五賢帝
「飽きた。我は帰る」
「いきなりどうしたんです?」
「気分の問題だ。とにかく、我は帰る」
「待って下さい。今抜けられるととても困ります」
「黙れ雑種。そこをどけ」
「いけません」
「いいからどけ」
「できません」
「ならば」
「全力でお相手します」
「な、なにをしているんです。ギルガメッシュ、相手はただのメイドですよ」
「我に命令するな!!」
「アキハ、彼女を下げるべきです」
「殺されかねないわね」
「大丈夫です。今回はDIO仕様のようです」
「でぃお?」
「天地乖離す開闢の星――!!」
「ザ・ワールド!!!」
世界が凍りつき、時が死に絶えた。
「ふふふ、この静止した世界に動けるのをこのHISUIだけで。最初の瞬きほどが時間しか止められずなかったが、志貴さまが思いがますごとに、長くなった。今では五秒止められる。時間も止まっているのにおかしいので、とにかく五秒ほどに」
ギルガメッシュの後ろに回りこんで誰にも聞こえない奇声があげる(洗脳済み)。

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
世界が溶け出し、時が蘇った。
「グギャぁー――――――――!!!」
「え」
「なにがおこったの?」
「これが洗脳探偵です」
「な、なんとおそろしい」
「今、時間を止めてなかった?」
「帰りそうであるのか?」
「え、いや……分かりました(文法が物凄いことになっているのには突っこまないことにした)」
「と、いうことで方針に逆らったら、ああなりますから肝に命じてください」
「貴女こそ、万夫不等の豪傑よ!!!」
「三国無双ですね」
「さんごくむそう?」
「ところで、KOEIさん。大陸無双とかいって、こういうメンバー作ってみませんか?」
モンゴル
チンギス・ハーン ジャムカ 耶律楚材 バトゥ ボルテ クラン フビライ・ハーン バヤン
中国
完顔陳和尚 文天祥 張世傑 永楽帝
中東
サラディン バイバルス ティムール バヤジット一世 ハサン・サッバーハ
ヨーロッパ
リチャード一世 フィリップ二世 フリードリッヒ二世 ダンドロ 聖騎士 ミカエル八世
「チンギス・ハーンを元にした大陸無双。ですが、インドに関してはほとんど何も知りませんし、『チンギス』本編でもあまり触れられていないので無視しました」
「おや? 半島は一人もいないのですか?」
「キムチですから」
「うるさいから」
「我にたてつく民衆に匹敵するな」
「ゲームに出すだけでは?」
「下手にパラメーター設定したら、文句言いに来るに決まってますから、無視することにしましょう。以前、さるゲームの追加パッチでのことを思い出すと、頭が痛くなります」
「エイジ・オブ・エンパイアですね」
「えいじ?」
「パソゲーです。世界中から文明を選択して、世界制覇を目指す空前絶後の壮大なゲームです」
「それはすごい内容ですね」
「そのゲームで、秀吉を破った亀甲船が出てきたんです」
「まあ、出てきますよね」
「あのゲームの第一作目では日本の属国、第二作目ではモンゴルや中国、日本の陰に隠れて無視されていました。その国を出してくれ、と訴えることは十分に理解で来ます」
「正当ですね」
「あの船が強いことは認めます。ですが、だからといってスペインの無敵艦隊に圧勝するようなパラメーターはどうかと思います。亀甲船はそこまで強くありません。指揮官によっては日本海軍でも、十分打破出来ます。現に、李舜臣が率いていなかった艦隊が全滅させられました」
「誰です? そんな無茶な設定にしたのは?」
「ウリが世界一、とかいうわけわかんない圧力が加わったんじゃないですか?」
「あいつらが関わると、ゲームバランスすら狂うのね」
「チンギス・ハーンと大航海時代の4以降が出ないのも、それが理由だといわれています」
