〜ベクトル場としての生成子〜

 

  

  前回では、相対性原理がポアンカレ群により不変な関数の理論として定式化された。その際、ポアンカレ群の"ジェネレイター"は10個あり、

Kx Ky Kz Lx Ly Lz Pt Px Py Pz

であった。ちなみにtをxyzより先に書いたのには意味があり、計量として

diag(1,-1,-1,-1) (diagは対角行列の意味)

を用いることを暗示している。


  ジェネレイターは4次元多様体上の"ベクトル場"である。 すなわち、成分が多様体上の関数になっているようなベクトルが、各点に付随する写像である。このことは、Lxにyやzなど、位置に依存する関数が含まれることで分かる。 今回の例のように、"いたるところ平坦"な場合はミンコフスキー時空と呼ばれる。ちなみにこれは、歴史に即した呼び方ではない。時空回転の作用する空間として最初に4次元時空を導入したのは、アンリ・ポアンカレの1904年の論文であり、ミンコフスキーより早い。

  さて、面白いのはいたるところ平坦な場合ではなく、"局所的に平坦な場合"である。すなわち、時空が局所的な4次元ポアンカレ空間のパッチワークであるような場合だ。このような空間のパッチワークを微分可能多様体と呼ぶが(以下略して多様体)、多様体にはベクトル場が付随する。そのベクトル場として、これらジェネレイターはどのような役割を演じているのだろうか。

注)空間がパッチワークである、とは一体なんだろう?それは、非常に近い2点を考えるとその 2点の近くに取った部分集合が共通部分を持つように取ることが可能で、ゆえに多様体を覆い尽くすことが出来る ということである。この、いつでも近傍が交わる(ようにできる)という仮定がないと、空間を覆い尽くすことが出来ないことに注意してもらいたい。R^m自身を覆うには、R^m自身を使ってよいから1個で覆える。1個で覆えないのは、例えばドーナツのような場合である。また、通常パッチワークのパーツは全て同じ次元mを持ってなければいけない。これは、パッチワークのパーツ同士を結ぶ座標変換のヤコビアンが常にゼロで無いという仮定に等しい。

 

  注が長くなってしまったが、微分可能多様体上には1次元部分集合として曲線c(s)が考えられる。これはsの区間[0:1]から多様体Mの上への写像である。c(s)∈M。すると必然的に、これを数直線とみなしてその上での微分が定義できるだろう。何を微分するかというと、多様体上の関数f(c(s)∈M)を微分するのである。この演算子はvと書く。

v[f]=d/ds(f(c(s)))

  v[f]はベクトルではなくただの実数になるはずである!なぜならば、これは曲線が直線になる極限で、"数直線上のf(x)の微分"に戻らなければならないからだ。このように、関数を実数に対応させる写像を汎関数(functional)といい、通常の括弧()ではなく鍵括弧[]を使うのが通例である。ちなみに関数を関数に写像するものは作用素といい、汎関数ではない。これは(形式的に)合成微分で計算できる:

d/ds(f(c(s)) )=dc/ds*df(x)/dx=dc/ds(s0)*f'(c0) (c0=c(s0)なる定点)

  v[f]を曲線cに沿ったfの方向微分という。気をつけてほしいのは、微分多様体には必然的に方向微分の概念が導入可能であるということである。つまり、方向微分はどのような空間にも付随する必然的な概念なのだ。ということは、ジェネレイターも方向微分の一部であると都合が良い。なぜなら、ジェネレイターは相対性原理を4次元時空で仮定することにより必然的に生じたからだ。ジェネレイターを方向微分として生成する曲線を、ジェネレイターの積分曲線という。

 

  予想されることは、積分曲線上では何かが一定であるということである。しかし、今の積分曲線の定義は

方向微分としてジェネレイターを導く4次元中の曲線

である。この隔たりは大きいし、関わりは曖昧である。v[f]にはdc/dsという項がかかっているが、cとは多様体上の点であ り、微分が定義されているわけではない(むしろ今、定義しようとしているところである)。それでは、dc/dsは何を意味しているかは分からないではないか!積分曲線を求めるためには、速度ベクトル場という概念を明確化する必要があるのである。この速度場を正しく理解していないと、一般相対性理論も理解不能なので頑張ろう。

 

 

 

  

