神の名を借りた悪魔(前編)


 コンスタンティヌス大帝
 キリスト教を公認したローマ皇帝ということで、後世の名声を得るが、その正体は……本編を参照してください。


 コンスタンティウス
 大帝の父親。病にかかって正帝即位からわずか二年で死去。


 リキニウス
 コンスタンティヌス大帝の同盟者。東方帝国を治めるが、大帝の策略に陥って攻められる。後に暗殺。

 
 ディオクレティアヌス
 帝国の四分割統治を策した偉大なる皇帝。在位二十年目に引退、離宮でキャベツを育てる。自殺。

 
 マクシミアヌス
 ディオクレティアヌスの盟友。彼に倣って引退したが、後に復位、敗死する。

 
 マクセンティウス
 マクシミアヌスの子。ローマ郊外に住んでいたところを皇帝に擁立される。後に敗死。

 
 ガレリウス
 ディオクレティアヌスの領域を受け継いだ東の正帝。四分割体制の維持を狙うも失敗、自然死。


 セウェルス
 ガレリウスが擁立した西の副帝。マクセンティウスに殺される。


 マクシミヌス・ダヤ
 ガレリウスの甥。ガレリウスの死後に東の副帝となる。リキニウスに敗れて、その道中で死亡。

 


 クリスプス
 コンスタンティヌス大帝の長男。先の妻の子。大帝の猜疑心から謀殺される。

 
 エウセビオス
 カエサリアの司教。教会史及び、コンスタティヌスの生涯の著者。大帝のスポークスマン。


監督



「不満があってもなくても、スタートです!!」

「これにて始まります」



 帝国東方・ニコメディア

「ところで、マクシミアヌス。そろそろ、皇帝というのはこの老骨に堪えないか?」

「ん? それは、貴様が八百年も生きてる爺だからだろう」

「五月蝿い。察しろ」

「ん? まさか、帝位を退くのか?」

「うむ、この体制の完成のためには自ら退かねばならんのだ」

「そ、そうか。そうだな」

「というわけで、副帝二人に正帝となってもらう。ということで、イタリアのどこかに宮殿を建てて隠居だ」

「……ああ」



 305年5月3日。ニコメディアとミラノでディオクレティアヌス及び、マクシミアヌスの両正帝が、二人の副帝にその位を譲って退いた。それと同時に、新たに副帝が選ばれた。



 帝国東方・ニコメディア

「秋葉さま」

「今のわたしはガレリウスです。言い直しなさい」

「そうでした。ガレリウスさま」

「で、何かしら?」

「その前に、ガレリウスとはどのようなお方なんでしょうか?」

「台本によると、ディオクレティアヌスの信望者で、帝国四分割体制の維持を目指す、思ったよりも野心のない男ですね」

「こういうのは何ですけど、あまり似合っていませんね」

「わたしもそう思いますけど、出番がなくなるので、仕方ありません」

「それはそれとして、コンスタンティヌスが次の副帝が自分じゃない、とむくれてるみたいです」

「こまったものです。変なことされたら困りますから、帰さないように」

「あと、マクシミヌスの息子、マクセンティウスも不満を漏らしてるみたいです」

「あーーっ!! どいつもこいつも!! 先帝のシステムを軽く見てません?」

「このシステム自体、これまで主流だった血筋を否定したものですから。かなり、無理があるかと」

「まあ、それはそうなんですけど」

「あと、コンスタンティヌスが父の仕事を手伝いたい、と西に行きたがってます」

「却下。そんな、魂胆見え見えの要請なんて聞けわけがありません!!」



 だが、さすがのガレリウスも父コンスタンティウスからの再三に渡る要請を無視しきれず、彼に西方へ行く許可を与えた。



「兄さんの馬鹿!!! スケベ!!!」



「それは関係ないだろ」



 306年7月 帝国西方

「非常に遠かったにもかかわらず、父の命の尽きるまさにその時に駆けつけたのです。コンスタンティウスは息子をみて言いました」



「生と決別しようとしている予には唯一つの気がかりがあったが――それは息子の不在のことでした――、予の魂は今や、それから解き放たれた。予は思う、死は今や予にとって不死よりもよいものだ」



