ゲルマン民族大移動〜ヴァレンティニアヌス三世の死
「テオドシウス大帝の死後の帝国の東西分裂から始めたいと思います。彼の死後、帝国の分裂は決定的なものとなり、この二つを再び統合しうる皇帝はもう現れません」
「ていうか、分裂の必然を皇帝の質で何とかしてた、て感じね。ディオクレティアヌス、コンスタンティヌス、テオドシウス。一人だって使えない皇帝はいないわ」
「まあ、そうですね。後期ローマ帝国はシステムではなく、人間の力量でもっていたと言うべきでしょうね」
「さて、帝国を滅ぼした要因の一つ、民族大移動の経緯について述べておきましょう。ゲルマン人は農業技術が未熟で、増えた人口を養えませんでした。これは確かに重要なことではありますが、決定的なことではありません。彼らを移動に駆り立てたものたちの話からしましょう。つまりは、中国からです」
「東の果てと西の果てがどう関係あるんです?」
「ありますよ。始皇帝が中国を統一した後、死後に崩壊して劉邦と項羽が争ったのは広く知られている通りです。ですが、中国の目が北の草原からお留守になっている時、北に大英雄が登場します」
「チンギス・ハーンですか?」
「時代違うし」
「匈奴の冒頓単于です」
「托鉢単于?」
「匈奴に坊さん?」
「冒頓単于です」
「結構マイナーな人物ですが、彼こそ最初の遊牧王です。彼は中国で覇権争いが起きている隙を突いて北方の遊牧民を糾合、巨大な帝国を建国しました。さらに、始皇帝によって奪われていた領土も回復しました。
そして、中国に侵入し、建国直後の漢に圧勝。劉邦による90万とも言われている大軍をも包囲して、彼を屈服させ、漢に毎年の年貢まで出させ、劉邦と呂后でさえ下僕扱いしました。中国制覇を諦めると、今度は西へ進撃して、東西交易の要所を押さえ、さらに勢力を拡大します。資料さえ充実していたなら、北の始皇帝と言われていたことでしょう」
「やるではないか」
「それは、とても恐ろしい男ですね」
「彼がどうかしたんですか?」
「もう少し待っていてください」
「漢は強大な匈奴に圧迫されて、逆らうにも逆らえない状況が続いていました。しかし、漢の七代皇帝武帝はこれまでの宥和政策を否定して、匈奴と全面対決します。このころには国力が強大なものとなっていた漢は匈奴を撃破し、本当の意味で東ユーラシアの覇権を握ります。
撃破された匈奴は内紛によって力を弱め、後漢時代には親漢と、反漢とに分かれて闘争を繰り広げた挙句、漢の遠征によってほぼ完全に制圧されました。親漢はそのまま漢に服属しましたが、反漢は漢の勢力を笠に着た連中によって中央ユーラシアに追い出されました。彼らはユーラシア大陸を西に西へと移動を繰り返して、南ロシアに勢力を広げていたゴート王国に襲い掛かったんです」
「つまり、フン族の正体は匈奴?」
「そうかもしれません。中国語で匈奴はフンヌと呼ぶそうですし。まあ、中央ユーラシア横断に関してはろくに証拠がないので、彼らが本当に匈奴なのかは分かりませんけどね。トルコ系の遊牧民という話もあります」
「面白そうな話ではありますね」
「さて、フン族はローマから蛮族と呼ばれていたゲルマン人からも蛮族と呼ばれていただけあって、その出自は不明です。ゴート族の伝説では、退治した魔女と荒野の悪霊から生まれた、とか言われてますけど」
「悪意と偏見に満ち満ちていますね」
「蛮族が蛮族を蛮族と呼んだわけか」
「一民族のルーツが分からないことなんて、いつものことだと思いますけど」
「まあ、それはそうなんですが、降って沸いたように現れて地中海世界を蹂躙した存在である、ということから有名になったので、皆が興味をもったんですよ」
「フン族はゴート族やフランク族、ヴァンダル族を追い散らし、ローマの前に姿を見せました。彼らはゲルマン人以上に馬の扱いが巧みで、誰も彼らに勝つことは出来ませんでした。なにしろ、馬の上で生活していた、という話もあるくらいです。ていうか、あの連中に馬で勝てる奴は唐時代の中国史上最強の将軍李靖くらいしかいません」
「あの那タにぼこされた駄目オヤジですね」
「作者は彼が中国史上最強の将軍であったのを知って、びっくり仰天したわ。だって、原作でも漫画でも情けないことこの上ないんだもん」
「特に漫画版は酷いですからね。出番がないうえに、出てきてもやられ役でした。しかも最後は人間界で仕事してましたから、作者には仙人とすら思われていません」
「っていうか、お前は本当に毘沙門天かよ? ってくらい扱いが悪いわね」
「誰ですか? それは?」
