『衰退の兆し』
コモドゥス帝〜セウェルス・アレクサンデル帝

「予定通り、お二方は戻ってきました」

「どうやって戻って来たの?」

「そんなこと、こっちが知りたいくらいです」

「本当にどうやったの?」

「先日、姉がペテルギウスの通信販売で購入した石版を使ったら、なんとかなりました」

「ペテルギウス、て」

「どんな本?」

「こんな本です」

「これは本当に字ですか?」

「ていうか、世界中の何処にもこんな字ないし」

「それはさておき、五賢帝時代が過ぎたとはいえ、ローマ帝国の力はまだまだ圧倒的です。マルクス帝は軍人としては無能でしたが、心身を燃やして頑張ってくれたおかげで帝国は維持できました。  今回は三世紀の危機の一歩手前まで、つまり三世紀の危機の原因を拾っていきたいと思います」

「バカのドミノ倒し、てやつね」

「やっとローマ帝国衰亡史に入りましたね」

「ゲルマニアから撤退して首都に帰還したコモドゥス の評判は決して悪くありませんでした。いい加減、長く続いた戦争に嫌気がさしていたんでしょう。この辺りでは、あまり熱意はないもののまだ彼は暴君としての片鱗すら見せてはいません」

「それがなんであんなに評判の悪い皇帝になっちゃったの?」

「弟の妻以下、という地位が気に入らなくて、彼の姉ルチラが暗殺を企てたんです」

「あらら」

「ですが、計画はずさんそのもので、以後の政権を維持できるかどうかも疑わしいです。しかも暗殺者はコモドゥスに近づいた瞬間に、『元老院がこの剣を遣わしたんだ!! ゴルァ!!』とか言いました。勿論、そんなこと言ってるうちに逃げられて、とっ捕まりました」

「馬鹿?」

「アホですね」

「さっさと刺しなさい」

「所詮は雑種か」

「マキャベリも度胸がなかったとか、計画がなっていないとかこき下ろしています。少なくとも、無能な暗殺者の好例といえるでしょう」

「『ブッ殺す』…そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜなら俺と俺たちの仲間は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には! 実際に相手を殺っちまってもうすでに終わってるからだ! だから使った事がねェーッ!『ブッ殺した』なら使ってもいいッ!」

「騎士道精神の欠片もありませんね」

「ところで、最近各方面でJOJOネタ多くない?」

「暗殺者にそんなもの期待しないで下さい。さて、一味は残らず殺し、姉すら追放後に謀殺しますが、これで彼は人間不信になってしまいます。間違いなく嘘でしょうが、元老院の名を出されていたので元老院にも不信を抱きます。これまではやる気があまりないだけの男でしたが、これを境に暴君としての道を歩み始めます」

「五賢帝時代は百年近く続いたから、久々のイカレ野郎ね」

「政務をろくにとらないで側近に任せたり、体を鍛えるのに熱中していたのはこれまでどおりですが、元老院関与の疑いをもった彼は様々な風聞や密告を鵜呑みにして片っ端から彼らを殺します」

「勉強好きの父親とは大違いですね」

「しかも、側近というのが売位売官でもって私服を肥やすことしか考えていない連中で、二十五人もの元老院議員を乱造しました。しかも、何度排除されても後釜がついて回って、一向に改善される様子はありません」

「汚職帝国万歳、てところね」

「いい加減に仕事してください」

「していましたよ。公文書は『ごきげんよう』だけですが」

「はい?」

「ですから、各方面の総督に送られた書簡にはその一語しか書かれていないんです。コモドゥスに嫌気がさして、まともな公文書をかける人間が居なくなったんです」

「あ、なんか反乱起こしたくなりました」

「今度は自分が起こされないように注意しろ」

「こうして、ろくに仕事をしないコモドゥスは自身をヘラクレスの化身であるとして、コロッセウムで剣闘士相手に戦います」

「皇帝の尊厳と言うものを、少しでもいいから考えて欲しいものです」

「剣闘士でしょ? そんなの相手にしてて勝てたの?」

「いかさまばかりでしたよ。相手は鉛の剣を持たされたといいます」

「卑怯ですね」

「ですが、これはあくまでパフォーマンスのようなもので、自身も相当な使い手でした。少なくともどの武器を使わせても一流の技を繰り出したそうで、とてもじゃありませんが、コロッセウムで殺すなんて不可能です。個人的な武勇だけなら、ローマ皇帝史上屈指のものかもしれません」

