カプット・ムンディ〜世界の都〜
『カエサル暗殺〜アウグストゥスの死』
「見たいと欲するものしか見ない暗殺者どもに神君が殺された直後から話を始めます」
「すごい悪意ね」
「まるで親の仇でもみつけたかのような物言いですね」
「当然です。ローマの歩むべき道は間違っても元老院による寡頭政ではなく、ただ一人の人物による強力な中央集権、帝政なんです。皇帝というとイメージは最悪ですけど、終身の大統領くらいに思っていればいいです。その現実を見ない暗殺者どもが、一人残らず非業な死をとげるところはとても気分がいいです。ていうか、地獄に落ちろ、て気分です(by作者)」
「まあ、作者がどれだけカエサルが好きなのかは分かったけどね」
「確かに彼は地獄があればきっと落ちるに違いありません。ですが、なければ問題ありません」
「リシュリューですよ、それ」
「さて、カエサルはその死後、神となることが決議され、本当の意味で神君となるのです」
「よくもまあ、暗殺しておいて神にするわね」
「それだけ人気があったんですよ。ところで、議場でどうどうと刺殺することは暗殺というのでしょうか?」
「別にいいんじゃない? ケネディやアンリ四世も暗殺って言われてるんだし」
「それではそういうことで話をすすめましょう。勿論、カエサルが殺されたのを面白くないと思っている人物もいます。その一人が剣闘士並の頭脳と体力を持つ男と称されるマルクス・アントニウス
です。彼がカエサルの追悼演説でローマの市民を扇動して、反ブルータスで暴動を起こします」
「全然褒めてない」
「ていうか悪口ね」
「まあ、それだけに本当に彼が皆を扇動したかどうか怪しいですけどね。演説内容はシェイクスピアの創作ですから。剣闘士並の頭脳に、演説で大衆を扇動するなんて出来るわけないと思いますし」
「それはアントニウスが嫌いなキケロの言ったことなので、多少割り引いてもいいと思います」
「ところでカエサルの遺言が公表されて、後継者が指名されました。後継者はオクタヴィアヌス
。当時十八歳の少年です」
「十八歳って、何か危険な匂いがするな」
「確か、かなりの美少年だったようです」
「……まじ?」
「カエサルにはそういう噂もあったようですね。今回の場合は攻めですが」
「おいおい」
「少なくとも、アントニウスはそう主張していますよ。単なるヒガミかもしれませんけど」
「それは置いて置いて、カエサルの姉の孫である彼は同時に養子縁組も遺言されています。そうでないとそもそも相続できませんからね」
「それって……」
「血のつながりなんてあってないようなものね」
「ということで、カエサルの人を見る目は血縁なんかで曇らないんです」
「言いたいことはそれかい」
「カエサルに子供はいたの?」
「クレオパトラに産ませたカエサリオンしかいません。遺言状に自分と息子の名がないことにショックを受けた彼女は早々にローマから立ち去りました」
「賢明な判断ね」
「オクタヴィアヌスはカエサルの財産の四分の三を相続し、カエサルの軍団に給料を払って彼らの支持をえます。他にもローマの有力者の間を渡り歩いたり、民衆に金をばら撒いて基盤の強化に努めます」
「なあ、それって本当に十八歳か?」
「それよりお若い秋葉さまだって似たようなことはしています。この前だって」
「琥珀!!」
「いえ、なんでもありません」
「な、なあ、秋葉」
「言っておきますが、遠野グループの経営は兄さんには関係ないことです!!」
「わかりました」
「具体的になにやってんだろうね?」
「きっと、ゼネコンを請け負うため政治屋に」
「そこ、お黙りなさい!」
「このあからさまに性格の悪そうな彼が初代ローマ皇帝アウグストゥスとなります。作者は彼こそ西洋史上最高の名君だと思っています。念のために言っておきますが、小物の黒人ではありませんよ」
「なんですか? それは?」
「地球皇帝ですね」
「いくらなんでもそんなに偉くはなっていません」
「ナイ神父」
「ホテップ様がどうかしましたか?」
「詳しくは、機神咆哮を参照してください」
「きしんほうこう?」
「(無視)これからの業績で彼が偉大な政治家であることは分かると思いますが、彼が無能にもほどがある軍人であることも理解できるはずです。なにせ、彼は生涯、戦いに勝ったことはありません」
「それでどうやって勝ったんだ?」
「配下の将軍マーカス・アグリッパ
などに担当させていました。その場合はあくまで戦場にいただけです。指揮はとっていません。