「この講義とはほとんど、ていうか全然関係ありませんから、各自で調べてください。ただ、少し調べれば分かると思いますが、あれはもう化け物です。ベリサリウス辺りと戦ってくれたら、さぞかし名勝負を繰り広げてくれたのでしょう」
「時代も場所もかなりずれてるけど」
「まあ、それはそれとして、彼らはとうとうローマ帝国の領域に辿り着きます。まあ、しばらくはローマ以外の蛮族に手を出すのに忙しくて、あまりローマ領内には侵入はしてこないんですけどね」
「弱いのから少しずつ、てわけね」
「さて、追い出された蛮族たちはローマを目指します。その第一段階のゴート族がテオドシウス大帝によって、ローマに服属したのは前回の通りです。それで帝国の東側を守っていました。しかし、彼らが大人しくしていたのは大帝が生きている間だけです。テオドシウス大帝の死後、東の宮廷は何故かは不明ですが、彼らへの給金を止めてしまいました」
「いきなり自爆してますね」
「それは西帝国の将軍スティリコ
が唆したとも言われていますけどね。ともかく、それに怒った西ゴート族はアラリック
の指導のもとギリシアに侵入して略奪を行いました。ろくな将軍のいない東はいい感じにボコボコにされて、打つ手がありませんでした」
「いい感じに弱体化してるわね」
「この東帝国の危機を救ったのが、西帝国の将軍スティリコです。彼は西帝国のホノリウス
の後見人で、実質的な西帝国の最高指導者です。彼もまた、ゲルマン人です」
「敵も味方もゲルマン人ですか」
「もう追い出せないので雇っていたのですが、これがまた意外と役に立つんです。帝国の延命に少なからず寄与しました」
「スティリコはアラリックに手痛い打撃を加えますが、アラリックには逃げられてしまいました。さらに追撃をかければ打ち滅ぼせたでしょうが、何を血迷ったのかは分かりませんが、東の宮廷はスティリコに領土を侵犯したとかよく分からないことを言って、追い出しました。そして、国内を略奪したアラリックをイリュリクム(今のユーゴスラヴィアからハンガリーにかけて)の司令官にしました。本当に、何を考えているのやら」
「ですが、さっきの給金取りやめがスティリコの陰謀だとしたら、容易に信用しないと言うのも分かりますけど」
「まあね。この機にスティリコが東を占領しないとも限らないわ」
「アラリックに関しては同意ですけど」
「というより、今までの経過からお互いにお互いが両帝国を制覇しようとしている、くらいには思っていましたから。コンスタンティヌス然り、テオドシウス然り」
「さすがにアラリックは立場上、これ以上東から略奪するわけにはいきません。それに、東では結構、好き勝手に略奪を繰り返しましたので、目ぼしいものはあまり残っていません。強いて言うなら、コンスタンティノープルが残っていますが、あれは難攻不落の要塞です。攻めるだけ無駄でしょう。
これはあくまで推測の領域に入りますが、この時点でアラリックはある野望を抱いたものと思われます」
「野望?」
「それは後ほど。
とにかく、アラリックはイタリアへの侵入を目論見ます。西側攻略最大の壁、スティリコはスイスで蛮族と戦っていましたから、チャンスではありました。しかし、スティリコはイタリア防衛のためなら、他の属州がどうなろうと、知ったことではない、と考えているかなりいっちゃった人です。さっさと講和して、他の属州の守りが疎かになることは思いっきり、脳内スルーして属州から引き連れてきた大軍団をもってアラリックを返り討ちにしました」
「属州は脳内スルー、ていいの? それで」
「少数の要求は多数のそれに優先するんです」
「いや、まずいだろ」
「案の定、守りの疎かになった属州に蛮族が侵入してきました。スティリコはやっぱりイタリア大好きのローマ至上主義者でしたので、今回も属州が蹂躙されているのは脳内スルーして、イタリアに近づいてくる連中だけを撃破しました」
「いいのそれで?」
「英雄たるものは、目の前にある全てのものを背負っておるのだ。それをなんだ? こいつは。最初から何とかするという気概すらない」
「……」
「どうした?」
「英雄王がまともなことを言っている」
「五月蝿い」
「さて、とりあえず海の向こうなので、無視されていたブリタニアでは勝手に僭帝を何回も作って殺すと言うことを繰り返していました。三回目にはコンスタンティヌス大帝とたまたま同名だった、という本気で電波を受信したのではないかと思える理由で、コンスタンティヌス
という一兵卒が僭帝に擁立されました」
「こんなのしかいないのか」
「このままではキリスト教帝国が……電波しかいない国だと思われてしまう」
「もう思われていますから、諦めてください」
