打ち上げ会

「これで、『コンスタンティヌス大帝の栄光』を終了します。ところで、彼はどんな風に見えましたか?」

「すっげえ、嫌なやつ。これが大帝? 最悪のイギリス野郎じゃない」

「そういえば、一時期彼の血縁者にブリタニアの王族が入っている、という話がありましたね。現在は否定されてますけど」

「権力欲の権化」

「まことに、けっこうなキリスト教徒だな」

「ついでにフランス並の傲慢さとドイツ並みのパワーを持っていますね」

「嘘つき・欲張り・けちんぼの無差別級統一王者候補だろ」

「彼は教会で聖人にも列せられている偉大なる人物なんです!! それを否定する者は世界の怨敵、救世主を否定する悪魔の化身なんです!!」

「スポークスマンがよく言う」

「てめーは今から異端審問でもうけやがれ!! ノアは自分のパクリだとぬかす英雄王!!」

「ねえ、キリストが関わってからずっとこの調子だけど、もしかしてこれからは、キリスト教帝国の賛美をくりかえすんじゃ……」

「そういうことはないでしょう。彼女はカトリックですから、ずっと反ローマを貫き通してくれるはずです」

「あたしは別にいいかな。主役だし」

「鬼畜外道だけどな」

「気にしない気にしない」

「不遇だったわたしにも、ようやく日の光が当たったよ」

「貴女は日に当たったら死にますが」

「気分の問題だよ」

「弓塚さんはいいよ。おれなんて、でてすぐ死んだぜ」

「君らはまだいいほうさ。ぼくなんてやられ役だ」

「この時代は大帝以外はみんなやられ役ですよ」

「何でわたしがガレリウスでアルクェイドさんが大帝なんです」

「やりたいのか? あれ?」

「……イメージが悪くなりそうですね」

「我は、不満だ」

「わたしはいいかな。結構、見せ場あったし」

「見せ場作ってなかった?」

「いいのよ、少なくとも、最期の台詞はあってたんだから」

「それまでの過程はメチャクチャですけどね」

「サービスサービス」

「ところで、お姉さんは?」

「面倒だから、て帰っちゃった。わたしが目立ったのも気に入らなかったみたいだし」

「なんというか、悲劇の皇子、といったところでした」

「わたしは……文字通り出番だけあったわ」

「わたしは最期のところでようやく名前がもらえました」

「わたしは、公会議でしか出番がなかったな」

「まあ、これはあくまでも、作者にとっての当時の世界観ですから。少なくとも作者は大帝をこんな風に見ている、くらいに思ってくれればいいです」

「あそこまで悪党に書いといてそんなこと言う?」

「悪党どころか、悪の化身、という感じだな」

「ここでは、劇で行うには退屈な大帝の各種改革についてやりたいと思います」

「確かに、あまり面白いものではないな」

「さて、大帝はこれまでローマの伝統的な文官武官の曖昧さをなくして、綺麗に分割しました。これまでのローマでは政治家=将軍でしたが、大帝はこれを取りやめます。まあ、そもそも貴族が前線に行きたがらないのが理由なんですけどね」

「そういえば、絶対に政治に向いてないポンペイウスみたいなのも一応、政治家なのよね」

「また、身分を固定して封建制の原型をつくりました。蛮族に荒らされた土地を捨てて逃げる人々が大都市に流れ込んでは、地方の過疎化が進んでしまいますし、生産力も低下しますから、仕方ないですね」

「ディオクレティアヌスと被るわね」

「極端な話、ディオクレティアヌスの真似ですね」

「大帝と悪帝を一緒にしないでください!!」

「ですから、彼こそディオクレティアヌス帝の実質的な後継者とみなしていいかと思います。後継者のコンスタンティヌスも、彼のこれまでの施策が帝国の現状にあったものであると確信していたんです。特に、彼は歴代ローマ皇帝でもカエサルやハドリアヌスに次いで、帝国各地を見て回っていた人物なんですから、帝国維持のためにはこれしかないと考えたのでしょう」

「コンスタンティヌスはディオクレティアヌスに従って中東で戦っていましたし、それからもブリタニア、ガリア、イタリア、ギリシア、小アジアと転戦していましたね。これだけやったローマ皇帝は他にはセウェルスやカラカラくらいです」

「そんな彼が決断したんですから、決して愚作ではないと思います。封建制自体は中世まで残りましたしね。
そして、大帝の軍事改革です。まず、軍を二つのカテゴリーに分けます。各前線に張り付いている少数の部隊と、後方に置かれる大規模な軍にです。そして、侵入してきた蛮族のことを少数の軍団が後方に伝え、後方の軍団が蛮族を追い出す、という方式のようです」

「最初から見捨てる気か」

「あまりにも散発的すぎて、一ヶ所に留まると防ぎきれないみたいなんです。ですから、そういう仕組みにしたそうです。セイバーさんも似たようなことしてますよね?」

「微妙に違いますけどね」

「まあ、見捨てられた人々のことはさておいて大帝の治世において、異民族が撃破されていたのを考えれば成功したとみなしていいでしょう」

「褒めてるわね」

「彼は戦術かとしても戦略家として無能ではありません。まあ、自ら前線に赴いて足に矢を喰らうのは困ったものですし、スキピオやカエサルと比べられるような軍才ありません」

