リザ・ホークアイ
アメストリス軍所属将校
階級は大尉
現在、セントラルシティにおいて、街の復興指揮をとっているロイ・マスタング准将の副官として勤務
・・・つい先日、この上司と婚約・・・成り行き上、部下達は承認済み
世間一般的に言えば、見事エリートをゲットした理想的な玉の輿の女性・・・に、見えなくもないが、彼女の場合はかなり違う。
ロイ・マスタングがより「上」を目指すために、彼女はどんな支援も厭わない。
彼女にとって彼の存在は絶対であり、彼が進むべき先にある障害は全て凪祓い、彼に襲いかかる禍の盾となり得ることが、彼女の全てなのだ。
その為の副官としての位置をずっと守り通してきた。
これからも、その位置は誰にも譲ることなく自分に課せられし事なのだと・・・心に決めているのだが・・・。
ふとしたきっかけは、その立場(当人達にとっては何一つ変わったわけではないのだが)に、大きな変化をもたらしてしまった。
きっかけは、「婚約」。
「公表」は、いつもの面々と将軍閣下だけ・・・のはずだったのだが、当のマスタング本人が、どこかでうっかり口を滑らしてしまったらしい。
どうやら恒例と化している彼への「アプローチ」を、手っ取り早く払いのけたくて・・・と言うのが真相のようなのではあるが。
結果、婚約の噂は一気に軍内部を駆けめぐり、彼等は公的にも婚約を認めざるを得なくなってしまった。
それだけでも、ホークアイにとっては頭の痛くなる状況を作り上げてしまったというのに、事態は更に彼女を悩ませている。
それは、ホークアイの素性も、また同時に明らかになってしまったことだ。
幸いこちらは、先の現象に比べれば「極一部」に限られていたが・・・その「極一部」に問題があった。
マスタングの台頭を快く思わない連中(何時の時代も実力のある若造をやっかむ輩は存在するものだ)、足を引っ張ってやろうと、虎視眈々機会を狙っているような姑息な奴等、彼の実力を認めない輩・・・そんな種類の人間達に、格好の材料を提供することとなってしまったのだから。
事実、「将軍の孫であるホークアイを側近に付け、さらに婚約したことで足場を固めている」・・・などの醜聞が、まことしやかに囁かれている。
これは、将軍に対しても非常に失礼な噂である。
どちらをとってもホークアイにとっては、許し難い行為に他ならない。
ホークアイ本人が、「自分はただの一軍人に過ぎず、その素性など、彼の活躍、出世に何の影響もない」・・・と、いくら叫んでみても、彼の存在が疎ましい奴等にとって、彼女の存在自体が、格好の攻撃の的にしかなり得ないのからだ。
彼がココまで昇ってきたのは、彼の実力に他ならない。
では、本当に彼女の素性がマスタングの出世の役に立ったのか?と、いえば、実際は、そのようなメリットは一切何もなかったと言えよう。
人の噂に歪曲され、事実は決して見えてこないものだ。 ホークアイが最も恐れた噂が、我が物顔で闊歩しているこの状況は、なんとも悔しくて堪らない。 彼女にしてみれば、折角、今まで自分の素性をひた隠しにしてきたのに、その努力はあえなく費えてしまったのだから。
この現状にホークアイは密かに後悔さえしていた。
自分の考え(婚約することで自分が更に彼の役に立てるはず)が、単に思い上がりではなかったのか、と。
いくら、将軍に乗せられたとはいえ、軽率ではなかったか、と。
確かに、最近、疲れの滲む彼をもっと側で支えてあげたいと心から思い、それが出来るのはこの自分なのだ・・・と、決意したのは自分自身だった。
が、実際、彼を支えているのは自分だけではない。
何年も前から、イーストシティ勤務の時代から、ずっと彼に付いてきた部下達がいるではないか。
ホークアイは再度決意する。
思い上がってはいけない、彼を支持する、支える、決して遅れず、付いていく。
そして、何者からも彼を護る。
自分に出来ること全てを、これまでと変わらず・・・それは、側近としての自分の役割を果たすこと。 そう、これまで以上に・・・と。
事実、マスタングの実力は、軍部内の誰もが認めざるを得ないものとなってきている。
少々のやっかみやくだらない醜聞などでは、決して動じない程に。
こんな小さなことに気を取られている場合ではないのだ。
まだまだ先を、上を目指さなくてはならないのだから。
ホークアイは改めて背筋をピンとのばし、真っ直ぐに前を見据える。
彼が進む道の「障害物」は全て排除するのだとの、強い意志を持って。
・・・何か、アイツらを一気に黙らせる事が・・・転がってないかしら?