「この電波を受信したとしか思えない理由で擁立された僭帝は意外と頑張ります。金品で何とかするということも繰り返しましたが、ガリアとヒスパニアを支配して、それなりに広い領域を支配したんです」
「ただの電波ではない、ということですね」
「さすがのスティリコもここまで強大になった相手を無視するわけにはいきませんでした。そこで、アラリックをぶつけるという荒技に出たんです」
「昨日の敵は今日の友か」
「その逆もありですね」
「この二つの敵を互いに戦わせて、漁夫の利を得る気だけだと思いますけど」
「まあ、いずれにしても、アラリックは乗り気でしたし、この策は成功する可能性はありました。しかし、スティリコが宮廷の陰謀で謀殺されて、その件は白紙に戻されます」
「そんなに役に立つ将軍を殺すなんて、宮廷は何を考えてるの?」
「基本的にローマ人はゲルマン人を蔑視していましたから。彼らが帝国の高官の地位についているのが嫌だったんでしょう。というより、この国はローマ人のものであって、ゲルマン人のものではない、とでも考えていたんでしょう」
「キリスト教も、まずはローマ人になってから神に帰依しろ、とか言ってましたね」
「帝国の官僚制に組み込まれるほどですから」
「何処の世界でも国教は腐るものね」
「五月蝿いですよ」
「この隙を突かれてアラリックにイタリアに侵入されたんですから、もう目も当てられません。アラリックは当時宮廷のあったラヴェンナは防備が固いことから無視して、ローマを包囲しました。そこで、彼は前々から抱いていた野望を現実のものとするべく、当時のローマ元老院の有力者を皇帝に擁立して、西のホノリウスに退位を迫りました」
「擁立? まさか、西を乗っ取る気?」
「それどころか、彼は東西のローマ皇帝を傀儡とした真のローマの支配者となるべく、西と東を行き来していたものと思われます。そう、東西の皇帝を傀儡とした、世界の真の支配者となるために」
「それは、壮大な野心ですね」
「地位が非合法だな」
「そんなことが可能なんですか?」
「東ではスティリコが死んだのと同時期に皇帝が死に、幼いテオドシウス二世が即位していました。この皇帝を思うがままに動かすことは、さほど難しくはないでしょう。仮に、ペルシアが後見人というよく分からない状態になっていたとしても、ペルシアの武力ではアラリックを打ち倒すことは困難です」
「ペルシアが後見人?」
「ええ、人を信用できない症候群の末期を通り越して、ある意味別のところに到達していたテオドシウス二世
の父親はなんと、それまでの仇敵であったペルシア帝国に息子の後を託したんです」
「いや、本当に世も末だわ」
「三世紀の危機のほうがまだ常識の通じる世界でした」
「そんなものさえ懐古の対象になるとは……まったく、恐ろしい国だ」
「ところで、さっきまでのアラリックの野心ですが」
「ですが?」
「嘘です。冗談です。本気にしないで下さい」
スドドドドドドドドドド!!!
「ここまで盛大にこけたとこなんて、見たことありませんね」
「十メートルくらい行ってますね。あれは」
「痛そう」
「って、ここまで引いておいて嘘とはなんです。嘘とは」
「わたしまで信じそうでしたよ」
「意外と嘘が上手いのね」
「ネタです。この可能性がないことは、アラリックがあまり東に興味を示さなかったことと、パンノニアへの移住を希望していたことで容易に察しがつくことです」
「パンノニアは言ってません!!」
「忘れていたようです」
「本当に信じちゃったのがいたらどうする気だったんです?」
「ここまで読んでいれば、気付くから問題ありません」
「悪辣な」
「さて、アラリックのパンノニア移住は妥当な要求であるにもかかわらず、思慮が足りない上に、プライドだけは高い西帝国は受け入れないで、彼を悪戯に挑発して、とうとう彼を怒らせてしまいました」
「本当に、スティリコが死んだのが悔やまれます」
「彼でしたら、アラリックと上手くやって、帝国をさらに延命させたでしょからね。それこそ、本当に百年後には金髪のローマ皇帝が即位していたかもしれません」
「さて、それでは紀元前390年のガリア人侵入以来、実に八百年もの永きに渡っていかなる蛮族の襲来をも許さなかった、世界の首都、都市の女王が略奪された410年の再現VTRをご覧ください」
「堰(せき)を切れ!! 戦争の濁流の堰(せき)を切れ!! 諸君!! 目標はローマ全域!!
皇帝宮殿!! ハドリアヌス霊廟!! コンスタンティヌス凱旋門!! 神君ユリウス神殿!! トライアヌス市場!! アントニウス・ピウスとファウスタの神殿!! ロムルス神殿!! セウェルス凱旋門!! パンテオン万神殿!!
