『西ローマ滅亡とどうしてローマが滅んだか?』
「すっごく久々だね」
「作者がAIRRPGにまたはまったことが理由です。おかげで、借りてきた本を何冊も返さないわ、何度も徹夜してゲームするわ、何を考えてるんだか」
「おいおい。そりゃまずいだろ」
「基本的に作者は本の貸し出し期限無視の常習犯ですから。今まで、まとも返せた本のほうが少ないです。現に、押入れのどこかに眠っている本は小学校の時に借りたもので、現在進行形で貸し出し超過記録を更新中です」
「さっさと返しなさい」
「何の本です?」
「小学館の図鑑です」
「なんでそんなものを滞納している?」
「さあ? もう借りた理由も思い出せませんよ。情報も古く、肉食恐竜の尻尾が地面に付いているというのがざらです」
「古すぎ」
「ところで、AIRRPGとはなんですか?」
「同人史上最大級といわれるRPGです。鍵のAIRを基盤にして、各エロゲーからキャラクターを集め、さらに北斗ネタをトッピングしたお祭RPGです。メインは戦闘ですけどね」
「いや、知らないし」
「特に斉藤が面白い。何回も何回も顔を変え、姿を変えて笑いをとってくれる。台詞の多さを考えてもあれは実質的に斉藤RPGではないか?」
「ほとんど北斗でしたから、最後は拳王にでもなるのかと思ったんですけど」
「ところで、年増キャラでは誰が最強だと思う? 我はあの医者だと思うのだが。あの攻撃力は異常だ」
「私は奥さんですね。猛毒が結構使えます」
「偽善者はどうです? 早くて、風が効きません」
「おーい、戻って来い」
「ところで、さっきの『また』ていうのはなんです?」
「ああ、実は作者、一度クリアしてるんですよ。でも、以前に入手していたパッチをあてて、バージョン3としてまた始めたんです」
「ぱっち?」
「実は、さる人物がAIRRPGの改造パッチを作りあげて広く出回ったんです。おかげで、本家のBBSは荒れるわ、本家が追加パッチの作成に意欲をなくすわ、とかなり大きな影響を与えました」
「いや、それは違法では?」
「そうかもしれませんが、十分に面白い内容でした。他にも体験版を利用してデータをいじくったりと、本当に楽しいゲームなんです」
「無茶も大概にしなさい」
「っていうか、サーヴァントの分際でオタク生活を満喫するんじゃない!!」
「このままではいつになっても本題に入れませんから、少し黙ってください」
「分かりました」
「前回の最後でヴァレンティニアヌス三世が死に、テオドシウス朝の潰えました。その後釜にはヴァレンティニアヌス三世暗殺の仕掛け人、マクシムス
が座ります。彼は人望が厚く、経歴も悪くはありませんでした」
「さっきの皇帝よりはましですね」
「ですが、砂上の楼閣と大差のない帝位に登らされることに気付いた帝は絶望感に打ちひしがれたそうです。こんなことなら、殺すんじゃなかった、と」
「いつ殺されるか分かったもんじゃないわよね」
「丁度その時、ヴァレンティニアヌス三世の妻は夫を殺されたことを深く怨み、北アフリカの梟雄ガイセリックにローマの情勢を伝えてローマ進攻を促したんです」
「まだ生きていたのか」
「憎まれっ子世に憚るですね」
「ガイセリックは快く、この提案を受け入れて、カルタゴより出港してイタリアに上陸しました。アエティウス亡き後のローマにこれに抗う術はなく、マクシムスは逃げる途中で怒った市民の投石で命を落とし、ローマ市は再び蛮族の略奪の憂き目に合うんです」
「この時も我らがPopeレオがガイセリックと交渉して、被害を多少減らしました。やはり、神は偉大です」
「そんな守られもしなかった約束でよく自慢できますね」
「このローマ略奪から、その復讐のためにこれ以降続けられる一連の軍事行動を第四時ポエニ戦争と呼ぶ人もいます。カルタゴからやって来た異民族がローマを略奪して、ハンニバルの念願を果たしたというわけです。まあ、その反撃はカルタゴには届かないんですけどね」
「体験したくもないパロディね」
