第3日曜日


 えいこ先生は悩んでいた。

 「あのね? ルナちゃん? 今日は、パパの絵を描きましょうって、先生、言ったはずなんだけどな?」

 「うん、ちゃんとココにパパ・ジョーいるわよ?」

 「うーん・・・これね、描けたら、先生が、パパにプレゼントできるように、ちゃんとこの額縁に入れてあげようと思っているの。 だから、それにちゃんと入るように「真ん中に大きくお顔を描きましょうね」って、さっき先生、お話ししたんだけどな・・・。」

 「うん・・・ルナ、ちゃんと聞いてたよ。 だから、パパ・ジョーは、ちゃんと真ん中にいるでしょ?」

 「うーーーん・・・どうしてもお友達も、一緒に描きたい?」

 「あのね? 先生? この人たちね「お友達」じゃないの。 この人もこの人も・・・みーーーんなルナの<パパな人>なの。」

 「パパな人???」

 「うん。 パパとか、おじちゃまって言ったりすると、怒るのもいるけど・・・みんな<パパな人>なの。」

 「・・・・・」

 「だからね、仲間はずれにできないの。」

  至って真剣な眼差しで見上げられては、これ以上説得は敵わないわね・・・寛容な判断で、えいこ先生は、優しく声をかけるのだった。

 「・・・わかったわ。 じゃあ、綺麗に描いてあげてね。」

 「うん♪」 

 「・・・ところで・・・一体何人いるの?」

 「えーーーっと・・・。 パパ・ジョー、ジェット、アルおじちゃま・・・7人? あ・・・ギルモアおじいちゃま入れたら、8人♪ でも、おじいちゃまはパパじゃないか・・・。」

 「・・・7人・・・なのね?」


  えいこ先生は、<あの額縁に納まるかしら?>・・・物理的な問題にも頭を悩ませていたが、一体この7人って・・・何者? 新たな疑問で頭の中が一杯になってしまった。

 <ルナちゃんって、編入したてだから、まだママしか見たことないし。 あの見た目若いママの御主人って・・・? しかも、こんなに沢山の男の人と・・・まさか! 全員と同居しているのかしら? それって、逆ハーレム状態??? ふふふ・・・まさかね? ま、当日、わかるわよね?>


 この日、××幼稚園年中・のはら組の担任、えいこ先生は、当日=数日後の第3日曜日・・・本来ならば休日出勤なこの日・・・に、密かに楽しみを見つけたのだった。




 その頃・・・お隣のおがわ組のまさこ先生も頭を抱えていた。


 「あのね・・・ソレイユ君? 先生、「パパのお顔を描いてあげましょう」て、言ったんだけどな?」

 「うん。 知ってるよ。」

 「・・・だったら、お席についてよーく、パパのお顔を思い出して描きましょうね。・・・はい・・・鏡の前から離れて。」

 ソレイユに声をかけた場所は、お教室の入り口付近。 小さな蛇口と手洗い台、鏡が取り付けられている場所だった。

 「えーーーっ! だって、僕の顔って、パパ・ジョーなんだよ?」

 「はい?」

 「僕ってパパ・ジョーに<うりにこ>なんだって。」

 「・・・それを言うなら、<瓜二つ>・・・でしょ?」

 「あれ? そうなの? ・・・だからね〜僕の顔よーーーくみて、これから描くところなの。」

 「・・・はいはい・・・わかったわ。 でもね、さっきから、もう10分は見ているわよ?君? ・・・そろそろ覚えた?」

 「うん。 じゃあ、描いてみようっと。」


 無邪気に自分の席に戻る後ろ姿を見ながら、まさこ先生は溜息をついていた。

 <うーん・・・ちょっとナルシストのけがあるのかな? あの子・・・まだ、編入したばかりで、行動読めないし。 にしても、自覚があるくらいそっくりって言うのは・・・余程いつも、周りから言われているのね。 そっか・・・ふふふ・・・なかなかかわいいパパかも知れないわね。>


 まさこ先生、こっそり想像して第3日曜日に期待していた。




 さて・・・当日。

 6月の第3日曜日といえば、全国的に「父の日」である。

 多くの幼稚園では、この日に休日参観日を持ってくる。

 お父さんお母さんだけでなく、兄弟やおじいちゃん、おばあちゃんも入り交じって、幼稚園の教室は飽和状態だった。

 多少蒸し暑さを伴った教室の中で、いつもと違った空気の中、幼児達は照れくさそうに、ちょっと誇らしげに、歌やらお遊戯やら・・・「日頃」を披露してくれている。

 先生たちは、カリキュラムをこなしながら、子供達のパパを密かに観察・・・納得したり、驚いたり・・・。

 中には、ときめいたり、笑いをかみ殺したり・・・(あまりにも似ているので)

