カエサルの名を継ぐ者たち

ユリウス・クラウディウス朝(紀元前14年〜紀元68年

 

「今回は更新が遅れましたが、ユリウス・クラウディウス朝についてやりますよ」

「それはそれとして、なんで私たちが」

「志貴さんが知らないところでアレクサンドロス大王について教えてもらっていますから。仕方なく、貴方たちを招集したんです。それに」

「それに?」

「ヨーロッパ人がいないと、話として盛り上がらないでしょ? 舞台はローマなんですから」

「丁度、世界帝国になったことですし」

「バーサーカーまで連れてきたの? まともな会話は望めないわ」

精神安定剤を十リットルほど投与しましたから、まともに話くらいは」

「姉さん」

「なに? 翡翠ちゃん」

「バーサーカー様がピクリとも動かないんですけど」

「……」

バーサーカー!!

「代理としてライダーさんを連れてきておいてよかったです」

「え、ええ」

「この人悪魔」

「恐ろしい人です」

「まあ、これでローマと関係のあるイギリス、ドイツ、フランス、ギリシャ、中東から人を集められたんですから、万々歳です」

「我もか?」

「中東は帝国が東側に移ってからはさらに重要になりますから、あなたがいると助かるんです」

「ローマなどではなく、我の文明圏に焦点を当てろ。いや、我に焦点を当てるのだ!!

「そんな気はありませんから、諦めてください」

「真祖は?」

「志貴さんのところです」

「わたしはこれで帰らせてもらいます」

「ダメですよ。コンスタンティノーブルを陥落させるまではお借りすると、埋葬機関から許可証を貰ってきたんですから」

「どうやって!!!!!!!???????」

「さあ? でも、これが動かぬ証拠です」

「……」

「ローマねえ、まあ、波風立たなくていいかもね」

「彼らが滅びなければ、あんな苦労しなくて済んだんですけどね」

「何百年もそれなりに平和な時代を築けたんですから、無理を言ってはいけません」

「なんと。そこに行けば、私よりも王に相応しい人物がいたのではありませんか?」

「まだ言ってるし」

「それは別にセイバーさんのせいではありません。ブリタニアは王一人の肩に全てが乗っていたのに対して、ローマは嫌らしいくらいに整備された官僚制度の上に乗っているんです。無能な皇帝が一人や二人続いても、ローマの屋台骨が揺らぐということはありません。前提条件が違うんです。まあ、歴代皇帝を束ねれば、剣を抜けただろう人物は結構いたと思いますけど」

「さすがに不滅と信じられた帝国なだけはあるな」

「前回は言い忘れましたが、ローマは帝政になってからも、それどころか1453年にコンスタンティノーブルを陥落させられるまで、王政を打破した後と同じ名称の『ローマ共和国』を名乗っていました」

「どこが『共和国』なんです?」

「血筋で皇帝に就いといて今更なにを、て感じよね」

「厳密に言うなら「S・Q・R・D」、つまり「ローマ元老院と市民」がローマの主権者なんです。だから『共和国』なんですね。あくまでローマ皇帝は市民の第一人者でしかないんです」

「曖昧ですね」

「建前が凄すぎ」

「そうだ。我なら我が神で他の愚民どもは全て我の僕だと宣言する

いいわけありません!!

「だが、これなら我以外の全ての愚民どもは平等だ」

「平等に価値がないだけでしょ」

「そんなことしたら、カエサルみたいに殺されかねません」

「さて、アウグストゥスは自身が血筋をある程度無視して後継者に選ばれたというのに、自分の後継者には可能な限り自身の血をひいているものを選びたいと考えていました」

「その時点で、絶対に共和国じゃないし」

「これにだって理由はあります。神君カエサルの養子となったアウグストゥスは自動的に神の子となります。それに彼自身も神格化されています。つまり、神である自分の血をひいていたほうが政治的に有利になる、と考えたんです」