  さて、見通しを良くするために整理してみよう。まず前回の内容から、4次元時空に相対性原理を入れると10個のジェネレイターと呼ばれる微分作用素が存在する、ということが言える。そして、それは曲がった時空、すなわちパッチワーク空間の場合も考慮に入れると、多様体上のベクトル値関数のようなものであることがいえるだろう。

  一方、多様体には必ず方向微分という概念が付随する。我々は今、この二つを結び付けようとしている。いわば、必然と必然とを結びつけるのが目的というわけなのだ。この二つの結びつきは、積分曲線を求めれば終了する。しかし、まずは方向微分の式を見つめなおすことから始めよう。

dc/ds(s0)*f'(c0)

  前半の項dc/ds(s0)と後半の項f'(c0)の積は実数でなければ困る(vは汎関数だ)。しかし、前半の項には曲線をsで微分するという意味が曖昧であるという問題があり、後半の項は多様体上の関数の導関数を、導関数を多様体上に拡張したもので置き換えてよいのかという問題がある。

φ:x→Mのとき f'(M)=f'(φ(x))???

  これで問題は浮き彫りになった。何が問題の根源か分かるだろうか?しばし考えてもらいたい。さあ、画面の前で少し考えてみようではないか。

・・・わかった?

もう少しまとう。

 

答えは、多様体上の点cが座標を持っていないことである。

それならば、多様体に局所座標を入れることで解決してやろう。

 

  残念ながら、局所座標という概念をここで説明する暇は無い(知らなくても以下を読める気がする)。とても簡単かつ面白い概念なので、多様体の本を当たってほしい。松本幸夫「多様体の基礎」などは内容に比して高いが、高校生で十分読めるくらいファンダメンタルである。もしくは、ネットで検索すると出てくるかもしれない。

 

  局所座標、φ:M→R^m=(x1,x2, ... ,xm)を考えよう。すると多様体上の曲線c(s)をφで移すことが出来る。

φ(c(s))=:c'(s) on R^m

  c'は、R^m上の曲線である。それならば、上で問題になった第一項dc/dsは

dc'/ds=(dc'1/ds, dc'2/ds, ... , dc'm/ds)

  これは、各成分を微分したベクトルである。また、第二項f'(c)は

f'(c')=f'(c1, c2, ... , cm)=grad(f)

  とするのが妥当である。よって、結局汎関数v[f]の値は、

v[f]=d/ds(f(c(s)))=dc/ds*f'(c):=d(φc)/ds*(fφ)'(c)

(dc'1/ds, dc'2/ds, ... , dc'm/ds)・grad(f)=v・grad(f)

  最後の積は、m次元ベクトルの内積である。これは、通常の全微分の公式と対応している!これで、上に挙げた2つの問題が2つとも解決された。grad(f)は、fの関数形から従い曲線によらない。よって、曲線への依存性は曲線の速度ベクトル、

(dc'1/ds, dc'2/ds, ... , dc'm/ds)

集中している。だから、最初から汎関数をv[f]と書いたのである。このvを、速度ベクトル場という。

  曲線c'にとってvは速度ベクトル場であり、vにとって曲線は積分曲線である。c'とcの違いに注意すると、vはパラメトライズの仕方に依っている。これに、注意しておこう。だから、もし違う局所座標ψを

ψ(b(s))=:d(s) on R^m

ととるならば、新しいv→wは、ヤコビアン(ヤコビ行列)を使って

w=(db'1/ds, db'2/ds, ... , db'm/ds)

=d(dc/db)(dc'1/ds, dc'2/ds, ... , dc'm/ds)=d(dc/db)v

となるわけである。このように、座標変換c→bに対して、ヤコビアンの分母にbが来る量を、反変ベクトルという。vは反変ベクトルである。さらに、v[f]を分解すると

v[f]=v・grad(f)=Σvk(∂/∂xk) on f

(和はkについてとる)となり、vは汎関数でなく作用素Σvk(∂/∂xk)としても理解することが出来るとわかる。このように、作用素として理解したvの作る作用素空間を、接空間という。

 

 

 

 

  よって、ジェネレイターは反変ベクトルであり、(さらに作用素であるから)接空間の元であるということになる。長くなったから、積分曲線は次章で求めよう。4次元時空では結局c'=cとみなせるが、パラメトライズの影響が隠れていることを常に念頭に置こう。この章は重要であるから、よく復習しておいてほしい。

 

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