そのおかげで、こんなことを言われいます」
『世界最強の名君は何人も出てくるだろうが、世界最弱の名君は間違いなくこの人』
「とんでもない評価だな」
「戦場で指揮を執らなかった君主は彼以外にもいるはずなんですが、指揮を執ると必ず負けるのでこんな評価をつけられているんです」
「さて、勿論アントニウスはぽっと出のオクタヴィアヌスを快く思ってはいません。それにオクタヴィアヌスが彼の暗殺を企んでいると疑われるのを契機に彼はローマから離れます。この二人の仲違いに付け込んだのが、もともと仲がいいとは思いませんけど、キケロです。キケロはこの若者に元老院議員の地位につけて共和派に引き込もうとします。これで彼がカエサルのような暴挙には出ないと思っていたようです。
ですが、オクタヴィアヌスはアントニウス討伐後、クーデターを起こして中央政権を掌握します。そしてカエサルを暗殺したマルクス・ブルータスらを有罪として、アントニウスと組み、彼らを討伐します」
「変わり身の早さにはほれぼれしますね」
「はい、とても十代とは思えません」
「琥珀さんにはいわれたくないと思う」
「そしてオクタヴィアヌスとアントニウス、レヴィトゥスによる戦後の国家再建三人委員会、通称第二回三頭政治が企画されます。まあ、ポツダム宣言みたいなものですね」
「レヴィトゥス?」
「一応、教科書にも名前が出てくる政治家です。最初の脱落者なんで別に憶えなくてもいいと思うんですけど、憶えておかないと点を取れないのが残念です。彼らはそれぞれ西欧全域、ヘレニズム地域 、北アフリカに勢力を分け合います。
続いて彼らはローマ市内の政敵を粛清しました。これで元老院議員三百人、騎士階級二千人が殺されたといわれています。そしてブルータスとその取り巻きをへち倒して、前述の通り、ローマを分け合います」
「東西分裂みたいだな」
「似たようなものです」
「そうなのか?」
「はい。ローマは私たちの感覚では理解しにくいかもしれませんが、皇帝が四人で分割統治した時期があったんです。今の状態も似たようなものです。この分割統治の延長線に東西ローマがあるといってもいいでしょう。
ところで、ヘレニズム方面に向かったアントニウスはクレオパトラの豪華な出迎えを受けて骨抜きにされます。しまいにはオクタヴィアヌスの姉オクタヴィアと政略結婚していたのに、下半身の欲望には抗えなかったのか、クレオパトラと結婚します」
「重婚じゃん」
「エジプトではOKだったみたいですけど、ローマではタブーです。これはローマ本国から非難ごうごうです。志貴さんも気をつけてくださいね」
「うっ」
「クレオパトラは自分の権力がローマに大きく依存していることを理解していました。ですが、カエサルが死んだ今となっては、自分のことを保証してくれる者は誰もいません。こうでもしないことには、いつアントニウスにエジプトを食われるか分かったもんじゃありません。アントニウスがカエサルの後継者になりたがっていることは間違いありませんから。そのためにはオクタヴィアヌスに先んじて大きな先手が必要です」
「つまり、アントニウスがエジプトをローマの属州にしようと?」
「前科はあります。王の遺言書にローマの属州となるように、と書かれていました。それも何故か王の死から十五年後に見つかりました」
「ストレートね」
「まあ、嘘か真かは分かりませんけどね。それにそれ自体はローマの政情不安定が理由でおながれになっちゃいましたし」
「それじゃあ、クレオパトラのやりかたは正しかったのね」
「この時点までは」
「この時点?」
「何を血迷ったのかは分かりませんが、アントニウスは彼女の求めに応じてローマのヘレニズム方面の属州をクレオパトラにプレゼントしたんです」
「はい?」
「エジプトがかつて獲得していた領土のほとんどを返還しちゃったんです。勝手に」
「正気? 本当に剣闘士以下の頭脳しか持ちあわせていないんじゃないの?」
「女に目が眩んだんじゃないですか?」
「少なくともローマ人はそう思っています。彼女を『ナイルの魔女』なんて呼んでいますよ」
「この時点で、クレオパトラはエジプトの再興を考えていたのは間違いありません。ですが、彼女は明らかに判断ミスを犯しています」
「なに?」
「この時点で、いずれはローマと戦うことになることなるということです。さらに、アントニウスと深く繋がったことで、ローマ中央の政界に関わることになったんです。これはようするに、ややこしい話に巻き込まれることに他なりません。せいぜい、自分の領土を保全するくらいで留めておけばよかったんです。
