「ふわあ〜〜〜っ」
ルナが大きな欠伸を遠慮する事無くひとつ。
「もう、遅いから寝ましょうよ?」
それを見たフランソワーズが声をかけて寝るように促すが、
「ううん!ダメ!アタシ待ってるの!」
ブンブンと首を横に振って抵抗を試みるルナ。だが、眠気には勝てそうにもない。目はいまにも閉じてしまいそうだったし、時折頭がカクンと大きく揺れている。それでもなんとか眠気を吹き飛ばそうと必死に目を開ける努力している。
ソレイユはすでにソファーの上で夢の中。
3歳になったばかりにしては随分と強靱な精神力?
さて、そんなにルナががんばっているわけとは?
ルナが眠気と戦いながら起きているのは、今日到着するジェットを空港まで迎えにいったジョーを待っていた為。
本当はもう少し早く到着する予定が急な荒天のために乗っていた飛行機が2時間以上も遅れたせいだった。
そして、ルナはパパ・ジョ−を待っているというよりはジェットの到着を待っているのである。それには、わけがあったのです。
ルナの眠気ももうそろそろ限界と言う時、研究所の玄関のチャイムが鳴ってジョ−とジェットが帰って来た。
閉じかけていた目をパッと開くとルナは一目散に玄関までかけていく。
元気に走っていくと、そこにいたジェットにおもいっきり飛びついた。
いつもはまっ先にジョ−に飛びつくのが順番なのに・・・今日はジェットの方が先でジョ−もジェットも少々戸惑い気味。
「おいおい?まだ起きてたのかい?眠たくないのかよ?しかも、俺に先に挨拶してくれるのかよ?嬉しいねえ〜。ただいま!ルナ。ソレイユはもう寝ちまったみたいだな?」
かけて来たルナの後ろを見るといつもつるんでいるもう一人の顔が見えない。普段なら眠っていて当たり前の時間だ。
ジェットは飛びついて来たルナを抱えあげながら、続いてリビングから出て来たフランソワーズに向かって声をかけた。
「ええ、ソレイユはとうに夢の中よ。今日はなぜかルナったらあなた達が帰ってくるまで絶対に眠らないって言い張って・・・今だってほとんどダウン寸前だったのよ。」
フランソワーズが呆れたと言わんばかりに二人に報告するが、声はいたって優しい。当のルナは、すっかり眠気はどこかに飛んでしまったのか、元気な笑顔でジェットに答えている。
「そうなの〜ジェット〜ルナねえ、おかえりなさい、いいたくておきてたの〜おかえりなさい〜ジェット!」
にっこり笑って元気に答えるルナ。ここで、いつもはほっぺたにかわいいキスをくれる。
ジェットもそうだと思ってルナの方に向かって片方の頬をだしていた。
ところが今日のルナはジェットの首に抱きつくと唇にチュっとかわいいキスをしてきたから・・・そこからが大変な事に・・・!
さすがに驚いたジェットがルナの顔を覗き込んで訪ねる。
「ううん?いいの。ひさしぶりにあったひとへのしんあいのじょうなんだから。ジェットはルナのだいすきなひとのひとりだもん!」
至近距離でルナの言う『親愛の情』を目撃したジョ−はしばし固まっていたが、ルナの一言になんとか解凍すると、ジェットといっしょに彼女の言葉を反すうした。
「そうよ♪しんあいのじょうなの!だってジェットはあたしのたいせつでだいすきなひとのひとりだもん♪」
ふたたびフリーズするジョ−・・・まだルナの真意がつかめない。

その時に双子といっしょにリビングにいたのはギルモア博士。珍しくのんびりとテレビなんぞ見ていた。
リビングに設置されている大型テレビが放映していた番組は、ロシアが製作したドラマだった。博士はストーリーよりもそこに写し出されている町並みが懐かしくてみているらしい。
そんな時、写し出された場面は親友同士の再会風景。ロシア式の熱くそれこそ熱烈な親愛の情を表す抱擁&キスシーンだった。
その場面をじーっと興味深気に見ていたルナがギルモア博士に尋ねる。
「おじいちゃま?あのひとたち、おとこのひとどうしなのになんでキスしてるの?」
「再会して嬉しいからじゃよ。」
「うれしいとおとこのひととおとこのひとでもキスするの?」
「ああ?そういう意味かい?あのな?この国では、親愛の情を表す時にはそうする事もあるんじゃよ。」
あまり気にするわけでもなく画面を見ていたギルモア博士は、ルナがなにを尋ねたかったのか最初はピンと来なかったようだ。
「しんあいのじょう?」
「そうじゃよ。ひさしぶりに会えたとっても大切な大好きな人に対してじゃよ。」
「ひさしぶりにあえたたいせつでだいすきなひと?」
「そうじゃよ。ルナもジェットやアルベルトやみんながひさしぶりにきたらほっぺたにキスしてあげるじゃろ?あれと同じじゃよ。」
「ふ〜ん。お口とお口のキスってパパ・ジョーとママン・フランだけかと思ってたわ。」
ルナの一言に思わず固まるギルモア博士。
「それともまた、ちと違うんじゃが・・・」
博士の緒解説で妙に納得顔のルナだった。
さて、そんな経緯もあってか、ルナはジェットが到着するまではなんとか起きていたかったようである。
「うん、そうなの、パパ・ジョー。ギルモアおじいちゃまのおくにのごあいさつなんだって。とってもたいせつでだいすきなひとと、ひさしぶりにあってうれしかったらおくちにキスしていいのよ。」
「・・・ああ・・・そういうことか・・・」
何となく理解して、この事態を飲み込んだジェット。それに対してまだ惚けているジョ−。
娘の積極的な態度がそんなにショックだったのか?
