内乱〜フラウィウス朝

 

「今回はネロ帝死後の内乱から始めます。これは帝政ローマ最初の危機ですが、誰も共和政に戻そうなどという意味不明な妄言は言いませんでした」

「おや、カリグラやネロなどという皇帝が出てきたというのに、その態度なんですか?」

「広大になったローマを真面目に治めようと考えたら、もう帝政しかないことを納得したんです。今更、共和政に戻すなどということは誰も考えもしなかったんです。勿論、制度にいささか不備があるのは認めますが」

「その不備とは?」

「それはおいおい語っていくことにします。

 最初に皇帝となったのがガルバです。古くからの名門出身ですが、それほど有能な人物ではありません。自分を支持してくれた兵士や市民に金をばら撒かないどころか、ネロ帝時代にばらまかれた金品を返却するようになどという無茶な命令を出した挙句に協力者の意向を無視して有力な貴族の子を後継者にしようとして結局殺されてしまいます」

「無能じゃん」

「ええ。あなたは本当に七十を越えていたのか、と問いたくなるくらいに常識と状況判断能力に欠けていたとみるべきでしょう。ですが、人望はあったらしく「皇帝にならなかったなら、いつまでも帝位につくべき人とみなされたであろう」と評され、晩年のアウグストゥス、ティベリウスがともにガルバが老いてから短期間政権につくことを予見していたと言われています」

「それより、金をばら撒くんですか?」

「賄賂じゃん」

「ええ。これは共和政時代からの伝統です。これまでのユリウス・クラウディウス朝の皇帝だって、即位するたびに兵士と市民にお金をばら撒いていたんですよ」

「中国よりも賄賂が横行してるんじゃ……」

「仕方ありません、伝統ですから」

伝統なら仕方ありませんね」

「そうね、伝統ですから」

「で、伝統なら何でも許されるのね」

「民族の伝統とは、人間の体質と同じく、そう簡単に改められるものではありません。もう、仕方ないことなんです」

「このガルバの次に即位したのが、オトー。ネロ帝が女を寝取るために地方に追いやった男です。それがむかついて、この機にネロをぶっ潰してやろうと考えた一人で、ガルバにしたがってローマに攻め上っていました」

「女を寝取るために……」

「生々しいというかなんというか」

「ですが、喜んでいるのも束の間。そのころ、ゲルマニア軍の司令官ヴィテリウスが皇帝に名乗りを上げてローマに進軍している真っ最中だったんです。ヴィテリウス本人は皇帝になるつもりはなかったようですが、ガルバのアホが近所の司令官を解任していたせいで、そこの兵士が彼を皇帝に擁立しました」

「本当に無能ね」

「両者の指揮能力は決して高くありませんが、ローマ軍最強と言われているゲルマニア軍を率いている分、ヴィテリウスが有利です。元老院は勝ったヴィテリウスを皇帝にすることを認めます。本当に脊椎反射で動いてますよ。この連中」

「どんどん受身になってきますね」

「まあ、自前の軍を持たない時点でこうなるのは避けられないんですけどね。気分はほとんど『実はもう、イタリア人?』です」

「そういえば、ムッソリーニが私兵集団を率いてローマに来た時、イタリア政府は彼に国家再建を頼んだと聞きます」

「このヴィテリウスも前任者二人と大差のない能力しかもっていません。オトーを支持していたドナウ軍団に、過酷な処罰を加えて恨みを買い、ユダヤ総督の皇帝即位宣言を引き起こしてしまいました」

「この三人、本当に似ているな。無能なところが

「このユダヤ総督こそ、内乱を終結させる、ティトゥス・フラウィウス・ウェスパシアヌスvespasian.gif - 10165 Bytesです。イタリアの地方都市出身の、あかっぽさの抜けきらない田舎ものです」

「ああ、トイレ税の人ですね」

「トイレ税?」

「汚い響きがするわね」

「彼は皇帝就任後、尿にまで税金をかけたんです。といっても、勘違いしないでください。彼はトイレの使用税ではなく、繊維業者が溜まった尿を使って羊毛の油脂をとるのに使っていたのに税金をかけたんです。おかげで今でもイタリア語で公衆トイレは "vespasiano" と言うんです」

