| この原稿を書こうとしてから数日になるが、非常に苦しい。
もう一度相対論の復習をしようと思い立ち、参考書をめくってみたところ、これがあまりにもよく書け過ぎているのである。それは、ランダウの「場の古典論」である。
私がどんなに平易に、そして上手に相対性理論の説明をできたとしても、この本を越すのは不可能であろう。もしそれが可能であるとすれば、そっくり同じ形になってまるっきりの盗作となってしまうであろう。それほどの名著なのだ。
そこで、ここでは相対性理論のアイディアと流れに絞った解説をする。詳細は「場の古典論」で勉強して欲しい。
このサイトをここまで理解できたのなら、最初の100ページ弱ぐらいは理解できると思う。
ここでは「場の古典論」以前のレベルで、本格的に相対性理論を勉強したい人にも、とりあえず数学の側から物理を眺めて見たい人にも役に立つような解説を目指したい。

さて、特殊相対性理論のアイディアを概観する。
特殊相対性理論は、2つの原理をはじめに仮定して、そこから演繹的に導かれる理論である。それは、
@光速不変の原理:光速はどの慣性系から観測しても一定である。これは実験事実である。
A特殊相対性原理:物理の方程式は、どの慣性系でも破綻しない。これは物理学の基本的な要請である。
のふたつである。
すぐにわかるように、Aを実験で確かめるすべはない。しかし、これが成り立たなければ物理という学問は存在し得ない。なぜなら、われわれが立っているこの地表自体が、高速で宇宙の中を移動する慣性系であるからだ。しかも地球という慣性系の速度は時々刻々変化するだろう。すなわち、どの慣性系でも物理の方程式が成り立つという仮定は、地球上で物理が適用できるためにも必要になる。
さらにAは間接的に確証することができる。さまざまな実験値が相対性理論の正しさを保証するために、Aが正しい仮定であったと言う事がわかる、といえる。
この章では、特殊相対性理論によって書き直されたニュートン力学について説明する(すなわち、電磁気学と重力とを除く)。光速不変の原理を突き詰めていくと、ニュートンの運動方程式は異なる慣性系では成り立たないことになってしまう。つまりこれまでの運動方程式はLorentz不変ではない。Lorentz不変とは、Lorentz変換(ある慣性系から別の慣性系への変換)のもとで常にその方程式が成り立つという性質である。つまり、4次元中の座標変換を行うと、ニュートンの方程式は破綻してしまうのだ。
よって、ニュートンの方程式を、まず共変形式に書き直さなければならない。共変形式とは、Lorentz変換によって両辺が同じように変換されるため、等号が常に成り立つ方程式のことである。Lorentz変換で不変な物理量をスカラーというが、方程式が座標変換の元で常に成り立つためには、必ずしも両辺がスカラーである必要はない。両辺が共変であればよい、というわけである。
といっても、その両辺はどのような変換性を持つというのだろうか?ここで勘のいい読者は、今まで何のためにテンソルを勉強してきたのかに気付くであろう。これから、
予想1 全ての物理量はテンソルである。
を証明するのである!

はじめにLorentz変換をきちんと定義しよう。"座標変換とは何か"の章で見たとおり、この慣性系同士の変換は行列で表現できて、さらにそのうちの独立成分は6個に限られる。一般にLorentz変換の定義は、
定義:Lorentz変換 4次元中の距離を不変にする変換をLorentz変換という。
である。これは、光速不変の原理の帰結である。どういうことかというと、光を表すベクトルの大きさ(=c^2dt^2-dx^2-dy^2-dz^2)は、慣性系の種類によらずゼロのままである。よって、4次元中のベクトルの内積はスカラーでなければならず、ミンコフスキー空間内で内積を保つ1次変換をLorentz変換と定義するのである。
一方、Lorentz変換といえば、よく知られている公式

がある。いわゆる、動いている物体の長さは縮む、というヤツだ。ということは、上の定義はこの定義とは異なるものなのだろうか?実は、これは上の定義から直接に導かれるのである。つまり、不思議なことに4次元中の距離を不変にする変換の形は、必ず

にならねばならない。この事実の導出は、「場の古典論」で見事になされている。
これから、物理量のLorentz変換性を求める。まず、われわれが確実に変換性を知っているのは、上のような4次元の位置ベクトルの変換性だけである。これは、反変ベクトルだ。このことを示すには、反変ベクトルの定義を思い出せばよい。