「筋肉馬鹿め」

「剣の腕が王の絶対条件ではないことを身を持って示してくれましたね」

「このおかげで、彼の父は本当はマルクス帝ではなく、何処の馬の骨とも分からない剣闘士ではないかと噂がたったほどです」

「本気で嫌われてるわね」

「結局、彼は元老院の陰謀によって、殺されてしまいました」

「人気者のマルクス帝の息子とは思えない最後ね」

「と、いうより、自分のことを省みて、つなぎの人材を間に据えれば、もう少しましな最後を迎えられたかもしれません。若いうちに最高権力者になると、ろくなことがないことは、これまでに証明されています。  彼も、繋ぎのアントニヌス・ピウス帝がいなければ、歪んでいたでしょう。これは能力ではなく、人間としての問題です」

「それは私に対するあてつけですか」

「そういうわけでは――」

「最後に国を失ったのでは、そう言われても仕方ないと思うが」

「民を苦しめる暴君が」

「では汝は滅びるはずのない国を滅ぼした暗君だな。お前を王と認めたのは剣だけだ」

「セイバーさん、エクスカリバーを構えないでください。ギルガメッシュさんも金庫開けない。さもないと」

「キング・クリムゾン!!」



 翡翠は世界の軌跡を見る。

「『読める』………動きの「軌跡」の読める……『未来への動きの軌跡』も…。『キング・クリムゾン』の能力の中ではこの世で時間の消し飛び………そして全ての人間にこの時間の中で動いた足跡で覚えていないッ!『空の雲はちぎれ飛んだ事に気づかず!』………『消えた炎は消えた瞬間を炎自身さえ認識しない!』。『結果』をも!! この世には『結果』しか残る!! 時間は消し飛んだ世界が 「動き」は全て無意味でなるのだッ!! そしてわたしだけがこの『動き』も対応できた!! おまえにどう『動く』か全て見えるッ! これを『キング・クリムゾン』は能力だッ!」



 セイバーとギルガメッシュの動きを予測すると、しかるべき処置を施した。

「「うわああああああああああ!!!!」」

「今度はディアボロ仕様ですね」

「ライダー、第五部も読んでたの」

「先日、学校の図書館に全巻入ったので、桜に借りてきてもらったんです」

「誰が入れたのかしら?」

「それは分からないけど、このスタンドはどういう効果なのか未だに良くわからない。ゲームをやった時はスローモーションにする能力かとも思いました」

「ていうか発動するたびにやること微妙に違うし」

「こうなりたくなければ、今度からは私闘は厳禁です。分かりました?」

「くそ、我が雑種ごときに一度ならず二度までも遅れをとるとは……」

「仕方ありませんね」

「静かになったので続けます。コモドゥスは死後、記憶の断罪に処されます」

「記憶の断罪?」

「ローマ帝国で最も重い刑罰です。これに処されれば、碑文から全ての名が消され、その帝の業績は完全に消滅してしまいます。これまでにカリグラ帝やネロ帝、ドミティアヌス帝がこれに処されました」

「つまり、悪帝、てことになったのね。まあ、完璧に悪帝だけど」

「ただ、彼の場合は三人の前任者と違い、断罪も何も特に何もしていないので、碑文から削り取るようなものは何もありません。さっきも言ったとおり、ろくな公文書を書いていません」

「そやつは単に無気力なだけではないか?」

「そういう気もしますが、切りがないので続けますよ。彼の死後に皇帝となったのが、プブリウス・ヘルビウス・ペルティナクスです。マルクス帝にその才能を見出された解放奴隷の息子です」

「解放奴隷?」

「ローマにおいて奴隷はその気になれば、その身分から抜け出すことが出来たんです。勿論、個人の才幹は必要ですが」

「コモドゥス帝が死んだ翌日に皇帝となった彼は腐敗した官僚制の見直しを図ります。トップがろくに仕事をしないので、腐敗がはびこっていた、とでも思ってくれればいいです。戦争は何もやっていませんので、財政の点ならマルクス帝死後よりはるかにましです。ですが、近衛隊は皇帝即位の伝統である特別給与を与えない彼に不満を抱いていました。  彼が即位した三日後には他の元老院議員を擁立しようとしたほどです」