「神の子は我らがイエスのみですけど」

「いいんですよ。多神教のローマにおいては何万もの神々を祭っているんです。神が一人や二人増えても問題ありません」

「極端ね」

「ですが、運の悪いことに自身の血をひいた人間は片っ端から病気になるなどをして死んでいきます。それでとうとう、自分の妹を結婚させることにして、婿のティベリウス・クラウディウス・ネロを後継者とします。変態ゾンビピエロじゃあ、ありませんよ」

「なんですか? それは」

「ちょっと待った。ティベリウスの結婚したユリアはアウグストゥスの妹じゃないわよ」

「……えーと、ちょっと待っててくださいね………………………………そうみたいですね」

「こんなに早く間違えるなんてらしくないですね」

「先が不安ですね」

「大丈夫です。今の琥珀は全ての間違いを乗り越えた琥珀。つまり、真・琥珀に生まれ変わったんです

「なにがつまりなのやら」

「訂正します。ティベリウスはアウグストゥスの前の妻の娘と結婚したんです。ティベリウス自身はアウグストゥスの今の妻の連れ子でした。つまり、義理の妹と結婚したんですね。ギャルゲーみたいでいい感じです」

「オタが聞けば喜びそうね」

「それでは、続けますよ。他にも遺言状に消去法で残ったなどと書き残しました」

「やる気のなくなるような話ですね」

「ですが、ティベリウスは真面目な人でした。アウグストゥスの帝政を磐石なものとし、東からの異民族侵入に備えて防衛システムを確立させ、ライン・ドナウ川を帝国の国境としたんです。ゲルマニアからの撤退は彼の功績なんですよ。しかし、アウグストゥス時代のゲルマニア遠征で国庫はあまり豊かとはいえない状態になっていました」

「前任者の尻拭いね」

「後継者の義務みたいなものです」

「そこで、緊縮財政を敢行し、公共事業は可能な限りやらず、剣闘士などのコロッセウムでの見世物もおまけ程度になりました」

「ローマといったら、パンとサーカスがイメージできるんだけど……」

「それは帝政でも少し後のことです。金に余裕が無ければそんなことやりません。確かにパンとサーカスはありましたが、彼らは基本的に働いていたことはローマ人の名誉のためにも言っておきます。だいたい、パンを配給で働かなくても生きていけた、て人はパンだけで生きていけるんですか?」

「そう、神の御言葉によっても生きるんです」

「それはコンスタンティヌス帝の時にやってください。パンだけの配給じゃあ、味気ないどころか栄養失調で死にますよ。まあ、偶にオリーブ油なんかも配っていたようですけど」

「中央は遊んでいるだけの国が、あれほど長期に渡って帝国を維持できるはずがありませんから信用することにします」

「そんなんでいいの? 叩けば埃は出ると思うけど」

「騎士の情けです」

「物分りが良くて助かります。そんなわけで民衆にも元老院にも人気のなかった彼はいい加減に面倒くさくなって、カプアの別荘に引きこもっちゃうんです」

「引きこもり?」

「ええ。そこからティベリウスは書簡だけを送って元老院に可決させるんです。結局、彼は死ぬまでローマに行くことはありませんでした」

「よく怒らないわね、元老院」

「怒りました。でも、ティベリウスの権力は絶大です。ハンカチを噛むくらいしか出来ることはありません」

「あとは死んだ後に悪口並べ立てるとかくらいですね」

「ところが、ティベリウスの任命した代理人が横暴を働いて、元老院議員を多数殺害します。それくらいなら、余裕で無視しそうなある意味とんでもない思考回路を持っている彼ですが、代理人がティベリウス暗殺の陰謀を立てていることを聞くや否や、見過ごせず、彼を逆に殺し返してやりました。