「これ以降、西ローマはイタリアのみを確保する地方王国となり、再びかつての勢いを取り戻すことはありませんでした。ここから、本格的な『ローマ帝国滅亡記』が始まります」
「悲壮感漂うタイトルね」
「東はどうしていたんです?」
「当時の皇帝マルキアヌスはガイセリックの温情を受けていたこともあって、完全に無視していました」
「温情?」
「ガイセリックがアフリカに上陸した当時、東で色々と便宜を図ってもらう替わりに命を助けてもらったんです」
「そんな約束破っちまえ!!」
「うーん、彼は結構いい人ですからね。アエティウス辺りなら進軍中に言い訳を考えたのでしょうが」
「ガイセリックの襲来で、皇帝不在となったローマを見てガリア方面の将軍アヴィトゥスが現地の西ゴート族の支援を受けて皇帝に即位しました」
「いつ死ぬか分かったもんじゃない地位によくもまあ固執できますね」
「名誉欲は誰にでもありますから。まあ、途中からやっぱり後悔したみたいですけど。それから失策を行い、西ローマ皇帝製造機リキメールによって殺されました」
「製造機、て」
「その通りの経歴ですよ。アヴィトゥス死後の皇帝はほとんど彼が擁立しているんです。まあ、ほとんどは都合の悪くなった相手を片っ端から叩き殺してるだけですが」
「配下の忠誠心はゼロか。死んでもやりたくない職業だな」
「今までの異民族の司令官に対する仕打ちを見れば、ある意味当然の報いだと思いますけど」
「リキメールによって擁立されたマヨリアヌス
はこれまでの西側では珍しいそれなりに有能な皇帝です」
「同じころ、結構、人のいい東の皇帝が病死しました。彼には後継ぎはないので、ゲルマン人軍事長官アスパルの庇護者レオ
が皇帝に擁立されました」
「あ、東にも皇帝製造機が出て来た」
「いえ、レオ一世は断じて傀儡になるような小人物ではありません。独自の資金源で傭兵を雇い入れて、最終的にはアスバルを打ちのめし、ゲルマン人の脅威を取り除きました。彼こそ、ビザンティン千年の基礎を築いた名君であり、大帝とも呼ばれる偉大な皇帝です」
「久しぶりに皇帝を褒めましたね」
「マルキアヌスの場合はただまっとうな対応をしただけですから、褒めた内には入りませんね」
「一方、マヨリアヌスはレオ一世に素質の上では劣っていたわけではないのでしょうが、イタリアのみの力で国内のゲルマン人のみならず、アフリカの梟雄ガイセリックを何とかするということが出来るわけがありません。ガイセリック討伐を意図しましたが、失敗。そこにガイセリックがリキメールに調略をしかけてマヨリアヌスを殺しました。リキメール自身も、マヨリアヌスを目障りだと思っていたので、ことはスムーズに運びました」
「まだ生きてたのか、ガイセリック」
「当時はもう八十くらいになっていましたが、それでもまだまだ現役です。この年でも重要な戦いは自ら指揮をとっていました」
「そういえば、共和政ローマでカミルスという将軍がそれくらいまで生きてましたね」
「因果は巡るか」
「少し違うと思いますが」
「それはともかくとして、マヨリアヌスを殺したリキメールは新たに皇帝を擁立しますが、すぐに殺してしまいました。彼の時代は特に言うことはないので、次の代まで飛ばしますよ」
「思いっきりはしょってるわね」
「仕方ありません。あまりにもなにもなかったんですから」
「次の皇帝は東側で、レオの替わりに帝位に着くのではないかと目されていたアンセミウスが送られてきました」
「それってレオが一番喜んでるんじゃないですか?」
「そうですね。自分に不満をもつ連中が擁立するのを恐れたレオがこのライバルをリキメールという皇帝の首刈りを趣味にしているような男に殺してもらうことを期待していたということは大いにありえることです」
「首刈って」
「まあ、レオは東西に大きな影響力を行使してカルタゴのガイセリックを打ち滅ぼすべく、久々の東西連合による一千隻の船と十万の人員を動員した大艦隊を編成したので、単に行き場を失ったライバルに手を差しのべただけともいえますね」