「そして、彼は後々のことを息子たちに指示したんです」

「この時まだ俺は死んでないけど」

「これからブリタニアに侵入してきた異民族を蹴散らしにいくのよね」

「いいんですよ、感動的な名シーンなんですから」

「よくないよくない」



 コンスタンティウスはブリタニアに侵入してきた蛮族を撃破し、その地でまもなく逝去した。



「って、出番はこれだけ?」

「じゃあね、志貴。わたしは世界を手に入れてくるから」

「って、それは赤いのが金髪に言う台詞だろ。しかも、自分から言ってどうする」

「じゃあ、次は工作しないとね」

「工作、て」

「ま、帝位に上がるためには色々と芝居を打つ必要がある、てことよ。この頃はもう三十代だし、十分に変な知恵のついてるお年頃よ」

「確かに」

「幸い、他の子ども達は正妻の子だけど、ガキだしね。確実に皇帝になれるわよ」



 306年8月 帝国東方・ニコメディア

「ブリタニア軍団がコンスタンティヌスを正帝にしろと言い出した?」

「しかも、それがコンスタンティウスの遺言、とか言っています」

「譲歩させなさい!! あくまで西の副帝だ、と」

「攻め滅ぼさないのですか? 相手は西独りです」

「コンスタンティウス配下の軍団がついた以上、下手に手を出していい相手ではありません。ここは、様子を伺うべきです」

「分かりました」

「あと、西の正帝にはセウェルスを昇格させなさい」

「そう伝えておきます」

「ああ、それから、コンスタンティヌスが舐めた真似しないように、軍を強化したいから増税して」

「今でも結構とってると思われます」

「まだとってないところがあります。あそこは何の役にも立たないくせに、免税特権まであるのですから、丁度いいんです」

「ま、まさか」

「ローマ及び、イタリアの免税特権を廃止しなさい」



 306年10月28日 イタリア・ローマ

「税があがるらしい」

「おのれ、ガレリウスめ。ローマ市の特権すら奪うつもりか!!」

「いつまでも我らが大人しいと思ったら大間違いだ」

「ローマを再び世界の首都に返り咲かせよう。あんな元羊飼いなどの決めたことに従ってられるか!!」

「だが、誰を皇帝にする? 少なくとも、兵士を集められるような人物でなければならん」

「ディオクレティアヌスやマクシミアヌスは駄目ですな。あいつらは今までもローマを無視した」

「となると、マクシミアヌスの息子、マクセンティウスはどうだ? そやつなら、兵を少しは集められる。丁度、ローマ郊外に住んでおるぞ」

「よし、決まりだな。首都長官を消した後、マクセンティウスを皇帝にするぞ」



「ということで、アウグストゥスになったマクセンティウスです」

「近衛隊長官のウォルシアヌスです」

「まずは、ガレリウスにわたしの即位を認めてもらわないとね」

「そうですね。無駄だと思いますが」

「それは言わないで」



 帝国東方・ニコメディア

「ふざけてんじゃねえぞ!!!!」

「あ、秋葉さま、落ち着いてください!!」

「ガレリウスです!! 首都長官くびり殺しといて認めろ? どういう神経してやがる!!!」

「しかも、マクシミアヌスがマクセンティウスの求めに応じて、合流したみたいです」

「先帝からしてそれかい!! 大人しく隠居してろ!!」

「コンスタンティヌスを認めたのが拙かったようです」

「セウェルスを派遣なさい。今なら、まだやつらの勢力は小さい。今のうちに叩き潰しちゃいなさい」



 307年4月 ローマ市郊外

「ふはははは、君たちはもう完全に包囲されている。命が惜しければ、降服するんだ。そうすれば、身も心も、たっぷりと可愛がってあげるよ」

「あんなこといってるますが、どうします?」

「するわけないじゃん」

「雑種が、調子に乗りおって」

「それには同感です。で、具体的にどうします?」

「ローマ市は、確かに役に立ってないけど、お金だけはあるんだよ」

「そうでしたね。今から、徴収に行ってきます」

「ついでだから、我の財宝も貸してやろう」



「兵士の皆さん、お金に困ってはいませんか? 故郷の妻や息子たちのために、お金は必要ではありませんか? ローマ皇帝マクセンティウスは、そんな苦しい生活をしている兵士の味方です。ボーナスをたっぷりと弾みますよ。まずは、一人頭、千」



ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ



「き、汚いぞ。買収なんて」

「賛成の人は、セウェルスの首を持ってきてください」

「そ、それなら、こっちは千五百だ!!」

「二千五百」

「四千」

「五千」

「五千五百」

「それじゃあ、一気にいくよ。一万!!」

「な……それよりなんて、出せるわけが」

「って、一部の兵士を除いて本当にこっちについちゃいました」

「お金、て怖いね」

「まさか本当に買収で片付くとは……人望ないな」

「う、五月蝿い!! このままではすまさないからな!!」



 結局、ラヴェンナに立て篭もったが策略によってセウェルスは投降させられた。



「次はガレリウスが攻めてきますね」

「念のために、コンスタンティヌスを味方に引き入れておこうか」

「そうだな。では、貴様の妹ファウスタに嫁いでもらうことにしよう」



 帝国西方 ガリア・トリアー

「という次第で、東のガレリウスに対抗するために手を結びたい。念願の正帝請求も、これで受け入れられるはずだ。娘のファウスタを同盟の印と娶ってもらいたい」

「それはいいけど、あんまり動けないかな」

「何故だ?」

「色々と、事情があるのよ。だから、あんまり手助けは出来ない」

「仕方がないな」

「ごめんね」

「(こいつは後でぶっ殺す!!)」



 ガレリウスのイタリア陣営

 進撃を開始したガリエヌスだったが、その軍団はセウェルスと同じ理由で解体した。

「くぅっ!! 我が軍まで買収された!!」

「ひょっとして、軍人皇帝は人望ないのですか?」

「そういうわけではありませんが、当時のローマ軍はほとんど異民族の傭兵ですから。これはある意味、当然の結果ですね」

「他にも、補給線の整備が不十分だったため、という主張もありましたね」

「おかげで、北イタリアを少し荒らしただけで、このざまです」

「って、そんなこと話してる暇じゃありません。逃げましょう」

「同感!!」



 マクセンティウス陣営

「き、貴様等、我を追い出すつもりか!!」

「ええ、息子から帝位の簒奪しようとするようなのにいられては困ります。ぶっちゃけると、用済みで、軍規が厳しすぎるので」

「そうそう」

「なんだと!!」

「まあ、少なくとも、貴方が必要ないのだけは確実ですから。さっさと帰ってください」

「ところで、なんでそんなに冷たいんだ?」

「マクセンティウスはマクシミヌスの子ではなく、取り替えられた子と言う説もありますから。その辺りも、この二人の仲が駄目な理由だと思います」

「となると、あの爺はかなり面の皮が厚いやつだな」

「そうでなければ、わざわざ皇帝になどなろうとはしませんよ」

「く、こうなれば西の奴に頼るしかないか」

「あとは、そろそろ用済みのセウェルスをくびり殺しておかないと」

「うわ、くるな!!」



 帝国東方・ニコメディア

「な、なんとか帰ってこれました」

「し、死ぬかと思いました」

「こうなったら、仕方ありません。先帝に御足労願いましょう」

「はい、コンスタンティヌスのところに行ったマクシミアヌスにも声をかけます」

「頼みましたよ」



 308年11月 カルヌントゥム

「で、わたしが引っ張り出されたわけか」

「そういうことです。幾らなんでも、貴方の言うことなら耳を貸すはずです」

「ディオクティアヌス。再び皇帝にならんか? お前さえいれば、この混乱を治めることが出来る」

「この欲ボケはいきなり何言ってるんです」

「五月蝿い。で、どうなんだ?」

「それに関しては、わたしの畑のキャベツを見ればその考えも変わるだろう」