「腐っていますね」

「給料上げるためにトップの首挿げ替えてるのね」

「ペルティナクス暗殺後、近衛隊は自分たちに高い給料を払ってくれる皇帝の擁立に奔走します。そこで、近衛隊は大通りでこんなことを言ったそうです」



「ローマ世界が公開競売だ!! 最高札にくれてやる!!!」



「………………………………」

「まじですか?」

「さすがに嘘でしょ、これは」

「信じがたいのは分かりますが、事実です。現在に換算するとおよそ650億円で落札されました」

「帝位が650億円ですか」

「安いんだか高いんだか分かりませんね」

「安いとは思わないけど、高いとは思えないわ」

「微妙ですね」

「参考までに、当時、帝国が年に使っていたお金はおよそ200億円です」

「無茶苦茶多いじゃないですか」

>「元老院議員の資格を得るためには最低2500万円の資産をもつことが条件ですから、この競売に参加した議員がいかに豊富な資金を有していたのかが分かります」

「それどころじゃありません、国家予算の三倍ですよ!!」

「変な話ですけど、皇帝は帝国で最も豊かな人物なんです」

「それがどうかしたんですか?」

「します。実は、皇帝と国庫の財布は厳密に区別されていません。つまり、皇帝個人の財産が国庫そのものなんです」

「まさか」

「繰り返すようですが、皇帝の財産は国家予算そのものです。最低限、国家を切り盛りするだけの経済力を皇帝は求められます」

「そういうことですか」

「もう一つの参考ですがティベリウス帝はおよそ7500億円を残しています。ちなみに、これは不動産などを除いての話です」

「文字通り、桁が違いますね」

「それだけあれば、本当に国を運営できますね」

「対外的に派手なことをしなかったからかもしれません」

「我より金がありそうだな」

「間違いなく、あなたより金を持っていますよ」

「それにしても、皇帝でもないのに、それだけの金をもっているのですか?」

「というより、持ってもらわないと困ります」

「どうして?」

「彼らには、地方のインフラを整えるという大事な仕事があるんです。他にも祭りをするのに金が足りないという時には彼らが支出することが義務付けられています。出さなければ、ぼろくそに言われますから、出さないわけにはいきません。ローマは基本的に貧富の差が激しい国でしたから」

「地方での選挙対策というのもありますけどね」

「話を戻しますよ。
 これまでも軍に金品を送って帝位を承認させていましたが、さすがに、こんなにおおっぴらにやっていいことではありません。これを落札した男は帝国の恥、と市民と地方の軍団兵の怒りに触れて見捨てられてしまいます。こんな男でも、一応は元老院から認可を受けたというのですから、笑うしかありません」

「ホントにさ、なんでそんなのおいてあるの?」

「伝統ですから」

「またそれか」

「この皇帝を倒そうと、ブリタニア、シリア、バンノニアの三人の総督が皇帝に名乗りを上げます。そして、パンノニア総督のルキウス・セプティミウス・セウェルスがローマに近づくと同時に元老院は落札した男の処刑を決議し、彼を皇帝とします。近衛隊は即行で彼を見捨ててパンノニア総督のご機嫌取りに行きました」

「腐ってますね」

「こうして、セプティミウス・セウェルスは皇帝になりました。マキャベリが高く評価している人物ですね。さすがにここでは元老院に手を出さなかった彼ですが、近衛隊は信用ならないとして解体、新たに最前線から兵士を募って再編しました」

「まあ、当然ですね」

「給料のために皇帝の首挿げ替えちゃあね」

「皇帝になった後、ライバルを蹴落とすべく、まずブリタニア方面のライバルに後で一緒に皇帝になろう、とか言って騙して動きを止めた後、シリア方面の敵を打ち倒します。そして、さすがに自分の身が危険であることに気付いたライバルを信義を裏切ったと非難して打ち倒して、権力を固めました」

「悪知恵のよく働くことで」

「ネロ帝死後の内乱より長引いた激しい戦いでしたけどね。こうして権力を固めた後、彼はあろうことか、コモドゥス帝の記録抹消刑の撤回を要求します」

「はい?」

「彼は自分の息子たちをマルクス帝の養子としたかったんです。これで血筋に箔がつきますから。ですが、その息子が記録抹消刑に処されたというのでは、マルクス帝の名に傷がつきます」

「アウグストゥスと似たようなこと考えたわけね」

「小賢しいマネを」

「さて、彼は軍人の出ということもあって彼は軍を優遇する処置を取ります。給料引き上げは勿論、下士官からの出世を実現させるべく、人事を改革します」

「悪いことではありませんね」

「ただ、やりすぎて軍の居心地がよくなりすぎました。おかげで、兵士は延々と軍に留まるようになりローマの軍事政権化を促進させました。彼はローマ軍の堕落を招いた張本人といえるでしょう」