マルクス・アウレリウス凱旋門!! ティトゥス凱旋門!! トラヤヌス浴場!! 公文書館!! コンスタンティヌスのアーチ!! 元老院議事堂!! フラウィウス闘技場!! 大神官公邸!!
パラティーノ アヴェンティーノ カピトリーノ クイリナーレ ヴィミナーレ エスクイリーノ チェリオ 全て燃やせ
ボルトゥヌ神殿!! マクセンティウス競技場!! ポンペイウス劇場!!」
「大尉、アウグストゥス霊廟は?」
「爆破しろ!! 当然だ 不愉快極まる 欠片も残すな」
「マクセンティウスとコンスタンティヌスのバシリカはいかがしますか」
「燃やせ コンスタンティヌス像は倒せ
カラカラ浴場 ディオクレティアヌス浴場 サトゥルヌス神殿 全部破壊しろ 不愉快だ」
「トライアヌス記念柱は?」
「倒せ コンスタンティウスの大尖塔もだ 冗談の様に」
「マルケルス劇場はどうしましょうか」
「爆破しろ
かまうものか 目についた物は 片端から壊し、目についた者は 片端から殺せ 存分に壊し 存分に奪え この人口100万の世界の首都は 今宵 諸君らの 晩飯と成り果てるのだ
さあ!!諸君!!
殺したり殺されたり 死んだり死なせたりしよう さあ 乾盃をしよう 宴は遂に 今宵・此の時より開かれたのだ」
乾盃(プロージット)!!
乾盃(プロージット)!!
「大隊総員 傾注(アハトゥング)!! 諸君 夜が来た
無敵の新兵諸君 最古参の諸将諸君 万願成就の夜が来た 戦争の夜へ ようこそ!!」
「誰?」
「真祖に似た人物が出て来たような」
「シャクティもいました」
「貴女はガンダムにも手を出したのね」
「このローマ陥落によって、帝国の弱体化と、政府の無能はもう隠そうにも隠せないものとなってしまいました。教父アウグスティヌスはローマも所詮は地上の王国だ。天上の神の王国こそが大切なんだ、と『神の国』を書いて現実逃避しちゃいました。まあ、実際にはここまで徹底的に破壊されてはいないようですけど」
「確かに、ほとんどは今でも見れるものばかりよね」
「ちなみに、この報告を受けても全く動じなかった人物が一人いました」
「神経図太いというか、なんというか」
「誰なんです? そこまで冷静な男なら、この事態を解決できそうですけど」
「東郷元帥?」
「いや、時代も場所も明後日の方向だし」
「ホノリウスです」
「どういうことです?」
「ロ、ローマが凄いことになってるロボ」
「な、なんだと!! さっきまであれほど元気に餌を食べていたではないか!!」
帝の趣味が養鶏であり、可愛がっていた鶏の一匹が『ローマ』であることを思い出して言い直す。
「そのローマではないロボ。イタリアのローマが、アラリックの略奪に合って、凄いことになってるんだロボ」
それを聞いたホノリウスは、
「なんだ、そのローマであるか」
心の底から安堵の息を息を吐いた。
「こういうことです」
「い、いかれてる」
「もはや何か言う気にもなりません」
「駄目人間もここに極まったわね」
「こんなやつのために働いたスティリコが不憫でなりません」
「きっとローマのために、と思って働いたんですよ。断じて、こんな男のためではありません」
「しかし、なんでそこまで蛮族がローマのために戦うんです?」
「ゲルマン人たちはローマが偉大な帝国であり、世界そのものであるくらいに思っていましたから。そのローマを復興させ、後世に名を残したい、と本気で考えていたようです。言うなれば、ローマは滅ぼすものではなく、救うべき楽園なんです」
「地中海の連中はどいつもこいつも、ローマですか」
「というより、ローマの存在しない世界が想像できなかったんです。四百年も存在した大帝国でしたから、あるのが当然、ないほうが不自然なんです」
「でも、この二人は誰?」
「ゲストです。他作品からもってくるのも、偶にはいいだろう、ということです」
「もはやアラリックは西ローマ政府を信用できず、ホノリウスの妹ガラ・プラキデアを人質にして、イタリアを南下。北アフリカに渡ろうとしますが、急死します。その義弟アタウルフはこの前よりは物分りの良くなっていた西帝国の宮廷と交渉し、先ほどさらったガラ・プラキデアと結婚して、ガリアに移住します。ついでに、あの辺りを支配していたコンスタンティヌスらも西宮廷に残っていた良識のある将軍とともに打ち倒しました」
「なんていうか、皇帝が全然目立たないわね」
「ホノリウス以外、名前すら出こないな」
「この頃の皇帝というのが無能なのしかいないもので、否がおうにも主役がゲルマン人になってしまうんです。ホノリウスは存在そのものがネタなので、名前を出しただけです」
「あのエピソードはネタ以外の何ものでもありませんからね」
