ズズッ、ズズズーーーッ、ボサッ!
シュッシュッシュッ、ガリガリガリガリ・・・
くるくるくるくる・・・ぱふん・・・。
ーーーーーくぅ〜〜〜すこ〜〜〜zzzzzzz・・・・・
「大佐?そろそろ起きた方がよろしいかと・・・。」
カーテンが引かれて、ベッドの枕元に眩しいが優しげな冬の陽射しが降り注ぐ。
陽はとっくに高く昇っていたようだ。
今日は?
・・・そう、確か今日は・・・自分は休日で、新年・・・元日のはず。
昨晩は大晦日だというのに遅番の仕事で、残業はなかったはずなのに、仕事から上がれたのは、日付が変わる一歩手前。
幸か不幸か、その残業がなかった為に、彼女はさっさと定時に仕事を上がってしまい、執務室にぽつんと1人残された状態だった・・・はず。
だから、仕事終了を告げる時計の針と同時に執務室から出て、向かった先はここ・・・彼女の部屋。
冷え切った誰もいない部屋でひとり、新年を迎えるにはあまりにも虚しくて・・・。
深夜だったにも関わらず、遠慮なく呼び鈴を押す。
突然の訪問だった(そう、今日の予定をうっかり・・・彼女に取り付けるのを忘れて先に帰られてしまっていたのだ・・・この私としたことが、なんたる失態・・・)が、リザは呆れながらもちゃんと部屋に通してくれた。
「電話の1本、いただけたらバスルームに新しいお湯をはっておいたのに・・・。」
「・・・今日は、お越しにならないのかと、思っていました。」
「バスの代わりに熱いお茶を用意しますから、まずは温まってください。」
冷え切っていた私の手に触れ、斜め下から睨まれる。
言いながらキッチンに戻ろうとする彼女を捕まえて・・・そのまま放さなかったような・・・気がする。
「大佐・・・冷たいです、手。」
「君がこうしてくれていたら、すぐに温まるだろ?」
「夕食は召し上がっているのですか?」
「ああ・・・あっちで適当に食べてきたから大丈夫・・・。」
「それでも冷え切ってますよ?せめて身体を温めてください。すぐに用意をしますから。」
「いらない・・・もうすぐ年が明ける。・・・君といたいんだ。」
「・・・私は懐炉ではないのですけど・・・。」
それ以上、答えるのが面倒で唇を塞いだ・・・はず。
あとは・・・勝手知ったる部屋である・・・そのまま彼女を抱き上げて寝室へ。
寝付く頃にはカーテンの向こうは、ほのかに白かった・・・記憶は、しっかりある。
「大佐?目、覚めてます?」
「ああ・・・おはよう。」
「食事、出来てますよ。シャワーでもあびてスッキリしてきてくださいな。着替えはバスルームに置いてあります。昨日は軍服のままいらしたので、ここに置きっぱなしにしてある服を適当に選んでおきましたけど。」
いつもの調子で声をかけられ、上から覗き込まれる。
このまましばらく微睡んでいるのも悪くないな・・・と、一度は考えるが、ここに直行(そうだ・・・文字通りこの部屋に真っ直ぐに・・・)したことを思いだして、シャワーくらい浴びなくは・・・という義務感に駆られた。
窓から差し込む陽射しーーー今日も天気は上々のようだなーーーが、結い上げていない彼女の金髪に反射していて、とても眩しい。
そういえば・・・腹も減っている。(実は、夕べから何も食べていない。何か食べた・・・と言ったのは嘘。昨晩は食欲よりも本能が優っていたらしい・・・。)
「ん・・・わかった。」
のろのろと上体を起こした自分の視界に黒い固まりがうつった。
彼女の愛犬、ブラックハヤテ号だ。
・・・それはわかる。
コイツはいつもここ、彼女の寝室の片隅を寝床にしているのから。
しかし・・・今日は何時もと居場所が違うぞ?