ホークアイは心の中で、ふと、そんなことを思った。
そして、ある日、それはあちらからやってきた。
〜 Until he achieves his goals, I'll pull the trigger without hesitation. 〜
「珍しいな・・・。」
「ん? 何か言ったか? ハボック?」
ある日の午後。
屋外での仕事を終え、セントラル軍施設の廊下を並んで歩いていた2人ーーーハボック中尉とブレタ中尉ーーーは、数メートル先に、感情を顕わにしたホークアイ大尉の姿を目撃する。 正確には・・・将校クラスの人間(えらく体格のいいヤツだけど、誰なのだかここからでは、わからない)と、向かい合って、一見、極普通に話をしているようにみえるが、実は眉間に皺を寄せ、相手を睨みつけているホークアイの姿を・・・であるが。
普段は、冷静沈着を絵に描いたようなお得意のポーカーフェイスな人が、感情顕わな表情で人と対峙している・・・のである。
少なくとも、「彼女を知っている」人物であるなら、彼女にあんな顔をさせるような無謀者は・・・いない。
“・・・あんなにはっきりと嫌そうな顔をするなんて・・・余程怒らせたな? 一体誰だ、あいつ? ”
ハボックは、いつもながらのくわえ煙草(廊下は禁煙のため文字通り「くわえているだけ」だ)を、かくかくゆらしながら、廊下の先の光景から目を離すことが出来ずにこっそりと独りごちた。
「ああ? あれだよ、あれ。 大尉の話している相手って、誰だか知ってるか?」
直接指さすわけにもいかないので、ハボックは、ちょいと顎を動かすことで、ブレダに目標物を指し示す。
「ああ? ああ・・・あのでかいやつな? ラグーノ少将だよ。あれだけでかけりゃ、間違いないな。」
「ラグーノ少将? 現東方司令部司令官の・・・か?」
「ああ。」
「ふうん・・・あの人が今、実質上、東方司令部動かしてるっつーっラグーノ少将かぁ?」
「そうさ。 中将閣下が戻られるまでだけどな。」
「はあん・・・。」
「なんだよ? ハボ? なにか、あるのか?」
ハボックの声に、なにやら、思惑が込められている感じがして、ブレダは思わず聞き返してた。
彼の表情は、ホークアイ同様、あまり彼に対して、良い印象は持ち合わせていないようだ。 最も、彼の方が、その表情から感情は、読みやすい。
「いやあ・・・あのホークアイ大尉がさぁ、あれだけ露骨に嫌そうな顔をしているってことはだ・・・あの野郎、大尉に絡んでやがんな?と、思ってさ。」
「からむ?」
「ああ・・・最近、大尉があんな顔をするときは決まって・・・例の婚約と、あの人の素性にからんで来る奴らに対してなんだよなぁ。知ってたか?」
「ああ、そういえば・・・なるほどね。」
「よっぽど、腹に据えかねてるって感じだな? 気の毒に。ま・・・なんだかあの少将、ねちっこそうだと思わねぇ?」
「だな。 お・・・? やっと開放か?」
見ると、横柄にふんぞり返った将軍は、子分・・・もとい部下の兵士を引き連れて廊下の向こう側に向かって歩いていく。
ホークアイは、律儀に敬礼して、道を開け、完全に彼等が廊下の突き当たりを曲がり、視界から消えるまでまで、姿勢を崩さなかった。
が、ハボックとブレタには、いまにも怒りで凍り付きそうな冷たい空気が、こちらまで漂ってきている事を肌で感じていた。
「・・・機嫌悪いかな?」
「かもな。だけど、俺達にあたりはしないぜ? 大尉はな。」
「確かに・・・。」
敬礼を解いてこちらに向かって歩いてくる彼女を、2人はぴしっとと敬礼で迎える。
「お疲れさまです。 ホークアイ大尉。」
