世界に数カ所ある、彼等の隠れ家のようなコテージ。
ここもその中の一つで少々人里離れた静かな森の中にあった。
海にも近いし、ドルフィン号を隠せる自然のドックもちゃんとある。格好の条件を満たしていた。
ここに拠点をおいて1ヶ月、ミッションは一応一段落、情勢を監視中。表面上は落ち着きを見せていた為、ここから仕事に行く者、週末だけ訪れる者、彼等の生活も比較的落ち着きを持ってリラックスした状態だった。
そんなある日の昼下がり、ソレイユとルナはコテージから続く森の中にある東屋で、フランソワーズが差し入れてくれたおやつを食べながら、各々お気に入りのグッズを持ち出して自分の世界に浸って遊んでいた。
陽が西に傾き森の木々から差し込む陽の光もだいぶん弱くなりかけた頃、突然そいつは二人の目の前に現れた。
森の中には警報装置がはり巡らされているはずなのに、どうしてそれを交い潜れたのか?
森の動物や麓の村びとに一々反応しないように、対サイボーグ用に設定していたためか?
とにかくそいつはそれらに引っ掛からずに二人の前に現れてふたりに銃をむけた。その時になって始めて警報装置が反応する。
警報音に驚いてコテージの中にいたフランソワ−ズ達がモニターを覗くとふたりがいるはずの東屋にもうひとつの人陰。
どうやら警報装置は銃に反応したらしい。と、ほぼ同時に森を囲むように怪しい影が十数個現れる。
フランソワーズが『目』で実体を確認するやいなや、部屋を飛び出しながら声と脳波通信で叫んだ。
「誰か!二人の前に敵が!」
叫んだ声に一番近くで本を読みながら木立の下でくつろいでいた004が反応する。彼がガバッと起き上がり、東屋に向かって走り出した時、森の向こう側から敵が進入してきた事を告げるけたたましい警報音が鳴った。
ソレイユとルナの前に現れたその兵士は、ふたりを認識すると、蔑むようにふたりを見下ろしながら銃を向ける。
『サイボーグなんてたかが殺人兵器のくせに』
そう言いながらふたりに向けた銃のトリガーに指をかけたその時、
「ソレイユ、ルナ動くな!」
の、声と供にふたりの背後から兵士にむかってレイガンの光線とマシンガンの銃弾が放たれた。
トリガーが引かれる直前に奴は駆け付けたジョ−とアルベルトが放った銃弾で跳ね飛ばされた。間一髪、二人は無傷で難を逃れた。
・・・少なくとも身体的には。
その後、駆け付けたフランソワーズにふたりの身柄を預けてジョ−とアルベルトは他のメンバーと合流して敵の急襲に対峙するため森の奥へ向かった。
「ソレイユ!ルナ!大丈夫?さあ急いでコテージへ中に入って。」
フランソワーズは泣く事も忘れたように呆然としていた二人をコテージに連れて帰ると彼等を気遣いながら、索敵範囲を広げて敵の動向を探る。彼女が敵の動向をとらえては、近くにいる仲間に指示を出していた。
「009、004!敵は双手に別れたわ!それぞれ5人ずつ!そこから15m!全員レイガンをもってるわ!気をつけて!」
「002、008コテージの表にまわって!そっちからも5人?いいえ!6人!あと20m!急いで!」
「005!そこから、2時の方向にロケット・ランチャーを抱えている奴がいるわ!取り押さえて!」
コテージのまわりで突如始まった戦闘。003の指示の数秒後には必ず銃声と爆音が響いている。確実に敵を撃破している事が双子達にも手にとるように理解できていた。
そしてとりあえず、襲ってきた目前の敵を一掃してみんなが戻ってきた。
「この場所が知れるとはね。」
「なぜ敵にこのコテージのことがわかったんだ?」
ショックを隠せないメンバー達。そんな状況の中で009が指示を出す。
「どのみちここは危険だ。後発隊が来ないとも限らないから、ドルフィン号に避難した方がよさそうだね。003、まわりの様子は?」
「襲ってくる気配はないけど、村のはずれに見かけない車が数台。もしかしたら、仲間かも」
「多分、そんなところだろう。会話は捕捉できる?そのまま詳しい様子を探ってくれ。005と006で博士と子供達、それとイワンを先にドルフィン号に退避させて、いつでも発進できるようにしておいて。のこりのみんなでやつらをここに誘い込もう。いっきに殲滅させるよ。」
009の眼が紅く冷たい光を放つ。戦士009の冷たい冷静な指示が飛ぶ。
ソレイユとルナの目には明らかにいつもと違うメンバーの姿が映っていた。
ふたりは呆然と彼等のやり取りを聞き、彼等の動きを目で追っていた。
そんなふたりを005が優しく抱き上げるとそのままひょいっと肩に載せて声をかける。
「大丈夫か?もう少しの辛抱だ。ドルフィン号に乗れば安全だから。」
009達は、襲われた隠れ家に残りの敵を誘い込むと、隠れ家ごと爆破し一掃する事に成功する。一緒に自分達の痕跡も跡形もなく消し去った。
先にドルフィン号にのりこんだ005と006は他のメンバーがいつ乗り込んで来てもいいように発進準備を進めている。
とりあえず一番安全な『子供部屋』でソレイユとルナはみんなが作戦を終えて乗り込んでくるのを待っていた。時刻は随分と遅いのに興奮しているのか、ふたりとも眠ろうとはしない。
やがて、日付けが変わろうとする頃、彼等が作戦を終えて乗り込むとドルフィン号はすぐにその場を離脱した。暫く注意深くあたりの索敵をくりかえしながら落ち着ける場所を探した。それはモニターから漏れ聞こえるコクピットからの声で確認する事ができた。ふたりは、彼等の声だけをぼんやりときいていた。時々ウトウトしかけるが何かを思い出したようにまた目を開ける。そんな事をくり返していた。
始めて彼等の戦闘をまともに目にしてしまったふたり
ギルモア博士がそんなふたりの様子を見て、ふたりに声をかけ、心配して膝にのせて抱き締めてやるが、あまり反応は良くない。やがて、ドルフィン号は島陰に停泊した。
『サイボーグなんてたかが殺人兵器』
この言葉がふたりの胸に突き刺さったままだった。
耳に残った言葉が頭の中でグルグルと廻っている。
停泊体制が整った頃、
「まだ起きていたの?『子供部屋』のロックをはずしたからコクピットに来てもいいけど、どうする?」
009の声はいつもの優しいジョ−のそれに戻っていた。
頭の中が混乱したままコクピットに向かったふたりは、プシューっと聞き慣れた音とともにあいたドアの中に入っていった。
「驚いただろう?間に合ってよかったよ。」
「こわかったよな?」
「よくしんぼうしたな?」
「大丈夫?」
「怪我しなくてよかったよ。」
「眠たいだろ?起きていて平気か?」
いつもと変わらないみんなの優しい声が降ってくる。が、二人の耳には届かない。
あの言葉が耳の奥から離れてくれない。
ソレイユはジョ−とアルベルトと視線が合うと反射的に踵をかえしてコクピットから駈けだしていた。
「ソレイユ?どこへいく?」
ジョ−が追い掛けようとした時、ルナの方が突然、「ウワーッ」と大声で泣き出した。その声に驚いてジョ−の足が止まる。
ルナは自分の頭を両手でかかえて大粒の涙を流しながら、その場にしゃがみ込んだ。
普通でないふたりの反応に呆然とするメンバー達。
ただ事ではないと緊張が走る。