これなら、カエサルが遺言状に彼女と息子に関して何も書かなかったことも頷けます。全ては、彼女と息子の身を案じてのことだったんです」
「それなのに復権を目論むなんて、いい根性してるわ。先が見えてないのかしら?」
「単に勝つつもりだっただけですよ。恐ろしいことに、息子をカエサルの正当な後継者なんてほざいてました。こんなこと言わなければ、息子は殺されずにすんだのかもしれません」
「こんなところでもさり気なくカエサルを褒めていますね」
「作者はカエサルが大好きですからね」
「その頃、オクタヴィアヌスはアントニウスの不誠実さをなじったり、属州をクレオパトラに与えた件で徹底的に攻撃しています。世論を煽りまくってます。さらにはレヴィトゥスの利権を軒並み自分のものにしてアントニウスとの戦いに備えていました」
「うわ」
「どっちが年上か分からないわね」
「アントニウスも反論しますが、どれも自分の犯したミスと比べれば、些細なものです。彼には政治家としての資質の一つ、保身の才がなかったとしかいいようがありません。それに、パルティア遠征で失敗したことも大きな失点でしょう」
「致命的ね」
「とうとう、アントニウスはオクタヴィアと離婚します。勿論、これにも非難が集中します。オクタヴィアヌスは死後、アレクサンドリアに葬るように、と記されたアントニウスの遺言状を公表して、ローマでの世論を完全に自分の側に引き寄せます。本当に、あんた幾つですか? 本当に当時三十歳ですか?」
「そんなこといわれても」
「とうとう二人の対立は決定的になり、オクタヴィアヌスはアントニウス、いえクレオパトラに宣戦布告します」
「こういうとなんだけど、戦う前から勝負が決まってない?」
「決まってます。大体、クレオパトラがいるだけで離脱者が続出するんです。それを案じてアントニウスの側近は彼女をエジプトで待機させるように説得するのですが、クレオパトラは資金や物資を提供していたので、無下に出来ないんです。おかげで、アントニウス軍の士気は下がるわ、本国からはクレオパトラの手先扱いされるわ、ぶっちゃけ疫病神です」
「邪魔ね」
「足引っ張りまくってるな」
「せめて彼女がいなければ、もう少しましな戦いが出来たんじゃないですか?」
「同感です。アントニウスの運命はクレオパトラと組んだ時点で終わったと見て間違いないでしょう。」
「紀元前31年。アクティウムの海戦。オクタヴィアヌスとアントニウスの決戦です。勿論、オクタヴィアヌスはいるだけ、ていうか船酔いでダウンしてました」
「目も当てられないな」
「こんなのが最高司令官、なんて悪い冗談ですね」
「戦いそのものは、アグリッパがいるので、そんなに悩むようなことではありません」
「開戦すると、双方の指揮官が互角の指揮能力を発揮しているので、戦場は混沌としていてなかなか決着が着きません。ですが、その時に劇的な変化が起きてオクタヴィアヌス側が勝利しました」
「なに?」
「こともあろうに、クレオパトラが逃げやがったんです。まだ互角のはずなのに」
「……理由がよく分からないんだけど」
「戦闘が恐くなったのか、それとも混沌とした戦局を見て負けたと勘違いしたのかは分かりませんが、アントニウスが必死で戦っているのに一人で勝手に逃げたんです」
「……何考えてるの?」
「さあ? 少なくとも戦略面のみならず、戦術面でも彼の足を引っ張ったのは確実です。ただ、諸説があって、一部の兵士が先に降服して、それに気付いたアントニウスがクレオパトラを逃がしたという話もあります」
「美しい話じゃない」
「まあ、いずれにしろクレオパトラとアントニウスは負けたんです。これでプトレマイオス朝は滅び、オクタヴィアヌスはローマ唯一の指導者となります。
さて、元老院はローマ唯一の支配者となったオクタヴィアヌスにアウグストゥス(尊厳者)
の称号を送って彼の成功に報いました。ついでにアクティウムの戦いのあった八月をアウグストゥスはAugustus(August-英語)に替えます。ところが、当時の八月は、まあ旧暦では六月ですけど、は三十日しかなかったんです)
「今は三十一だけど」
「何でも自分の月が三十という数ではけしからん、とか言って二月から一日拝借して三十一日にしたんです」
「すっげえ我儘」