「しかも、彼は本当に不能だったらしく子供はなく、女と夜を共にしたこともなかったようです」
「皇帝最大の仕事、子作りが出来ないわね」
「西ゴート族はこうしてガリアに定住し、それと同時にブリタニアに裂く兵力のないローマはブリタニアから完全に撤退しました。このころのローマの税金はやけに高くなっていたので、彼らはこの撤退に喜んだようですが、侵入してくる異民族を見て『ローマは奪うが、少なくとも大量虐殺はしない』といことを思い出して、かなり苦労することになります」
「これでわたしの登場する下地が整えられた、ということですね」
「ええ、セイバーさまが活躍されるアーサー王伝説の幕開けです。セイバーさまがいつごろ生まれたのかは存じ上げませんが」
「わたしの聞くところによると、あまりにもゴテゴテくっついてしまったので、とてもモデルを特定出来るものではないみたいですね」
「アーサー王ですか。色々、ネタがありますね」
「騎士ガンダム物語円卓の騎士とか」
「いきなりマイナーなものを」
「バビロン5」
「そういえば、新造戦艦がエクスカリバー、とか言ってたわね。他にも俺はアーサー王だ、ていう電波入ったこと言ってる危ない爺さんが出てきたし、第五シーズンのアイチャッチがエクスカリバーを意識していたわ」
「二つともマイナーですね。もっとメジャーなものはないんですか?」
「エクスカリパーを装備したギルガメッシュ?」
「よりによってそれですか」
「思い出すだけでも腹が立つ。あの会社は我を侮辱しているのか? 一人残らず塵にしてくれようか?」
「それはおいといて、続けたいと思います。ガリアを西ゴート族に委ねて、一応の危機を西ローマは回避しました」
「危機、ってもほとんど自滅みたいなもんじゃん」
「自分で墓穴掘ってるだけですよね」
「国が滅びる時というのは、どういうわけか無能なやつが有能なのをぶちのめし、さらに敵の攻勢に合わせて墓穴を掘るものだ。いつものことだ。気にするな」
「それもそうですね」
「ところが、アタウルフが制圧したヒスパニアで暗殺者の手にかかって死去。ガラ・プラキデアが捕まったりもして、王位継承でもめにもめましたが、さすがにそんなのに付け入る暇のないローマは彼らと再び手を組むことにして、とりあえずガリアにお帰り願いました。こうして、西ゴート王国の基盤が築かれたんです」
「とっ捕まった妹は?」
「ガラ・プラキデアはスティリコ亡き後の有力者コンスタンティウスに嫁ぎました。しかし、夫の死後まもなく、ホノリウスとの仲が悪化して、東に逃げだしました」
「このお姫様も苦労してるわね」
「しかも、西ゴート王国が建国されたのを皮切りにフランク族などといった有力な種族にも領土を割譲することになってしまい、ますます西ローマの領域は縮小してしまいました」
「いい感じに坂を転げ落ちていますね」
「東はどんな様子だ?」
「基本的には平和でしたね。ペルシアとは前述の電波入った理由と、ペルシアの東に建国された王国の脅威のおかげで、さほど問題はありませんでした。フン族の脅威もまだ遠い話です。なにより、フン族は東ゴート族にくびきをうっていましたから」
「西が大変なのに、よくもまあ」
「元々、東のほうが国力は上ですから。それも少なからず、影響を与えていますね」
「そんな時、西皇帝ホノリウスが死亡しました。ホノリウスは不能なので子を残しておらず、西の高官が皇帝を名のりました。勿論、そんなものを許すつもりのないガラ・プラキデアは東の援助をえて、僭帝を打ち倒しコンスタンティウスの息子ヴァレンティニアヌス三世
を皇帝に即位させました」
「よく天寿を全うできましたね」
「忠臣を殺すわ、無意味に敵を怒らせるわ。まったくろくなことをしていないな」
「こんなのでも天寿をまっとうできたというのですから、本当に世の中は不公平ですね」
「ドミティアヌス辺りが聞いたら怒り出しそうね」
「まさにラッキーマンですね」
「って、ホノリウスが畳の上で死ねたことに目がいって、東側の手で皇帝が擁立されたのは端っこに行ってるわね」
「理不尽ですから」
「理不尽ですよ」
「それは置いて置いて、新たな皇帝が擁立された西ローマで再び政争が起きます。これは当時の西ローマの有力な将軍アエティウスとボニファティウスが中心人物でした。アエティウスが自分の出世を妨げる高官を叩きのめしたのを見てガラ・プラキデアが危機感を抱いたのがその発端です。
ガラ・プラキデアはボニファティウスに助けを求めたのですが、アエティウスは先手を打ってボニファティウスが反乱を起こしたかのように触れ回ったので、ボニファティウスが暴発してしまいました。しかし、さすがに独力では心許ないボニファティウスは当時、ヒスパニアで追い詰められていたヴァンダル族を招きよせたんです」
