| テンソルって何?
この単純な疑問は、一筋縄ではいかない。この先は長い文章になるが、ぜひともゆっくり消化して言って欲しい。まずは、外積について話しておきたいことがある。といっても回り道ではなくて、これは王道なのだ。
あなたは、ベクトルの内積を習ったとき、妙な感じがしなかっただろうか。
なぜ、ベクトル同士を掛けているのに、実数にならなければならないのか?
例えば、整数同士を掛ければ整数になるし、実数同士を掛ければ実数になる。
それなのになぜ、内積の場合はベクトルが実数に縮んでしまうのだろうか。
もちろん、内積を縦ベクトルと横ベクトルの行列の積として見れば、これは行列同士の積が行列になっているだけだ。縦ベクトルは、横ベクトルの行列を転置して作る。
しかし、合計4つの成分が1つの成分に縮んでしまっていることに変わりはない。

そこで、内積はひとまずベクトルの積として認めないことにして、新しい合理的な積を考えてみよう。
まず、ベクトルの積として一番簡単なのは、直積を作ることである。
a =
x
+ y, b
= x
+ y (xとyは平面を張る正規直交基底)とおき、積の記号を∧と書く。すると、a,bの積(直積)は(慣習上添え字を上に付けさせて頂く)、
a∧b = ( x
+ y)∧( x
+ y) =
 x∧x +
 x∧y
+  y∧x +
 y∧y
と定義される。
2つのベクトルの直積で、それにある演算規則を付加し、x∧yのように書いたものを、さしあたりダイアディクと呼ぼう。
実は、このダイアディクに特殊な制限を加えて、一つのベクトルになるようにしたものが外積なのである。
Step 1:上の式の4つの項を2つにする
同じベクトルから作ったダイアディクは0とする(この理由はあとで説明する)。すなわち、x∧x =
y∧y = 0。この約束によって、
a∧b =
 x∧y +
 y∧x
となった。
Step 2:上の式の2つの項を1つにする
これには、次のような規則を加えれば解決する。
x∧y = - y∧x
つまり、ベクトルの順序を入れ替えると、正負が反転するのだ。この約束によって、
a∧b = ( -
 )x∧y
。
以上2つの演算規則は、外積の性質でもある。確認してみよう。
問い:a∧b = - b∧aとなることを確認せよ。
Step 3:ダイアディクを、無理やりベクトルに変える。
x∧yを新しい基底とみなそう、ということである。これには、x成分もy成分も持たないベクトルを使うしかない。すなわち、xとyに直交し、長さが1のベクトルzを、xyzが右手系をなすように取るのである。右手系とは、xからyの方向にドライバーを回したとき、右ねじが進む方向がzの方向となるxyzをいう。
(図)
これら3つのステップによって、みんなの知っている外積 a∧b = ( -
 )z
(zはa,bと右手系を作る単位ベクトル)が完成された。
しかし、ダイアディクから、内積を作ることだってできる。上の場合と比較しながら、その過程を見てみよう。

Step 1:4つの項を2つにする
外積を作ったときとは、逆の操作を行う。つまり、違うベクトルから作ったダイアディクを0とする。すなわち、x∧y
= y∧x = 0。この約束によって、
a∧b =
 x∧x +

y∧y
となった。
Step 2:ダイアディクから実数への写像を取る
ダイアディクから実数への写像を定め、x∧x = y∧y = 1と対応させる。すると、この約束により、
a∧b =
 +
 
となった。記号を変えて、a・b =
 +
 。これはまさに、みんなの知っている内積である。

この2通りのStepを見比べると、内積と外積がどう違うのかが見えてくると思う。つまり、別に
内積は a・b =
 x∧x +
 y∧y
外積は a∧b = ( -
 )x∧y
と定義したっていい。しかし、これでは計算に役立てることができないから、上のような各Stepを経てベクトルや実数にするのである。
それでは、なぜ内積は実数にし、外積はベクトルにするのか?その答えは、利用目的の差にある。