「それでもやりすぎ」

「いえ。お金に貴賎はありません。例えば、このお金、匂いますか?」

「言いたいことは分かりますけど……」

「これはですね、コカインを売って稼いだお金なんです」

「そこまでして稼ぎたいんですか!!!???」

「そんなこと埋葬機関だってやってません!!」

「では何を?」

「せいぜい、教義を信じる純真な子供達を紛争地帯に……て、何言わせるんですか!?」

「傭兵? そんなものが使い物になるんですか?」

「大丈夫です。たくさん殺して死んだら天国にいけると教えてあります」

「な、なんということを」

「外道です」

「そ、それより問題なのはコカインのことです」

「誤魔化した」

「嫌ですねえ、冗談に決まってるじゃないですか」

「そ、そうなんですか」

「でも、お金は匂いませんよ」

「いかがわしいを通り越して汚いものに見えましたよ」

「やっぱり、稼ぎ方も大事よね」

「ふん、我ならどこからともなく金が手に入るから稼ぎ方など気にはせん。どんな金でも構うまい」

「リンが聞いたら怒り狂いそうな台詞ね」

「いくらでも怒らせておけ。我はあんな雑種に遅れはとらん」

「ところで琥珀」

「なんでしょうか? 秋葉さま」

「本当に冗談?」

「冗談に決まってるじゃないですか、秋葉さま」

「なら、いいんだけど」

「さて、彼はネロ帝のコンサートで居眠りをして、自他ともにこれ以上の出世は望めないと考えていましたが、当時起きていたユダヤの反乱にかり出されていました」

「コンサート?」

「ええ。ネロ帝はギリシア文化に傾倒していました。またローマでオリンピックを行おうと思っていたようですが、あまり相手にされていなかったようです。彼自身は自惚れられるくらいの才能はあったらしいですけど」

「ていうか、またユダヤ? いつの時代も瓦版を騒がせないと気がすまないのかしら?」

「ローマがユダヤと関わりを持つ様になったのは、ポンペイウスがセレウコス朝シリアを滅ぼしてからです。その時から商業民族としてユダヤ人は非常に優れていたようです。ギリシア人と揉め事を起こすのが悩みの種ですけど」

「ユダヤが問題を起こすのはいつものことです。そこでカエサルはそのユダヤに、ギリシア人と同じだけの特権を与えました。カエサルが死んでユダヤだって悲しんだんですよ。

 そして、イスラエルをユダヤのヘロデ王に委ねます。勿論、ローマの属国ですけどそんな贅沢を言う余裕はないのです。でも、ユダヤの主張する彼らの「特殊性」を可能な限り認めました。

 すなわち、社会不安にならない限りの信教の自由。海外ユダヤ人のエルサレムへの奉納金送金の継続。死刑以外の法執行の自治。軍務その他の国家の公職の免除。毎土曜日の安息日の継続」

「寛大ね」

「まあ、場所柄上嫌でも騒動の種になるのですから、仕方ないんです。無意味に反乱を起こされても困りますし。ただ、ローマ人はユダヤがあまり好きではなかったようです」

 

 タキトゥス『同時代記』

 割礼は他の民族と区別するため、一神教は他の多くの神々への軽蔑から生まれた信仰、軍務や公職の拒否は帝国への愛国心の欠如、人口増に熱心なのは他民族を追い抜く考えから、人間に形をとった神像の崇拝を偶像崇拝として拒否するのは人間への軽蔑以外のなにものでもない、舞踏もなく体育競技もないユダヤ教の祭式は陰気でうっとうしくて人生を絶望させる・・・。

 

「ぼろくそ言ってる」

「やっぱり気に入らなかったんでしょうね。当時駐在していたユダヤ長官が、属州税の滞納分の代わりとして、エルサレムの大神殿の宝物庫から17タレント(庶民560人分の年収)の金貨を没収したのを発端として、反乱が勃発しました。これに刈り出されたのが、ウェスパシアヌスなんです」

「王はいないんですね」

「このころにはもう、ユダヤはローマの属州だったんです。勿論、前述の自治は認めていましたけど、一神教による神権国家などという意味不明なもの、認める気はありません」

「勿論、ローマがユダヤを叩きのめして終了します。六十万から百十万人のユダヤが殺され、エルサレム大神殿は燃やされ、ユダヤの奉納金は、以後、ローマのユピテル神殿に納めると変えられます。エルサレム自治機関は廃止され、ローマの一万の兵力を常駐させることになっちゃいました」