「誇張があるだろう凄い数ですね」
「これこそ、第四次ポエニ戦争最大の軍事行動です。しかし、やっぱり出張ってきたガイセリックによって望みは海の藻屑と消えるんですけどね」
「そいつ強すぎ」
「作者も書いてて、こいつアッティラより凄いんじゃないか? と思いながら書いてます」
「しかも長生きするし。悪夢ね」
「この失敗を受けて、権威を失ったアンセミウスはリキメールの手にかかりました。そのリキメールも後に流行る伝染病にかかってお亡くなりになります」
「病死か。この時代にしては、ましな死に方だな」
「これだけやって病死なら、この時代では成功した部類に入るでしょうね」
「で、次の西皇帝は?」
「例のごとく東が送り込んできましたが、リキメールと一緒に病死しました」
「何しに来たんだか」
「さあ? その後も二人ほど皇帝が擁立されましたが、面倒なのではしょります。面白み何もありませんので」
「まあ、そうね。死体の山に皇帝二人が増えたくらい、どうでもいいような時代ですし」
「そんな折、東皇帝レオが病死。すぐに孫のレオ二世が帝位に着きましたが、病死して、孫の父親。つまり娘婿のゼノン
が東皇帝となりました」
「ゼノン? あのパラドックス?」
「違います。小アジア南部のタウロス山脈一帯に住むイサウリア人という剽悍な蛮族の酋長本名タラシコデッサです」
「ダサッ!!」
「ところで、パラドックスとはなんです?」
「こういうものです」
ゼノンのパラドックスは、エレア派のゼノンの考えたパラドックスで、パルメニデスの「感覚は全て疑わしいものである」こと、特に「運動は不可能である」という学説を補強するものであった。詭弁とも哲学的思考のための好問題とも言われる。古今東西の哲学者達がこの問題に挑んだ。
今日、ゼノンのパラドックスと呼ばれるものは、アリストテレスの「自然学」とそのシンプリキウスによる注釈の中に八つ伝わっている。そのうちのいくつかは、本質的に同じ問題を取り扱ったものである。ここではそのうちの二つ、「アキレウスと亀」と「飛ぶ矢飛ばず」を紹介する
アキレウスと亀
あるところにアキレウスと亀がいて、二人は徒競走をすることとなった。しかしアキレウスの方が足が速いのは明らかなので亀がハンデをもらって、いくらか進んだ地点(地点Aとする)からスタートすることとなった。
スタート後、アキレウスが地点 A に達した時には亀はアキレウスがそこに達するまでの時間分先に進んでいる(地点 B)。アキレウスが今度は地点 B に達したときには亀はまたその時間分先へ進む(地点 C)。同様にアキレウスが地点 C の時には亀はさらにその先にいることになる。この考えはいくらでも続けることができ、結果、いつまでたってもアキレウスは亀に追いつけないことになる。
当然この結果は非現実的であるが、結果を導く論証は一見したところ正しいように見える。その論証の誤りを指摘するのは簡単ではなく、それゆえ多くの哲学者達がこの問題に挑むこととなった。
飛ぶ矢飛ばず
これは物体の運動に関するものである。矢が飛んでいる様子を考えよう。ある瞬間には、矢はある場所に位置している。僅かな時間だけに区切って見れば、矢はやはり少ししか移動しない。この時間をどんどん短くすれば、矢は動くだけの時間がないから、その瞬間だけは同じ場所に留まっているであろう。次の瞬間にも、同じ理由でやはりまた同じ場所に留まっているはずである。こうして矢は、どの瞬間にも同じ場所から動くことはできず、ずっと同じ場所に留まらなくてはならない。従って、矢の運動は不可能である。
数学的な解決
これらのパラドックスはすべて無限という概念に関係している。17世紀以降に発展した微分積分学、とくにその中の無限級数や極限の概念を用いれば、上述のパラドックスは次のようにして解決できる。