「それは単に、信長の野望と三国志以外、あまり売れないからでは?」
「チンギス・ハーンはすばらしい出来なんですけどね」
「チンギスで子供つくりまくって死んだ後、ユーラシア帝国がバラバラになった時は本気でどうしようかと思いましたけどね」
「それより、武将の中に日本がないようですが」
「日本は近いうちにそれっぽいゲーム(義経英雄伝)が出そうなので、無視しました」
「話がそれまくってますし、私には理解できないので、早く本題に入ってください」
「分かりました。今回は、ローマ帝国の最盛期五賢帝時代です。イギリスの政治家エドワード・ギボンは『人類が最も幸福だった時代』、と評したほど栄えた時代です」
「そこまで言う?」
「少なくとも、ローマに住んでいる限りは戦争は遠い外の話です。それに、ギボンの生きていた時代のヨーロッパは、戦乱が続いていました。少なくとも、彼の生きていた時代よりはよほどましです」
「まずは最初の五賢帝マルクス・コッセウス・ネルヴァ
です。前回の授業で、姉さんがドミティアヌス帝が暗殺されたことは話しましたよね?」
「ええ」
「その翌日、このネルヴァが元老院から皇帝に選出されました」
「ぶっちゃけましたね」
「五賢帝最初の一人は暗殺団の一味か」
「どういうこと?」
「つまり、事前にドミティアヌス暗殺を打ち合わせ、その時に帝位を円滑にネルヴァが自分に渡るよう、手を回したと思われます」
「とんでもない爺ね」
「証拠はありませんが、状況的に怪しすぎます。翌日に即位して、誰も疑わないほうが変です」
「誰も疑わない?」
「誰もが彼の関与を一笑にふしたんです」
「怪しいどころじゃありませんね」
「確か、全会一致で可決して、反対者ゼロの場合は裏取引があるくらいには疑え、といいますね」
「ついでに洗脳もありえます」
「ちなみに、彼はネロの親衛隊長をしていたこともあり、その手の計略にはそれなりに通じていたものと思われます」
「確定じゃん」
「それが理由ではありませんが、元老院は確かに彼を皇帝だと認めていましたが、軍は違います。軍はドミティアヌス帝が選んだ属州出身者が高い地位を得ていたということもあって、帝の暗殺犯引渡しを要求しました」
「まあ、身から出た錆ね」
「結局、ネルヴァは軍を抑えることが出来ず、権威を失墜させます。そこで、丁度子宝に恵まれていないこともあって、低地ゲルマニア総督のトライアヌスを後継者に指名します。彼もまた、ドミティアヌス帝が見出した人材です」
「有名な養子制度ね」
「いえ、違います」
「え? 五賢帝、て養子制度じゃないの?」
「皇帝が元老院の中から、最も優れたものを登用するという、俗説です」
「断言しますが、そんな理想的なものではありません。歴代皇帝が子宝に恵まれなかったための火急の処置です。それに、ほとんどの皇帝は親戚みたいなものです」
「親戚で帝位をたらいまわしにしてたのね」
「最初だけは違うんですけどね」
「これにも怪しいとことろがあります。このトライアヌス以上に相応しい人物はいない、ということはあったのでしょうか?」
「裏取引ね」
「そうです。彼には同じく、ドミティアヌス帝に見出された当時のシリア総督ニグリヌスというライバルがいたといわれています。彼がどういうわけか、タイミングよく病死して、トライアヌスの即位が決定的なものとなりました」
「またきな臭くなったわね」
「まあ、この手の話はきな臭くなるのが当然ですからね」
「後継者をトライアヌスに決めてからすぐ、ネルヴァは寿命で死にます。わずか三年の皇帝生活でした」
「はっきり言っていい?」
「嫌です」
「キャラが違ってますけど」
「洗脳探偵ですから、気にしないで下さい」
「はっきり言って、統治が短ければ誰だって賢帝になれると思うけど」
「そういえば、やつがやったことは後継ぎ決めただけだったな」
「軍も抑えられませんでした」
「それは言ってはならないことです」