それ以降はさらに引きこもり、代理人派と目されていた元老院議員を多数殺害。文字通りの恐怖政治を敷きました」

「ますます人気が下がっていきますね」

「っていうか、彼は人気取りなんて最初から考えてないみたいだけど。こういうタイプは選挙じゃ絶対に当選できないわ」

「有能なんですけどね」

「ちなみに、キリストが殺されたのは彼の時代なんですよ。だから、カエサルのものはカエサルに、のカエサルはこのティベリウスのことなんです。そして、ティベリウスはこの引きこもりを非難され、そこでよからぬことをしているんじゃないかと噂が立ちまくります。勿論、当人は全く気にしないで書簡のみを届け続けますが」

「よからぬこと?」

「なんでも、拉致した美少女美少年にピーしたりプープーしたり○○○○や○×○×をしたあげく飽きたら断崖絶壁から突き落としていたと言われています」

「く、狂ってる」

「あくまで噂です。信じないように。ただ、この噂が機神咆哮において、変態ゾンビピエロに描かれた理由であると思われます」

「斬魔大聖でしょ?」

「いいんですよ、そんなことは。まあ、評判は最悪ですけど、彼の手腕は非常に優れており、彼の生きている間に帝国の基盤は磐石となり、これで本当に無能が一人や二人続いたくらいではつぶれない帝国になったんです」

「それだけローマのために尽力した皇帝が嫌われるなんて、悲しいですね」

「彼の評価見直しは十八世紀になってからです。それまで、彼が死んだ後の市民の歓喜「やつの死体をティベレ川に流せ!」が、彼の評価だったんです」

「ふん、無闇に首都を留守にするからだ」

「不老不死の秘薬を求めて冒険に出たあなたに言われたくありません」

「まあ、それも一理あります。例えばの話、アメリカ大統領がホワイトハウスではなく、気候のいいフロリダ辺りの別荘から一歩も出ないでメールだけを送って仕事をしたら、さすがに嫌われるでしょう。景気が良かろうと悪かろうと」

「四年後どころか、中間選挙で落ちかねませんね」

「次が三代皇帝ガイウス・ユリウス・カエサル。通称カリグラです」

「カリグラ? どういうあだ名なんです?」

「なんでも、父親に前線視察に連れてもらっていった時に、軍靴(カリグ)で遊んでいたことからつけられた名称です。特に軍人からそう呼ばれていましたが、当人はあまり気に入っていなかったようです。

さて、このカリグラですが、歴代ローマ皇帝でも五本の指に入るだろうDQNです。勿論、ドクロの仮面を被った筋肉野郎ではありませんよ。最初はまっとうな性格でしたが、熱病を患った後、性格が変わったのか残忍な性格に変貌していました。実の妹全員に手を出すわ、馬を元老院議員にしようとするキチガイです。ある意味、秋葉さまが最も望んでおられる兄の姿ですね」

「ちょっと、琥珀」

「貴女の兄は外道ですか!!」

「あたしもお兄ちゃんが」

「あくまで義理です。義理!! 血のつながりはありません!!」

「というより、イリヤスフィール。あなたは姉です」

「何を言っている? それくらい障害にはなるまい」

「???」

「我が生きている当時はそんなこと日常茶飯事だ」

「そんな背徳、カトリックの名において見過ごすわけにはいきません!!」

「黙れ。当時は貴様ら雑種は存在すらしていないだろうが」

「しています!!」

「確かにイカレタ皇帝ですが、たった三年しか統治していないので、その害悪はおまけみたいなものです。やってることは単なる無駄遣いですし。さて、暗殺した近衛隊は彼の暗殺現場で震えていた叔父のクラウディウスを皇帝に選びます」

「近衛隊?」

「ローマに駐留する唯一の軍団で、皇帝の身辺警護のほかに秘密警察なんかもやってるかなりえぐい連中です。彼らはローマで政変が起こるたびにその名が出てきます。ただ、時期にもよりますが彼らの戦闘能力はローマ帝国軍最弱です」

「そんなものが身辺警護で頼りになるのか?」

「というより、本当に恐い蛮族などは各防衛ラインで食い止められていますから、近衛隊は強くある必要はありません。本当に強い軍団なら、最前線にでもいってもらったほうがいいです」