おまけに・・・なにやらご機嫌で1人遊びをしている。
尻尾がやたらと、いつも以上に元気にブンブンと・・・これぞ千切れんばかりに振り回す・・・というのだろうな。
「やあ、おはよう、ハヤテ号。・・・お前は何時も元気だな・・・。ん?」
改めてハヤテ号をなでてやろうと手を伸ばしかけて私は見慣れた「色」を見つける。
「ハヤテ号?お前の尻の下にあるそれは・・・なんだ?」
「ああ、これですか?なにやら気に入ったみたいで、今朝、私が起きたときには寝床で「お布団」にしていました。」
ハヤテ号の代わりに口を開いたのは、彼女だった。
「・・・・・」
「いつもは私が起き出してストーブをつけると、この子も起きてきて温風の前に陣取るのですけど、今朝は「それ」付きで、陣取っていましたよ。」
「・・・・・」
「食事を終えても離さなくて。」
「まさかと思うが・・・君の上着は?」
「いつもの場所にかけてあります。」
「と言うことは・・・これは私のなんだな?」
「ええ・・・そのようですね。って、肩章を見ればおわかりかと?」
「・・・なぜすぐに取り上げてくれなかったのだね?」
「すっかり気に入ってしまったみたいで・・・それにじゃれついてはいますが、噛んだり引っ張ったりしていませんので損傷はないかと。」
「そう言う問題ではないと思うが・・・。」
「まあ、毛はくっついてますね。そりゃもうたっぷりと。」
「今すぐ、取り上げてくれないか?」
「取り上げるのは簡単なのですが・・・。」
「では、すぐに取り上げたまえ!アレは私のだ!」
「ええ、そうなのですけど・・・出来れば大佐?ご本人が取り返した方がよろしいかと。」
「?なんでだね?」
「犬は主人のモノ、身につけているモノを好むんです。私も・・・時々、つい脱ぎっぱなしにしてしまったパジャマなどハヤテ号に取られます。それは、嬉しそうにその上に丸まって寝ているんです。今朝も、それは嬉しそうにこの服の上で丸まっていて、つい・・・咎めることを忘れてしまいました。」
「・・・・・」
「この子は、大佐を・・・主人だと認めているんですよ。」

私達の会話が理解できるのか、ハヤテ号はこちらにちらちらち視線をよこしながらしきりに尾を振っている。時々背中を軍服に擦るつけるように寝転がってみせる。ひとしきりこすりつけると、どっかと・・・そう、しっかりと座り込んでいた。
”これは僕のもんだ!”と、しっかり主張しているつもりなのだろうか?
「まったく・・・そうか、私はお前の「主人」でもいいのだな?」
・・・この意味判っているよな?・・・目を細める彼女の横顔を盗み見ながら、彼女の台詞に、起き抜けの身体が反応しそうになって密かに焦る。
どうやら軍服は「無事」なようだ・・・多少毛だらけではあるだろうが・・・。
ならば・・・。
「リザ?」
「はい?」
私は彼女に向かって手招きをする。
ベッドのすぐ側までよってきた彼女の腕を捉えて、ぐいっと引き込んだ。
不意に引っ張られて、彼女の身体はベッドへと倒れ込む。
「大佐っ?な、何を?」
明らかに不意を突かれて焦る彼女を、かまわず抱きしめる。
「私はこの部屋の主人だと認められたのだろう?」
「それとこれの何処に関係があるのですか?」
「だから、主人と認めると言うことは主人に従うと言うわけだな。では、ここは主人の意向に添ってはくれないか?リザ?」
「認めたのはハヤテ号です。ハヤテ号にとっては私も主人です。大佐が私の主人とはなり得ませんと思われますけど?」
「・・・いいんだよ。そんな複雑な事は考えなくても。」
「簡単な三段論法だと思いますが。」
「だから、そんなこといらないのだって。ハヤテ号が主人だと認めてくれたのだ。この私を。だから、君のことをこうやって抱きしめても彼は文句を言わない。主人同士が遊んでいる・・・程度なのだろうな。」
「そんなこと!」
「ほら・・・その証拠に君がいきなり倒れ込んだのに、吠えないじゃないか?」
「・・・・・」
「な?だから・・・。」
これ以上、正論で責められても困るので(明らかに私の理論は・・・おかしいので)反論される前に口を塞ぐ。
シャワーも浴びたかったけど、お腹も空いていたけど・・・どうやら昨晩から自分の本能は暴走したままらしい。
それでは・・・まずはこれを納めなくては次へと進めないな。
自分で自分に勝手に結論付けて、私は手の力を緩めなかった。
「・・・食事が覚めますよ?」
「温め直してくれるだろ?」
「ええ・・・まあ。」
「ならば問題ない。」
「・・・ええ、問題ないですね。」
少し呆れながらも、彼女はゆっくりと微笑んでくれる。
ベッドの下では、ハヤテ号が嬉しそうに私の上着の上で丸くなるのが見えた。
彼を横目で見ながら、彼女の髪の毛をそっと梳く。
変わらぬ陽射しが、キラキラと金糸に反射していた。
「はい?なんでしょう?」
「ところでリザ?」
「ハヤテ号がしている、あの・・・一件妙な‘首輪’はなんだね?」
「あれですか?なんでも東の国では12種の動物が1年ごとに交代で国の守り神に就任するとか・・・。」
「?」
「で、今年は‘戌’の番なのだそうです。なので、それにあやかりましてハヤテ号にも「護って」もらおうかと思いまして。」
「彼が守り神かね?」
「ええ、お守り代わりに、ついでに幸運ももたらしてくれるかな?とも・・・。」
「そうか・・・そうだな。少なくともすでに「幸運」はくれたしな?」
「はぁ?」
「新年早々、私は・・・満たされたからね。」
「・・・・・。」
「これを幸運と言わずして、どうする?」
「確かに・・・揃ってお休みですし・・・。」
「だろ?今年も宜しく頼むよ?」
「はい、大佐。」
今日は元日
今日は休日
・・・何して過ごそう・・・