アキレウスと亀の問題は、「考えをいくらでも続けることができる」ということから「いつまでたっても追いつけない」という結論を導いている箇所にトリックがある。有限の項を無限に集めた級数の和は有限におさまることがあり得る。アキレウスが前に亀のいた場所にたどりつくまでの時間は何度繰り返しても有限だが、これらを全て足し合わせてもやはり有限の時間しか経過しないのである。そしてそれはアキレウスが亀を追い越すのに要する時間である。
飛ぶ矢飛ばずの問題はこうして説明される; どんどん時間を短く区切っていけば、それだけ矢の動く距離も短くなっていくが、しかし矢の位置の変化率、つまり移動する距離を時間で割った商は零には近付いて行かない。この零でない極限がその瞬間における矢の速度である。
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「頭が痛くなってきました」
「作者は一週間掛けてようやく理解出来たわ。元々、数学的素養は持ち合わせてないから」
「さて、ゼノンはいい加減に追い落とせそうにないガイセリックとの和平を結ぶことを決定しました。これは即ち、北アフリカのヴァンダル王国を独立国として承認するということに他なりません」
「あれだけやっても勝てないんじゃあ、仕方ないですね」
「同じころに西ゴート王国も承認しました。賢明な処置に見えますが、これらが弱腰と見なされて、後にゼノンは大いに苦労することになるのです。が、それは次回にまわすとして、西側最後の皇帝のほうに話を持って行きたいと思います」
「いよいよですね」
「どうでもいい皇帝二人が死んでから、一人の少年が帝位に着きました。この少年こそ、西ローマ帝国最後の皇帝ロムルス
です」
「ローマの初代国王がそんな名前でしたね」
「そうです。奇しくもローマは伝説の初代国王と同じ名の皇帝の時代に地中海の覇権を失うことになるんです」
「意味深ですね」
「476年。イタリアの土地問題で彼の父親と対立したゲルマン人の傭兵隊長オドアケル
は父親を殺害した後、幼いロルムスを廃位して、東ローマのゼノンに西の帝位を返還して、これ以上の西皇帝の存在は不要であるとし、東ローマの代官としてイタリアを納めると宣言しました」
「それだけやっても、ローマの名がないと不安なんですね」
「そういうものですよ」
「ところで、これで西ローマの滅亡だというのですが、これに意味はあるのでしょうか?」
「どういうことです?」
「今までの経過を見る限りでは、とっくの昔に西ローマの形は崩壊しているので、こんな名目的なことにはあまり意味が見出せません」
「仰るとおり、あまり意味はありません。この頃には西ローマ政府の勢力はイタリア周辺にのみにしか及んでいませから、実際にすんでいる人々にとっては何が変わったのか、分からなかったでしょう」
「やっぱり」
「一般的にはこれをもってローマ帝国の滅亡だと言われていますが、作者的には東が残ってるから滅亡してない、と思っています。熱心なビザンティンファンもそうです」
「いずれにしても、地中海帝国がこの瞬間に終わりを告げたのは事実ですので、これをもって一つの時代が終わりを迎えたとも言えますね」
「それでは、これからは何故ローマが滅んだか、というより何でローマが衰退したのか、に話を移したいと思います」
「異民族でしょ。帝国が滅亡する理由としてはわりとオーソドックスよ。悩まなくてもいいんじゃない。女真族やモンゴルに滅ぼされた宋王朝やアレクサンドロス大王に滅ぼされたペルシア。上げたらきりがないわ」
「って、マケドニアが蛮族か」
「ペルシアは世界最初の世界帝国よ。それに比べたら、マケドニアなんて田舎者どころか、未開の野蛮人よ」
「西洋原理主義者の言葉とも思えんな」
「それは作者でしょ? 私は違うの」
「まあ、止めを刺したのが異民族であるのには異論はありませんが、それではなく、どうして力が弱まったのかについて、いくつか仮説を並べたいと思います」
「そんなこと言ったらきりがないわよ」
「ローマ帝国衰亡論は本当にキリがありませんからね」
「おいおい」
@ゲルマン人の侵入?