「これで実質的には最初の五賢帝、マルクス・ウルピウス・トライアヌス
が即位しました。ヒスパニア出身で、属州最初のローマ皇帝です」
「とうとう植民地出身の皇帝が出てきましたね」
「ええ。属州出身者であるにもかかわらず、故郷とそれ以外の区別なく、インフラを整えました。念のために言っておきますが、選挙によらない政治家でなければ、出来ないことなので、現代の政治家との比較は無意味です」
「ま、地元を整備しなきゃそもそも当選できないしね」
「さて、トライアヌスはドミティアヌス帝の失敗したダキア(現ルーマニア)戦役を遂行します。ドミティアヌス帝に勝って奢っていたダキア王は講和の時を誤り、ぼろぼろに叩き潰された挙句に国を滅ぼされます。その後、トライアヌスは初期に降服したダキア人を除いて、戦ったダキア人を片っ端から追放した後、他の地域から住民を入れてローマの属州とします。五年で完全整備という、ガリア遠征にも勝る速度で終了したのもこの入れ替えのおかげでしょう」
「住民の入れ替えとは、よくもまあそんなことを」
「まるでポルポトですね」
「そういえば、ポルポト派は『カンボジア人が居なくなっても、中国人がやって来るから大丈夫と思った』と言ったそうですね」
「それを地でやるとは」
「ローマ皇帝恐るべし」
「ダキアがガリアなどとは違って、統一国家だから、ということでしょう。こうすれば、ダキアが戦乱の種になることは未来永劫ないはずです。現に種にはなりませんでした」
「鬼より恐いわね」
「ちなみに、彼の書いたとされるダキア戦記はキリスト教の焚書にあって消えてなくなりました」
「焚書、ですか」
「なんです? その目つきは?」
「やっぱりキリスト教は最悪だな、て思っただけですから気にしないで下さい」
「何言ってるんです? ダキア住民を軒並み入れ替えるなんて正気の沙汰じゃありません。トライアヌスよりはましですよ!!」
「どっちのほうがましかな?」
「追い出されるよりはましじゃないですか?」
「ダキアを制覇した後、東方において問題が起きました。パルティアがアルメニアに進撃したんです」
「それがどうかしたのか?」
「当時のパルティア王は親ローマの人物でしたから。これを排除されては、ローマの国防にとって重大な危機です。これをトライアヌスは東方のパルティアを打破して、効率よく富を収集する足がかりにしようとしました。いわゆる、シルクロードの整備ですね」
「迷惑な戦争ですね」
「パルティアだって、ローマに中国の絹を高く売りつけるためにインドでも戦争をやっていたんですから、どっちもどっちだと思います。それに、パルティアはローマに絹を高く売りつけるために、中東まで苦労してやってきた中国商人にローマへの道を尋ねられた際に、まだまだ遠い、とか言って帰らせました」
「意地汚いな」
「それに、トライアヌスがアレクサンドロス大王の信望者であったことも理由の一つですね。ペルシアの代わりにパルティアを滅ぼそうとでも思ったのでしょう」
「あの電波のファンか」
「トライアヌスの戦略戦術はどちらも素晴らしく、すぐにアルメニアとパルティアの首都クテシフォンを含むメソポタミアを一時的に属州として、ローマ帝国の領土を最大のものとしました。これなら、このまま東方遠征に出発しそうな勢いです」
「一時的?」
「ええ。これから撤退するんです。なにしろ、ダキア消滅を見て、周辺の国々が危機感を抱いていましたので、ゲリラ戦を展開したんです。さらに、ユダヤ人が反乱を起こして後ろから斬りつけます。疫病も流行りましたしね。
ちなみに、この反乱はパルティアによる差し金とも言われています」
「パルティアはその手の謀略に優れていたのですか?」
「パルティアの情報網はローマを上回っていたとも言われていますから、十分にありえそうな話なんです。その代わり、ローマが進攻しているというのに内ゲバを繰り返していたので、軍事的にはろくな抵抗が出来ませんでしたけど」