「アウグストゥスは皇帝が即位する際に必ず持つ尊称で、養子となった彼の姓カエサルもまた必ず授けられる称号です。カエサルという言場は独立して後にドイツ語名カイザー,ロシア語名ツァーリがいずれも皇帝を意味することばとして生まれました」
「どいつもこいつもカエサルに萌えてるわね」
「ローマ皇帝とは最高神祇官、属州総督の任命権、護民官特権、さらに最高軍指揮権などといった権限を委任された存在なのです。特に最高指揮権、イムペラトールは皇帝と訳され現在の英語、仏語のほかスペイン語やイタリア語にも使用されています。つまり、インベラトル・カエサル・アウグストゥスがローマ皇帝の正式な名称です。変な話ですけどローマ皇帝は皆アウグストゥス、或いはカエサルなんです」
「イメージと違うな」
「それは仕方ありません。皇帝といったら、普通はまず秦の始皇帝が浮かびますから」
「ナポレオンでしょ?」
「シャルル・マーニュです」
「オクタヴィアヌス」
「いい感じに西洋人の名前ばかりあがったところで悪いですが、続けますよ。ローマのインベラトル・カエサル・アウグストゥスと中国の皇帝とはそもそも違うものなのですが、他に適当な訳語名ないためこうなったんです。それに、ローマが周辺諸国の国王任命に大きな力を持っていたことも理由でしょう。ですが、これだけの権力をもったアウグストゥスはあくまで自分を第一の市民、プリンケップスであると称しており、たまに執政官に就任したりしてポーズをとるのだって忘れません」
「余談ですがプリンケップスは英語のPrince、王子の語源だといわれています。これは単に元老院で一番最初に発言をするくらいのものでしかなく、彼が最初ではありません。大スピキオなんかも、この称号を帯びていました」
「えーと、こういうのはなんだけどそいつがあんまり好かれない理由が分かったような気がする」
「はっきり言って、小賢しいですからね。ですけど、これくらい小賢しくやらないことにはカエサルみたいに暗殺されかねません。上っ面だけは共和制を尊重しているように見えますが、元老院なんて無力だとと思っていたのは確実です。せいぜい、批判したり愚痴を言うしか能のない爺どもくらいにしか思っちゃいません」
「次にアウグストゥスはカエサルの遣り残した仕事を片付けます。各種公共事業や、地方の整備を行うことにしたんです。その他にもアントニウス戦で必要だった大権のいくつかを元老院に返却しようとします。即ち、共和制への回帰を宣言したんです」
「返しちゃうの?」
「いえ、どうせ元老院は受け取りません。自分たちにはそんなことを処理する能力のないことが分かりきっていますから。自前の軍隊はない、政治力はない、経済力はない、のないない尽くしの三拍子が帝政初期の元老院なんです。ただし、権威だけはあります」
「さっきもそうだけど、ぼろくそ言ってるな」
「仕方ありません。本当のことです。彼らが有能ならカエサルどころか、スッラすら現れなかったでしょう。そのまま共和制が続いて終わりです。勿論、構造上そんなことありえませんけど」
「前も言ったとおり、ローマ共和制という都市国家の論理ではイタリア半島ならともかく、広大なローマの属州を統治できるわけがありません。広大になった国境に軍を送るのに一々元老院の議決が必要、なんて意味不明なこと言われても困ります。このローマを統べるためには強大な権力をもった指導者が必要だったんです。
少なくともこのローマを効率的に運用するためには、そういった存在が不可欠です」
「つまり、大国の指導者は強大な権限を持つべき、ということですね」
「詰まるところ、そういうことです。
アウグストゥスは公共事業に力を入れて『煉瓦の市街であった首都ローマを受けついで、大理石の市街を残した』と自ら書き残しました。確かに、彼の時代は戦役が少なく、首都は整備され、美化され、その繁栄は世の終わりまでつづくものと思われていました。『永遠の都ローマ』という言葉ができたのも、このころからです。
次はカエサルの計画した各植民都市の建設です。街道を新たに広げたり、ついでに地方総督の整備も行います」
「地方総督ね。まあ、理由は見当つくわね」
「地方総督は非常に儲かる職業で、当選するための選挙資金を返すのに、任期継続のために、最後は私服を肥やすのに使います」
「やっぱり、ろくなことやってないじゃん」
「ようするに、それだけやることのある美味しい美味しい職業なんです。おかげで属州は貧困に喘ぐことになります。ですが、アウグストゥスは財源確保のために税の徴収権を自分の派遣する官僚に一任することにしました。彼らだって汚職をすることはしますが、それでも総督に絞り取られるよりはましです」
