足りないモノに気付いたら


      「私と結婚してくれないか?」

      「私と結婚していただけませんか?」


 世間一般では、おそらく、一世一代の大事な場面ともなりうる重要な台詞だろうが・・・。


 およそロマンチックだとか、愛に溢れている甘い場面だとかにはほど遠い、色気も素っ気もない軍の司令室の一角で、その台詞は、聞こえてきた。

 確かに直前、ここ上司が、ドカドカと足音高く、司令官室から出てきたのには、気付いていた。

 無言のまま、彼の副官のデスクの横まで、やって来たのもわかっていた。

 上司ーーーロイ・マスタングは、執務室に並んでいる部下達の机の一角、リザ・ホークアイの横に立ち、今、彼女はその彼を見上げている。

 台詞は、当然、他の部下の耳にも届いており、勢揃いしていた4人の部下達は、固まるしか術がなかった。

 呆然としている部下達など、全く視界の外に追いやったかのように、見事なほど、そこに独立した世界を作っている。


 「あ、立ちあがらなくてかまわないよ。」

 「ありがとうございます。 では、このままで失礼します。」

 ロイは、座席から立ち上がろうとしていたリザをさりげなく制すると、2人の会話はそのまま、スムーズに続けられる。

 「脅されでもしたのか?」

 「泣き落とされもしました。」

 「そうか・・・では、宣言だけしておくか?」

 「それが得策なのでしたら。」

 「私は本気だが?」

 「・・・それは・・・恐れ入ります。」

 「いいのだな?」

 「私にも・・・異議はございません。」


 結婚の申し入れの会話のはずなのに、聞こえてくる会話は、全くそれに似つかわしくない。

 司令室内というこの場所と同じく、なんとも・・・味気ない。

 たとえば、男が女の前で跪いているとか、女の頬がほんのり紅く染まっているとか・・・そんな光景があれば、多少は、それなりのロマンを垣間見ることができたのだろうが・・・。

 女を見下ろしている男の態度は、何時もと同じく、ただただ、でかい・・・としか見えないし・・・。

 女の台詞にも恥じらっている影すらなく、対等に受けて立つ・・・いつもの凛々しさだけが際だつそれだ。

 まるで、何かのミッションの打ち合わせ? いや、その前段階の密談に近いようなやりとりそのものだ。

 ま、密談にしては、声が大きいし、全然隠す気配がないようだが・・・。


 「・・・准将? 中尉? いいんスか? そんな重要な話をこんなトコロでしちゃっても・・・?」

 「そうですよ・・・俺らに丸聞こえですよ?」

 「私どもに証人になれとでも?」

 「とりあえず・・・おめでとうございますっていってもいいですか?」

 無骨な男が4人・・・それぞれが、なんとか平常心を取り戻そうと、必死に頭を回転させて、言葉を絞り出す。

 当の本人達は、至って冷静な表情でこちらに視線をよこす。

 「ああ、ちょうどいい。 お前達証人になれ。 今の会話は聞いていたな?」

 「? いいんですか? そんな重大事をこんなムサイ場所でやっちまって?」

 「そうですよ? 中尉? なんとか言って下さいよ? ・・・ムードっていらないんスか?」

 「え? まあ・・・わざわざ場所を変えなければいけない必要性もないと思うわ。」

 「・・・そんなもんなんですか?」

 「一応プロポーズなんですよね? 今のは?」

 「どうも、自分のプロポーズに対する認識は間違っていたようですな・・・。」


 「ゴチャゴチャ言うな。 ともかく、お前達が証人だ。 たった今、私達は婚約したからな? わかったな?」

 「・・・・・」

 あまりの展開に、再び思考が停止する。


 「あ・・・それから、ホークアイ『大尉』だ。 すまん・・・公示がまだったな・・・。 ・・・って、ホークアイ大尉? 君、公示用の辞令書、私に渡したか?」

 「あ・・・すみません。 多分まだ私の手元にあります。」

 「やっぱりな・・・。 よかった・・・これは私のミスでもさぼりでもないぞ?」

 「はいはい・・・すみません。 後程、お渡ししますので、正式にお願いいたしますね。」

 「よし・・・と、言うことだ。 ホークアイ大尉だからな? そのつもりで。」

 「・・・・・」


 誰も反応が返せない・・・膠着状態継続中だ。


 「・・・返事は?」

 「は、はい! 了解しました! ・・・って、こんな職場モードと一緒くたな返答でいいんですか?」

 促されて、慌てて敬礼で返す部下達。 条件反射的に返答するが、やっぱりまだ上手く認識できていない。

 「別に・・・いいんじゃないの? あなた達が状況が理解できていれば。」


 ・・・理解・・・できてなんかいませんよ!!!・・・

 ・・・辞令の告示も大事だろうけど、それと、こんなもっと、いや一大事だろうことを同時に言わないでくださいよっ?!!!・・・

 ・・・なんなんだ? この2人は? しかも、おもいっきりスッキリした顔してるし・・・


 部下達は、理解できないまま、無理矢理<承諾>させられただけだった。

 長いつき合いだが、こんな状況は、勿論初めてで・・・兎に角、理解に苦しむ部下達。

 それでも、もしかしたら、これは極秘任務なのかもしれない・・・と、無理矢理任務の一部に持っていこうと、努力もしてみる。


 ・・・この2人、本気なんだろうか???・・・

 しばし、4人の仕事の手は止まったままだった。


 ・・・にしても・・・なぜ、いきなりこんな事に???


 それは昨日、リザが将軍に呼び出された所から始まった。


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