内積の利用例 〜ベクトルの長さ〜
ここでは、内積はまだ a・b =
 x∧x +
 y∧y で定義されているとする。
式を見てわかるのは、内積とは同じ方向のベクトルの積を表す量だということである。
高校で習う内積の定義式は
a・b = |a||b|cosθ
であり、確かにaとbが同じ方向のときに最大値・最小値をとる。
いわば、内積は、「2つのベクトルがどのくらい同じ方向を向いているかを判定するための道具」なのだ。
その証拠に、ベクトルの長さ|a|は
|a| = √a・a
で定義され、2つのベクトルのなす角θは、
cosθ = a・b ÷ |a||b|
で定義される(この式から高校での定義式 a・b = |a||b|cosθが導かれるといってよい)。この
長さの定義と角の定義は、一般のn次元でもそのまま用いられる。
内積は"2つのベクトルの同方向度"を表す度合いであるから、実数の値をとるのが望ましいわけだ。x∧y
= y∧x = 0とした理由も、なんとなくわかるような気がしませんか。
外積の利用例 〜平行四辺形の面積〜
ここでは、外積はまだ a∧b = ( -
 )x∧y で定義されているとする。
式を見てわかるのは、外積とは違う方向のベクトルの積を表す量だということである。
外積の大きさは、 -
 である。これは、x-y平面上でベクトルaとbが張る平行四辺形の面積になっている。幾何の公式だが、どこかで習った記憶がないだろうか。
つまり、aとbの外積をとると張る平行四辺形の面積が得られる。もしaとbが同じ方向を向いていれば、面積は0だ。aとbがずれていればいるほど(直角より大きいと減少するが・・・)、平行四辺形の面積は大きくなる。
(図)
絵を描けばすぐにわかるように、平行四辺形の面積は
|a||b|sinθ (= a∧b)
とも書ける。なんと、内積とは対照的な式になっているではないか!
この例では面積という方向を持たない量を扱ったので、外積がベクトルになる必然性はわからないかもしれない。そこで・・・

外積の利用例その2 〜角運動量とローレンツ力〜
実験結果を何よりも尊重するのが物理という学問であるが、平面内を運動する物体の角運動量は、観測結果によれば次のように記述される。物体の回転中心に対する位置ベクトルをr=(r1,r2)、速度ベクトルをv=(v1,v2)とするとき、
L = r1v2 - r2v1
覚えにくい。そして使いにくい。さらには、3次元への拡張がしづらい。そこで、
L = r∧v
によって定義する。この定義は3次元の場合も事実に合致する。
角運動量の例ではLをベクトルにする必然性がまったく感じられないが、物理では次のような力が存在する。
磁場の中を電荷qを持った粒子が運動するとき、粒子はローレンツ力という力を受ける。ローレンツ力の向きは、粒子の速度ベクトルvと磁束ベクトルBに対して右手系を作る向きで、その大きさFは、
F = q(v1B2 - v2B1)
である。
ところが、こんな複雑な定義を、簡単に書き表す方法がある!そう、ここが外積のベクトル量としての本領を発揮するところだ。
F = qv∧B
向きまでが、式の中で表現されている。便利である。
高校生の人は、これを機にフレミング左手の法則なんていうものを使うのはやめて、「ブイクロスビー、ブイクロスビー」と覚えておくことをお勧めする。こっちの方が覚えやすいと思わないかい?
同じことが、ファラデーの電磁誘導の法則にも使えますが、これについては「自己流」を確立している人が多いので
、押し付けがましいことはやめておこう(欲しい人は、ローレンツ力による電子の移動によって電磁誘導を説明してみればよい)。
今までの流れをまとめると、最初に「合理的なベクトルの積」を定義しようとして、それはベクトルの基底の直積、ダイアディクになった。つまり、合理的に考えればベクトル積は直積に過ぎなかったのである。そこから、
道具として内積と外積の2つのあり方を取り出した。
内積は同じものを計り、外積は違うものを計る。
今までの内積、外積の捉え方がちょっと変わった気がしないだろうか?! |