「この連中に危機意識、てのはないんですか?」
「国内の争いにわざわざ招きよせるなんて、どうかしてるわ」
「まあ、何を言われても仕方ないですね。しかも、ボニファティウスは招き寄せたヴァンダル族に追い出されて、ローマに引き上げたすぐ後にガラ・プラキデアの信頼を回復して、アエティウスを追い出した後ですぐ死ぬんですから、何もいえないくらいアホなことやっていますよ」
「行き当たりバッタリですね」
「自分で招きよせておいて追い出されるか? 普通?」
「まあ、フン族の支援をえたアエティウスがすぐに戻って来たので、それほど悪くはなりませんでしたけど」
「なんでフン族が?」
「彼、実は若いときにフン族に人質として送られていたんです。その時に、フン族の王族とも仲が良くなったと言われています。現に、アエティウスがフン族との交渉を取り持っていたので、とりあえず西側はフン族の襲撃を受けずに済んでいます」
「東は?」
「いい感じに貢納金を支払わされていましたよ。しかも、西が現在のハンガリーに領土を与えて、東側に行くよう唆していましたから」
「自分のためなら、仲間も犠牲にする、というところか」
「鬼ね」
「まあ、東側はどうせ東ローマ領内で使われて最後には戻って来るんだ、とか負け惜しみを言っていましたけどね」
「確かに、負け惜しみですね」
「北アフリカにやってきたヴァンダル族の王ガイセリックはアラリックにも勝るとも劣らない有能な人物です。ボニファティウスを追い出して、北アフリカに自分の王国を築き上げました。さらに、東ローマと通じて東西ローマの足並みを乱します。そして434年には西ローマの承認を取り付けて、ヴァンダル王国を独立国としたんです」
「アラリックとは大分違いますね」
「アラリックに対する西政府の対応を見て、まともに話せる相手じゃない、て分かっただけだと思いますけど」
「あの物分りの悪い連中相手にまともな交渉は出来ませんからね」
「ということで、彼は西ゴート族とは異なる戦術で西ローマを攻めました。それは先ほどの結果からして成功したと言っていいでしょう」
「それにしても、どんどん領土が減っていくわね」
「北アフリカは西ローマの穀倉地帯ですから。これを奪われた西ローマは経済的な基盤を失ってしまいました」
「滅亡のカウントダウンが始まりましたね」
「さらに、この頃になるとフン族の中に劇的な変化が起こるんです。王が死に、その息子ブレダとアッティラ
の兄弟が王に即位しましたが、野心家のアッティラはブレダを殺害して、ただ一人のフン族の王となりました。ちなみに、アッティラは首領とか、父親を示すあだ名で、本名は不明ですけどね」
「神の鞭、とか言われる大王が本名不明なんて、笑っちゃうわね」
「兄のブレダも、兄を示すあだ名でしかなく、本名は分かりません」
「それでは、ブレダキングは『お兄ちゃん王』という、シスタープリンセス辺りで大活躍していそうな男になんですか?」
「ぶれだきんぐ?」
「シスタープリンセスよりは超兄貴に出てきそうな感じがしますけど」
「聞いたこともありません」
「ほら、トランスフォーマー2010で出て来たアニマトロンの合体したロボットですよ。知りません?」
「普通誰も知りません」
「ねえ?」
「ブレダではなく、プレダじゃありませんか? この場合だとpredator(肉食動物)の王という意味ですから、さほど変ではありませんね」
「って、知ってるのがいました」
「一体、パッチはどうなってんの?」
「初代ガルバトロンがあります」
「誰それ?」
「ああ、あの今はもうまともに再放送できないんじゃないか、ていういかれた設定の」
「意外と有名ね」
「どんな設定なんです?」
「映画版でロディマスに宇宙に投げ飛ばされたショックで、電子頭脳に異常をきたして、キチガイになったというある意味とんでもない設定のロボットです」
「キチガイ、て。いきなり放送禁止用語だし」
「後のヘッドマスターでは治っていましたね。まあ、まともになったのが少し残念です。あのいきなりよく分からない理由で暴れ出す彼が大好きだったんですけど」
「日本はあの頃からその手の規整に五月蝿かった、ということですね」
「作者は現在放送中のスーパーリンクではなく、ビーストウォーズ・リターンのほうを放送して欲しいらしいな」
「作者はどうもマイクロンが好きになれないんですよ」
「ユニクロンが出たのは素晴らしいんですけどね」
「名前だけなら最近は結構、安売りされてると思いますけど」
「話が脱線しすぎです。それは後でやって下さい」