「なにごともほどほどが一番ね」

「それが一番難しいんですけどね」

「ですが、彼は最強の軍を残すことになります。その最強の軍でもって、パルティア遠征を行います」

「また侵入してきたの?」

「いいえ、今回はたいした理由はありません。お家騒動で騒いでいる隙を突いただけです。それで新たに属州メソポタミアを創設しますが、これは現在勃興中のササン・ペルシアを活気付けることになりました。これは三世紀の危機において脅威となる勢力の一つです」

「新たな敵作ってどうすんのよ」

「何も考えていないわけではないのでしょうが、長期的な視野にかけますね」

「晩年にカレドニア、現スコットランドへ遠征に向かいます。カレドニアはことあるごとにローマへ侵入してくる手強い連中ですから、セウェルスはブリタニアの完全制覇を目論みます」

「それは規模が大きいのか小さいのか悩む計画ですね」

「規模で言うのなら、ドミティアヌス帝時代の将軍が考えたアイルランドをも含めた『大英帝国完全制覇計画』に劣りますね。さすがにこれはあまりにも非現実的なので無視されましたけど」

「それはさておいて、計画は彼の健康が著しく害されていたので、成功しませんでした。彼の死をもって、この計画は立ち消えます」

「こういうのは何ですが、ろくなことしてませんね。最後の遠征も失敗ですし」

「後のことを考えると、なんでマキャベリが彼を高く評価していたのかいまいちよく分かりません。やったことをみると後の帝国の火種になるようなことばかりどころか、三世紀の危機を招いた張本人と言ってもいいでしょう」

「種は撒いただけ、という気もしますけどね」

「死の床でセウェルスは二人の息子を呼んでこう遺言します」



「互いのことを考えて仲良く統治に励め。兵士たちを優遇する事を何より優先せよ。他は気にかけるな」



「ですが、無茶苦茶仲の悪かったこの兄弟は帝国を東西に分裂させようと言い出したりした挙句、争って兄が弟を殺害してしまいました」

「遺言を完全に無視してますね」

「死んだ人間の言ったことなんて守る必要はない、という説もありますからね」

「彼は遺言の後のほうは守りましたから、全く無視したというわけではありませんけどね」

「この兄こそ、マルクス・ユリウス・バッシアヌス改め、マルクス・アウレリウス・アントニヌス。通称カラカラです。それは彼が好んで着たガリア風の頭巾付きマントからきています。勿論、骨を被ったポケモンじゃあありませんよ」

「本気で養子になったのね」

「ええ、そして彼はローマ帝国史上最大級の愚行を行います」

「なにをしたんです?」

「カラカラはいわゆる、アントニヌス勅法で、ローマ領内にいる全ての自由民にローマ市民権を与えました」

「なんでまたそんなことを」

「いくらなんでもそれはやりすぎよ」

「理由はよく分かりません。確かに、注目すべきことだとは思いますが、これは明らかに失政です。これと同時にわざわざ相続税の値上げをしたことから、金持ちから相続税を取るためだといわれています。ですが、これでは属州税が徴収できません。まあ、しばらくは無理矢理徴収しますが、後に市民の権利を認めないわけにはいかないので、属州税は消えます。
 相続税が魅力的なものであるのは元老院議員の資産を見れば分かります。ですが、美味しいくらいに相続税を徴収できる人々はとっくの昔にローマ市民権をもっています」

「無駄じゃん」

「そして、これまでは軍に所属していることで市民権を得ていた人々は軍に入らなくなります。当然ですね。普通に考えて軍隊生活なんてしたくありませんから。
 厳密に言えば正規軍に入るためには市民権が必要になるので、軍隊を優遇するために行なった政策なのかもしれませんね。誰だって補助兵よりも正規兵になりたいですから」

「ええと、世界史の教科書ではかなり肯定的に扱ってるようですけど」

「どうせ外国人参政権を、とかいってる日教組、アカの陰謀です。冷静に考えれば肯定的どころか、否定的な材料しか出てきません。これは帝国史上最大の愚行であると記録されるべきです。軍における高齢化も促進されました。わざわざ国防能力を低下させたアホな政策です。
現に、三世紀の危機ではあっさりと防衛ラインを突破されています。まあ、その時は皇帝が捕虜になったという、より大きな要因があるのですが」