一方、ローレンツ変換の行列は次のとおり。

ゆえに、

が確かに成り立っており、4次元座標は反変ベクトルであることがわかる。共変ベクトルも簡単に作ることができる。"添え字の上げ下げ"で説明したとおり、ミンコフスキー計量をかけて、

を共変ベクトルであるとみなすことができるからだ。この考え方は便利である。

4次元座標が反変ベクトルであるということは、時間も伸び縮みする、ということだ。われわれはいわば神の視点から世界を眺めようとしているわけであって、少なくともスカラーであるような時間が欲しい。これを、慣性系の固有時という。

このように定義された固有時"τ"は、Lorentz不変である。
固有時は世界距離と同義である。
そもそも、時間を止めた世界である4次元時空に、基準となるものは存在しない。そこで、基準を時間ではなく、世界距離とするのである。これだけではわかりにくいかもしれないが、次のように考えよう。
固有時は英語で"proper
time"という。ニュートンの運動方程式は、微分によって得られる関係式であった。しかし、相対性理論では時間を空間と対等に扱うため、これまでの定義による速度は適切でない。Lorentz変換を行うと時間は伸び縮みしてしまうから、位置ベクトルから速度ベクトルを得るには、時間ではなく固有時で微分するのが適切なのである。また、速度から加速度を得るのにも固有時で微分する必要がある。properとは、こういうことだ。しかし、このままでは何を固有時とするべきかがわからない。
粒子の軌跡は4次元時空の中で、世界線という1次元の曲線を描く。曲線の幾何では、弧長を唯一のパラメータとして接ベクトルなどを考えた。そして、4次元の中ではその弧長は世界距離にあたるではないか!そのため、世界距離で微分することが適当なのである。
今までやったことをまとめる。まず、光速不変の原理と相対性原理を認め、Lorentz変換を導いた。そして4次元の座標が反変ベクトルであることを見た。これは3次元の距離だけではなく、従来の時間までも伸び縮みするということである。ニュートンの方程式は、微分によって記述されているから、伸び縮みする時間で微分はできないことがネックとなる。よって、スカラーの時間"固有時"を定義した。
今の時点では2つしか変換性のわかった物理量がない。しかし速度が位置ベクトルの微分で得られたように、ミンコフスキー空間内の速度、すなわち4元速度も固有時による微分で得ることができるわけだ。4元速度は

で定義される。スカラーで割っているのでこれも反変ベクトルのままである。
4元速度の単位は従来の速度とは異なるが、cをかければよいだけなので問題ない。今問題になっているのは、物理量の持つ変換性なのだ。cはスカラーであり、後からかけても変換性は変わらない。
同様に、4元加速度を

と定義する。これも同様に反変ベクトルである。
さて、時間、距離、速度、加速度の変換性がわかった。あとは質量の変換性だけである。これだけあれば、ニュートン力学は完璧に記述できる!
質量というものの位置づけを、物理をやらない人に説明するのは難しい。質量とは、運動量と速度を関係付けるための単なる定係数なのである。通俗書では運動している物体の質量が増えるという記述がよく見られるが、増えているのは運動量であって、質量はスカラー扱いであることに気をつけよう。何故このように運動量だけが増えるのかといえば、物理をやっている人ならば、質量はラグランジアンから求めた一般化運動量によって決められる「係数」だからだといえばわかってもらえるだろう。物理をやっていない人には悪いが、質量は運動量を速度で割って導かれるもの、と思って欲しい。
この運動量を求める仮定は大変で、解析力学についての知識が必要になるので物理的な途中仮定は省略すると、運動量とエネルギーをあわせた4元運動量が

ともとまる。これは反変ベクトルである。
以上により、ニュートンの運動方程式が、次のようにもとまることとなる。まず古い方程式は、

アナロジーに注意すると、新しく得られる共変形式の運動方程式は、

となる。fiを4元力という。質量のエネルギーも新しいものとなり、

すると、v=0とすることによって、有名な質点の静止エネルギーの式、
E = mc^2
が求まる。ここまで出てきた式は、全て両辺が反変ベクトルになっており(例外的だがエネルギーも!)、座標変換(Lorentz変換)しても等号が成り立つことに変わりはない。ゆえに共変形式の力学が完成したといえる。各物理量がどのようなテンソルかもわかった。方程式の等号は、確かに同じ種類のテンソル同士を結んでいる。相対性理論は、こういう仕組みになっているのだ。

相対論が予告した式 E = mc^2 は、核分裂の発見により後に立証されることになる。 |