「肝心なところでそれですか」
「とりあえず、ユダヤの反乱を鎮圧したトライアヌスは一時ローマに戻ろうとしますが、その途中で病死します。至高の皇帝 (Optimus Princeps) と贈り名した元老院はひどく悲しんだそうです」
「ですが、今は戦時です悲しんでいる暇はありません。すぐにでも、後継者が必要です」
「シビアね」
「そういうわけで急遽、プブリウス・アエリウス・ハドリアヌス
が選出されました。彼はいい加減に泥沼になってきたパルティア戦線からの撤退を考えます。そのためにパルティア戦役を続行したがっていたトライアヌス帝の信任の厚い四人の将軍を暗殺します」
「暗殺ですか?」
「これは首都の近衛長官が勝手にしたものである、と処理されましたが、元老院はそうは見ません。必要とあらば、元老院議員すら殺す彼に恐れをなしたんです」
「それは確かに、怖いですね」
「さらに、彼がトライアヌス帝を暗殺した、という疑いの目すら向けられます。なにしろ、トライアヌス帝は後継者を誰にするか、明言していないんですから、不自然にもほどがあったんです」
「指名していない?」
「はい。彼の即位はトライアヌス帝の妻とも関係があると言われていましたが、今でもよく分かりません。少なくとも、嫌われ、疑われる理由はいくらでもあったんです。それに、彼は元老院を重視しないで、帝国各地を見回り、公共物を整備し、各方面の防衛体制を整えたりしました。これらは非常に重要なことですが、平和な時にはあまり理解されません」
「これでは疑われないほうが変ですね」
「ていうか、むかつくからとりあえず悪口並べ立てる連中、ていうのも結構いそうよね」
「即位当初は市民や元老院のご機嫌取りにも奔走しますから、さらに怪しく見えてしまいますね。
これらの防衛体制整備の最も有名なものが、ブリタニアに築いたハドリアヌスの長城です。これがローマとそうでない地域の政治的な境界となります。これは同時にイングランドとスコットランドの境界でもありますから、今でもイギリスの中の人は仲が悪いのです」
「中の人などいません」
「そうこうしているうちに、またユダヤが反乱を起こします」
「どうした? また神権国家とかよく分からないこと言い出したのか?」
「似たようなものですが、今回は珍しく原因のほとんど全てがローマです」
「どういうこと?」
「ハドリアヌスはパルティア戦役の時に反乱を起こしたユダヤ人を激しく嫌っていました。また、これまでも延々と反乱を起こし続けているのに嫌気がさしていたんです。皇帝即位後の巡回中に聖地エルサレムの目と鼻の先に、アエリア・カピトリーナというローマ人の聖域の名をつけた都市を建設し、それに割礼の禁止まで加えます」
「ちょっと待って下さい。それって」
「あからさまな挑発だな」
「恐らく、暴発を狙ったものであると考えられます。次に反乱を起こしたら、この地上からユダヤ問題を一掃しようとしたのでしょう」
「そして、反乱は起きた」
「こうして、最後のユダヤの反乱でハドリアヌスはユダヤの聖地を抑えたんです。134年、全てのユダヤ人にユダヤへの居住を禁じて各地に追い散らします。捕虜は家畜以下の値段で売られ、ユダヤはパレスチナと名前を変え、エルサレムはアエリア・カピトリーナとなります。ここからが、ユダヤの本格的な悲劇の始まりとも言えるでしょう」
「いい気味ね。私のドイツを虐める罰よ」
「ええ、邪悪なユダヤ人が国を失うのは素晴らしいことです。復興したのは残念ですが」
「当時はまだ虐めていないのでは?」
「きっと多元宇宙を通って因果が巡ったのよ」
「それにしても、えげつない皇帝ですね」
「こやつは絶対に性格が悪いな」
「暴君が言いますか」