「それでは、まずはこれからいきましょう。これはゲルマン人の侵入によって、帝国の国防能力やらその他諸々が破壊されて、帝国が崩壊したというのが主旨です」
「しかし、これには一理ありますね。ゲルマン人が西に止めを刺したのは間違いありませんから」
「ですが、ゲルマン人には元々ローマを滅ぼしてしまうつもりはありませんでした。今までも述べてきたとおり、彼らはあくまでローマに逃げ出してきたんです。まあ、対処を誤った帝国政府の責任ともいえますね」
「それ以前からローマは病んでいた、てやつね」
「そう、ゲルマン人が暗黒時代を呼んだのではありません。暗黒時代が、ゲルマン人を呼んだのです」
「卵が先なのか、鶏が先なのかは分かりませんが、要因の一つ、ということにしておけばいいでしょう」
「保留か」
「それでいいの?」
A皇帝が馬鹿ばっかだから
「西側の皇帝は基本的に録なのがいませんでしたから、指導者の誤りによって帝国が衰亡した、という理屈です。これには五賢帝以降の諸帝にも関連してもいますね」
「見た目にはそうですね。使えるのか使えないのか、微妙な皇帝が多いですからね」
「指導者の誤りが多いのは確かですね。要因の一つとでも考えておけばいいでしょう」
「さっきも言ったけど、それでいいんかい?」
「いいんですよ。誰もローマが滅んだ理由が一つ、などと思ってはいませんから。あらゆる要因が複雑に組み合わさって、滅んだというのが主流です」
「なんとでも言えるわね」
B鉛中毒
「当時、ローマで主に使われていた食器や水道管が鉛でした。それで鉛中毒にかかって頭のおかしくなったローマ人はろくなことが出来ないで、滅んだ、というものです」
「かなりそれっぽく聞こえますね。末期ローマ帝国にまともな皇帝はほとんどいません」
「しかし、西ローマを滅ぼしたオドアケルは頭がおかしくありませんでした。それどころか、有能な統治者と言えるでしょう。これを説明するのは少し面倒ですね」
「そういえば、当時も鉛は害だ、と分かってたみたいだな」
「どうなんでしょうね?」
「というわけで、よく分かりません」
「それでいいのか」
「専門家じゃありませんので、次に移りたいと思います」
Cキリスト教のせい?