「そういえば、旧帝国軍の親衛隊もあまり強くなかったような……」

「それに、この頃のローマに城壁はありません。こられたら、あっさり陥落するでしょう」

「ないのか?」

「ええ。カエサルが『これからのローマは城壁が必要なくなるくらいに平和になる』とか言って叩き壊させたんです。事実、これ以降、長い間ローマに異民族の侵入はありませんでした」

「カエサルはとっくに死んだはずなのに、いつまでも出てきますね」

「それだけ彼はローマにとって大きな存在なんです」

「こうして四代皇帝にティベリウス・クラウディウス・ネロがなりました。就任演説で涎を垂らしたことで有名な歴史オタク皇帝です。勿論、顔に変なメイクをしたガキンチョではありません。それどころか、五十を越えたオヤジです」

「オタク、て」

「涎たらしたの? かっこ悪い」

「どうも体が弱かったようです。片足を引きずって歩いていました」

「そんなんで皇帝の激務をこなせるの?」

「激務というほどでもありませんが、彼は自分の体の調子がよくないことは分かっていましたから、ローマ帝政の官僚制度をさらに発展させたんです。いわゆる秘書官制度です。これで彼の負担は大分軽くなったはずですよ。ですが身体的な問題なども理由で、どうも彼は民衆や元老院からの敬意を得ることが出来ませんでした。そこで、彼はブリタニア南部を制圧します。時間はかかりましたが、税金をほとんど上げないで勝利を収めました」

「これで私の国がローマに組み入れられたんですね」

「そうです」

「こういうのはなんですが、この上なく迷惑な動機ですね

「いつものことです。気にしないでください。あなたが産まれるはるか以前どころか、相手の国はこの地上にありません。民族も」

「そ、それはそうですが」

「さて、彼の治世でガリア人の元老院入りが問題となります」

「カエサルが入れたんじゃないんですか?」

「入ったはいいんですが、アウグストゥスの時代に五月蝿い共和主義者どもを納得させるのにほとんど追い出していたんです。勿論、市民権は保持したままですけど」

「その連中がまた入るとか言い出したのね」

「いいじゃない。入れるくらい」

「ですが、長年の政争や内乱で建国時の名門などは衰退していました。その上にさらに元老院議員を務める名誉まで奪うのか、と彼らは猛反対したんです」

「まあ、当然ね」

「ですが、ここでクラウディウスは演説をして反対派を鎮め、とうとうガリア人の元老院入りを認めさせます。その演説がこちらです」

 

『予の先祖の中でも、最も遠いクラッススはザビーニ族の出身である。彼はしかし、ローマ市民権を与えられると同時にローマ貴族に列せられた。この先祖の例に励まされて予はこれと同じような方針を国家の行政面に応用すべきだと考えた。それはどこからでも、優れたものであれば、皆この首都に移植するということである。次のようなことを忘れてはならない(幾つもの一族がローマに移民したことを解説しているが、長いので省く)、いやイタリア全土から元老院に迎えられた。特定の個人ばかりではなく、居住地や部族が、ローマの名のもとに発展した。

やがて、国内に平和が確立し、外に向けて国威が発揚されると、今度はトランスパダナ地方の部族がローマに受け入れられた。そしてまた、全世界に軍団の退役古兵を入植させたといことを口実にして、属州民から選抜したつわものを軍団兵に加え、こうして人的資源に欠乏していた我が国は補強されたのである。

 さて、我々はヒスパニアからバルブス家を、これらにひけをとらぬ立派な人物をナルボ・ガリアから迎え入れたのを後悔しているだろうか? 彼らの子孫は今もこの首都に住み続けている。彼らの抱く、この国に対する祖国愛は我々のそれに劣らぬものである。スパルタ人やアテネ人が戦争に勝っても最後には破滅した理由は他でもない、彼らが征服した民族をあくまで異国人として、分け隔てしたからではないか? その点で、我らが建国者ロムルスはとても賢明であった。数多くの民族を、敵として戦ったその日のうちに、もう同胞として遇したほどである。のみならず、外来者が我々の上に立ったことすらある。解放奴隷の息子に官職を委託したこともある。これらは多くの人が誤解しているように、最近のことではない。古い時代から、度々起こっていることなのである。