「これによって、ローマは連邦国家としての性格を強めた、とか書いてありますけど」

「では、聞きますが、これは何か役に立ちました?」

「………………………役に立ったところが思い浮かびませんね」

「性格を強めておきながら、何の効果があったか、記述していない時点で色々終わっています。失政であることを隠すために、効果を書かなかったのでしょう。教科書における三世紀の危機の扱いが小さすぎるのも気にかかります。細かく書いたら、ボロが出るのが分かっているからでしょう。
他にも、世界恐慌時にF・ルーズベルトが行ったニューディール政策に関する記述が似ていますね。やった、ということと、職を与えた、ということしか書かないで、成功したと錯覚させたんです。
 ちなみに、アメリカの景気が明確に回復したのは第二次大戦参戦後だったりします。ニューディール政策など、大して役にたたなかったという証明以外の何ものでもありませんね」

「扱いが小さいのはいつものことじゃない? あんなどうでもいいところばっかり細かく書いてある歴史教科書なんだから、それくらい抜かされるわよ。イギリスの土地制度とか」

「まあ、そうですけど」

「精神的にも、ローマ市民という誇りが失われました。おかげで、皇帝は権力の拠りどころを軍に求めるようになりました」

「属州出身の元老院議員が増えた、というのは?」

「そんなもの、これが出される前からそうでしたよ。コモドゥス死後の帝位争いに敗れた連中は勿論、五賢帝はトライアヌス以降、全員が全員属州出身です」

「本当に、何処褒めればいいのか分からない政策ね」

「これさえなければ、帝国の主な防衛ラインを見回った皇帝として評価していいんですけど」

「ハドリアヌス帝の真似してるんですね」

「各防衛ラインで兵士と共に苦楽をともした彼は当然ながら兵士の支持を集めます。一般兵と同じものを着て食べ、同じように石を運んだりしました」

「兵士にしてみれば、良い皇帝だったんですね」

「そして、弱ったパルティアの完全制圧に向かいます」

「止めを刺しに行ったのね」

「当時のパルティア王はこのままでは滅ぼされると考えて、宮廷内の反ローマを追放してローマと講和します。前述の通り、ササン・ペルシアが勃興していましたから。ですが、これを不服に感じた王の弟が兄を退位させ、再びローマに挑みます」

「ササンのことがあるんですから、ほっとけばいいのに」

「昔は色々あったので一概には言えませんが、そうしたほうがお互いのためになることには間違いないでしょうね。カラカラは再び進軍しますが、今度の敵の士気は高く、容易に決着はつきません。そんなこんなしているうちに、カラカラは近衛隊長マクリヌスによって暗殺されてしまいます」

「なんでまた」

「彼は陰謀の嫌疑がかけられて殺される寸前だったんですが、パルティアとの戦争があるので処罰は先送りになっていたんです」

「ここでの教訓は処罰はお早めに、てところですね」

「さすがに軍の支持熱いカラカラ暗殺を公言するわけにはいきませんから、カラカラを神格化して疑いを逸らします」

「そんなことで疑われないとでも思ってるの?」

「バレバレだと思いますけど」

「ええ、パルティアとの戦闘に敗北して賠償金を支払ったので、疑いが再浮上しました。それにつけこんだのが、セウェルス帝の妻の妹ユリア・マエサです。彼女は自分の孫をカラカラ帝の庶子であると大嘘を吐いて軍隊の支持をえて、マクリヌスをブチ殺します」

「また死んだ」

「その自称庶子こそ、ウィリウス・アウィトゥス・バッシアヌス改め、マルクス・アウレリウス・アントニヌス。通称エラガバルスです。即位の前はシリアのエメサにある太陽神エル・ガバルの神殿の祭司でしたから、そこからきています。
 彼こそ、ローマ帝国史上最大の変態です」

「不名誉な称号ですね」

「この時代においては同性愛がある程度は受け入れられていたので、それに関しては問題ありません。ですが、彼は攻められるのを好んでいたようで、それが醜聞に繋がりました。仮にもローマ皇帝がよがってどうする、というのが主な理由のようです」

