」

「よう、すっかり二代目が板についたじゃねえか。先代はどうしてる?」

「初孫にメロメロですよ。今は完全に引退して、のんびりと暮らしています。あなたには御礼の言いようもありません」

「やめてくれよ」

照れくさそうに笑いながら、ティンプリーミはタバコをふかした。それから、まじめな顔になると、マッカートニーの若き当主に向かって、鋭い視線を浴びせた。

「なあ、おまえの人買いをとやかく言うつもりはねえが……」

「わかっています。私は何も恥ずべき事はしていませんよ」

何が恥ずべき事はしていないだ。人買いの親玉が偉そうに。

バズーは心の中で毒づいたが、もちろん口に出せるわけがない。黙ってふたりのやり取りを伺っていた。その間に、娘はマッカートニーの医者に鎮静剤を打たれて、安らかな眠りに落ちている。

老人と孫娘は、一足先に車に載せられて家に返された。彼らが帰ってゆく様を黙って眺めていたふたりは、その後どちらからともなくお互いの顔を見る。

そのまま、しばらくにらみ合っていたが、やがてティンプリーミはにやりと笑うと、黙ったままきびすを返し、マッカートニーの屋敷を後にした。

 

そして、先ほどのバズーのセリフとなるのである。首をすくめたバズーに向かって、ティンプリーミはタバコをくわえながら言った。

「まあ、こうなるのはわかっていたんだ。問題はコレからさ」

「これからって、どう言うことです?マッカートニーが、またあの娘を狙うって言うんですか?あ、それとも顔をつぶされたから、俺たちを襲うって言うんじゃ?」

「ははは、おめーなかなか想像力が豊かだな。ま、万が一襲われたって、マッカートニーの手下ごとき、何でもねえよ。安心しな」

バズーたちは、マッカートニーから仕事を貰っているからと言うだけでなく、彼らの暴力が怖くて逆らえない面もあるのだ。それなのにこの男は、いとも簡単に「なんでもない」と言ってのける。

やっぱり、俺たちとは根本的に何かが違うんだなぁと思いながら、バズーは黙ってティンプリーミの後に続いた。そうするしかないではないか。

ティンプリーミの後についてたどり着いたのは、先ほどの老人と孫娘の家であった。いぶかしむバズーに向かって、ティンプリーミは人差し指を唇に当てる。

そのままふたりで家の裏まで回りこむと、裏の窓から中を覗き込んだ。

と。

家の中では、信じられない光景が繰り広げられていた。

「このバカが!おい、セバスチャン!俺たちの隙を見て、この娘を人買いに売れば、逃がしてやれるとでも思ったか?ナメたマネをしてくれた礼に、おまえらに地獄を見せてやるぞ!」

顔を真っ赤にして怒り狂っているのは、バズーに突っかかってきた、孫思いの老人……だったはずの男だった。そして彼の目の前では、使用人らしき格好をした男と、先ほどの孫娘が抱き合って震えていた。

老人は薄気味悪い酷薄な笑みを浮かべて、手にしたムチをしごいている。使用人と孫娘の身体には、すでに数条のムチの跡が刻まれていた。男の方がより切り刻まれているのは、女をかばったからだろうか。

バズーが呆気に取られていると、ティンプリーミは突然窓を叩き割って、部屋の中に飛び込んだ。

驚いた老人が振り返る。そして次の瞬間、彼は寸分たがわず自分に向けられた、ティンプリーミの銃口を覗き込む羽目になった。驚きでそのまま硬直している。それにはかまわず、ティンプリーミは窓を振り返ってバズーを呼んだ。

「おい、ノッポ。こっちに来い」

そうしている間も、ティンプリーミの銃は微動だにしない。

ようやく呪縛が解けて何か話し出そうとした老人に、ティンプリーミはすばやく駆け寄ると、そのゴツイ銃身を口の中に突っ込んだ。

「俺はな、てめえみたいなヤツとは、一秒だって口をききたくないんだ。何か言いたきゃ、マッカートニーの屋敷についてから、やつに向かって言うんだな。もっとも、やつが言い訳の機会を与えてくれるかどうかは知らねえがよ」

老人は驚愕に見開いた目で口に突っ込まれた銃身を見つめながら、ガクガクと人形のようにうなずく。しかし、ティンプリーミはそんなものにひとしずくの興味も示さず、部屋の隅で震えているふたりに向き直ると、驚くほどやさしい口調で言った。

「おまえらも、マッカートニーのところへ行け。仕事なり身の振り方なりの相談に乗ってくれるからよ」

ふたりは抱き合ったままうなずいた。そこへ、どやどやと人が現れる。どうやら、老人の手下らしい。手に手に武器を持って、ティンプリーミとバズーを囲んでしまう。

震え上がったバズーに向かって、片目を瞑って見せた後、ティンプリーミは老人の口から銃を引き抜いた。ここぞとばかりに手下へ何か叫ぼうとした老人のわき腹に、思いっきりブーツの先を喰らい込ませる。

ぎぇふっ!