「ほう、世界19億のキリスト教徒を敵に回すというのですか? そうなんですね? 今すぐ教皇聖下にご奏上申し上げて第九次十字軍の出動を」
「落ち着いてください。キリスト教は戦いを抑制するような、平和的な宗教であるから、帝国の国民は堕落したのだ、と述べているんです」
「それは限りなくナンセンスですね。見てください、この電波っぷりと猛りっぷり。それがローマ人の戦闘意欲を奪ったとは思えません。身内でも延々と異端審問やら、神学論争で不毛な争いを繰り広げ、肝心な時に協調できないどころか、それをガイセリックを始めとする異民族にも利用されました。かなり攻撃的な宗教ですよ」
「そりゃそうだ」
「褒められているような気がしません」
「褒めてないんですから」
「他にも、コンスタンティヌス大帝の時代に兵役を嫌がるキリスト教徒は、『神に代わっておしおきよ』というとんでもないものが決議されました。その彼らがローマ人の戦闘意欲を奪った? ありえません。キリスト教は異端審問、異教徒迫害。屍山血河を築いてきた最強の世界宗教なんです。ある意味、これだけ戦闘を肯定しまくっている宗教は他にありません」
「共産主義は?」
「あれは宗教ではない、ということになっていますので、とりあずは無視しましょう」
「ふと思うのですが、エドワード・ギボンという人は実は無神論者や異教徒よりも質の悪い反キリスト教徒ではないでしょうか? 反キリスト教皇帝は無条件で評価を高くしているように見えます」
「おのれ!! 異端開いて悦に入っているだけかと思ったら、そんな反救世主を掲げる危険人物を偉大とするなど、隕石でも叩き込んでくれるわ!!」
「そんなわけで、少なくともキリスト教はローマからそれまでの寛容性を奪い、ローマらしくない国にして、神学論争が異民族の侵入を招いたのは事実ですが、失墜していた皇帝の権威を回復させ、東の帝国を千年も存続させたのですから、キリスト教は決してローマを滅ぼしたものではありません。むしろ、ローマを存続させた大きな要素と言えるでしょう」
「いや、あの……今回は物凄く褒められた気がするのですが」
「褒めてるんですよ。どんなものにも、プラスとマイナスがありますから」
「ただ、共産主義はその割合が1:100000000000000000000になります」
「1:1000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000では?」
「セロ幾つあるんです?」
「今から洗礼を受けてはどうですか?」
「やめておきます。とはいえ、早期にキリスト教を導入していればローマが地中海を失わずに済んだのか、と問われると非常に微妙です。これはキリスト教以前の問題ですので」
D民族の純血性?
「イタリアを統一した本来のローマ人が周辺の蛮族をローマ市民にして、帝国の純血性を損ない、それゆえに愚かな皇帝を輩出した、というある意味とんでもない理屈です」
「そんなもの存在せん」
「長い間、異民族の侵入がどうたらで混血繰返しまくってるんだから、今更どうだっていいことだと思いますが」
「大体、それをいってしまったら、ローマ帝国自体が成り立たなくなります。確かに初期はイタリア半島在住の皇帝しか出ていませんが、最盛期の五賢帝はネルヴァ以外は揃いも揃って、スペイン人です。三世紀の危機を収拾したのは蛮族と大差のない連中ですよ。混血は明らかにローマの寿命を延ばしましたね」
「というわけで、これは作者的には否定します」
E東方との貿易摩擦?
「ローマ人は東方との貿易に非常に熱心でした。それを手に入れるために金を外国にばら撒いて、経済状態が悪化した、というものです。特に、絹はローマで非常に人気がありました」
「我のところから大量の絹を輸入していたな。まあ、中国製だが」
「そういえば、パルティアだかササンはローマとの直接貿易を求めていた中国人の商人に、長旅で疲れているのを突いてローマまでの出鱈目な地理を教えたようですね。まだまだ遠いことにある、とか吹き込んだらしいですね」
「腹黒い中国商人にはいい薬だろう」
「まあ、これによってローマの金が外国に流れていたのは事実でしたので、ユスティニアヌス大帝は養蚕技術を買い入れて、自分のところで作りました。まあ、この件とはあまり関係ありませんね」
「要因の一つ、ということにでもしておけばよいかと」
「それでは、次に移ります」
F気候の変化?
「帝国の温暖な気候が変化して、帝国の農作物が育たなくなった、というものです。天の気紛れによって帝国が衰退した、というものですね」
「しかし、これを検証するのは作者の能力を超えていますので、これは保留とさせていただきます」
「それでいいのか?」
「いいんです」
「開き直ったか」
Gローマ市民権の大盤振る舞い?
