
「うわーっ! 本当だ! 大きくてお城みたい!」
「煙突からあんなに煙が出てるっ!」
「思ったよりもでかいな。」
「・・・これぞ日本家屋か?」
「アルベルト・・・それはちょっと違うんだけど・・・。」
「・・・入り口が低い・・・俺、ぶつかるな。」
「これって、のれんだろ?」
次の日、早速決行された銭湯体験ツアー。
ソレイユの一言から、当然のようにルナも行くと言い出し、それじゃあ、私も・・・とフランソワーズが乗っかり。
ジェットとアルベルト、ピュンマは興味津々。
晩ご飯時には、ジェロニモまで行くことになってしまい(行くことに何の異議もなく・・・)。
ギルモア博士はコズミ博士を誘い、昼の時間のイワンに留守番させるわけにも行かず。
結局は総勢11名様の団体となってしまった。
(残念ながら、突然の企画だったので大人とグレートは店を放っておくことは敵わずに・・・その代わりに、帰りにみんなで張々湖飯店に寄って食事をすること、で納得してもらうこととなった)
3台の車で乗り付けた一行は、まずはその外観に満足していた。
「どうだ? ソレイユ? 想像していたのと違う?」
「ううん? ケン君が発表したとおり! ね? 早く中に入ろ?」
今にも走り出しそうな勢いの双子に、絶対に周りの人の迷惑になるようなことをしない・・・という約束を取り付けて、一行は入り口に向かう。
「ここに靴をしまって、ここをこうすると・・・木の札が鍵になるんだ。」
どたばたとあまり広くない入り口を、一行が占領する。
「・・・だめだ、入らない・・・。」
「あ・・・ジェロニモのサイズじゃ無理か・・・。 仕方がないから、靴はもって入って。僕が番台の人に話すから。」
「パパ・ジョー? 番台って?」
「あのドアの向こうに人がいる人。 受付のことさ。 そこで料金を払う。 あ・・・フラン? 君たちが先にいってくれる?」
「ええ・・・?」
「あのね、番台って、ちょうどここ・・・男湯と女湯の境目にあるんだ。」
「境目に?」
「そう・・・番台には一人しかいないからね。 で、実はね、番台に座ると、こうね・・・両方のが見渡せるんだよ。」
「まあ、そうなの。 それじゃあ、みんなが同時に入ったら、大変?」
「なに? そんなに美味しい場所なのか?」
身振り手振りで説明するジョーに対して、案の定、ジェットの反応は早かった。
「それじゃ、ルナ? 行きましょう。」
「はーい。 じゃ、パパ・ジョー、いってきます〜っ♪」
「あ・・・ジェロニモ? イワンお願いね。」
「おう。」
「心配シナクテモ僕ハ大丈夫ダヨ、ふらん。」
珍しく、イワンまでもが、はしゃいでいるようにも見えた。

ぞろぞろぞろ・・・いよいよこのドアを開ければ、お湯路屋さんだ・・・ソレイユは期待一杯の瞳を輝かせる。
まるで扉の向こうには、金銀財宝の宝の山が鎮座しているかの如く・・・。
ごそごそごそ・・・男達は一人ずつポケットから、小銭を取り出して番台に置いていった。
これは、出発前にジョーがレクチャーしたことのひとつ。
番台はさっさと通過すること・・・他のお客に迷惑をかけないためだ・・・と。
番台付近での長居はあらぬ疑いの元になるから・・・と。
この理由については男ども・・・先程のジョーの一言もあってか、各々がそこを通過するときに誰もが納得して頷く。
「・・・いい場所なんだな〜ばんだいって・・・。」
改めて言ったジェットの感想は、いたってシンプルだった・・・というか、なんてわかりやすいんだ・・・。
「鍵がついているロッカー見つけて、荷物を入れる。 鍵にはゴムがついているからずっと持っていてね。 後は、温泉と同じだから。 わからないことがあったら、僕かコズミ博士に聞いてね。 後は自由行動な?」