「つまり、帝国よりキャベツ畑が大事だと?」

「そういうことだ」

「……呆れてものもいえません」

「かつてのローマ人の公共心は何処に消えたのやら」

「元はといえば貴方が」

「貴様が頑迷なのが」

「だまらっしゃい!!!」

「う」

「すまん」

「空になった正帝にはリキニウスを昇格させる」

「コンスタンティヌスの正帝請求と、マクセンティウスは?」

「無視しろ。我儘は許さん」

「で、我は?」

「隠居しろ」

「グゥッ!!」



 こうして、表向きは帝国は平安を取り戻したが、それはディオクレティアヌスの意図したものとは全く違ったものであった。西方の正帝となったリキニウスは任地にいくことは出来ず、西のコンスタンティヌスとマクセンティウスは帝国完全制覇の野望を燃やしていたのである。



 帝国東方

「そのうちイタリアを取り戻さないとね。任地にいけない正帝なんて、ギャグよギャグ」

「マクセンティウスは決して侮れる相手ではありませんが、いずれはそうしたいですね」

「……………」

「どしたの?(いやらしい笑み)」

「いや、叔父上に用があってな。こっちに来てくれ」

「ええ、分かりました」



「(あんたの甥であるこのマクシミヌスがいるのに、なんでこいつが正帝なんだ?)」

「(ガレリウスはともかく、わたしだって辛いんですよ)」

「ところでさ、来客にお茶もないの?」

「(みろ、あのでかい態度を。あれがわが妹だと思うと悲しくなる)」

「(貴方も似たようなものですよ。ともかく、設定上ガレリウスとリキニウスは堅い友情に結ばれていたそうですから、今は諦めてください)」

「おーい、お茶」

「不本意ですが、ガレリウスの盟友だそうなので、お茶くらいは出しましょう」

「それじゃあ、わたしが特別に用意したこれを飲んでもらおう」

「このアトリエシリーズなんかで出てきそうな廃棄物に水混ぜたみたいなのは何かな?」

「茶だ。さる地下帝国風味で仕上げてみた。なにか感想はないか? 是非とも聞いてみたい。ささ、のめのめ」

「……………怒」



ドッゴーンドッゴーンドッゴーンドッゴーンドッゴーン



 イタリア・ローマ

「さあて、ガリエヌスとコンスタンティヌスを倒して、帝国の完全制覇に乗り出さないとね」

「アフリカの僭称帝も倒しましたし、これで後顧の憂いは断てましたね」

「まあ、歴史上ではわたしも僭称帝なんだけどね」

「それはいいとして、アフリカは変なことしないように略奪しました」

いい感じだね。これでコンスタンティヌスを倒せば、わたしが真のヒロインだね」

「それは関係ないのでは?」

「それはともかく、元老院にはその資産に応じて、国庫に自由寄進を行わなければならないという法を成立させます」

「おい、そんなのありか!! 自由寄進が強制というのはどういうことだ?」

「他の僭称帝を撃破するためです。その金はいくらあっても足りません」

「元老院をないがしろにするつもりか?」

「するもなにも、教会史家は勿論、アンチ・コンスタンティヌスにも好かれてないし」


「彼は今や忌むべき所業や聖ならざる所業に熱中したため、その穢れた不浄な行為で遣り残さなかった犯罪は何一つ残さなかったのです。
実際、彼は法にのっとって結婚した女を夫から引き離し、彼女たちを最も恥ずべきやり方で侮辱した後に、夫のもとに送り返したりしました。彼は卑賤でも無銘でもない者だけではなく、他ならぬ元老院で最高の位を占めているものにも侮辱的に振る舞ったのです。彼は自由人として生まれた無数の女を恥ずべき仕方で陵辱したのですが、それでもなお、抑制のきかぬ飽くことなき欲望を満たす事は出来なかったのです」