「しかも、私生活でも付き合いづらい人物でした。機嫌がいい思えば怒り出し、怒っていると思えば優しくなります。一貫性のないことでは一貫しているとも言われ、ことあるごとに癇癪を引き起こしていました。
勿論、元老院からも嫌われまくり、死ぬ前にはありとあらゆる人物から嫌われていたそうです。おかげで、元老院は彼の神格化を相当に渋りました」
「耄碌していたのでは?」
「年を召していたようですから、そうかもしれませんね。彼はまだ正気があるうちに後継者を定めようとしますが、最初一人は病死してしまったので、当時十六歳の少年を後継者とします」
「そんなに若くていいんですか?」
「よくありません。そこで、彼が皇帝となるまでの中継ぎとして、ティトウス・アウレリウス・アントニヌス
。通称アントニウス・ピウスを皇帝とします。ピウスは大慈大悲、という意味で、どのような行為から贈り名されたかには諸説ありますが、とりあえず省くことにします」
「ピウスですか。やることなさそうですね」
「そうです。彼の統治下のローマは平和そのものです。こういうのはなんですが、本当にやることがほとんどありません」
「どれだけ平和かというと、歴史家に書く材料を与えないくらいにです」
「民にとっては一番いい時代、ということですか」
「退屈な時代だな」
「皇帝は歴史家を喜ばせるのが仕事ではありませんから」
「そうですね、強いて言うのなら、ハドリアヌスの長城のさらに北にもう一つの長城を築いたくらいですが、これはただの拠点です。とりたてていうことはありませんので、ハドリアヌス帝の指名したローマ五賢帝最後の一人マルクス・アウレリウス・アントニウス
に話を進めたいと思います」
「哲人皇帝ですね」
「ピウス帝の死後、帝位についた彼はルキウス・アウレリウス・ヴェルス
を共同統治帝とします」
「共同統治帝? 皇帝が二人もいるのですか?」
「四人ということもありましたから、あまり数は多くありません。それに、皇帝は特定の地位ではなく名目上は権限を委任された存在です。ですから、元老院さえ異論がなければ全く問題ありません」
「相も変わらず、無茶な設定の国ですね」
「中の人も大変ね」
「中の人なんていません」
「それに、彼は共和政に憧れをもっていたようです。現に、彼の傾倒していたストア哲学は小カトーやブルータスも傾倒していました」
「共和政にいかれてカエサルを殺したアホどもです」
「まだ根に持ってるんですか?」
「当然です」
「そんなんだから、遠野くんがわたしやアルクェイドのところに逃げてくるんですよ」
「それとこれとは関係ありません!!」
「こんなに執念深い妹が待っていたんじゃあ、遠野くんも家に帰れないはずですよ。全く、どうやら遠野家は自己制御能力を教え忘れたようですね」
「シ、シエル」
「ああ、そうか。反転する連中にはそもそも教えても無駄ですから、意味はなかったかもしれませんね」
「――――!!!!」
「猛っておるな」
「少し離れましょう」
「って、ヒスイ!!」

荒ぶる螺旋に刻まれた 神々の原罪の果ての地で
血塗れて 磨り減り 朽ち果てた 聖者の路の果ての地で 我らは今 聖約を果たす
其れはまるで御伽噺の様に 眠りをゆるりと触む淡き夢 夜明けと共に消ゆる儚き夢
されど その玩具の様な宝の輝きを 我らは信仰し 制約を護る」
我は光 夜道を這う旅人に灯す 命の輝き
我は闇 重き枷となりて路を奪う 死の漆黒
我は光 眸を灼く己を灼く世界を灼く熾烈と憎悪
我は闇 染まらぬ揺らがぬ迷わぬ 不変と愛
愛は苦く 烈しく 我を苛む
憎しみは甘く 重く 我を蝕む
それは善 其れは悪
それは享受 其れは拒絶
其れは純潔な 醜悪な 交配の儀式
結ばれるまま融け合うままに産み落とす堕胎される 出来損ないの世界の
その深き昏き怨警を胸に その切実なる命の叫びを胸に
埋葬の華の誓って 祝福の華に誓って
――我は世界を紡ぐ者なり!