「当然の処置だな」

「ですが、あれだけ殺すというのはどうかと思います」

「そうか? あれだけ譲歩してやっただけでも感謝されるべきだ。我なら禍根が禍根が残らぬよう、一人残らず八つ裂きにする」

「貴方は!! 民を一体なんだと!!??」

「反乱を起こす民は民ではない。敵だ」

「喧嘩は後でよろしくお願いしますよ。お二方。さて、ウェスパシアヌスはウィテリウスをぶちのめして、ローマ唯一の皇帝となります。ところで、ここまでで、どれくらい時間が経っていると思いますか?」

「三人も皇帝が代わったんだから、三年くらい経っているんですか?」

「実は、一年くらいしか経過していないんです」

「な、なんだって!!!」

「このあたりが、この三人の皇帝がアンチクロスに名を連ねなかった原因だと考えられます。たった一年で、なかには二ヶ月しか皇帝になっていないという脅威の男も存在しています」

「それ以前の問題よ」

「年に三回も帝国政府が倒れるんですか?」

「こんな頼りない国、見放したくなるのが人情というもの。最初はローマの建て直しを図っていたガリア人たちが帝国を建国しようとしたのもある意味当然です。これでよく、帝国最後の一年にならなかったと思います」

「そんなんでよく、わたしが産まれる少し前まで存続していましたね」

「つぶれないことに関しては、最高の国家ですから。伝説上の建国からコンスタンティノーブル陥落までを合わせるなら二千年を超える異常なほど長命な国家です」

「その数え方はかなり無理があると思いますが」

「それ置いといて、続けますよ。ローマ本国が内乱やってる隙に独立しよう、ということです。言い出しっぺはゲルマン系のユリウス・キビリスですが、ガリアの諸部族はこの誘いを断ります」

「せっかくの独立の好機だというのに、なにをしているんです?」

「ゲルマン系がライン川の向こう側から他の部族を呼び寄せているんですよ? カエサル以前のガリアがゲルマンにひどい目に合わされていたことは事実ですから。それに、前回も言った通り、ガリアはローマにメロメロなんです」

「ゲルマンよりローマのほうがまし、ということですか?」

「ちょっと、ましってなんなの? ましって?」

「ええ。ウェスパシアヌスが早々に内乱を終結させたことも、その要因でしょう。勝てない喧嘩はしないに限ります。ガリア帝国は現地の住民からいち早く見捨てられ、あっというまにきえてなくなっちゃうんです」

「つまり、このころからフランスとドイツは仲が悪かったということかしら?」

「ええ。ただ、このころはまだイギリスとの仲はさほど悪化はしていません。ガリアで反ローマに立った連中はブリタニアに逃げ込んだりしてしますから」

「連中が手を組んでたの? 今では火星人が侵略してもありえないんじゃないかしら?」

「それほどまでに仲が悪いのか? あの欧州三大国は?」

「連中の諸行を知らないんですか?」

「我は我のことにしか興味はない」

「そう言うと思いました」

「それでは、どれだけ仲が悪いのか、再現してみましょう」

 

 

 セイバーとシエル、イリヤは三人でテーブルを囲んで茶菓子を食べていた。みるみるうちに減っていく菓子は最後の一つとなり、それにシエルとイリヤが手を伸ばした。

 互いにそれを狙っていることに気付いた二人は火花を散らす。まず、シエルがイリヤの油断を誘うために話しかける。

「ところで、あなたの国で飢饉があったそうですね。お見舞い申し上げます」

「どっかの国が三十年戦争を煽りまくらなきゃああはならなかったわ」

「我々のせいだというのですか?」

「それ以外にどう聞こえるの?」

「わたしが思うにですね、飢饉はドイツ人自らが招いたことです。強力な軍団を編制してね」

「わたしたちにだって、自衛の権利はあるわ」

「我が国を非難しておきながら、同じことをするというのですか? ゲルマンも進化したものです」

「なんですって!!」

「飢饉は神の恵みだと思うんですね。余剰人口を減らすのに丁度いいんじゃないんですか?」

「だったら、貴女もその余剰人口の一人にしてあげようか?」

「脅しですか!?」

「ええ!! 脅しよ!!」

「あなたなんか、地獄に落ちろ!!」

「あんたこそ、カレーに溺れて溺死しなさい!!」

 

 二人が言い争っているさなか、最後の菓子に一本の腕が伸ばされる。

 

「あ、これもらいます」

 

 美味しそうに頬張ると、セイバーは和室から出て行く。取り残された二人はさっきまでの言い争いを忘れたように同調し、同時に胸の憤りを噴出する。

 

「「こうなったのはあいつのせいだ!!!!」」

 

