「フランソワーズ、ルナを頼む、僕はソレイユを!」
泣き出したルナに驚き、一旦足を止めたジョ−だったが再びソレイユを追って部屋を飛び出した。足音を辿ってソレイユに追い付くとその腕を掴んで問いかける。
「ソレイユ?どうしたんだ?突然かけだすなんて」
振り向かせながら優しい笑顔で向かい合ったが、ソレイユは目を合わさずに下を向いたまま小さな声で呟いた
「みんなはサイボーグなんでしょう?サイボーグって・・・殺人兵器なの?」
思い掛けないソレイユの言葉にジョ−が凍り付く。そんな動きの止まったジョ−に掴まれた腕を払い除けるとソレイユはそのまま奥の方へと走っていってしまった。
ソレイユに腕を払われたまま呆然としていたジョ−の所にジェットが駆け寄ってくる。が、呆然と動かないジョ−を見つけて不振に思い声をかけた。
「おい!ジョ−?ソレイユは?追い付いたんじゃあなかったのか?」
ジョ−を問いつめるジェット。語気が自然と荒くなる。
「おいっ!しっかりしろよ?どうしちゃったんだ?」
反応の鈍いジョ−に業を煮やしてジェットは、彼をそこに置いたままソレイユを追い掛けようとした。とその時、イワンの声が頭の中に響く。
「じぇっと?それいゆノ側ニイッテクレル?デモ、何モ聞カナイデ、タダ付キ添ソッテクレル?」
「??OK、フランソワーズあいつどこにいる?」
「・・・上だわ。デッキへの出口の所。出ようとしたみたいだけどあそこロックされていて開かないはずだから。」
「了解。・・・側についてればいいんだな?」
ジェットが返事を返す。指示を出したイワンの声がやけに沈んでいる事に気を止めながら。
同じ頃、コクピットでは・・・
「いやあーっ!いやあーっ!」
泣叫びながら完全なパニック状態に陥っているルナ。
フランソワーズが落ち着かせるために、抱こうとしたが、その手を払い除け、身体に触れる事を全身で拒んでいる。
「ル・・ナ・・?」
何も寄せつけないルナの態度にフランソワーズの顔色が無くなっていった。
「一体何が?」
泣叫ぶ我が子に何もしてやれずに呆然としているうちに、ルナが突然立ち上がると彼女もコクピットを飛び出した。
一瞬顔を上げた時に見せたその瞳にうつっていたのは恐怖と疑惑の色。
それは、目があったフランソワーズの胸に突き刺さるような悲しい視線だった。
「・・・誰カ、るなノ側ニイテクレル?何モキカライデイイカラ。」
静かなイワンの指示がみんなの頭の中に響いた。
「僕がいくよ。」
ピュンマが申し出ると同時に出口に向かって歩き出す。
「イワン?ルナはどこにいった?」
「りびんぐノ方ニ向カッテイル。・・・頼ンダヨ。」
「イワン?ふたりに何があったのか、おまえならわかっているんだろう?」
アルベルトの静かな声が響く。
しばしの沈黙の後、イワンのテレパシーが静かに響いてきた。イワンには珍しく明らかに沈んだ声。
「アノ子タチノ思念ガ伝ワッテキテワキタヨ。、アノ子達ニ銃ヲ向ケタ奴ガ言ッタ言葉デ酷ク傷ツイテイルンダ。ソレト同時ニ、目ノ前デ人ガ撃タレテ死ンダ。シカモ撃ッタノハ・・・」
「俺とジョ−だったが?それが?」
アルベルトの胸に不安が過ったが、それより早くフランソワーズがイワンの言葉の端を掴んで訪ねる。
「言葉って・・・一体何を言われたの?」
『サイボーグなんてたかが殺人兵器』
「そんな事を・・・!?」
「なんてこった・・・」
「ふん!余計な事を・・・」
愕然とショックを隠し切れない彼等から投げやりな言葉がぽつりと出てくる。
「確カニサッキノアレハ仕方ガナカッタ。アアシナケレバ、アイツヲ撃タナケレバ、アノ子達ノ命ガ危ナカッタカラネ。デモ、結果論カラ言エバ・・・彼等ノ目ノ前デじょートあるべるとガ、アノ兵士ヲ撃ッテシマッタ。結果、目ノ前デ死ンダワケダ。目撃シタ彼等ガぱにっくヲ起コスノモ当然ダヨ。シカモソノ後ノ作戦ノヤリ取リモ聞イテイル。」