ジェットの方はと言えば、ルナの説明に納得した後はルナの『とってもたいせつでだいすくな人』発言にすっかり気をよくして完全に破顔している状態。
本当は『たいせつでだいすきなひとな人のヒトリ』なのだけども・・・ヒトリの部分は都合良く抜け落ちていた。
「そうかあ〜そうか!俺はルナの大好きな人なのか!嬉しいねえ〜なあ?ルナ!もう1回!」
調子にのってルナにキスを催促して唇を突き出している。
「ジェット!調子に乗らないでよ!ルナ〜パパにはキスしてくれないのかい?」
調子づいたジェットの言葉にようやく解凍したジョ−があわててルナに声をかける。
「あっいけない!パパ・ジョー〜おかえりなさい〜」
スルスルッとジェットからおりるとジョ−に飛びついてほっぺたにキスを一つ。それを見てジェットがますます頬を緩めた。
「ジョ−にはほっぺなんだな!そうか!やっぱりそうか!ルナ〜もう1回は?」
ジェットが益々弾んだ声でルナをジョ−から取り戻して抱き上げる。ルナも嬉しそうなジェットをみて楽しくなっている。
ジェットの唇にチュっとかわいいキスをしてあげた頃にはジェットの耳には何も聞こえなくなっていた。
「ルナ〜待たせたな〜飛行機のやつ根性ないよなあ〜あれくらいの雨と風でよう、遅れるんだから。やっぱり自分で飛んで来た方が速いよな?今度からそうするな。今日は俺の部屋でいっしょに寝ようぜ〜お話でもなんでもしてやるぜ〜。」
「ホント?じゃあシンデレラのおはなしよんでくれる?」
「いいぜ〜おっと、シャワーあびる間、待ってられっか?急ぐから♪ 俺の部屋で待っていてくれよな〜」
「ジェット!いいかげんに・・・」
一時は安堵したジョ−がまただんだん心配顔になってくる。が、ジェットはおかまいなし・・・ルナを抱き上げたままリビングのほうへ歩いていってしまった。
呆然とするジョ−がそこに残される事に・・・事の次第を一部始終みていたフランソワーズは『見てはいけないものを見ちゃった気がする。』と心の中で思っていた。
そこにいたのは、正真正銘『愛娘に父親よりも大切な人ができて、落胆する情けない父親』のジョ−。
『なにも今からこんなものの予行演習しなくてもいいものを・・・ジェットだってなにもあんなに喜ばなくてもね〜ルナ相手に・・・』
廊下にフランソワーズの大々的な溜息が響く。ジョ−はまだ放心中。
さて、ジェットの誤解はいつまで続いたのやら・・・
多分次に帰って来たメンバーにルナが同じセリフを言うのを聞くまで・・・
「ルナ?ルナの大切で大好きな人って俺じゃなかったっけ?昨日はそう言ったよなあ?」
「???ルナ、ジェットだ〜いすきよ?」
「ジャアなんでアルベルトにもキスしたんだよ〜?」
「???ルナ、アルおじちゃまもだ〜いすきよ。ピュンマおじちゃまも、ジェロおじちゃまも・・・ひさしぶりにかえってきてくれて、ルナとってもうれしいんだもん!だから、キスしたのよ?」
「ジョ−にはほっぺただったじゃねえかよ〜?」
「だって、パパ・ジョ−とはひさしぶりじゃあないもん!いつもいっしょだもん?ルナ、パパ・ジョーだ〜いすきよ?」