「アッティラはそれまでのフン族の遊牧民的な生活の改革を望んでいました。すなわち、定住民族への移行です。現に、西の果てまでやって来たフン族の生活様式は変わりつつありました。とはいうものの、わざわざローマ領内に入って生活をしようと考えているわけではありません。南ロシアからゲルマニア一帯に蛮族による大帝国の建国を構想していたようです。
そのために、彼は東ローマに度々侵入しては略奪をしたり、貢納金をせしめていたんです。いうなれば、これを頭金にしての改革です。当時のゲルマニアは貧しい地域でしたから、時間はかかったでしょうが」
「それは嘘ではありませんよね?」
「嘘ではありませんが、確証はありません。大部分は推測によるものです。しかし、アラリックやガイセリックとは明らかに違った行動を取っていることは、注目に値します。少なくともアッティラにはそういった構想があったと思われます」
「やけに評価が高いわね」
「作者は彼を当時最大の人物と見ていますから」
「アッティラの即位当初、東は地震の影響もあってフン族に貢納金を納めざるえない状況が続いていました」
「地震?」
「ええ、アッティラが侵入した前後に地震が起きてコンスタンティノープルの城壁が崩壊したんです。弱気なテオドシウス二世は慌てて金を与えることを選びました。城壁自体は三ヶ月で完全復興するんですけどね」
「運がない国ね。しかも、アエティウスが東に行け、てけしかけてるんでしょ?」
「ええ。さらに言えば、アエティウスは東以外にもフン族をけしかけて攻撃させていました。西ゴート族の勢力拡大を懸念して、攻撃させたりもしていたようです」
「同盟部族になんてことを」
「約束なんて破るために結ぶ、くらいに平気で思ってる連中ばっかですから。例えば、承認を受けたヴァンダルのガイセリックは西ローマがボロボロなのをいいことに、西ローマの海域で海賊行為をしていましたし」
「火事場泥棒ですか」
「さて、東では弱気なテオドシウス二世が死んで、テオドシウス二世の姉にして当時の東帝国最高権力者プルケリアが皇帝となりました」
「って、女が皇帝になっていいんかい?」
「いいわけありません。すぐにでも文句が来ることを警戒した彼女はマルキアヌス
という将軍と結婚して、彼を皇帝として、不満をかわしました。さらに、マルキアヌスはこれまでの東側の屈辱的な外交にうんざりしていた人物でもあります。そこで彼はそれまでフン族に払っていた貢納金を廃止して、防衛ラインの強化に務めました」
「東では久しぶりに気骨のある男ですね」
「さすがのアッティラも本気になった東ローマの力を警戒して、攻撃を見合わせます。そんな時、西ローマの宮廷から一通の手紙が届いたんです」
「誰から?」
「当時の西ローマ皇帝ヴァレンティニアヌス三世の姉ホノリアからです。経緯ははぶきますが、彼女は何を思ったのかアッティラに憧れを抱いて結婚したい、と言い出したんです」
「おいおい」
「さすがの無知無能なヴァレンティニアヌス三世も怒り出して、ホノリアにどこの馬の骨とも分からぬ男をあてがったのですが、アッティラは姉の願いを叶えるべきだ、と反論。それに皇帝は『ローマを支配しているのは女ではなく、男だ』と言い返したそうです」
「田嶋陽子が聞いたら暴れ出しそうな台詞ですね」
「それはともかく、アッティラはこれを西ローマ進撃の口実にして、ガリアに侵入。略奪を繰り返しました。他にも理由はありますけどね」
「どんな?」
「ガイセリックがヒスパニアにまで勢力を拡大していた西ゴート族を警戒していたんです」
「またあいつか」
「彼らに北アフリカに渡る意図があったのかどうかは不明でしたが、ガイセリックはアッティラに貢物を送ってガリア侵入を依頼したそうです」
「どいつもこいつも」
「さて、西ローマのアエティウスはこの事態を収拾するべく、ガリアに出陣します。しかし、彼の権力基盤であるフン族との交渉能力はこの場合はあまり意味をなしません。そこで、同盟部族である西ゴート族に軍を出すように依頼しました」
「簡単に納得できるの? アエティウスは西ゴート族をいじめてたんでしょ?」
「そのあたりは舌先三寸でなんとかしたようです。ともかく、これで西ローマと西ゴートの連合軍が完成しました。カタラウヌムの戦いでアッティラ軍を打ちのめして、ガリアから追い出します。
この時に追撃を行えばアッティラを倒すことも可能でしょうが、アエティウスは戦闘時に西ゴート王が死んだのをいいことに西ゴート族を居住地に帰して、連合軍を解散しました」
「どうして?」