「かなり、とんでもない皇帝として描かれていますね」

「まあ、どこまで本当かは分からないけど、かなり嫌われていたのは確実よ」

「と、いうわけで可決です」



 こうして、マクセンティウスは来るべき帝国の覇権争いのために力を蓄え始めたのである。



 帝国西方

「息子に追い出された。というわけで、我をかくまえ」

「あ、戻って来たんだ」

「かくまってもらうのにその態度?」

「地だ。気にするな。今までの抗争でようやく、野心栄達の虚しさが分かった」

「それはよかったわね。悟りに一歩近づけたじゃない」

「ああ、大人しく隠居することにする」


 それからマクシミアヌスは重要な助言者として、静かに暮らしていた。だが、ある日こと。


「それじゃあ、侵入してきたフランク族をぶっ潰しに行くから、変なことしないでよ」

「ああ、いってこい」



 それからしばらく後、



「コンスタンティヌスが戦死しただと?」

「未確認情報だけどね」

「ようやく、出番がまわってきた。今こそ、再び皇帝に返り咲くのだ!!」

「いや、だから未確認情報なんだって」

「よし、正帝への即位を宣言したぞ」

「って、生きて帰ってきたわ!!」

「なんだと!!」

「わたしのいない間にこんなことするなんてね」

「こんなことになるとは……」

「死に方なら選ばせてあげるわ」

「我も英雄王だ。大人しく逝ってやろう。だが、この役は我にあっていないと思う」

「仕方ないわよ。レギュラーメンバー全員に出番があるだけありがたいと思いなさい」



311年5月 帝国西方

「ガレリウスが死亡したわ」

「ん? 馬鹿な姉妹喧嘩に巻き込まれたとか?」

「あれは百パーセントフィクションよ。リキニウスとマクシミヌスの仲が悪いのは本当だけどね」

「それで、死因は?」

「陰茎に出来た腫れ物が全身を侵食して生きながら腐らせたんだって」

「なによ、そのあからさまな教会史家の捏造は?」

「今更仕方ないわよ。あと、残された領土はリキニウスとマクシミヌスとで分割されたわ」

「ちっ、殴り合っててくれたら後が楽なのに」

「さすがにそれは相手も分かってるのよ」



 312年 イタリア・ローマ

「さて、コンスタンティヌスを倒したいから、マクシミヌスと連絡をとらないとね」

「ですが、三年前の暴動と元老院にかけた税金で足下はかなり不安ですね」

「だけど、皆がいれば何とかなるよ。だから、頑張ろう」

「そこまで頼られると、その照れますね」

「じゃ、ガリア進行の準備を進めて」

「分かりました」



 帝国西方 312年秋

 マクセンティウスの同行を聞いたコンスタンティヌスは先手を打つことにして、軍団を出撃させた。

「進撃前に、リキニウスと同盟を結ばないとね。携帯かして」

「たく、そんなのあるわけないのに。時代考証間違ってるわよ」

「なにかしら? コンスタンティヌス」

「妹のコンスタンティアあげるから、手を組まない?」

「いいわよ、それくらいなら」

「じゃあ、これでお友達ね」

「ええ、友達ね。仲良くやりましょう」

「(こいつは後でぶっ殺す!!)」

 進軍前にコンスタンティヌスは空に輝く太陽に十字を見て困惑した。だが、一晩眠ってから起きたコンスタンティヌスは神の啓示を受けたと言い出した。



「夢で、神が十字を示していたわ。これこそ、天が十字の御印を軍旗にせよと思し召したのよ。これで、異教徒マクセンティウスの似非神なんて物の数ではない!!」

「電波でも受信したの? 吸血鬼がキリスト教を信じるなんて、悪い冗談よ」

「五月蝿いわね。そういう役なんだから仕方ないでしょ。この旗を持った兵士は何故か、全員生き延びるんだからいいでしょ」