ここまでレクチャーすると、ジョーは親の顔に戻って、まだ辺りをキョロキョロ見渡しているソレイユを促して、風呂場に向かった。
「ソレイユ、そんなにはしゃいだら滑るし、迷惑だよ。 落ち着いて。」
「はーい。 うわーーーっ! 広いんだね〜♪」
がらがらがら・・・風呂場へのガラス戸を開けて、男どもが乱入する。
若い親子(らしき2人)とじい様が2人、背の高い白人が2人に黒人1人、さらには肌の浅黒い大男が、真っ白い肌の赤ん坊を抱っこして入ってくる・・・これが目立たなくて何を持って目立つと定義しようか・・・。
カッポーーーン
その瞬間、やけにオケの音が響くほど、男風呂はしーん・・・と静まりかえってしまった。
その頃、女湯では・・・。
・・・これがロッカー、これがジョーの言っていた鍵で・・・。
予め大体の構造をジョーから聞いていたフランソワーズは、ルナと一緒に風呂場に向かう。
こちらでもはしゃいで、走り出しそうなルナをやんわりとフランソワーズが牽制していた。
温泉の経験はあるので、なんとかなりそうだ。
「ルナ? 身体を洗って、髪の毛をまとめて、湯船にはそれから。 温泉の時とルールは同じよ。」
「はーい。 わかっていますよ〜ママン・フラン。」
「おやおや、若いだろうに・・・よく躾られているねぇ? 感心感心。」
不意に隣にいたおばあさんから声がかかって、フランソワーズは少なからず驚いてしまう。
「はあ・・・恐れ入ります。」
「おやまあ・・・てっきり金髪のヤンママかとおもったら、あんた、外人さんだね? 日本語上手だから、気が付かなかったよ。」
まるで昔なじみのご近所のおばさん・・・な調子で、さらに、顔をまじまじと覗き込まれて、まったく気兼ねなく話しかけてくる老婆に、少し面食らうが、悪い気はしてこない。
「はい、お風呂屋さんを利用するのって初めてで・・・。」
「おや? そうなのかい? どうした風呂が壊れたとか?」
「あ、いいえ? 息子が、是非来てみたいとせがむもので。」
「息子さん? じゃあ、男湯に入っているのかな? 一人で?」
「いいえ・・・連れが沢山いますので・・・一緒に。」
「・・・沢山?」
「はぁ、まあ・・・。」
なんと説明したらよいモノか・・・フランソワーズは、日本人よりも日本人らしい曖昧な返事とスマイルで、見事に誤魔化した。
「へぇーっ、想像していたモノよりも立派なんだな?」
「やっぱり<温泉>とはちょっと雰囲気も作りも違うね。」
「どうだい? ソレイユ? ・・・満足?」
「うん♪ 天井高いね〜音がすっ極響いてる。」
「そうだね。 足下、滑りやすいから絶対に走っちゃダメだよ。」
「はーい♪」
思いっきり目立って風呂場へと進軍(乱入?)していった男達ご一行様。
遠慮のない視線が降り注いでいるが、誰も気にしていない様子。
それぞれ、空いている蛇口を見つけて座り込んだ。
イワンはジェロニモの膝の上に落ち着いた。
彼にとっても、銭湯は初めての体験だ。
普通の赤ん坊らしく戸惑ったり興味を示したり・・・。
(こそこそこそ・・・)「・・・あっちが親だよな?」
(ひそひそひそ・・・)「あの組み合わせはなんだ?」
「アア・・・ソッカ。 ドウ見タッテ、ボクノ親ハ・・・アッチノ方ガ、ラシイヨナ?」
周りの思念を読みとったイワンがちょっと考え込む。
「ネエ? じぇろにも?」
「あ? なんだ?」
「アノネ・・・。」
イワンはジェロニモに身体を洗ってもらいながら、彼の頭の中にコッソリと話しかける。
「・・・わかった。 アイツが身体を洗い終わったら、連れて行ってやる・・・。」
「ウン、ソウシテ。 キットソウスレバ、ココノ人タチモ納得スルダロウカラサ。」
2人の目線は・・・銀髪の<お父さん>に向いていた。
さて、身体を洗い終わったソレイユは、ジョーと一緒に湯船に向かう。