 そんな中、えいこ先生は、ルナちゃんの<パパ達>を探してみる。

 <あれれ? ママはいるけど・・・。 あっそっか、お隣のソレイユ君のところね? とりあえず・・・その他の「パパ達」は、見あたらないなあ? あとで、ゆっくり探すとしますか?>

 そして、こっそり考えた・・・(彼女に直接紹介・・・もとい教えてもらいましょう♪)・・・と、とりあえず結論付けて、頭の隅に追いやり、仕事に集中するのだった。




 さて、お隣のクラスのまさこ先生は・・・そのころ、まさしく笑いをかみ殺していたのだった。

 <ソレイユ君って凄いわ・・・まさしく遺伝子の産物ね。 あれって、きっと髪の毛の質まで同じなんじゃないかな? ふふふ・・・跳ね方までそっくりじゃない? それにしても、若くてかっこいいパパだったのね♪>

 笑いがこぼれるのを必死にこらえながらの業務・・・なかなかプロの技だ・・・。


 そして、同じころ、2つの教室を廊下からこっそり伺う数人の影が・・・。

 多くの父兄に隠れて、どちらの先生達からも死角になっていた。

 「どれどれ・・・へぇ、ルナのヤツすましちゃってるぜ?」

 「ふむ、幼稚園って所はこんなことしているのか・・・。」

 「おいおい! あの絵を見て見ろよ? 俺達もちゃんといるぜ?」

 「おっ? 嬉しいね〜俺達も「パパ」なのか?」

 「ジョーよりも、我が輩の方がパパらしいと思うが?」

 「お前じゃ、じーじになっちまわね?」

 「相変わらず君は失敬だの?」

 「そっか? おっ? 何かやり始めたぜ? ははは・・・なかなかかわいいじゃん? あいつ。」

 「ソレイユは・・・と。 いたいた! ここから、よく見えるぞ?」

 「どれどれ・・・しっかし、あの2人・・・本当によく似てるな?」

 「まったく・・・何処から見ても間違えないな。 絶対に「親子」だ。」

 「ん? なんだかジョー達、注目されてないか?」

 「そういや・・・妙に視線が集まってるな・・・。」

 「ぬ・・・女性達の視線・・・集めてる。」

 「だけじゃないアル。 女の子達も、チラチラ見ているアルよ?」

 「・・・全く、親子揃って・・・。」


 当の本人達は、そんな視線や仲間の揶揄には一切気付くことなく・・・終始にこやかなことは言うまでもない。




 「ジョー? そろそろ交代しましょ?」

 「うん。 わかったよ。」

 こっそり通信で打ち合わせると、2人は、それぞれ双子に耳打ちすると席を立つ。

 「ばいば〜い。」

 無邪気に手を振るわが子に、小さく手を振り替えしながら、ふたりそれぞれ、自分に注がれる視線の数々を引き連れて、教室を交代した。

 <あららら・・・ルナちゃんのパパって・・・ソレイユ君そっくり・・・なかなか素敵なパパじゃない!>

 はずれなかった期待に、指示を出していたえいこ先生の声のトーンが、無意識に高くなった。

 <これは・・・ルナちゃんが言っていた「パパな人達」っていうのも、期待できるかしら?>

 改めて、カリキュラムを進めながら、器用に当たりに目を配るえいこ先生だった。



 一方、

 「ママン・フラン〜♪」

 交代して入室してきた「ママ」に無邪気に飛びつくソレイユ。

 何処にでも見られる光景だったが、なぜか空気が少しだけ冷たくなった。

 <ふむ・・・こう見ると、ソレイユ君のご両親って、美男美女カップルだったのね。 ・・・にしても、ふたりともそろって若いなあ・・・。>

 まさこ先生は、教室を出ていってしまったジョーに、物足りなさを感じながらも、替わりに入ってきたフランソワーズを見て、納得。 若い2人に一瞬、我を忘れかけた。

 しかし、教室の大方の視線は違っていた。

 いままでジョーに注がれていた視線は、<あのパパにこのママ? ・・・なんかずるくね?>の、一変して羨望の眼差しへと変わり、新に別の熱い視線が加わったのだった。

 <うわ・・・こんな綺麗な母ちゃんもいたんだ。>

 世のお父様方・・・ちらちらと目の保養に余念がない


 「おいおい・・・なんだか、ソレイユのクラス、異様な雰囲気じゃないか?」

 「ああ・・・なんか、こう、複雑に視線が絡まるっていうの?」

 「幼稚園って所は、我々が考えていたよりも複雑な人間模様があるのかもしれないね。」

 のんきに2つの教室を覗く面々。

 実は、そろそろ・・・目立ち始めていた。

 「最近、ここらも国際色豊になってきたのね?」

