“Dear My Friend” Original Story
『月の羽衣
    〜月の影に隠れていたキミを見つけた〜』



このお話は、某雑誌の誤植からできたものです。
間違ってもあたしの存在をlightさんに問い合わせちゃダメだからね♪
以上、栗原月衣からのお知らせでした。

■其之一 あいつ

ガサゴソガサゴソ…
あたしは神社の茂みから境内を覗き込んでいた。
栗原月衣「お姉ちゃんは…なんだ…いないのか〜。ちぇ…」
あたし、栗原月衣(くりはらつごろも)。
この神社で巫女さんをしている月夜お姉ちゃんの一つ下の妹だよ。
色々わけがあって、お姉ちゃんとは別の場所で、お父さんたちと暮らしてる。
今日は内緒でお姉ちゃんに会いに来たの。
…お父さんにはバレてるみたいだけどね。
さて、どうして今こんな茂みの中でこっそり隠れているのかって言うと…
ケダモノの声「わうっ」
月衣「きゃあっ!!」
突然後ろから声がして思わず声をあげてしまう。
おそるおそる後ろを振り返ると…
タロウ「わう…?」
あいつの犬だ。
飼い主に似もせず、人懐っこくて、いつもあたしに頬擦りしてくる。
今日も白くて大きな体と顔がどんどんあたしに迫ってくる。
タロウ「わうっ♪」
月衣「きゃっ、や、やめて…」
このタロウって子が可愛いのは良いんだけど…
月衣「お願いだから…ペロペロしないで〜〜」
あたしは犬が大の苦手なのだ。
タロウ「わうっ、わうっ♪」
月衣「〜〜〜〜〜っ゛!!」
周りから見ると犬がじゃれている様に見えるけど…
あたしにとってはそんな呑気な状態じゃない。
『恐怖』
あたしの頭の中はこの一言が占めていた。
月衣「ふ…ふぇ…」
失神するか泣き出すかしかけた頃、あいつの声がしてくる。
男の声「えっと…ここか?」
ガサゴソガサゴソ…
茂みの向こうからあいつが分け入ってきた。
男「…よう、ころも」
平然とした顔で、犬に押し倒された状態のあたしに挨拶してくるこの男。
月衣「……」
対して、真っ青なあたしは声を出すこともできなかった。
男「どうした、真っ青な顔して」

この男、森川恭一(もりかわきょういち)。
ちょっと背が高くて、ちょっと顔も良くて…
少し無愛想だけど、どこか優しい。
どこにでもいる普通の学生さん。ちなみにあたしより一つ年上。
それだけならまだ良かった。
あたしはこいつが憎いのである。
理由は一つ。
月夜お姉ちゃんが今の学園に通うようになってから出来た男友達。
お姉ちゃんにしょっちゅうちょっかい出すし、神社には来るし。
何よりもお姉ちゃんが大事なあたしにとっては、はっきり言って『悪い虫』である。

月衣「………」
恭一「やれやれ。ほら、タロウ、いつまでじゃれてんだ」
飼い犬の首根っこを掴んであたしから引き剥がす。
タロウ「わう…」
恭一「タロウ、いつも言ってるだろ。危ない奴には近づくなって」
月衣「だっ、誰が危ない奴よっ!!」
恭一の言葉に、一気に頭に血が上ったあたしは立ち上がって怒鳴り散らす。
恭一「おぅ、起きた。何だ、元気じゃないか」
月衣「『何だ、元気じゃないか』じゃないわよっ! 誰のせいでこうなったと思ってんのよっ!!」
恭一「誰のせいだ?」
月衣「あんたしかいないでしょっ!!」
ビッと人差し指を目の前の男に突きつける。
月衣「そもそも、アンタがお姉ちゃんにちょっかい出すから…」
恭一「ふ〜ん…ま、いいか。とりあえずじっとしてろ」
あたしの精一杯の迫力なんて、関係無いかのように平然としている。
そりゃ…あたしはお姉ちゃんに比べれば背も低いし…胸も無いし…。
月衣「きゃっ、おシリ触らないでよっ」
恭一「騒ぐなって」
恭一はあたしの抗議を無視して、わたしの制服の背中とスカートに付いた地面の埃を手で払っていく。
ぱん…ぱん…ぱん…。
恭一「さて、こんなもんか。まだ付いてるけど、それは帰ってから自分でやってくれ」
月衣「…………と」
恭一「ん?」
月衣「ありがと…って言ってるのよっ」
恭一「ああ、そうか。声が小さいんで聞こえなかった」
月衣「悪かったわね」
恭一「まぁ、別に礼を言われることもしてないしな」

こいつはあたしに対しては始終こんな感じだ。
そっけない振りして、時々優しかったり。
今日みたいなときも、恩着せがましいことは全然言わない。
あたしとしては何ともやりにくい相手だ。