 なるほど、我々はセネノス族と戦いを交えた。しかし、ウルスキ族やアエタイ族が我々に歯向かって戦列を敷いたことが全くなかったというのか。なるほど我々はガリア人の捕虜となった。しかし我々はトゥスクル続に人質を与えたことも、サムニテス族のくびきに屈したこともある。それはともかく、全ての外国との戦いを比較検証してみるなら、ガリアとの戦争で費やされた期間は他のどの民族との戦いよりも短いことに気付くだろう。それ以後、ずっと両者の間の平和と友好はゆらいではいない。すでにガリア人は習慣や学芸や婚姻を通じて我々に同化したのだ。彼らの金鉱や財宝を独り占めさせないで我々のところに持ち込ませようではないか。

 元老院議員諸君、現在諸君がたいそう古いと思っているものは、かつてみな新しかったのだ。例えば、ローマの貴族に続いて、ローマの平民が、平民の後でラティニ族が、ラティニ族の次には、その他のイタリアの諸部族が官職にありついた。同じようにして、当面の問題も、古くなる。そして今日我々が、過去の範例をあげて正当化しようとしているものも、将来は範例とみなされることだろう』

 

 

「これこそ、クラウディウス帝最大の功績です。合衆国三代大統領トマス・ジェファーソンは彼の演説に感動して次の日に所有していた奴隷を解放しちゃったそうです」

「歴史オタクの面目を十分に立てた素晴らしい演説ですね」

「ええ、「ローマ文明が人類に残した教訓の一つ」とまで言われています。ただ、彼は女を全く御することの出来ない性格だったんです。女房の浮気を見過ごすならまだしも、彼女の気に入らない相手をなし崩し的に処刑させられるわ、そんな女と離婚しても近づいてくるのは似たような女ばかり。

 四人目の妻に至っては、政治にまで口出ししてくる始末です。秘書官とも仲が悪く、開港式で港が崩壊したときに、責任を擦り付け合って言い争う秘書官と皇后の隣で、唇を震わせてビクビクしているクラウディウスの姿が鮮明に浮かんできます」

「想像力の無駄遣いですね」

「もっと他に使うところはあるでしょうに」

「結局、最後にはこの四人目の妻に毒キノコで殺されます」

「なんていうか、悪女に振り回された皇帝ですね」

「まあ、舐められてたんでしょうね。

最後の妻の連れ子が五代皇帝ルキウス・ドミティウス・アヘノバルブス通称ネロです。このあだ名は、義理の父であるクラウディウスの家名ネロであるところから、取られています。ローマである意味最も有名な皇帝です。念のために言っておきますが」

「エンネアでもなければ、貧乏な少年画家でもないんでしょ」

「台詞とらないでください」

「だったらいい加減、機神咆哮からネタとらないの」

「ローマ皇帝のパクリなんて、これくらいしか思いつきません、て他にもありました」

「??」

「キリスト教を弾圧したことで有名な彼ですけど、それは単にローマでの火事をキリスト教に押し付けただけです」

「十分嫌われる理由だと思いますけど」

「それ以外ではキリスト教を弾圧してはいません。ていうか、アウトオブ眼中です。第十位の死徒ですが、どうせ名付けるならディオクレティアヌス、あるいはユリアヌスとしたほうがいいかもしれません。彼らは本気でキリスト教対策をしましたから」

「ネロですか」

「それに、側近の手を借りたとはいえ、彼は治世の前半にはちゃんとまっとうな政治をしています。パルティアとの講和は彼にもまっとうな判断力があったことを示しています」

「それがなんでまた、殺されてしまったんです?」

「彼の母親のせいでしょう」

「クラウディウスを殺した?」

「ええ。彼女は皇帝になりたかったんだと思います。彼女はことあるごとに「誰のおかげで皇帝になれたのか」などと言うわ、もう一人の息子を皇帝にしようとするわ、しまいには息子の女と張り合うのに自分が息子の愛人になろうとしました。さすがに嫌われてぶち殺されちゃいましたよ」