すぐ側まできたその時、ソレイユの視界は、湯船から立ち上がった男性の背中で覆われてしまう。
「わ・・・すっごい! お背中に絵・・・。」
正直な言葉がソレイユの口からこぼれ落ちる。
「おじさんのお背中、かっこいいねーっ。」
「ソ、ソ、ソレイユ?」
ジョーが慌てたときにはすでに遅く・・・角刈りの男が、ソレイユを見下ろす。
背中には見事な昇り龍の彫り物。
ただただ感心して見上げるソレイユに対して、どう反応しようか、ジョーが固まっている。
「坊主?」
「はい?」
「俺の背中かっこいいか?」
「うん♪」
「・・・恐くないのか?」
「???なんで?」
「・・・そうか。・・・ゆっくりつかれや。」
男性は、ソレイユの頭をちょっと乱暴にポンポンと叩くと、堂々と風呂場を後にした。
風呂場全体にホーッと息をはく音が響いた・・・ような気がした。
「・・・ソレイユ・・・全くお前は・・・。」
湯船に沈みながら、ジョーは呆れたようにソレイユの頭をなでた。
「? なに? ボク何か変なこと言った?」
「いやなんでもない。 後で・・・説明してやるよ。」
「?」
「ほら、早く入りなさい。」
「うん。 あちっ!」
銭湯の湯船は、やはりソレイユくらいの子供にとっては、熱いらしい。
ジョーはちょいちょいと手招きで、ソレイユを水が出ている蛇口付近へと誘導した。
湯船の縁をぐるっと回って蛇口近くへ移動したソレイユ。
そこから、おそるおそる脚を入れる。
「どう?」
「うん・・・やっぱり熱いけど、大丈夫! が・ま・ん・す・る!」
湯気と踏ん張りで、顔を真っ赤にするソレイユがおかしくて、ジョーは自然と笑みがこぼれた。
「おっ? ソレイユどうした? 顔が真っ赤だぞ?」
「お前、熱いの我慢しているのか?」
ジェットとアルベルトが、脚を湯船に脚を入れる。
「うわっ! こりゃ、俺も慣れるまであちーな。」
「・・・確かに・・・。」
この2人が、湯船の縁に腰掛けて、お湯の熱さに少しずつ慣れしていたとき、ギルモアとコズミのじい様2人は、何の抵抗もなく湯船に収まる。
「いや〜いい湯じゃ。」
「あむ・・・やっぱりこのくらいの湯でないと、つかった気にならんのう。」
「ギルモアおじいちゃん・・・熱くないの?」
「あ? ははは・・・歳寄りになると熱めの風呂の方が、好みになるらしい。 な? コズミ君。」
「あむ・・・極楽じゃて。」
余裕のじい様×2にソレイユは尊敬の眼差しを投げていた。
そこへピュンマと、イワンを抱っこしたジェロニモも参上。
ジェロニモは何も言わずに、イワンをアルベルトにわたす。
アルベルトも、何のこだわりもなくイワンを受け取る。
いつもよりもイワンが自分に抱きついてきた・・・ような気がしたが、気に留めなかった。
「おおお〜〜〜っ!(納得)」
背後から、なぜかそんな感嘆符付きの声が聞こえてきたような気もするが・・・やっぱり気にしなかった。
ご一行様全員が湯船に集合。
たちまち湯船の中は、満員御礼の状態に。
ジェロニモが身体を沈めると、お湯が勢いよく溢れた。
「うわーっ! お湯がなくなっちゃう!」
ソレイユがそれをみて、心配そうに気遣ったのか、自分の身体を湯船から浮かせる仕草をする。
「ははは・・・ソレイユ? 君一人の身体がなくなっても、溢れるお湯はかわらないよ?」
「お前とジェロニモじゃな。」
「だって・・・。」
お湯と一緒に笑いも溢れてこぼれ落ちる。
「大丈夫だよ。 溢れたお湯はあそこからちゃんとカバーしているから。」
ジョーは優しく湯船の中央、お湯が流れ出ている付近を指さした。
「そうそう、ソレイユや? お風呂屋さんと言うところはお相撲さんだって利用するんじゃよ? ジェロニモ君くらいの人が沢山な? どうだ?」
ジェロニモのおじさん×いっぱい・・・必死に頭を働かせるとソレイユは、ホッとしたように、にっこりと笑った。