「サーヴァントにしたら、間違いなく宝具になりそうね」

「ほぼ確実にコンスタンティヌスの大嘘だろうけど」

「まあ、エウセビオスは大真面目に書いてるけどね」

「完成次第、進撃開始よ」



 イタリア・ローマ

「大変です!! コンスタンティヌスの軍がアルプスより侵入してきました!!」

「え? さっきはライン川を出発した、て」

「それだけの強行軍だったようです。それにしても、アルプス越えなんて、ハンニバルの真似ですね」

「まさに、ローマの敵だね。って、そんなこといってる場合じゃない。すぐに軍を派遣しないと」



「やあ、真祖の姫君。わたしはコンスタンティヌスに唯一、苛烈な抵抗をした将軍ポンペイウスだ。ここから先は一歩も通さない」

「意外と頑張るじゃない。でも、あんたなんか、ローマへの単なる通過点でしかないのよ」

「マーブルファンタズム」

「って、出番はこれだけか!!!!」



「派遣された将軍は尽く負け続け、コンスタンティヌスはローマに迫っています」

「こ、こうなったらわたしが行かないと」

「同感です」



 312年10月28日 ローマ近郊ティベレ川

 マクセンティウス軍はティベレ川を背にして陣を敷いていた。それを見たコンスタンティヌスはほくそえむ。

「ふふふふ、こんなに隙だらけなんて、攻め滅ぼしてくれといわんばかりね」

「落とした橋の代わりに船を浮かべてるけど、ありゃすぐ沈むんじゃない?」

「とりあえず、攻撃開始よ」

「固有結界『枯渇庭園』」

「マーブル・ファンタズム」



 この戦いはコンスタンティヌスの圧勝に終わった。案の定、川を背にしていたことで兵士は片っ端から溺死し、やはり船橋は沈んだ。



「溺れ死ぬなんて、イヤー」



 勿論、皇帝も。



 ローマ

「ローマに入城ね」

「個人的には元老院の役立たずどもは無視したいんだけど、そうもいかないのよね」

「まあ、伝統だから」

「仕方ないわね。とりあえず、マクセンティウスに追放された連中は帰還させなさい。ついで、財産没収を受けた連中にも金くらいは返してあげて」

「で、凱旋門の建設はどうする? 最近、いい芸術家がいないわよ。出来てもあんまりいい見映えになるとは思えないわ」

「トライアヌス帝の凱旋門から彫刻をはぎとって。それで、一応、それっぽくなるから」

「まじすか?」

「ああ、それと、元老院は増員させて」

「ん? あんな役立たずどもを増員してどうするの?」

「マクセンティウスの税をそのまま残しておきたいの。分かるでしょ? 自由寄進は意外と美味しいのよ」

「すごい理由」

「最後に、二度とこんな舐めた真似しないように、近衛隊は解散させなさい。目障りだから」

「分かった」



313年2月のミラノでリキニウスはコンスタンティヌスの妹と結婚して、その同盟関係を緊密なものとした。



「(こいつは後で、ぶっ殺す)」



 ……………………少なくとも、表向きは。



「あとは目障りなジジイを殺しておかないとね」

「同感同感。あとで擁立されても困るしね。マクセンティウスみたく」

「じゃあ、とりあえず呼び出そうか」

「ええ、携帯かして」

「はい」

「ああ、先帝? ちょっと来てくれないかしら? 結婚式に招待したいの」

「風邪をこじらせての、すまんがまたの機会にしてくれ」


 プツ


「ちっ、切られた」

「脅迫状を送りつけてでも来させるわよ。後の禍根となるわ」



「お前たちの手にかかってなるものか!!」



 ディオクレティアヌスは自らの前途に不安を抱いて自殺した。だが、元老院は彼の神格化を決議した。ディオクレティアヌスは一般市民として死んで神となった唯一のローマ皇帝である。