と肺の中の空気を吐き出して気絶した老人をつま先で蹴転がすと、ティンプリーミは銃をゆっくりと手下に向けた。そのまま、不敵な笑みを浮かべ、穏やかに話し出す。

「ティンプリーミに向かって銃を向けると言うことが、どう言うことだかわかってないようだな?誰でもいい、親のいない奴からかかって来い。親のいる奴は、親不孝の許しを神に祈ってからにした方がいいな」

男たちは、明らかに逡巡していた。ティンプリーミを敵に回す覚悟が、なかなかつかないのだろう。そこへ、突然、あたりが明るくなる。同時に、拡声器のバカでかい声が、マッカートニーの手下が周りを包囲したことを告げる。

「くそったれ!!」

ひとりの男がティンプリーミに向かって銃を放とうとした瞬間、爆音とともに、男の首から上が吹き飛んだ。

「だから言ったろうが」

銃口から出る煙をふっと吹きながら、何事もなかったかのような調子でティンプリーミがつぶやく。その姿を見て、残りの男たちは抵抗の意思を失った。

大勢の男たちが老人の家になだれ込んでくると、あっという間に全員を拘束してしまう。縄を打たれてとぼとぼと歩き出した老人に向かって、ティンプリーミは意地悪な笑顔で言った。

「おい、じいさん。約束の金は、必ず取り立てるからな?帽子いっぱいの金貨、俺に払うまではマッカートニーに殺さないように言っておくからよ?」

振り返った老人の顔には、絶望の二文字が刻まれている。

マッカートニーの部下が、老人を含めた男たちをあらかた連れて行ってしまうと、バズーとティンプリーミは、老人の家を後にした。

「いったい、何がどうなっているんです?俺にはカイモク見当がつかないですよ」

バズーの質問に、ティンプリーミはまじめな顔で答えた。

「あの、マッカートニーの二代目ってのは、もともと俺の知り合いなんだ。あの男がやっていたのは、人買いじゃねえんだよ」

「でも、俺はマッカートニーの下で、女の子を運ぶ仕事をしてましたよ?」

「あのな、おまえは荒っぽくて恐ろしいのは、酒場に集まるような荒くれ者だと思っているだろう?どっこい、俺も含めてああいう単純な体力バカは、別にそれほど怖いもんじゃねえんだ。話してみりゃ、気のいいヤツラばっかりなんだよ」

「そ、そんなもんですかね?」

「ホントにおっかねえのはよ、いかにも善良な市民風のやつさ。やつら、自分より弱い者には、平気でものすごく残酷になるんだ。そういう隠れた悪党のせいで泣かされている人間ってのは、荒くれ者に殴られる人間より、よっぽど多いんだぜ?」

考え込んでしまったバズーの顔を覗き込みながら、ティンプリーミは話を続ける。

「特にこのあたりは、昔っから近親姦の多い土地柄でな。年寄りの中には、てめえの娘や孫に手を出すのを、あたりまえのように考えているヤツラも大勢いる。マッカートニーの二代目は、そういうヤツラから娘っ子たちを救うために、力で強引に買い取っていたんだ」

「な……」

突然の背景の逆転に、バズーは混乱したまま二の句が告げない。

「年寄りにしてみりゃ、昔はてめえのオヤジなんかもやってたことだと思うから、あんまり罪悪感がねえんだよ。そんなヤツラに、道徳だのなんだの言ってもはじまらねえからな」

「そうだったんですか……」

「コレで少しは、自分のやってきたことに自信が持てるか?死んじまう女の子が多かったのは、貧乏で栄養失調だったんじゃなくて、そういう暴力のせいで、体が弱っていたからなんだ。ま、慰めにならねーかも知れねーがよ」

ティンプリーミの言葉に、バズーは顔を上げる。

「それでも、俺にもう少し心があれば、あの子達が死なないような努力をしたはずです。それなのに俺は、どうせ売られて酷い事をされるんだから、死んでしまったほうがむしろ幸せかも、なんて勝手に考えていたんです」

「まあ、事情を知らなきゃムりもねえさ。おまえだけじゃないよ」

「それは、免罪にはなりませんよ……俺、やっぱりこの仕事は続けられないです。死んでいった女のこのことを考えたら、とてもじゃないけど……」

「ま、それはおまえの好きにすりゃいいさ」

それだけ言うと、ティンプリーミは黙り込んだ。しばらくふたりとも、黙ったまま歩いてゆく。バズーは、今までの、そしてこれからの生き方を、人生で初めて、死ぬほど真剣に考えた。

しばらくして、答えが見つかったような気がして少しほっとすると、わざと陽気な声でティンプリーミに話し掛けた。

「ねえ、ティンプリーミの旦那。あんたやっぱりすげえですよ。あれだけ大勢を相手に、一歩も引かないんだから。どうやってあれだけの人数を倒すつもりだったんですか?」

ティンプリーミはそういわれると、突然吹きだした。

「バカ!あんだけ大勢に囲まれて、勝てるわけないだろう?マッカートニーが応援をよこすことは、最初からわかっていたんだよ」

思わずぽかんと口を開けたバズーに向かって、ティンプリーミは人懐っこい笑顔を見せると、先に立って歩きながら振り返って言った。

「よう、アンソニーのところで、飲み直そうじゃねえか」

言いながら嬉しそうに歩いてゆくティンプリーミの後ろ姿を眺めながら、バズーは慌ててティンプリーミに追いつくと、後ろから呼び止める。

「ねえ、ティンプリーミの旦那!」

何事かと振り返った、この妙に憎めない凶悪なガンマンにむかって、バズーはさっきから考えていたことを、大きな声で叫ぶ。

「アンソニーのところで雇ってもらえるように、旦那からも頼んでもらえませんかね?」

ティンプリーミは一瞬固まった後、えらく嬉しそうな笑い声を上げた。

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