「カラカラ帝による市民権の大盤振る舞いが志願兵を減らして国防能力を低下させ、市民としての誇りを奪って、国民の向上心を奪いました。これが三世紀の危機をさらに悲惨なものとしたのは確実ですね」
「どちらかというと、衰退の原因その一ですね」
H帝政になったせい?
「ローマが共和政という素晴らしいシステムを放棄して、帝政になったから、という理由です」
「崩壊から四百年以上経っていることを考慮すると、帝政がローマの寿命を縮めたとはとても思えないが」
「風が吹いたら桶屋が儲かるのとほとんど同レベルですね。これだったら、年取って病気にかかって死んだ、で終わっちゃいますよ」
「これは言い掛りにも等しいと思いますので、無視することにします」
I奴隷制の崩壊?
「これは地中海世界の大規模農業を行うのに大量の奴隷を使っていたが、征服戦争の停滞によって奴隷が少なくなり、結果として生産力が落ちた、というものです」
「教科書なんかにはよく載っていますね」
「アカどもが喜んで主張していますが、一見の価値はあります」
「奴隷制が成り立たなくなったのは事実ですね。三世紀の危機の一連の騒動のおかげで、奴隷を得る云々以前に奪われていましたから。
それをなんとかしようと、ディオクレティアヌスが封建制の原型を作りました。ただ、そのせいで地方の領主の権力が増大して、帝国に税金を納めない、ということも度々起きました。まあ、高くて払う気にもなれない、というのもありますが」
「ローマを変質させたのは事実ですね。これも要因の一つであるのは確実です」
J資源の枯渇?
「帝国の経営していた金山や銀山が枯渇して、帝国の経済状態が悪化したというのがその理由です。確かに、鉱山が枯渇したのは事実です」
「他にも、森林伐採で熱資源を失ったローマの国力が衰えた、というものもありますね。事実、地中海では木は非常に貴重なものであり、遺言状でも木の枠やらが別個に分けていました。カエサルはガリア遠征で街道を敷きながら切り倒した木々を本国で売り飛ばして大きな利益を得ていたようです。少なくとも、古代にも森林伐採はあったようです」
「なんというか、要因その一、て感じですね」
「それ以上の意味は見出せないと思います」
K人口の減少?
「これまでの災厄によって、ローマを構成する人口が減って、あらゆる意味で国力が落ちて崩壊した、という理屈です」
「原因というより、結果でしょ。それは」
結論
「そんなわけで、ローマ帝国の衰亡論はそれこそ衰退の原因の博物館のような様相を呈しているわけです。ここに挙げたものとて主要なものであり、ほんの一部でしかありません。というより、一緒に出来そうなものは、なるべく一緒にしました。そうしないと、何時になっても終わりません」
「ていうか、んな博物館が出来るようなら滅ぶでしょ」
「恐竜が滅んだ時みたいな話ね」
「わたしとしては、救世主の教えが帝国を滅ぼしたわけではない、という結論を出せただけで問題ありません」
「そうかい」
「質の悪いことに、誰もが自分の時代とローマとを重ね合わせて考えるものですから、自分の時代の危機がローマ衰亡の理由の一つかもしれない、ということで際限なく増えていくんです」
「本気で際限ないですね」
「もしアメリカが滅んでも、こんな博物館は出来ないでしょうね」
「宇宙帝国が滅びるか、西洋が没落してしまうかしない限りは、ローマの博物館を上回ることはないでしょう。これにて、今回の授業は終了します」
「次回はビザンツね」
「大分先のことになりますけどね」
「何故だ?」
「ローマ人の物語13『最後の努力』を読んで、前回の演劇を加筆修正したりする予定ですから。ビザンツを、ユスティニアヌス大帝の活躍を描くのが結構先のことになりそうです」
「それではまたお会いしましょう」