 マクシミヌスは急遽リキニウスに挑みかかっていった。ボスフォロス海峡から侵入し、ビザンティウムなどの街を占拠した。



 313年4月30日 帝国東方 トラキア・ハドリアノボリス近郊

「さて、リキニウス。いよいよ合法的にお前をぶちのめせるというわけだ。百人のわたしでぶちのめされるのを首洗って待ってろ」

「橙子師。これが劇あることは忘れないでください」

「分かっている。限度をわきまえて、あいつを殴り倒すつもりだ」

「全然、わかってませんね」



「マクシミヌス・ダヤ、貴方では相手にならないわ。豊かな土地で、こちらの倍以上の戦力を集めたとしても!!」

「説明的ですね」

「いいのよ、さっさと始末するわよ(合法的にあいつを一方的にいたぶれるなんて後にも先にもないわね)」



「姉より優れた妹なんざ存在しない!!!」

「妹より優れた姉なんざ存在しない!!!」

「なんで北斗?」



 3万のリキニウス軍は7万のマクシミヌス軍を撃破した。



「あっという間に終わりましたね」

「まあ、圧勝ね。後は、逃げたマクシミヌスの首をとるわよ」



 だが、マクシミヌスは服毒自殺をして果てた。教会史家によると、なかなか死ねず、死ぬような苦しみを四日間味わったという。



「やっぱり気に食わん。時給がいいのは別にして、なんでこのわたしがやられ役なんだ?」

「この時代はコンスタンティヌス大帝以外みんなやられ役ですよ」

「そういえばそうだな。それじゃあ、あいつがぶちのめされる姿も見れるわけだな?」

「そうなりますね」

「それじゃあ、わたしはあのクソが天に召されるのを見届けてから帰ることにするか。お前は先に帰って、黒桐の貞操でも守ってやれ」

「え? どういうことです?」

「今日は式とデートだそうだ」

「……!!」



 イタリア・ミラノ 313年6月

 敵対勢力を撃破した二人はミラノにて、キリスト教の公認を認めるミラノ勅令を発した。

「真祖と魔法使いが公認する、ていうのはかなり妙な感じがするけどね」

「同感」



 帝国東方 ニコメディア

「ガレリウス、マクシミヌス、セウェルスの遺族は皆殺しにして」

「了解しました」

「ついでに、ディオクレティアヌスの娘なんかも殺しなさい」

「やりすぎでは?」

「いいえ、カラカラ帝死後の内乱を思い出しなさい。またあんなのが出てきたら大問題よ。先手は打ってしかるべきね」

「了解しました」



 315年8月 帝国西方 ローマ

「陛下、コンスタンティアが子供を生んだわ」

「よし、今こそ好機ね。すぐに義理の弟バッシアヌスを副帝として、イタリア全土の支配を認めさせなさい」

「って、応じるわけないじゃない。そんなことしたら、怒り出すわよ。あっちは一歳の子ども一人しかいないのにそんなことしたら、立場ないわよ」

「いいのよ。いいのよ。これで口実できるじゃない」

「あ、悪魔」



 後日



「案の定、断ってきたわね」

「じゃあ、そろそろ軍を進めないと」

「って、バッシアヌスが回りの連中に唆されて反乱を起したわ。しかも、なかにはリキニウスの関係者もいるそうよ」

「大きくなる前に、叩き潰せ!!」

「けど、一味がリキニウスに庇護を求めに行ったわ」

「よっしゃぁぁぁっ!! どうせあいつのことだから引き渡すはずがないわ。今こそ、攻撃開始!!」



 316年10月8日 帝国東方

 キバラエにて、リキニウスはコンスタンティヌスに敗北し、セルディカで決戦を挑むことにした。

「噂には聞いていたけど、こんなに強いなんて」

「どうします?」

「かくなる上は、ドナウ川司令官のウァレンスを副帝とするわ。兵士を集めさせなさい」

「って、道連れですか」

「不吉なこといわないの」



 だが、この戦いでもリキニウスは敗北し、領土の割譲とウァレンスの処刑を強要された。また、コンスタンティヌスの二人の息子と、リキニウスの息子が副帝となることが決定された。



「ようやく、登場です」

「貴女には、ガリア方面の属州を任せたいの」

「分かりました」



 大帝の長男クリスプスは父の期待に応えて、ガリア方面に安定をもたらした。



「あれ? もう一人の息子は?」

「あっちは幼児よ。はっきりいって、やらせることないわね」



 これから六年は平和を享受することになる。だが、あまりにも西方のコンスタンティヌスのキリスト教びいきが激しいことから、東方の住民が不満を抱き、待遇改善を図る集会を開いた。彼らをコンスタンティヌスの手先であると判断したリキニウスの態度は次第に硬化し、弾圧をはじめた。
 それを聞きつけたコンスタンティヌスはそれを口実にリキニウスの領内に侵入した。



「あからさまに策略ね」

「なんのことかしら? これは聖戦なのよ」

「まあ、いいけどね」

後編
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