「これが三十秒で分かるイギリスとフランス、ドイツの関係です」

「誇張が入ってません?」

「それは認めますが、概ね間違いありません」

「それより、なんで私が悪党なんです?」

「イギリスだし」

「二枚舌だし」

「他のヨーロッパの国々はイギリスをその一員だって思っていませんし」

「ぶ、侮辱です!!」

「誰もセイバーさんのことを言ってはいませんよ。セイバーさんの伝説をもち、セイバーさんに治められたブリタニアの住民の、セイバーさんから影響受けた紳士たちの精神構造を非難しているだけです」

「何強調しているんです!!」

「さて、セイバーさんは無視して続けますよ。内乱とガリア帝国、ユダヤを打ちのめしたウェスパシアヌスは元老院に自身の権力をユリウス・クラウディウス朝時代の皇帝たちと同等のものであると認めさせ、元老院は皇帝の完全な追認機関でしかないと成文化し、皇帝をくびにするという権限すら奪ってしまいます」

「ちょっと待って下さい」

「なんです?」

「それはつまり、誰にも皇帝をなんとかする方法と言うものはなくなったということですか?」

「ええ、ローマ皇帝をなんとかするには、もう暗殺しかなくなったということです。くび=死であることは、『国家の敵』決議の内容から明らかですが、これではまず暗殺してから話を進めるという考えられる限り最悪の政権交代をしなければならないことが宿命づけられました。これこそ、帝政ローマ最大の構造上の欠陥です。事実、コンスタンティノーブル陥落までの自称を含めて178人の皇帝のうち、内乱が原因で自殺したものや殺されたものは、見方の違いもあるのでしょうが、七十人を越えています」

「殉職率が四十パーセント近いですよ」

「いえ、戦死した皇帝もいますから、もう少し高くなるかと思われます」

「そ、そんな国、聞いたことない」

「彼の法は後のローマの歴史に多大な影響を与えたと言い切ってもいいでしょう。勿論、これはかなり悪い面ですけど」

「本当に、よくこれで存続しましたね」

「ですから、官僚がしっかりしていたんですよ。強固なシステムは統治者の空白を埋めることが出来るんです」

「私の存在意義を考えさせるようなことをよくまあ、そこまで誇らしく」

「理想は英雄の必要ない社会ですから。あなただって、それを目指していたんでしょう?」

「それはそうですが」

「それに、帝国は広いんです。アホがなにやってても、地方にはあんまり関係ありません。

帝国の財政を健全化したウェスパシアヌスは現在では最良の国税局長官と呼ばれるだけの業績を残し、死後神格化されます。このあたりから元老院からよっぽど嫌われない限り、神になれるようになりました」

「どこかの国の宗教を見ている気分です」

「さすがにあれには及びません。人間がローマで神格化されるのはせいぜい、皇帝くらいです」

「次の皇帝が彼の息子ティトゥス・フラウィウス・ウェスパシアヌス。通称ティトゥス。ポンペイで有名なヴェスヴィオ火山噴火でほとんど災害処理に皇帝在任期間を忙殺された皇帝です。彼は統治期間が短いうえに、特に変なこともなかったので、はしょりますよ」

「うわ!! 可哀想」

「仕方ありません。父と弟が目立ちすぎるんです。まあ、当初は評判悪かったみたいですけど、やってみると意外といい皇帝だった。くらいに憶えておけば間違いはありません」

「こうして、兄の早死にで出てきたのがティトゥス・フラウィウス・ドミティアヌス。通称ドミティアヌスdomitian.gif - 7908 Bytesです。まず、皇帝となる望みはなかった人物でしたが、前述の通り、兄の早死にで皇帝になりました」

「かなり趣味の悪い皇帝よね」

「ええ、よく悪帝の一人として断罪されますが、政策面ではまともです。悪いのは個人的な趣味くらいのものです。

 おかげで元老院からは嫌われましたが、属州出身者を優遇し、帝国の汚職官僚や総督の狩り立てや、風紀粛清に乗り出します。この行為は元老院どころか、騎士階級からも不満を抱かれますが、属州民にしてみれば結構いい話です。それに、クラウディウス帝の時代に始められたブリタニア制覇を完了させたのは彼なんですよ」

「いい皇帝じゃないですか」

「そう思いますが、権力者からの評判は決してよくありません。それに、彼は潔癖症で、姦淫法の厳密な適用で違反者の大量殺戮を行います。いくら風紀粛清と言っても、これは少しやりすぎです。そのくせ、自分ではかなり違反していました。