「それで帝国の経済は保たれたのね?」
「それは分かりません」
「?」
「属州民の税金は地方ごとに異なっているので分かりませんが、ガリアとエジプトの税収合計7000万セステルティウスというデータから考えます。当時のガリアとエジプトの人口は合計するとおよそ一千万人。
1セステルティウス=330円、で仮定しますと一人当たり7セステルティウス=2310円という信じられないような安い税金であることが分かります。まあ、物価の関係で十分高かったのかもしれませんけど」
「じゃあ、意外と節約してたんだ?」
「そういうわけじゃありません。紀元十四年の帝国の人口5400万人、歳出は150年頃のデータですけど8億3200万セステルティウス。税率が異なっているのかもしれませんが、帝国全土の税収を換算しても四億いきませんよ」
「って、ことはつまり……」
「歳出が歳入の倍?」
「本当に、どうやって帝国維持してきたんでしょうね? 金持ちからいっぱいとっていたんでしょうか?」
「あくまで属州の直接税ですからもう少し多いのかもしれません。ローマ市民権取得者は直接税を払わなくてもよかったらしいですけど、市民、属州民問わず、間接税などの支払いの義務は存在していましたから」
「だとすると、間接税だけでこの半分を出していたことになるわね。まさかとは思うけど、戦時の略奪品でまかなっていたとか?」
「略奪品というのは大いにありえる話ですね。ローマ以前から比較的よくあることでした。これは色々楽しめそうなデータですけど、答えは出そうにないので税金の話はここで終わりにします。
アウグストゥスはクラッスス、アントニウスと負けの込んでいたパルディアと講和をしてユーフラテス川を国境とします。ついでに取られていた軍団旗も返してもらいました。これでローマ東方はしばらく静かになります。
この後で病気でも流行ったのか、頑丈なアウグストゥスの腹心アグリッパが死にます。さらに、彼のもう一人の腹心であるマエケナスも死亡してしまいました」
「マエケナス?」
「アウグストゥスのもう一人の腹心です。公職にはつかないで、彼の顧問をしていました。現代にも企業の行う『メセナ運動(文化助成活動)』の開祖として知られている人です。勢いで、思いっきり無視してしまいました」
「酷いわね」
「彼の政権で重要な存在であった二人が死んだことによって、トチ狂ったアウグストゥスはゲルマニアの併合を考えます」
「なんでまたそんなとこを? ガリアよりも辺鄙な場所なんでしょ?」
「防衛ラインの短縮が目的だったのかもしれませんが、これはアウグストゥス最大の失敗だと思います。ローマの最高権力者で他に競争相手もいないのですからこんなことしなくてもいいんです。まあ、辺鄙と言ってもちゃんと農耕はしていたので得るものがまったくないわけじゃないんでしょうけど」
「ゲルマンは強いですからね。アウグストゥスの軍事的才能で乗り切れるわけがありません。せめてもの救いは彼が前線指揮にはほとんど口出ししないことですね。三個軍団が全滅した時などは、うわ言のように『予の軍団を返せ』とか呟いていたそうです」
「たった三個軍団だろ? それくらい、すぐに補充できるんじゃないか?」
「そうでもないんです。この時代のローマ軍は軍団ごとに各地に配備されていて、戦争のためにはそこから軍団を引き抜かねばならなかったので、そう簡単に補充できないんです」
「結局、ゲルマニアが属州にならないまま、彼は七十六歳でこの世を去ります。内臓が弱く、いつ死んでもおかしくないのに、どういうわけか自分より体力のある人たちよりも長生きしちゃいました。紀元前14年のことです」
「よくそんなに生きられたわね」
「体の弱い人は普通の人に比べて健康を大事にしようと努めますから。それで長生きしてしまったを地で行った人と言ってもいいかもしれません」
「今回は後半からローマ皇帝の話になりましたわ」
「作者はどうせしばらくは更新しないんだから、と気合を入れまくっていましたから。どうせならここでローマ皇帝についてやりたかったようです。ここまでのところを地図にすると、こんな感じです」

もわもわもわもわもわもわもわもわもわもわもわ
「煙?」
「一体何処から?」
「志貴さま。こちらです」
「翡翠?」
志貴は翡翠に連れられて地上へと逃げる
「ありがとう、翡翠」
「私がご一緒できるのはここまでです。どうかご無事で」