「あら? 2人とも・・・どうかして?」
「いや、別に。 調べてた件についての報告書が上がったってんで、実況検分してきたところッスよ。」
「ああ・・・強奪、行方不明になった弾薬の件ね?」
“さすがだな・・・もうちゃんと切り替えてるよ。”
全くいつもと変わらないホークアイの対応に、ハボックは素直に感心しながら、それに呼応かのように彼女の問いかけに答えるのだった。
「そうっす。 ありゃ、見事に、警備の隙を突かれてますね。 足下すくわれちまったみたいで気分悪いっすね。 ここが落ち着くって常態になるには、まだまだ遠いのか?って、思っちまいますよ。 こんな火事場泥棒みたいなヤツに、軍が完全に出し抜かれた形ですよ? なんだか腹立たしいッスよ?。」
「まあね・・・まさしく火事場泥棒よね。 まったく・・・一体何処のどいつなのよ?! なんだか頭にくるわね!」
「・・・た、大尉? 大丈夫ですかい?」
珍しく公の場所=廊下で語気を荒げながらカツカツと早足で執務室の方向に歩いていく彼女の背中に、ブレタがおそるおそる声をかけた。
軽く報告をしたつもりのハボック本人は、くわえていた煙草をうっかり落としかけそうなほど驚いている。
「ん? あ・・・大丈夫よ。 ごめんなさい、大声出したりして。」
振り返り、こっそり苦笑を漏らすホークアイ。
“・・・やっぱり仕事中にこんなに感情を露わにするなんざ珍しい・・・”
2人はコッソリとそれぞれの胸の内で思ったのだった。
「大尉? なんか言われたんですか? あいつに?」
ハボックは、小声だがはっきりと自分達の後方ーーーたった今まで彼女の正面にいた人物ーーーに向かって、くいっと親指を突き立てながら、ホークアイに声をかける。
「・・・まあ、ちょっとね。 あの方も何を勘違いしているやら、まったく・・・。」
「中将閣下も今しばらく、こっちに足止めッスからね・・・東方を牛耳っている気分なんじゃないッスか? マスタング准将よりも自分の方が階級が上だぞ・・・ってなかんじで、大尉に向かって威張りちらしたんじゃないっすか?」
「・・・その通りよ? 中将閣下がご苦労なさっているようだから、自分が加勢に来てやったぞって。 その結果、最近の復興は飛躍的に進んでいるだろうって、自画自賛してたわ。 暗にマスタング准将の手際が悪いみたいな言い方しながらね。 別にあの人が来て、何をしたわけでもないのに・・・。 これまでの彼の努力が、漸く身を結びかけているのに! ココまで来るのにどれだけ大変だったか、知りもしないクセに! いかにも、「自分が出てきてやったからだ」ってかんじでね。 おまけに自分の椅子は誰かにお膳立てしてもらうのではなくて、自分の実力で確保するモノだ、ですって! 一体、今までに誰がそんな親切なことしてくれたって言うのよっ? ・・・って、もしかして聞こえてた?」
「まさか! ここからじゃ聞こえませんよ? しっかし・・・そこまでいいますかね?」
「でしょ?」
「ようは、やっかみなんでしょ? 気にすることないっすよ? 大尉。」
内心を察してくれる仲間の言葉に、ホークアイの表情にようやく安堵の色が浮かぶ。
「・・・ありがとう。 いちいち気にしているつもりは、ないのだけどね。 マスタング准将の悪口に自分が絡んでくるのは・・・どうもね。 いけないわね、こんな場所で堂々と上官批判なんてしちゃ。 誰かに聞かれたらそれこそ・・・わかっているのに!」
ホークアイは、真底悔しそうに、再び眉間に皺を寄せて俯いた。
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