「へ?」
「輝くトラペゾヘドロン?」
刃のない剣が、神々の神器が代行者と混血を声にならない悲鳴もろとも世界から否定した。
「き、今日はDIOじゃなかったの?」
「追加パッチです。お二人には暫らく退場してもらいます」
「退場、て。この世界から否定してしまいましたよ」
「大丈夫です。次回までには戻ってきます」
「ご都合主義ですね」
「ていうか、あっちには旧支配者がうなるほどいるんでしょ? そんなところに行ったら、帰って来た時に正気がどうか疑わしいわ」
「それも平気です。なんとかします」
「(なんです? 作者は洗脳探偵を曲解していませんか?)」
「(ていうか、これなら真祖にも勝てるんじゃない?)」
「(タイプムーンの物理法則を無視していますね)」
「(我に勝った時点で無視だ)」
「(時まで止めてましたよね)」
「陰口はいけません。四界の闇を」



「サーイエッサー!!(絶対に、こいつはヒスイの皮を被った別人だ)」
「分かってくれたようなので、続けます。先ほどあげた理由の他にもハドリアヌス帝の指名した最初の後継者が病死していたりもしたので不安だったのかもしれません。さて、治世初年度は本国の飢饉と、川の洪水で開幕します。その処理が終わらないうちに、パルティアの衛星国アルメニアが侵入してきます。現地の総督が敗退したので、後任を送るのですが、実戦経験のない人物で事態を悪化させます」
「人事のミスね」
「さらに後任の将軍を送ってなんとか勝利を収めますが、帰還した軍団兵の持ち帰ってきた疫病がローマに広がり、各防衛ラインを弱めてしまいます」
「泣きっ面に蜂か」
「それを見てゲルマン人が侵入します。彼らはピウス帝の治世においてローマの支配下にはいることを希望していたのですが、それを断られ、今暴発してしまったのです」
「どういうことです?」
「何でも、帝国の力が及ばない領域にゴート族やヴァンダル族やらが出没してゲルマン人を圧迫していたんです。連中から守ってもらうためにローマの覇権に入りたい、と言ってきたんです」
「ゲルマンは強いのではなかったか?」
「彼らの地域にもローマの物品が大量に入ってきたんです」
「それって」
「彼らもガリア遠征当時のガリア人のように、軟弱になっていたんです」
「もはや、盾にもならんか」
「盾、て」
「ローマの対外政策の一つです。近隣の部族と結んで、少し遠くの部族に備えさせるのです。これでゲルマン人をコントロールできますから、それなりに有効でした」
「汚いですね」
「よくある手です。
このゲルマン人の侵入には近場ということもあって皇帝二人で出陣します。さすがにローマと本気で戦うつもりのなかった彼らはあっさり引き上げたのですが、ここで共同統治帝のルキウスが病死します」
「踏んだり蹴ったりね」
「その後は事後処理に費やしますが、ヒスパニアやダキアにも侵入を許してしまいます」
「怒涛のようにきますね」
「その後、ゲルマンの各部族とそれなりの講和を結んで分断しますが、分断した連中に付け入るどころか、ドナウ川から攻撃して敗北。彼らの団結を促してしまいます。その後、ほとんど力ずくで各部族を征伐しますが、いつまでたっても終わりませんでした」
「まさかとは思うが」
「察しの通り、二人とも帝位に上がるまでの実戦経験はありません」
「どおりで、ミスが多いと思いました」
「って、二人とも?」
「仕方ありません。当時の帝国上層部においては、辺境での実戦経験が皆無なのが普通なんです。それに彼が帝位に着くまでほとんど戦争はありませんでした」
「平和の代償か」
「それで属州出身者が次々と将軍職につくんです。それが出世の早道でしたから。ですが、その将軍職についた属州民も中央についたらやはりあまり軍務をやりたがりません」
「平安貴族みたいです」
「あそこまで軍務を毛嫌いするのはある意味すごいと思うが」