「強烈すぎたってわけだ。あんな俺達を見たのは確かに初めてだよナ。」
事態を飲み込んだアルベルトが、ふたりを護るためだったとはいえ、彼等に与えてしまった傷の深さに愕然としていた。
「そうか・・・あいつにそんな事を言われたのか・・・いやそれだけでは・・・僕達の姿にもきっと・・・ショックだったんだろう・・・」
コクピットの入口にジョ−が戻ってきていた。彼に口から力のない言葉が漏れた。
「『子供部屋』にいた時から少し様子がおかしかったんじゃ。先に言っておけばよかったのう。すまん。」
ギルモア博士が済まなさそうな顔をしてジョ−にむかって声をかけた。
「アノ兵士ガドウシテソンナ事ヲ言ッタノカハ、不明ダケド、コノ部分ダケガ今モ強烈ニ残ッテイルミタイダ。コレヲ聞イテシマッタ直後ニ射殺ヲ目撃トクレバ・・・たいみんぐガ悪スギルヨ。」
イワンの口から思わず溜め息混じりの愚痴がこぼれる。イワンもショックを隠しきれないでいた。が、ゆっくりかまえている場合ではない。彼等のこころの傷を塞がなくてはいけない。
「じぇっと?聴コエテイタダロウ?ソウイウワケダカラ、それいゆガ自分カラ何カ言イ出スマデソットシテオイテ。泣イテイルカイ?」
「いいや、ずっと膝抱えて座り込んでいるだけだ。かえって心配だぜ。」
「ソウダネ、チョットソノママソコデ付キ添ッテイテクレル?ソコハ頼ンダヨ。」
「ああ、わかった。だけど、そんな事聞かされちゃア、ショックは仕方ねえな。おまけにそいつが殺された。目の前で・・・か。」
ジェットがやり切れないといった口調で通信を返してきた。
「008モ聞イテイタネ?ソッチハドウダイ?」
「ずっと泣いている。さっきみたいなパニックは収まったけれど。」
「ソッチモ似タヨウナモノダネ。落チ着クマデ少シ様子ヲ見ヨウ。」

「ネエ、006?フタリニ何カ飲ミ物作ッテクレル?」
唐突にイワンから注文を出された大人は戸惑いながらも
「落ち着かせるためアルか?暖かいものがいいアルネ」
「ウン、何カ飲ンデ少シ眠ッタホガイイダロウ。モウ、真夜中ナンダシ。」
その時になって改めて時計を見ると、針はもうすぐ午前2時を指そうとしていた。
「余程、興奮している。多分眠る事、出来ない状態、それでは、きちんとものを考える事もできない。」
ふたりを思い遣るジェロニモの言葉をイワンがつないだ。
「トニカク全テハフタリヲ落チ着カセテカラ。話ハ・・・心ノけあハソレカラダ。頼ムヨ大人。」
「わかったアルね。作ったら届けるアル。」
張大人は、コクピットの入口でもたれ掛かるようにやっと身体を支えてたっているジョ−のわきをすり抜けて、キッチンに向かった。
「ぎるもあ博士?彼等ノ興奮ガアマリ酷イヨウダッタラ何カ薬ヲ調合シテモラエル?」
「ああ、必要なら言っとくれ。」
ギルモア博士の顔も曇っていた。
コクピットには重たい空気にみちていた。
しかたがない事だった。
子供達のパニックの原因の一つは自分達の行動にあったのが明白なのだから。
緊急を要したとはいえ、目の前で人が銃で撃たれて殺される所を目撃してしまったのだから。
・・・それがたとえ自分達の命を狙っていた奴だとしても。
・・・自分達がジョ−とアルベルトの素早い行動のおかげで助かっているのだとしても。
サイボーグであることは殺人兵器なのか?ジョ−やフランソワーズを初めみんなが戦う兵器に過ぎないのか?という疑問。
そして、それが普段自分達が知っている彼等とのギャップとなって混乱させていた。
始めてみてしまった彼等の闘い。
目の前で殺された兵士。
自分達にむけられた銃口と、あの言葉。
ソレイユもルナも彼等が『特別』な事はわかっていた。
ギルモア研究所の設備は何の為なのか、
なぜ自分達はドルフィン号の中で生活する時があるのか、
いつまでも大きくならないイワン、
特別な力と機械の身体をもっているパパ・ジョーと仲間達。
そして彼等の『仕事』とは?
