崩れかけた建物の中。
真夜中、兵士達がつかの間、つかれた身体を休ませている。
全ての照明は消え、月の明かりだけが頼りだ。
市街地の建物2/3は破壊されただろうか。
東の街リオールとここセントラルで同時に起こった地震。
それに続く正体不明の飛行物体や鎧の兵士達の攻撃。
それらと軍との攻防戦。
さほど長い時間ではなかったはずなのに、街のダメージは大きい。
中核だけは、かろうじて護られていた。
突然の攻撃、そして軍の迎撃。
なんて展開だったのだろうか。
それは突然始まり、あっという間に街並が瓦礫の山に変貌した。
たった半日の攻防だったのに・・・。
あの攻防戦の中、彼がその一翼を担っていた。
彼・・・今、私の眼の前で眠りについている彼・・・ロイ・マスタング。
ロイ・マスタング・・・大佐・・・。
やっと帰ってきた。
自分の意志で。自分の脚で。
2年前、自ら北に赴いたとき、その真意を誰も理解する事はできなかった。
多くの人が引き留めようとしたが、敵わなかった。
私も何も言えなかった。
ついていきたい・・・と。
彼も何も言わなかった。
ついてこい・・・と。
彼はひとり、北に行ってしまった。
あの時、私は彼に何も言えなかったのは、それが彼自らの志願したことだったから。
この人が望んだことだったから。
この人が進みたい方向、望んだ方向・・・。
ついていくことが敵わないなら、私はその背中を見送ることしかできなかった。
それが・・・彼の意志だったから。
だけども・・・信じていた。
信じることしかできなかったのだけど。
彼は、この人は、必ず戻ってくると。
自分の意志で。自分の脚で。
そして、彼は言った。 確かに・・・また、前に進むと。
「・・・一緒に来るか」とも。
・・・何を今更・・・そんなの・・・愚問だわ。
私が、その言葉をどれほど待っていたか、この人はわかっているのだろうか。
いえ・・・わかっていなくても、そんなこと大したことじゃないわ。
私は貴方が前を向いている限り、前に進む限り、貴方についていく。
大佐、ロイ・マスタング・・・貴方を護る。
背中を預けてくれるその信頼に応える・・・それが、私の仕事。
いえ・・・私の意志。
「待たせたな。」
再び焔を操る彼の背中を護りながら聞こえてきた一言。
背中越しに、確かに聞こえた声。
ええ、待ったわ。
信じて待ち続けたわ。
大佐、安心して前だけを見ていてください。
前に進んでください。
貴方の背中は、私が護ります。
以前のように、以前と変わらず。
リザは手に持っていた毛布をそっと大佐にかけてやる。
彼女の瞳がふっと緩んだ。
「おかえりなさい・・・大佐。・・・お待ちしてました。」
その瞳から、一筋、頬をつたった涙が月明かりの光を返した。