「新しく中央に入った家柄はすぐに没落するので、その穴を埋めるように他から入ってきますから、意外となりてには困りません」
「入れ替わりの激しい帝国ですね」
「これは後に属州民の皇帝が腐るほど出てくる原因なのですが、ここでは詳しく述べません。そうすると三世紀の危機のネタがなくなりますから、先に進むことにします」
「どっちにしても、帝国のトップが軍人として無能なのね」
「さすがにそれを憂いた将軍が彼の稚拙な戦略に疑問を持って反乱を起こしたりもしました」
「この皇帝、もう胃潰瘍なんじゃない?」
「否定できませんね。さて、それからは反乱の芽を摘むことに専念して、息子のコモドゥスを次期皇帝とします」
「ああ、あの評判最悪の」
「なんでこんなん皇帝にしちゃったの?」
「映画では、彼がアウレリウスを暗殺したことになっていますね」
「それだけ、この皇帝が馬鹿息子を皇帝にしたのが信じられなかった、ということですね」
「ところで、次の皇帝と一悶着あったら、誰が担ぎ出されます?」
「ああ、そういうことですか」
「それは、後の火種をなくすために、息子に帝位を譲った、ということだな」
「何だかんだ言っても、帝位は相続されるものなんです。それでもし、何かあったら誰をまず担ぎ出します? それが皇帝の息子です。今までの五賢帝は子供がいなかったので、養子という荒技を使えたんです。
さらに、ピウス帝は帝位継承を円滑に行おうとマルクスを自分の娘と結婚させます。恐らくは、一番円滑に帝位を継承し出来たそれは世襲となんら変わらないものでした。
この例からも分かるように、もし、彼らに息子がいれば、間違いなくそっちに譲ったでしょう」
「ところで、五賢帝のうち四人はタネなしのインポかなにか? 四人連続で後継ぎなし、なんてそうとしか思えないわ」
「他に表現の方法はないのですか?」
「タネなし、ね」
「こやつみたく、実は女だったとか」
「それなら自分で産むと思うけど」
「少なくとも、トライアヌス帝とハドリアヌス帝は男にも女にも興味があったようです。彼らは、その男色でしたから」
「ホモかよ」
「ハドリアヌス帝に至っては誤って川に落ちて死んだ彼を神格化するということまでして、神殿まで建てたそうです」
「そこまでする?」
「他には、確認できる限りでは、ピウス帝には娘がいたようです。それに息子は病死していたようですね」
「少なくとも、彼は種無しじゃなかったのね」
「ですから、他に表現は」
「これで、ようやく本格的なゲルマニア遠征に乗り出します。最初のゲルマン騒動から軽く十年は経ってからのことです」
「動きが遅いと言うか何というか」
「いわゆる凡将か」
「トライアヌスが名将だったので、余計にそう見てきます」
「一応、目的は新たな属州を形成しての防衛ラインの強化です。戦いそのものはこれまでの反省もあって、快進撃を続けますが、この激しい治世は彼の心どころか体すら蝕んでいました」
「ええ、よくやった、て褒めてあげたいわ」
「結局、彼はゲルマニアの平定を見ることないまま、ゲルマニア戦役の完遂を遺言してこの世を去ります。軍人としては疑いなく無能な彼でしたが、内政では有能です。ローマ帝国の経済力は強大なものですし、元老院との関係も良好でした。批判も少なく、あってもせいぜい説教臭い程度です。
戦争を嫌っていた彼にとって治世は決して本意のものではなかったでしょうが、そんな彼が戦場で死んだ最初のローマ皇帝となります」
「そういえば戦争ばっかよね」
「下手に長引いたのは彼の稚拙な戦略に原因がありそうですけど」
「私見ですが、彼はひょっとすると平時における防衛体制の整備が理解できなかったのかもしれません。というより、理解出来てもどうすればいいのか、分からなかったのかもしれません」
「五賢帝最後の一人が、それですか?」
「少し信じられないわね」