恭一「さて…ん、月夜の声か?」
言われてみると境内の方からお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
恭一「月夜に会いに来たんだろ。ほら、行くぞ、タロウ」
あたしの返事も聞かずに飼い犬を連れて、恭一が茂みを抜けていく。
ややあって、境内の方からお姉ちゃんと話しているのが聞こえる。
茂みから見ると、巫女装束のお姉ちゃんがいた。
栗原月夜『うふふ、どうしたんですか? 藪の中から出てくるなんて』
恭一『いや、お前のストーカーを退治してた』
月夜『あらあら、それじゃあストーカーさんは焚火の薪にしちゃいましょうか』
恭一『いきなり恐いこと言うな。ストーカーは嘘だ』
月夜『あら、残念。せっかくいい脂が取れると思ったんですのに』
恭一『お前な…』
月夜『うふふ、冗談です♪ それとも恭一君がストーカーなんですか?』
恭一『何で俺がストーカーになるんだよ。…それはともかく、お前の妹さんがいたぞ』
月夜『ころもちゃんですの? それにしては…』
お姉ちゃんが周りをきょろきょろ見回す。
あたしを探しているみたいだ。
恭一『どうした、出てこないのか?』
恭一があたしのいる茂みに向かって呼んでいる。

…あたしの計画は何もかも滅茶苦茶だった。
隠れていたのはあいつに会いたくないから。
あいつに会うとあたしのリズムがいつもゴチャゴチャになっちゃう。
あいつが帰った頃に、茂みを出てお姉ちゃんに会おうと思ったのに…。

月夜「ころもちゃん…?」
いつの間にか茂みの目の前までお姉ちゃんが来ていた。
すぐ後ろには恭一。
月衣「あ、あはは…こんにちは、お姉ちゃん」
観念したあたしはお姉ちゃんに苦笑いで挨拶する。
月夜「そんな所にいないで、出てらっしゃいな」
にこにこ顔のお姉ちゃんはあたしの気持ちなんて知らないみたいに言う。
あいつがいるから出れないのに…もう計画は破綻してるけど。
月夜「変なころもちゃんです」
あたしはおずおずと茂みを出る。
それを見てお姉ちゃんが不思議そうな顔をしている。
恭一「さて、俺はそろそろ行くよ」
月衣「え…?」
そんなつもり、無いはずなのにあたしの口からは残念そうな声が漏れてしまう。
月夜「あら、もう行っちゃうんですか?」
恭一「散歩の途中だしな」
月夜「これからお芋さん、焼きますのに」
お姉ちゃんが恭一の方を見て残念そうにしている。
よく見ると、生のサツマイモを何本か抱えていた。
恭一「これから晩飯作らなきゃいけないんだ。五月蝿いのがいるし…居候も増えたしな」
月夜「くすくす、もう立派に主婦ですね♪」
恭一「主婦なんて言うな…」
お姉ちゃんの言葉に恭一がゲンナリした顔で答えている。
でも、あたしには一つ気にかかっていたことがあった。

月衣「えっと…」
恭一「ん、どうした?」
月衣「居候って…?」
月夜「麻衣さんのことですよ、ころもちゃん」
恭一「説明になってないし」
恭一「ええと…どう説明したもんか…」
言いにくそうにしている恭一。
恭一「まぁ、とにかく色々な事情で、親父が勝手に引き取って来た女なんだ」
恭一「親もいないらしくて、俺も養われの身だし、仕方なくウチにいることになっちまった」
月夜「わたしたちと同い年ですから、ころもちゃんとも一つ違いですね♪」
月衣「女の人と同棲してるの?」
月夜「まぁ、同棲だなんて♪」
恭一「そこで嬉しそうにするんじゃないって」
恭一「いいか、ころも。あくまで『居候』だからな」
月夜「その子が久城麻衣(くしろまい)さんです」
月夜「おとなしくて、すごく可愛い子なんですよ」
恭一「あれはトロいって言うんだ」
月夜「くすくす。恭一君、麻衣さんのことになると、わざとそういう言い方するんですから」
恭一「…そんなつもりは無いぞ」
あ、恭一が少し照れてる。
久城…麻衣さんか…。どんな人なんだろう。
月夜「少し妬けちゃいます♪」
恭一「お前は芋でも焼いてろ。タロウ、帰るぞ」
社殿の隅で座っていた飼い犬を呼んで、神社を下りる階段に向かっていく。
恭一「じゃあ、またな。月夜、ころも」
月夜「はい、またです♪」
月衣「あ……うん」
にっこり笑って手を振るお姉ちゃんと曖昧な返事をするあたし。
そんなあたしたちを見てから、恭一が階段を降りていく。
月夜「さて、ころもちゃん。お芋さん焼きましょうね♪」
月衣「………」
月夜「ころもちゃん?」
月衣「えっ…あ、うんっ」
月夜「今日のころもちゃん、やっぱり少し変です」
月衣「そんなこと無いって、お姉ちゃん。ほらほら、焼き芋焼き芋」
月夜「きゃっ、そんなに押さなくても、お芋さんは逃げませんよ?」
月衣「いいから、いいから」
むりやりお姉ちゃんの背中を押して、社殿の奥に向かう。

ちょっとだけ階段の方を覗き見た。
あいつはもう階段を下りてしまって、姿も見えない。
『いけない、いけない。あいつが下りてった階段、じっと見ちゃってた…』
お姉ちゃんに近づかないでほしい。
もう会いたくもない。
そんな奴なのに。
何なんだろう…このモヤモヤ。