わかっていたつもりでも見た事はなかった。
・・・見せてはもらえなかった。
身の安全の為に隔離されていたのだから。
・・・見て欲しく無い部分であったから。
ふたりは、『彼等』の事を『知っていた』が『理解』はまだできてはいなかった。
だから、突然この降って湧いたような不安と戦わなければならなくなった。
あまりにも多大な事が一度に起こってしまって消化しきれなくなった心が悲鳴を上げていた。
ジョ−とフランソワーズをはじめ、メンバー全員、いまは目の前にいない二人の心の痛みが手のとるように伝わってきていた。
「あの子達に僕らの事をきちんと説明しなければならない時がきたのかもしれない。」
俯いていたジョ−が小さいながらもはっきりとした口調で話し出した
「今まではただ何となく僕らの身体が特別なんだって思ってきていただろう。僕だってそうとしか話して来なかった。戦闘の時は安全を考えて子供部屋に隔離していたから、本当の僕らの姿は見ていなかった。だけど、さっきの戦闘をみてしまったからには、もう誤魔化しはきかない。」
二人がこの世に生をうけてから7年。
いつかは、伝えなくてはならないひとつめの事実。
それがあまりに唐突にやってきた事で動揺をかくせない。
「真実を告げる時っていうわけか?」
「いつもの僕達も真実だけど、闘っている僕達もまた真実だって事を・・・」
「戦う機械の身体をしているサイボーグだという事実。」
「・・・どこまで話す?あの子たちに理解できるだろうか?」
「たとえ今、全てを語らず小細工をしたり、嘘をついて真実を隠しても無駄だろう。いずれ綻ぶよ。」
「ああそうだな。そんな事をしても、いい結果がでるとは思えない。」
「信じるしか無いのかな?彼等が僕らのことをわかってくれるって。それって、甘いかな・・・」
「俺達はサイボーグ・・・それは生ける兵器だという事・・・受け入れられるかどうか・・・」
メンバーがそれぞれ、自分の思いと不安を口にする。
「ふたりがこの状況を受け入れるためにはここにいる君達みんなの愛情の裏打ちが無ければ、到底無理じゃろう。支えてやるんじゃ、みんなで。」
ギルモア博士がみんなを説得するように声を震わせている。
「大丈夫じゃて。あの子達は君らの愛情と優しさを知っておるはずじゃから・・・」
ギルモア博士が小声で呟くように自問自答していた。
「あの子達を愛してる。愛情で支えてあげないと、あの子達の苦しみを取り払わなくては。あんな目ををさせるために生まれてきてくれた理由じゃないのだから・・・こんな辛い思いをさせる為に側においてきたわけじゃないんだから・・・」
フランソワーズに絞り出すような声が静かに響く。
ひとりひとりが、ポツリポツリと考えを口にする空気の中、しばしの沈黙があたりを支配する。
重苦しい沈黙の中イワンがそれを破った。
「ミンナ、結論ヲアマリ急イジャアダメダヨ。マズハアノ子達ノ興奮状態ヲ解イテアゲテ、ソレカラダ。僕達モカナリ動揺シテイルカラ、落チ着カナキャイケナイネ。フタリニハ006ガ一服盛ッテイルヨウダカラ、モウスグ眠レルハズダロウ。」
「一服盛るって?大人!何しているの?」
沈黙を破ったイワンの一言にフランソワーズが驚いて、張大人に直接問いつめた。
ひとりキッチンにいた大人に、いきなり脳波通信でのフランソワーズの声が飛び込んできた。
大人は驚きながらも少しも悪びれる事なく答える。
「ミルクに少し漢方薬入れただけあるよ。心配ないのことよ。」
あっさりと答える大人になかば呆れながらギルモア博士が気が抜けたように、
「イワンや?そういう事なら儂の出番はないの?」
「ソウミタイ、ゴメンネ博士。」
思わぬ一言でコクピットの空気が少し和らぎ、誰もがほっと息をつく。
「イワン?もしかして、君も動揺しているの?」
「ソウダケド?僕ダッテコノ状況ハカナリしょっくダヨ。コレハ、彼等ノ心ノ傷ダケデナク、僕達ノ問題ニモナッテシマッタカラネ。」
意外だと言わんばかりの顔をしているジョ−に向かってイワンが真面目な声で答えた。
ほっと息をついたのも束の間、問題はやはり重たいのだと認識する。
それぞれの胸に去来する不安と想い・・・双子がうけた心の傷の大きさを考えていた。
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