 それに自分で何度も正規執政官になりました。これは執政官の名誉が欲しい元老院議員には不満でしたし、自らを主にして神と呼ばせるなど共和政の伝統を無視します。自分の顧問団を重視し元老院を軽視し、9月、10月の名前を自分の称号と名前からゲルマニクス、ドミティアヌスに変えるなどをして、元老院から嫌われまくりました」

「単に元老院は使えない、て公言しただけじゃないですか」

「それは言わないお約束です。どれだけ世間が認め、皇帝自身がそう思っていても、口や行動に出さないことが最低限のマナーなんです。本気でそう思い、行動にも出したティベリウス帝は死後にぼろくそに叩かれ、神格化もされませんでした。これはマナー違反なんです」

「あなたもかなり酷いこと言っていますよ」

「それに彼はドナウ川北方のダキア族と戦い、敗北を喫してしまいます。年貢の上納をすることになってしまい、これまた嫌われる原因を作ります。それに、反逆罪で元老院議員を何人も何人も殺してしまい、本気で彼らから恨まれてしまいました。

 結局、ドミティアヌスは元老院の陰謀で殺されます。こうしてフラウィウス朝は三代で潰えてしまいました」

「ローマ皇帝の悪行についての描写が薄いと思いますが」

「ギルガメッシュが可愛く見えるくらいの悪行三昧を積み重ねてるわよね。カリグラとか」

「我が小物だと?」

「いかれっぷりなら、相当なものよ。ローマ皇帝は」

「これはあくまで、ローマの政治史をメインに扱っているんですから、そういう指摘はあまりしないでくれると助かります」

「醜聞については、いつかまとめてやることにして、、フラウィウス朝の講義を終了します。次回は――」

 

 ピンポーン

 

「ここに麻薬組織のドン、ミスター陳が立て篭もっていると通報を受けたのですが……」

この人です!!

「満場一致ですか?」

「ここで犯罪に手を染めそうなのは貴方しかしません」

「バーサーカーの仇よ」

「あなたはそういう人です」

「王は不正を正さねばならない」

「あなたならやりかねません」

「神は全てを許してくださるかもしれません」

「姉さん。罪を償ってください」

「ばれては仕方ありません」

「あいつです。あいつが中国経済を牛耳る影のドン、ミスター陳です」

「それはやつの中国での名だ。アメリカではヒスパニックどもを統率する影の総帥ドンカルロスだ」

「かつて半島では檀君を名乗っていたらしい」

「そして、古代エジプトではナイアルラトホテップとして黒人に崇められていたのが、このミスター陳だ」

「ええと、セイバーさん。何かコメントを」

「貴方と同様、したくありません」

「ええー!! ここからミスター陳の外なる神解放のための艱難辛苦奮闘記の始まりですのに」

「五月蝿にだ!! さっさと捕まれ。犯罪者」

「そうはいきません」

「あれは?」

「あれはマジカルアンバー」

「まじかるあんばー?」

「ミスター陳が闇の跳梁者やその他の化身から力を引き出す第二魔法の真似事ともいえる最終奥義を行うための形態です」

「化身が化身から力引き出してどうするんです?」

「やつは異次元に跳ぶつもりですので、わたしたちも跳びます」

「了解にだ」

 

 訳の分からん連中は訳の分からんことを口走ってから消えた。

 

「今のことは忘れましょう」

「異議なし」

「ところで、次回から誰が先生役をやるんですか?」

「まず、私は不適ですから、ギルガメッシュはどうです?」

「我が我以外のことに興味を持つとでも?」

「そうでしたね」

「ライダーさんは?」

「古典期のギリシャならなんとか」

「駄目、ということですね。イリヤさんは?」

「中世ヨーロッパならなんとかなるけど」

「先輩。貴方はどうです、て聞くまでもありませんね?」

「何でわたしの時だけ言葉に棘あるんです?」

「それじゃあ、仕方ありません。琥珀が帰ってくるまで、妹の翡翠に代理をやらせましょう」

「って、出番ほとんどなかったじゃん」

「貴方がやるかと思いました」

「主人は部下を使わねばなりません」

「いい性格です」

「いい? これを次回までに憶えてくるのよ」

「わ、私を先生ですか?」

「なんとかなりそうね」

「どこが?」

「緊張してもう駄目そうだけど」

「洗脳探偵を見くびらないでください。さて、次回はローマ帝国最盛期、黄金の世紀、五賢帝時代を扱います。楽しみに待っていてくださいね」

続く

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