「大衆は腐女子のようだな」

「受け攻めで話がややこしくなったという意味では、そうかもしれません」

「おや、そちらの世界にも入ってしまったんですか?」

「二回も続けて同じネタというのはどうかと思います」

「さらに、男とやるために売春宿に張り込んだりと、ヤオイを極めます。当然の帰結というか、女にも興味があり、純潔で通さねばならない巫女をかっさらうなど、色ボケを極めました。また、全ての神々は太陽神に従属するなどと言い出し、各方面からの不評を買います」

「本当にいかれてますね」

「また、気に入らないものを処刑したり、生贄に捧げたりもしました」

「ねえ、それってそいつが馬鹿だから皇帝に選んだんじゃない? ユリアが好き勝手できるように、て」

「似たようなものでしょうね。さらには性転換手術をしたと言われており、自分の腹に女陰までつくりました。しまいには『私は女だ』とまで言い出します」

「かなり誇張が入ってませんか?」

「そう思いたいですが、当時の資料によるとこれでもまだ控え目に書いている、と但書きがあるんです」

「本当ですか?」

「これ以上なんて、とても想像できませんね」

「まさに変態第一人者ですね」

「どっちがどっちにかかってるのかしら?」

「今更だが、あだ名で呼ばれる皇帝にはろくなのがいないな」

「ほんと、何ででしょうね。さすがにこんなのが皇帝なのはいやだったので、他に共同統治帝をやってもらうことにします。白羽の矢が立ったのが従兄弟のマルクス・アウレリウス・セウェルス・アレクサンデルです」

「また若いのを連れてきたわね」

「安心してください、彼は極めてまともな人物です。彼の治世においては無法に殺されたものが一人もいなかったと言われているほどですから」

「いきなりランクアップしたな」

「そんな対抗馬が現れては地位を失う、とエラガバルスはアレクサンデルを自分の色に染めようとしますが、失敗。とうとう暗殺を考えますが、それも失敗して殺されました」

「キチガイがいきなりあらわれて、キチガイをやり尽くして、キチガイな最後を迎えたというわけか」

「残ったアレクサンデルは国内の内政を整え、優遇され続けて堕落した軍の風紀を一新しようとしますが、彼にそんな力量はありません」

「頭の痛い問題ですね」

「そんな時、新たなる脅威ササン・ペルシアが最初の世界帝国アケメネス・ペルシアを再興するという壮大な野望を抱いて侵入してきました」

「ムッソリーニですか?」

「ああ、長靴の似合うローマファン」

「その気概、さすがは我の後継者たちだ。このままローマを滅ぼしてくれれば、完璧なのだが」

「さすがにイタリアほど弱くはありませんが、ローマのほうが強いので、その野望は頓挫します。ですが、この戦いで彼の指揮能力の低さと、あまり兵士を優遇しない態度、さらには母親がいないと何も出来ない彼の性格が露呈して、彼の皇帝としての権威は傷つきました」

「マザコン?」

「ええ、殺された時も母と一緒だったんです。それに、お家騒動のときも母の言いなりでした」

「筋金入りですね」

「色々と不満を抱いていた兵士たちは、久々に侵入してきたゲルマニアの蛮族相手に賠償金を払って講和したのを見て彼を皇帝に相応しくないとして、謀殺します」

「また?」

「一応豊かなパルティアならまだしも、蛮族に賠償金を払ってもどうせ武装するのがおちですから。このように、軍事的に無能な皇帝が続いたのが軍人皇帝時代を招いたのでしょう。カラカラ帝は軍事的に無能とは思いませんが」

「それじゃあ、ODAを軍事費に当ててる中華人民共和国は蛮族なのね」

「似たようなものでしょう」

「死後は記憶の断罪に処され、主犯であったマクシミヌスが即位して最初の軍人皇帝となったところで、終わりとします」

「それにしても、士気だけは高いですね」

「さすが最強の軍といったところでしょうか」

「これで忠実さもあれば完璧なんですけど」

「意外と長くなったわね」

「期間も短いので、さほど長くなると思ってはいませんでしたが、暴君の所業を掘り下げたら結構長引いてしまいました」

「その割にはカラカラ帝のアレクサンドリアでの虐殺を無視してるけど」

「面白みのある話ではありませんから。ただの虐殺なんてどこが面白いんです?」

「そりゃそうだけど」

「それにしても、まともな皇帝のほうが少ないですね」

「一人を除いて殺されましたね。そうしてみると、殺されたほうがまともなのかもしれません」

「それはどうかと思います」

「次回は帝国史上、最も皇帝が入れ替わる三世紀の危機です。楽しみにしていてください」

続く
戻る