「何がいってやガル!! こっからの稚拙な戦略に観ろ。断言いって、ドミ公以下だろ!!」
「同感です。彼には軍人としての才能は全くないと思います。それでも勝てたのはローマ軍の装備が優れていたからでしょう」
「悪帝と同レベル……」
「文法が凄いことになってる」
「それはつまり、彼はハドリアヌス帝を理解していなかった、と言うことを意味します」
「あ、戻った」
「自分を皇帝に推してくれたというのにですか?」
「彼はハドリアヌス帝を著作の自省録では言及していません。マルクス帝のハドリアヌス帝への評価が述べるに値せず、だったのは間違いありません」
「それじゃあ、防衛に対する見識が薄れるのも当然ですね」
「ですが、これは仕方ありません。当時、ハドリアヌス帝みたいに平和なのに防衛体制を確立させようと考える先見性が異常なんです。それに彼のように属州を渡り歩くと元老院からの評判が悪くなります。自分たちをないがしろにしている、と言って」
「つまり、元老院は馬鹿ばっか?」
「そう、同時代の人々は誰一人として、ハドリアヌス帝を理解していませんでした。ひょっとしたら、この無理解こそ彼が癇癪を起こした原因かもしれません。
マルクス帝は蛮族の侵入に会ってから、理解できたのだと思います。これに加えて皇帝即位前の実戦経験皆無というのが頭痛の種です。特に戦略眼の欠如は致命的です」
「ですが、彼は最後には属州化という答えに到達しました」
「いえ、これとてお世辞にもいい答えとはいえません。拡張した属州の経営や防衛のためには、進撃した以上の資金が必要です。これまでの蛮族の侵入で、国庫はあまりいい状態とはいえません。なにしろ、この戦役を行うのにマルクス帝は金貨の改鋳でも足りないので資金繰りに苦労して自分の持ち物を売り払ってまで、資金を抽出しようとしたんです」
「では、どうしろというのです?」
「それに関する答えと言えるものは、彼の息子、コモドゥスのゲルマニア撤退です」
「そ、それは」
「遺言に背きまくってるじゃない」
「確かに、マルクス帝の遺言とは違うものですが、これは有効であるのは事実です。この戦いで叩きのめされた彼らは、ローマの同盟者として職を与えてもらって食いつなぐしか道は残されていません。これで彼らは反抗できなくなりました。
現に、これ以降六十年間はこの地域で大きな戦闘は起きません」
「相手の足下を見透かした上手い交渉である、と褒めればいいのかしら」
「上手いことは確かですね」
「参考までに、国境を接する敵に進行を思い留まらせるものは、最低次の三つがあると思われます」
@侵入の隙を伺う相手を圧倒できる、維持効率の良い軍事力。
Aいざという時に、軍事力を効率良く使用できる戦略戦術の研究。
B相手がなるべく侵攻しないように納得させる交渉力。
「少なくとも、コモドゥスはこのうちのBを上手く行うことが出来たのですから、十分に賞賛に値すると思われます」
「@とAは?」
「@は、これまでのローマ皇帝が整えていましたから、アウレリウス帝にもコモドゥスにもやることはあまりありません。
Aは、恐らく今でも各国の参謀本部の悩みのタネです。時代は刻々と変化する以上、常に戦略戦術も変化せざる得ません。参謀本部すらない当時は大変だったでしょう。特にアウレリウス帝の戦争の下手さ加減は承知しているはずです。
そういう意味でも、Bを行うのは有効だと思われます」
「結局、この件に関してはコモドゥスが正しかった、というこですか?」
「少なくとも、正しい解答の一つを選んだと思います。ですが、彼の政治的に正しい判断はこれだけです」
「次回はいきなり馬鹿皇帝から、てことね」
「次回は、コモンドゥス帝から、三世紀の危機一歩手前のアレクサンデル・セウェルス帝までを扱います。楽しみにしていてくださいね」
「二人はちゃんと戻って来るの?」