「フン族が倒れては、アエティウスの権力基盤が消えてしまいます。彼はフン族をけしかけて、周辺の敵を倒してきましたから。あとは、フン族が倒れては抵抗勢力の西ゴート族が大きな顔をするのは避けられません。これも懸念の一つでした」
「うーん、いい感じに欲得まみれね」
「でも、アエティウスは長い間、フン族の中で暮らしていました。もしかしたら、そのなかで心を通わせたアッティラを倒してしまうのが忍びなかったのかもしれません」
「それはないわね」
「あの嘘八百で同僚を陥れるような奴が蛮族ごときにそんな殊勝な感慨を抱くわけありません」
「十中八九、政治的な駆け引きですね」
「これまでの行動がそれを証明しています」
「小賢しい」
「完全に否定されてしまいました」
「ですが、彼の意図を無視して翌年アッティラがイタリアに侵入してきました」
「再びイタリア全土がアラリックの悪夢に包まれたその時、ローマ教皇レオ一世がアッティラの下に交渉に向かいました。なんと、意外にも交渉は成功してアッティラはイタリアから退去してしまいました」
「って、破壊と略奪のチャンスよ」
「これぞ、これぞ、神の教えが正しかったことの証明なのです!! 「西欧の総大司教」「イタリアの大司教」「ローマ司教」「キリストの代理者」「神の代理人」「使徒の頭の後継者」「全カトリック教会の首長」の聖なるオーラが無知蒙昧なる蛮人どもに欠片くらい残っていた良心に訴えかけたのです!!! これを神の勝利と呼ばずして、一体何を神の勝利と呼べるでしょうか!!!」
「うざったい」
「まあ、実際には大量の賠償金と、ホノリアを与えるという約束でお帰り願ったようです。こういうのはなんですが、ローマ教皇が行かなくてもなんとかなったような気が」
「黙れ!! 異教徒!!」
「他にもアッティラの軍で伝染病が蔓延していたとか、色々言われていますね。このチャンスを突けば、恐らく勝てたでしょう。それに、ローマはアエティウスが守っていたので、落とせなかったみたいです。この辺り、ヒトラーがフン族の脅威は軍隊によって粉砕されていただろう、と言っていた根拠です。まあ、それ以上に彼はキリスト教がローマを衰退させた、くらいに思っていたんですけどね」
「あんな世紀の独裁者の意見など参考にしてはいけません!!」
「って、その世紀の独裁者と組んだのは一体何処の誰だ?」
「そんな細かいことは気にしては天国にいけませんよ」
「貴様が行けん」
「いずれにしても、イタリアから撤退したアッティラは本拠地で新たな妻と結婚式をあげて、初夜をともしたその夜のうちに鼻から大量の血を流して死亡しました」
「新たな妻?」
「フン族は一夫多妻制だったようです。アッティラに何人の奥さんがいたのかは分かりませんが、死後の混乱を考えると相当に多くの妻がいたことが察せられます」
「ギャルゲーの主人公が聞いたら泣いて喜びそうな話ね」
「わたしは絶対に許しませんけどね」
「同感です」
「シロウがそんなことをしたら軽蔑します」
「それにしても、結婚初夜に鼻血たらして死ぬなんて。これ以上にかっこ悪い死に方は他にないんじゃない?」
「無様だな」
「アッティラが急死したこともあって、後継者争いが勃発。これでフン族の勢力は分裂の末、消失してしまいました。その後は各部族に傭兵として雇われたりして生計を立てていたようです」
「全ては一睡して消え去った、てところですね」
「こうしてみますと、アッティラはガリアとイタリアの遠征だけで歴史に名を残した、てことになりますね。特に何をした、というわけでもありませんし」
「かなり妙な人物だな」
「同感です」
「いやいや、九十九パーセント架空の人物のあんたらと比べたら」


「どやかましい!!!!」
ボコっ!!!
「いたた」
「一方、西ローマはフン族の勢力が消えたことで、政治的な強みのなくなったアエティウスを目障りだと考えたヴァレンティニアヌス三世が彼を殺害しました」
「自分で有力武将を消したか」
「帝国にはもう、馬鹿しか残ってないんですか?」
「それはどうでしょうか? 彼が西ローマで大きな力をもちえたのにはフン族との繋がりが大きなウェイトを占めていましたから。それがなくなった以上、いてもいなくても、大差ないかと」
「言い過では?」
「だけど、アフリカ失った時点でもう色々大切なものをなくしちゃったし」
「そのヴァレンティニアヌス三世もある元老院議員の妻を手篭めにして、その恨みで殺されちゃうんですけどね」
「神罰ですね」
「女の子を手篭めにするのはいけないと思います」
「さて、これでテオドシウス朝は断絶。西ローマ帝国はそれこそ滅亡へのカウントダウンを開始しました。次回は西ローマ帝国の滅亡と、どうしてローマが滅んだのか? を扱いたいと思います」