「子供に殺されたんですか?」

「だけどさ、こんなのに育てられたら、性格歪むわよね」

「母親のせいで彼の性格が歪んだのは間違いないでしょう。もしも、クラウディウス帝がもう少し長生きするか、もしくはこの女を殺していればネロはもう少しましな死に方が出来たかもしれません」

「それで、具体的には、なにをしたの?」

「まず、自分の暗殺計画をかぎつけ、それに関わっていたとされる元老院議員を殺します。これで元老院における評判が悪くなり、さらにはそれに関わっていたとされる有能な側近も殺してしまいます。もう一つおまけに防衛ラインの将軍三人を調査することなく、謀反の疑いで殺してしまいました。これに恐れをなした他の将軍が反ネロで兵をあげます。

 ところで、どこの総督が最初に兵をあげたと思います?」

「イタリア近くですか?」

「いいえ。実は、ガリア北部の総督なんです。しかも、ガリアの王族の血を引いた」

「って、今こそ独立のチャンスですよ?」

「しかも、スローガンは『人類救済』。どうやら、ローマを全世界くらいに思っていたようです。それで、十万ものガリアの若者が集まってきたようです」

「ガリアはもうローマにメロメロ、てこと?」

「わたしのフランスが、ローマなんかに!!!」

「どうやら、フランス奴隷化も成功していたようですね」

「ぐはっ!!!」

「これによって、後に続くものが何人も立って、ネロは窮地に立たされます。前述の通り、ネロは元老院から好かれているとはいえませんから、元老院はネロを国家の敵として決議。これでネロは皇帝をくびになりました。これを知ったネロは自決、これでアウグストゥス以来続いていたユリウス・クラウディウス朝は西暦68年に滅亡します」

「なんだ、意外と手強いじゃない。元老院て」

「言っておきますが、元老院はあくまでも地方の軍団が蜂起したので、ネロの権限を奪ったのあって自発的なことはなにもしていません。それは帝政が進めば進むほど、よく分かると思います」

「連中がいかに使えないかはよく分かったわ」

「そのくせ、議員に限れば属州総督を務めたりして結構使える連中が多いんです。なんなんです? このアンバランスさは?」

「束ねると使えなくなる典型的な例だな。やはり、世界に君臨するのは我のような神が相応しい」

「(無視)それにしても、ここまで嫌われているというのも嫌なものね」

「そうでもありませんよ。民衆の間では意外と彼の人気は高いんです。彼の死後、パルティアに彼の偽者が現われたりして、結構な騒ぎになりました」

「おや、意外と好かれていたんですね」

「ニュースで政治家が政敵をぶちのめした、とか言っても一般人には関係ありません。いうなれば、ネロのやったことは単なる宮廷での政争なんです」

「それなら分かる気がします」

「まあ、彼が皇帝に向いていなかったことは認めるしかありませんけどね」

「こうして帝政ローマは最初の危機を迎えます。この辺りが、ネロをローマ帝国史上最大の暴君と言わしめる所以でしょう」

「最後に、カリグラとネロはアウグストゥスととても縁深い人物の血を引いていますが、誰だと思います?」

「アグリッパ?」

「カエサルですか?」

「それとも、マエケナス?」

「どれも違います。正解は。アントニウスです」

「アントニウスの血筋がアウグストゥスの王朝に止めをさしたんですね」

「まったく、アクティウムがこんなところまで続いているなんて。アントウニウスは最後に一矢報いることが出来たと言うわけですね」

「ご先祖様みたく政治的無能が受け継がれただけだと思うけど」

「皮肉だな」

「次回は内乱とフラヴィウス朝最後の皇帝ドミティアヌスまでを扱います。それでは、楽しみにしてください」

続く

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