 ひそひそと話し声が耳に届いてきて、面々は、そっと廊下から離れる。

 園庭では、弟や妹なのだろう、就園前の小さな子供を遊ばせる親の姿が少なくない。

 それを横目に、一足先に引き上げるために、正門へと足を向ける。が、

 「みんなで先に帰ったら、ルナのヤツ、怒らねえか?」

 「そうだね。 ・・・2人くらい残るか?」

 「ワタシ、先、帰るアルよ? みんなのお昼の用意しなくちゃならないアルね。」

 「我が輩も、もう十分だな。」

 「俺も、先帰る。」

 「じゃ・・・ジェット、アルベルト? 君たち残ってよ。」

 「・・・なんで俺達なんだ?」

 「僕も、ちょっとやることがあるんだよ? それに、ジェット? 君は絶対に残っていなくっちゃ、ルナが・・・怒るんじゃないの?」

 「・・・かもな。 わかったよ。 アルベルト? 付き合えよ?」

 「・・・仕方ないな。」

 居残り2人・・・正門付近で待機。

 実は、これが目立つ・・・が、自覚なし。

 やがて、終業。

 家族単位で、バラバラと帰路につく園児達。

 正門付近で双子が出てくるのを待つ2人に、視線がチラチラ。


 「野郎が2人・・・やっぱ目立つのかな?」

 「・・・当たり前だろ! ち・・・ルナもソレイユも、なにのんびりしていやがる?」

 「お? やっと出てきたみたいだぜ?」

 「ジェット〜♪ アルおじちゃま〜♪」

 駈け寄ってきたルナをジェットが抱き上げる。

 ソレイユも、アルベルトの脚に飛びついた。

 「遅かったな? お帰り。」

 「うん〜パパ・ジョーが・・・。」

 「はあ? ジョーが? どうしたって?」

 「先生とか、いっぱいな人としゃべってるの。」

 「は?」

 「さっちゃんのママとか、やっくんのママとか・・・。」

 「・・・もうちょっとしたら、私が迎えに行くから、もうしばらくココで待っていてくれる?」

 双子の後ろからやってきたフランソワーズが、溜息混じりに2人に声をかけた。

 「??? ジョーのヤツ? 何しているんだ?」

 「単に、「ふりほどけない」だけよ。」

 「ふりほどけない?」

 フランソワーズが振り向いた先・・・女性の輪の中・・・に、ジョーが埋もれるようにいるのが見える。

 「もてるヤツだな・・・。」

 「ははは・・・相変わらず・・・か?」

 「コイツもだ・・・。」

 アルベルトの呟きに、ふっと足下を見やるジェット。

 そこには、女の子の「遊びましょ。」攻撃に翻弄されているソレイユが・・・いたのだった。




 「あ、えいこ先生、お疲れさま。 ねえ? 見た? ルナちゃんのパパ。」

 「あ・・・お疲れさまです、まさこ先生。 ええ、本当によく似てますね、ソレイユ君に。」

 「そうなの。 抱っこされている所なんて・・・最高だったわよ。」

 「ええ、想像できますね。にしても・・・かっこいいと思いません?」

 「ふふふ・・・やっぱりあなたもそう思う?」

 「でねでね? まさこ先生、ちょっとあっち見て!」

 「うん?」

 「ウチのルナちゃんが言っていた「パパな人達」・・・ルナちゃんが抱っこされているのわかります?」

 「あら・・・なかなか♪ この双子のママって・・・一体何者なのかしら?」

 「さあ・・・?」

 「ちょっと羨ましい気もするわね?」

 「ふふふ、そうですね。」


 担任の先生方、自分の予想が外れていなくていたく満足・・・充実した「休日出勤」だったのであった。


 その後、何時までも輪の中から出てこられないジョーを、フランソワーズが、何とか奪還して・・・やっと帰路につく一行だった。


 「パパの日」・・・もとい「父の日」は、こうして平和に過ぎていったのであった。


ちゃんちゃん♪


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 はい〜「季節モノ」です(^▽^ケケケ

 この時期、甥っ子はそれらしき作品を持ち帰り、スーパー等には、一般投稿の形で、「パパの似顔絵」が張り出されていたり・・・♪

 そんなものから、にんまり・・・チビ達に活躍してもらいました(笑)

 えいこ先生、まさこ先生〜お疲れさまでした♪

 ジョーは・・・やっぱり天然さんです(*^-^*)


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