「最後に何故、キリスト教はローマ帝国と結びついたのかを考えたいと思います」

「そんなもの決まってます!! 聖なるキリストの教えが正しく」

「とりあえず、そんな妄言は切り捨てることにして、前回は言い忘れましたが。ディオクレティアヌスが迫害した主な理由は帝国の祭式を行うためでした。まあ、あくまで形式にこだわっていたものですから、密度は大したことはなかったというのは前回の通りです」

「それじゃあ、なんで後継者たちは弾圧を繰り返したの?」

「概ねそれはディオクレティアヌスと同じ理由です。ですが、キリスト教徒は帝国の西方より、東方に多かったんです。西ではピークどころか、とっくに終わってたのに、東では一応、続いていました」

「確かに、弾圧云々は全部東の皇帝ね。マクセンティウスでさえ、キリスト教には手を出していないわ」

「それを利用したコンスタンティヌスは帝国東方の政治に干渉しまくります。というより、彼がキリスト教を政治抗争の道具にしたんです。ガレリウスら東の皇帝が後に寛容令を出したのも、彼に口実を与えないこと、つまりは帝国が安寧であるためです」

「それは悔い改めた悪帝が」

「翡翠ちゃん」

「ほあたぁっ!!!」

「ぐふ」

「長くなりますから、黙っていてくださいね」

「むごい」

「それに加えて、キリスト教はすでに国際問題となっていたことも、弾圧をややこしくした理由です」

「国際問題?」

「ええ。キリスト教を最初に国教としたのはローマとペルシアに挟まれたアルメニアという小国です。この国を巡って、両国は争っていました。ここの帰趨も、キリスト教問題に影響したんです」

「頭の痛い問題だね」

「東の皇帝は常に、二正面作戦にさらされていたともいえるでしょう。ひょっとしたら、リキニウスがキリスト教に対して甘くなくなったのもペルシア対策の一環だったのかもしれません」

「だとしたら、ますます最悪の皇帝だね」

「それでは、彼は当時増加気味だったキリスト教の支持を得るためではないのですか?」

「それはあくまで二次的なものです。確かに、キリスト教は帝国において無視しきれない勢力をもってはいましたが、まだまだ少数派です。彼がキリスト教の保護を打ち出したのには、政治的なプロパガンダ以外にも、理由があります」

「それは?」

「教義です」

「……はい?」

「ですから、キリスト教の教義が、大帝の心を射止めたんです」

「ええと、あの無神論者や反キリストよりタチ悪そうな鬼畜が?」

「とても信じられません」

「それでは、都合のいいところで恐縮ですが、いくつか引用してみますよ」


 誰かが貴方の右の頬を打つなら、左の頬を差し出しなさい。貴方を訴えて下着を取ろうとする者には上着をもとらせなさい。
 (マタイ 5−39)



 人は皆、上に立つ権威に従うべきです。神に由来しない権威はなく、今ある権威は全て神によって立てられたものだからです。従って、権威に逆らうものは、神の定めに背くことになる。背く者は自分の身に裁きを受けるでしょう。
 (ローマ人への手紙 13−1−2)


「これを見て分かるとおり、多少の偏見は入りますが、キリスト教は『支配者に逆らわないで生きることを旨とする宗教』といってもいいでしょう。住民がこんな人々ならば、と思わない為政者はいないはずです」

「だとすれば、権力欲の権化がキリスト教皇帝であるのも納得いくわね」

「ゆえに帝国の官僚制と深く結びついたんです。丁度帝国は皇帝の権威付けをしなければなりませんでしたから、その部分を補ったのがキリスト教なのです」

「儒教と似たような理由か」

「これこそ、大帝がキリスト教を帝国統合のために選び取った理由です。こんなに都合のいい教えでなければ、帝国を統一した後はさっさとゴミ箱にでも捨てていたでしょう」

「あいつならやりかねないな」

「つまり、コンスタンティヌスがキリスト教を選んだ理由は、それが弾圧されていたことと、その教えが帝国にとって都合がよかった。そういうことですか?」

「そんなところです。それでは、今日はこれまでです。わたしはまだ追われていますから、今後とも翡翠ちゃんに頼みまーす」

「姉さん。罪は償ったほうが」

「それじゃあね」

「いっちゃいました」

「ええと、なにしたんですか?」

「さあ?」

「それじゃあ、そろそろ帰るね」

「じゃあね」

「またな」




「って、兄さんも帰っちゃいました!!」

「まあ、元々ゲストですし」

「く、この機に引き離しておけばよかった」

「それは残念でしたね。次回は、キリスト教ローマ帝国を治める大帝の一族から、テオドシウス大帝の東西分裂までを扱いたいと思います」

「一気にに分裂まで?」

「ユリアヌス以外はさほど密度が濃くないので」

「それでは、楽しみにしていてくださいね」







「コンスタンティヌスは!!!……………あれ?」


続く
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